手を引かれ、二十四層のアインクラッド外周の開口部から外へ出る。
外へ出ると垂直に飛び上がり、新アインクラッドの現在の最前線二十七層に連れてかれた。
二十七層は常闇の国で、外周の開口部は極単に少なく、昼間でも差し込む陽光は無いに等しい。
内部は上層の底まで岩山が伸び、そこかしこから生えてる巨大な六角柱の水晶が青い光を放っている。
絶剣は俺の手を握ったまま、すいすいと空を飛び、時折前方に見える飛行モンスターの《ガーゴイル》の索敵範囲を避ける。
一分ばかり飛ぶと、着いたのは主街区の《ロンバール》だった。
旧アインクラッドでは、この層の攻略に時間はかかったがここには重要な施設も無く、プレイヤーが逗留した期間は短い。
しかし、今は攻略最前線というだけあってプレイヤーでにぎわっている。
「なぁ、どうしてここに連れてきたんだ?」
「その前に、ボクの仲間を紹介するよ!」
そう言うと、絶剣は俺の手を握ったまま駆け出し、何処かへ向かう。
暫くして着いたのは一件の宿屋だった。
絶剣は鋳鉄製の吊り看板が揺れる戸口をまたぎ、眠っているNPCの店主の横を通り抜け、奥の酒場兼レストランに向かう。
その後に続くと
「お帰り、ユウキ!見つかったの!?」
はしゃぐような少年の声が俺たちを出迎えた。
中央のテーブルには五人のプレイヤーが陣取っていて、他のプレイヤーは見当たらない。
「紹介するよ。ボクのギルド《スリーピング・ナイツ》の仲間たち」
絶剣は俺の方を見ながら大きく横に手を広げ、宝物を見せる子供のように仲間たちを紹介する。
次に半回転し、俺を手で示しながら
「で、この人が………ごめん、まだちゃんと名前聞いてなかった」
紹介するはずが、失敗し、五人が椅子の上で派手によろける。
「初めまして、レインです」
俺が自己紹介すると小柄なサラマンダーの少年が勢いよく立ち上がる。
「僕はジュン!レインさん、よろしく!」
次に、隣に座っていたノームの巨漢が立ち上がる。
「あー、えっと、テッチって言います。よろしく」
のんびりとした口調で、自己紹介を終えると、今度は丸眼鏡のひょろりとしたレプラコーンの青年が立つ。
「わ、ワタクシは、その、タルケンって名前です。よ、よ、よろしくお願いし・・・・・。イタッ!」
語尾に悲鳴が被り、何事かと思ってると、彼の隣のスプリガンの女性が立つ。
「いい加減その上がり症直しなよタルは!」
女性は俺の方を見るとにっと笑い、黒髪を掻きながら名乗る。
「アタシはノリ。会えてうれしいよ、レインさん」
最後の一人はウンディーネの女性で、その姿は水妖精族のイメージとぴったりだった。
「初めまして、シウネーです。ありがとう、来て下さって」
最後に、絶剣が、大きなアメジスト色の瞳を輝かせながら言う。
「ボクがこのギルドのリーダーのユウキです!」
自己紹介を終えると、ユウキさんは俺の両手を握り
「一緒に頑張ろう!」
そう言った。
「えっと………何を?」
「え?……………あ、そっか!ボクまだなーんにも説明してなかった!」
ずこーっ!っとまた五人が椅子の上で崩れ落ちる。
その様子がおかしく、俺は思わず笑った。
ユウキさんを含めた六人も、朗らかな大声で笑いだす。
笑いながらも、俺は全員を見回す。
全員、手練れだな。
ユウキさんのあの戦い方からみて、おそらく他のゲームからのコンバート。
となれば、此処にいる全員もコンバートでALOにやって来てるだろう。
そうなると、実力もユウキさんと近いレベルか同等だろう。
「ごめんね、レインさん。説明も無しに連れて来て。ようやくボクと同じぐらい強い人が見つかったんで嬉しくてつい………」
「いや、それはいいよ、気にしてない………所で、一緒に何をして欲しいんだ?」
そう問いながらいくつかの予想をたてる。
普通ならユルド稼ぎや、レアアイテムゲット、スキル上昇の手伝いなどだが、このギルドのメンツを見る限り、それは有り得ないと思う。
ALOでは、無償で攻略情報を載せてるサイトがいくつもある。
それを参考にすれば、ユルドを稼ぐことも、レアアイテムゲットも、スキルの上昇も効率よく行うことが出来る。
ユウキさんが求めていたのは強さ。
その強さが、数値的な物でなく、戦いの仕方や駆け引きなどのノウハウだとして、ギルドに連れてきたとなると考えられるのは、ギルド間での戦争。
「言っておくけど、他のギルドとの戦争とかはお断りだぞ」
「ううん、違うよ。戦争とかじゃなくて………その……笑われるかもなんだけど………ボクたち…………」
ユウキさんは俯き、はにかむように唇をもごもごさせる。
そして、俺の事を上目遣いで見て来る。
うっ…………可愛い………
そう思ってしまい、俺の顔が赤くなる。
その瞬間
「あのね、ボクたち、この層のボスモンスターを倒したいんだ」
「……え?」
一気に、顔から熱が引いた。
ボスモンスター………いくらなんでもここでフィールドボスを倒したいなどと言うわけが無い。
きっとフロアボスのことだ。
「一応聞くけど、そのボスってフロアボスのことだよな」
「うん」
正直、かなり難しい話だ。
現在ALOで新アインクラッドを攻略してるのはALO組が八割、旧SAO組が二割といったところだ。
最初の頃は互いにぎくしゃくしていたが、今では打ち解け、ALO組と旧SAO組が混同するギルドもある。
ALO組と旧SAO組が打ち解けるまでにそこそこ時間がかかった。
そこに、他のVRMMOからコンバートしてきた集団をボス戦に入れてくれって言っても、簡単には加えてくれないだろう。
「流石に、今の層のボス戦への参加は無理がある。だから、次の層の攻略を最初から一緒にやって《スリーピング・ナイツ》の実力を示せば、レイドに入れてもらえるかもしれない」
俺がそう告げると、ユウキさんはまだ俺の予想をぶっ飛んだ発言をした。
「いや、そうじゃなくて……ボクたちと、レインさんの七人でボスを倒したいんだ」
「は……はぁ!?」
七人でボス戦とか無理にも程がある。
新アインクラッドのフロアボスは旧アインクラッドよりも強力な通常及び特殊攻撃をしてくる。
旧アインクラッドでは、慎重に作戦を練れば死者を出さずに攻略できたが、新アインクラッドでは、何人も倒され、パーティーが壊滅したことも何回かある。
そのことを伝えると、ユウキさんたちは顔を合わせ照れくさそうに笑う。
「うん、無理だった。二十五層と二十六層のボスにも挑戦したんだ」
「な!?ろ、六人でか!?」
「そう」
どうして、そこまで六人で倒すことに固執するんだ?
そう考えた時、あることが浮かんだ。
「もしかして、黒鉄宮の《剣士の碑》に名前を刻みたいのか?」
「うん……実はそうなんだ」
-《剣士の碑》とは、第一層《はじまりの街》にある黒鉄宮の配置されてる黒い3Dオブジェクトだ。
旧アインクラッドでは、そこに刻まれてるのは、一万人のプレイヤー名だった。
そして、プレイヤーが死ぬと、そのプレイヤーの名前に線が引かれ、死亡日と時間、死亡原因が刻まれる。
だが、新アインクラッドでは、ボス攻略をしたプレイヤー名が刻まれる。
だが、刻まれるの七人までで、一パーティーでボスを倒せば、パーティーメンバー全員の名前が刻まれるが、レイドパーティーになると、各パーティーのリーダーの名前が刻まれる。
そこまで考えるとシウネーさんが口を開いた。
「私達はとあるネットコミュニティ出会って、もう二年になります。すぐに意気投合して、みんなで、色んな世界を渡り歩いてきました。ですが、私たちが一緒に居られるのも春までなんです。みんな……それぞれ忙しくなってしまいますから。そこで、ギルドを解散する前に、ひとつ絶対に忘れない思い出を作ろうと決めました。無数にあるVRMMOから一番楽しく、美しく、心躍る世界を探して、あっちこっちコンバートを繰り返して、辿り着いたのが妖精郷アルヴヘイム、そして、浮遊城アインクラッドでした。美しい街や森、草原、そしてこの城をみんなで連れ立って飛んだ思い出は、永遠に忘れることはないでしょう。望むことは後一つ………この世界に私たちの足跡を残すことです」
「それが、一パーティーでフロアボス討伐して、《剣士の碑》に名前を刻む事なんですね」
俺がそう聞くと、全員が頷く。
「レインさん、ボクたちに力を貸して下さい!」
ユウキさんが頭を下げて頼んでくる。
そんなユウキさんを見て、俺は言った。
「いや、悪いけど俺は参加しない」
「そ、そんな………」
ユウキさんがショックを受けた顔をする。
「はっきり言って、俺が入るとバランスが悪い」
「………へ?」
「おそらく、このパーティーだとユウキさんと、ジュンさん、テッチさんが前衛、ノリさんとタルケンさんが中衛、シウネーさんが後衛だと思う。俺は前衛だから、俺が入ると攻撃に関しては申し分にないけど、後衛が薄くなる。俺が居なければ、バランスは取れてるんだけど、俺が居ればバランスが悪くなる。そうなれば、シウネーさん一人で六人のサポートをしなければいけない。そうなるとシウネーさんの負担が大きくなる。だから、ユウキたちの意見を入れると、入れるなら戦い慣れしてるメイジタイプの人か戦い慣れしてるウンディーネがいいと思う」
俺がそう言うと六人はぽかーんとしていた。
「ん?どうした?」
「す、凄いよ!レインさんの言う通りの配置だよ!見ただけで分かるんだね!」
ユウキさんが興奮しながら俺に詰め寄ってくる。
「ち、近い!近いって!配置は全員の種族の特徴と、長所短所を考えて推測しただけだから」
ユウキさんを宥めて、落ち着かせる。
てか、女の子が不用意に男に近づくなよ。
「恐らくこの層の攻略までに後一週間はかかるはずだから、その間に新しい人を見付ける。もし、見つからなかったら俺が一緒にやる。これでどうだ?」
「うん、いいよ!アドバイスありがとう、レインさん!」
「俺のことはレインでいいよ。ユウキさん」
「なら、ボクのこともユウキでいいよ」
その後、他の五人共も同じような会話をしてジュンとノリさんは呼び捨て、テッチさんとタルケンさんは君付け、シウネーさんは変わらずさん付けと言う風に俺を呼ぶことになった。
ちなみに俺の呼び方は以上の通りだ。
その時、メールが届いた。
相手は………シリカだ。
「ユウキ、悪いけど俺もう帰らないと」
「うん、じゃあまたね」
「おう」
全員に挨拶を済まし、宿屋を出て、転移門へと向かった。
レインが去った後、ユウキは武器の耐久値を回復させるために武器屋へ向かっていた。
(今日はいい日だったな。いいアドバイスは貰えたし、レインともフレンドになれたし)
新たなフレンドができたことにユウキは思わず笑みを浮かべる。
(そういえば、レインって男の子なんだよね。あの可愛い顔で男って反則な気がするな~)
そう思っていると、ユウキはあることに気付いた。
(…………あれ?ボク、デュエルの後からずっとレインと手を繫いでた………)
そう思い出し、レインの手を握っていた右手を見つめ、二、三度と手を開いたり閉じたりする。
そして、次にレインの顔が目に浮かび上がった。
すると、ユウキは自分の心臓が一瞬跳ね上がった感覚に襲われた。
(ふぇ!?な………なにこれ?)
初めての感覚にユウキは戸惑う。
戸惑っていると、自分の顔が熱くなるのを感じた。
間違いなく、赤くなっている。
(ど……どうして?)
ユウキは顔を両手で隠しながら、武器屋に向かわず宿屋に引き返した。
中にまだいた《スリーピング・ナイツ》のメンバーの声も無視して、自分が泊まっている部屋に駆け込む。
枕に顔を突っ込み、両足をバタつかせる。
(なんなのさ!なんなのさ!なんなのさ~!)
その姿はまさしく恋する乙女のようだった。