《ロンバール》に到着し、そのまま迷宮区まで目指す。
すると、丁度アスナさんたちが迷宮区前に着いたところだった。
「アスナさん!」
「レイン君!」
「アルゴさんから情報を貰いました。急いでボス部屋に行かないと!」
「それはこっちも気付いてる!急がないと!レイン君も付いてきて!」
俺は頷き、前回と同じルートで最上階に向かう。
狭いダンジョン内では、何度もモンスターと遭遇したが、全員俺とユウキで一息に斬り倒して突き進んだ。
ボス部屋へと続く回廊を進み、ボス部屋に着いた。
だが、ボス部屋には約二十人程のプレイヤーが集まっていた。
種族はバラバラだが、全員が件のギルドアイコンが付いてる。
…………間に合わなかった。
まさか、こんなに早くメンバーを集められるなんて………
いや、待てよ。
二十人は少なすぎる。
これじゃあ、三パーティー分。
上限は四十九人だから、ここにいるのは上限の約半分。
つまり、まだメンバーは揃ってない。
「アスナさん」
「うん、まだ一回は挑戦できる」
「……ほんと?」
ショックを受けていたユウキはほっとした様子を見せる。
そんなユウキの頭を軽く撫で、歩く。
周りのプレイヤーたちは俺たちが現れたことに驚きはせず、この後起きる展開を楽しんでるかのような弛みを見せる。
それを無視してアスナさんはリーダー格であるノームの男性プレイヤーに声を掛ける。
「ごめんなさい、私達ボスに挑戦したいの。そこを通してくれる?」
「悪いな、今ここは閉鎖中だ」
その言葉に俺は、驚いた。
「閉鎖って………どういうことですか?」
聞き返すとノームは何気ない口調で言う。
「これからうちのギルドが挑戦するんでね。いま、その準備中だ。しばらくそこで待っててくれ」
「しばらくって………どのぐらい?」
「ま、一時間ってとこだ」
そうか、そういうことか。
あの偵察隊は《盗み見》以外にも他に攻略可能なギルドが現れたら、多人数の部隊を呼び、物理的にダンジョンを閉鎖にする役割もあったのか。
「そんなに待てられないわ。そっちがすぐに挑戦するなら別だけど、それができないなら先にやらせて」
「そう言われてもね。こっちは先に来て並んでるんだ。順番を守って貰わないと」
ノームは全く悪びれる様子もなく言う。
「それなら準備が終わってから来てください。彼女たちはすぐにでも挑戦できる。それなのに、一時間も待たされるのは理不尽です」
「だから、そう言われても、俺にはどすることも出来ないんだよ。上からの命令なんでね、文句があるならイグシティにある本部まで行って交渉してくれよ」
「そんなところまで行ってたら、それこそ一時間経っちゃうわよ!」
アスナさんはとうとう大声を出す。
だが、すぐに冷静になり交渉する手段を考える。
そんな中、俺は一歩近づきノームの前に立つ。
「なぁ、あんた。あんたらはさ、意地でもここは退かないんだよな?」
「ああ、その通りだ」
「なら…………覚悟はできてるってことだな」
「ん?」
男が疑問符を浮かべた瞬間、鞘から大太刀を抜き、柄を男の顔面に叩き込む。
「ぐぼぉ!?」
叩き込んだ大太刀の柄を素早く掴み、そして振り下ろす。
男は地面に叩き付けられ、倒れる。
「れ、レイン君!何を!」
「アスナさん、もうここまで来たら戦うだけです。こいつらはこれがノーマナー行為と知っていながら、それをやってる。なら、それ相応の覚悟はしてるはずです。それに………こんな屑の様な奴に、ユウキたちの想いを踏みにじられたくないんですよ」
自分が何をしたか分かってる。
大規模ギルドに喧嘩を売れば、後で面倒なことになる。
事後に、ギルドを上げての報復をされるかもしれないし、ゲーム外のネットコミュニティにまでも持ち出される可能性もある。
だけど、例えそうなってもユウキたちが必死になって手に入れた情報を《盗み見》し、揚句、ユウキたちの想いを土足で踏み荒らしたこいつらが許せなかった。
「そうだよね。ぶつからなきゃ伝わらないことだってある。だから、君達にも伝えるよ、ボクたちの真剣さを」
ユウキも剣を抜き、構え、俺の隣に立つ。
アスナさんも決心したのか杖を握り締め、一歩踏み出し、並んでくる。
更にジュン、テッチさん、タルケンさん、ノリさん、シウネーさんも並び、全員武器を構える。
俺たちの気迫に敵勢は一歩下がる。
だがその時、背後から無数の足音が聞こえた。
ノームの男は俺たちの背後を見て勝ち誇った笑みを浮かべた。
後ろを振り向くと三十人程のパーティーがこちらに向かっていた。
付いているギルドタグは《三日月に矢》と目新しいものだが、一部《盾に馬》が入ってる。
ということは、コイツらの待っていた残りのレイドパーティーか!
まずいな。
いくら俺とアスナさん、ユウキたちが強いっと言っても七倍の数の相手に、しかも前後から挟み撃ちされたら勝ち目がない。
後方から魔法や矢の集中攻撃でHPを削り切られてしまう。
もっと早く行動してれば、前方の二十人ぐらいなら突破できたかもしれない。
くそ!
心の中で悪態をついてると、ユウキがアスナさんの手を取った。
時間にして僅か数秒。
だが、その数秒でニ人は何かを話したみたいだ。
それを俺だけでなく、他の五人も感じ取った。
全員頷き、円陣を組んで前後の攻撃に備える。
こうなりゃ、一人でも多く倒して、戦えるとこまで戦ってやる!
「往生際が悪ぃン「あ、……あれは………」!?」
相手集団のケットシーである鉤爪使いの男の勝ち誇ったセリフを言い終わる前に、ノリさんが回廊の一点を指差しながら言った。
ノリさんが指さした方を見ると黒い影が、ゆるく湾曲する壁面上を疾駆していた。
あれは、軽量級妖精共通スキル《壁走り(ウォールラン)》だ。
使えるのはシルフ、ウンディーネ、ケットシー、インプ、そしてスプリガン。
普通なら十メートルが限界だが、その影はすでに三十メートル近く走ってる。
こんなことができるのは一人しかいな。
その影は、増援部隊を追い越すと悠々と床に飛び降り、靴底のスパイクから盛大に火花を散らして制動する。
全身黒の装備で身を固め、背中の大振りの片手剣が収められてる黒革の鞘には純白の飛竜のエンブレムが箔押しされてる。
あれは《リズベット武具店》のエンブレムだ。
その人は背中から薄青い刃の剣を抜き、盛大な音を立てて足元に突き刺す。
「悪いな、ここは通行止めだ」
ノームの男が言った言葉と似ている言葉を発したのは、キリトさんだった。
その言葉に誰もが絶句した。
最初に反応したのは、増援部隊のサラマンダーの男だ。
「おいおい《黒ずくめ》先生よ。いくらアンタでも、この人数をソロで食うのは無理じゃねぇ?」
そう言うサラマンダーに向け、キリトさんは肩をすくめる。
「そうだな。確かに少しキツイ」
「そりゃそうだ。ほんじゃ、たっぷり味わってくれ。………メイジ隊、焼いてやんな!」
その言葉を合図にメイジ部隊がスペルを唱える。
放たれたのは七発の高レベル魔法攻撃。
五メートルの距離で《単焦点追尾》の魔法を回避するのは不可能に近い。
しかし、キリトさんは不敵な笑みを浮かべ、七連撃技《デッドリー・シンズ》を使う。
七連撃のソードスキルは七発の高レベル魔法攻撃を全弾空中で、斬った。
「うっ………そぉ………」
流石のユウキも、今のには驚きだったようだ。
キリトさんが行ったのはほとんどがライトエフェクト集合体でしかない魔法を、当たり判定のあるスペルの中心一点に属性ダメージを持つソードスキルぶつけることで無力化する技術。
キリトさんが独自に編み出したシステム外スキルの《魔法破壊(スペルブラスト)》だ。
ちなみに、この技が仕えるのはキリトさん以外では、俺とアヤメさんのみだ。
他にも、クラインさん、リーファさん、アスナさん、アルブス、シリカも特訓しが三日でギブアップした。
キリトさん曰く「どんな高速魔法も対物ライフルの弾丸より遅い」とのことだ。
まぁ、GGOでヘカートⅡの弾丸を至近距離で斬るキリトさんにとっては遅いだろう。
ちなみにキリトさんは難なく成功させるが、アヤメさんは九割で俺は四割の成功率だ。
「なんだよ、それは…」
「魔法を、斬ったのか…?」
「ぐ、偶然に決まってる…!」
などの声が上がり、動揺がさらに広がる。
だが、流石は攻略ギルド。
サラマンダーの指示で前衛は武器を構え、遊撃が弓や、長柄を構え、後方で再度スペルが唱えられる。
「おっと、気を付けた方がいいぞ。敵は一人とは限らない」
キリトさんがそう言うと、敵の後ろでもの凄い爆発が起きた。
全員爆音に驚き後ろを向く。
「おぉ~、スゲェな。この爆炎魔法」
「お前阿保か!?魔法スキル低いくせになに使ってんだよ!?どうみても爆炎魔法の失敗じゃねぇか!」
「失敗したが俺もお前も無傷だし、被害は彼奴らのみだからいいだろ?」
「てか、ウンディーネだろ!?回復魔法のスキル上げろよ!」
「やだ、めんどい」
爆炎の中から現れたのはインプのアルブスとウンディーネのアヤメさんだった。
「アヤメさん!?アルブスも!?」
「たっく、一人で先走りやがって。少しは俺らも頼れ」
「ま、アルゴに感謝するんだな。態々、俺達に連絡までしてくれたんだからな」
全員が唖然とする中アルブスとアヤメさんは歩きながら、キリトさんの隣に立つ。
そして、三人はそれぞれの獲物を構える。
キリトさんは、二本目の剣を出し、鞘から抜く。
その剣は《聖剣エクスキャリバー》。
俺たちがヨツンヘイムでウルズからのクエストをクリアして手に入れた報酬だ。
エクスキャリバーの放つ威圧に敵が一歩退く。
「オラァッ! オレもいるぜぇ!」
そう言って、後ろからクラインさんの声が聞こえた。
「遅い!」
「何してたんだよ!」
「道に迷った!」
怒鳴るアヤメさんとアルブスにクラインさんは謝る。
「アルブス、アヤメさんありがとうございます」
「礼は入れねぇよ」
「そいつら、ボスの所までしっかり届けろよ」
二人はにやっと笑ってから、敵に向け武器を走り出す。
キリトさんは無言で笑い、剣を握ったまま親指を立てた。
キリトさんの頭の上に居たユイちゃんも、笑顔で親指を立てて来る。
俺も無言で親指を立てる。
「アスナさん!キリトさんたちが後方の敵を引き付けてる間に行きましょう!正面の敵は俺とユウキで行きます!ユウキ、頼むぞ」
「わかった!」
「了解!」
「よし、行こう!」
アスナさんとユウキが言い、他のメンバーも頷いて進む。
俺は大太刀を横薙ぎに振る形で広範囲に攻撃をする。
ユウキは持ち前の超絶な回避能力で無数の斬撃を回避し、カウンターによる攻撃を叩き込む。
ジュンは両手剣を、テッチさんは重戦鎚を使用して相手の隊列を崩す。
生まれた隙を突くようにタルケンさんは長槍を、ノリさんは長棍で的確に攻撃する。
アスナさんとシウネーさんは絶えず、回復魔法を使い、俺たちをサポートする。
アスナさんは途中から、《流水縛鎖》を使い敵を絡め取り、細剣でHPを吹き飛ばす。
「この野郎!」
戦斧を持ったサラマンダーが俺目掛けて、武器を振り下ろす。
「レイン!」
ユウキが気づき助けに来ようとするが間に合わない。
ダメージを受けるのを覚悟で腕を盾にするが、俺に攻撃が当たる前に、サラマンダーは横から現れた何者かに何度も切り裂かれる。
切り裂いたのは短剣を逆手に持ったシリカだった。
「シリカ!」
「たっく、一週間会えないと思ったら、こんなことしてるなんて。後で説教」
「マジ?」
「マジだよ、お兄ちゃん!お姉ちゃん寂しがってたんだよ!」
ユウナに怒られ少し凹む。
「ほら、ボス部屋まで届けるんでしょ?行くよ」
「……ああ、シリカ。背中は任せたぞ」
「任された」
俺とシリカが前に出て走り出す。
シリカが敵を翻弄し、俺が倒す。
俺が敵の攻撃を受け止め、シリカが倒す。
互いに互いをカバーし合い敵を倒す。
「シリカ!」
「はい!」
俺が大太刀を水平に構えると、シリカがその上に乗る。
そして
「おらぁ!」
大太刀を振りあげ、シリカを投げ飛ばす。
行き成りの行動に敵はシリカを見上げる。
それは間違いだ。
上を見上げた瞬間、大太刀を振り、横腹に一撃入れる。
敵は俺の方を睨みつけ、武器を振り下ろそうとするが、振り下ろす前にシリカが首を斬り、先に倒す。
「す、凄い……ただ名前を呼んだだけなのに、まるでレインが何をしようとしてるのか、あの子、分かってるみたいだ」
ユウキはレイン君とシリカちゃんの戦い方を見て、呆気にとられながら言う。
「それだけじゃないよ。あの二人は互いが戦い易いようにカバーし合ってるの。お互いの事を理解し合ってるから、あれだけのことができるの」
「互いに理解………それって……もしかして………」
その時、一瞬だけユウキの顔が暗くなった気がした。
「ん?ユウキ?」
「な、なんでもないよ!ほら、もうすぐ扉だ!行こう、ボスを倒しに!」
声を掛けると、ユウキは取り繕うかのようにして、ボス部屋を指差す。
そうだ、もうボス部屋も近いんだ。
気を引き締めないと!
「ここから先は行かせるか!」
ボス部屋まで後一歩だと言うのに、現れたのは二メートルはあるであろうノームの重戦士だった。
全身を堅そうなアーマープレートで固め、手には巨大なタワーシールドと、巨大な両刃の大斧を持っている。
壁役のプレイヤーだ。
見るからに耐久値と体力が高そうだ。
くそ、後一歩なのに!
心の中で悪態をつきながら細剣を構える。
ユウキも剣を構え戦闘態勢になる。
だが、私たちが闘う前に、レイン君とシリカちゃんが飛び出す。
「くっ!…………ちょこまかと!」
大振りに振られる大斧をシリカちゃんは全て紙一重で躱す。
「ピナ、バブルブレス!」
シリカちゃんの使い魔のピナが泡を吐き、ノームの男を怯ませる。
「フィー、狐火!」
レイン君の使い魔のフィーが炎を吐き、ノームの男は僅かにダメージを負う。
「ふん!こんなもん?……お、おお!」
「残念だったな。フィーの今のは狐火じゃない。幻影火っていって状態異常を与える効果がある技だ。今のアンタは、平衡感覚が狂ってるように感じてるはずだ」
「く、くそ!」
「これで終わりだ!」
「決めるよ!」
レイン君とシリカちゃんは同時にソードスキルを放つ。
レイン君のOSS《百鬼乱戦桜花》とシリカちゃんの《アクセル・レイド》を使い、合計二十連撃をぶつける。
ノームの男はHPが全損し倒れる。
扉に近づき、後ろを振り返ると、後ろの四人は善戦しており、まだHPにも余裕があった。
ありがとう、ユイちゃん、アルブス、アヤメ、クラインさん
大好きだよ、キリト君
心の中で念じ、ユウキたちを見る。
「さあ、ここからが本番!行こう、ボスを倒しに!」
『おう!』
全員が応じるのを聞き、扉を開けて入る。
「ユウキ、今度こそ勝てよ!」
「うん!絶対勝ってくるよ!」
レイン君の声にユウキはさっきと変わらず元気に応える。
扉が閉まり、これで戦闘が終わるまで誰も入って来れない。
「ねぇ、アスナ…。……みんな、ボク達を行かせる為に…」
「うん、そうだね…」
他のみんなも、囮にするようになってしまった六人に気を遣っているんだ。
「大丈夫、あの六人なら……ううん、ユイちゃんとユウナちゃんも合わせて八人なら、問題無いよ」
「でも………助けられてばっかりで……」
ユウキは俯き元気をなくす。
そんなユウキを肩をぽんっと触り、見つめる。
「そんなことないよ。私もユウキに教えられたこと一杯ある。それに、私は信じてる、彼らの事を」
私は彼等を信頼してる。
彼等なら絶対に無事だ。
「だから、このボス戦に勝って、勝利報告をしてあげよ。その方があの八人も喜ぶから」
「アスナ………うん!そうだね!」
ユウキはいつもの元気を取り戻し笑顔になる。
それと同時に、ポリゴンがボスの姿を形成する。
そして、双頭四腕の黒い巨人が現れる。
「よぉーし!もういっちょ、勝負だよ!」
ユウキの凛とした声と、全員の気勢と、巨人の咆哮が重なり、二度目にしてラストチャンスのボス戦が始まった。
妻と愛人が出会ってしまった。