二十四層《パナレーゼ》
ユウキが戦っていた小島にシリカは降り立った。
「一体何の用かな?」
シリカを呼んだのはレインではなくユウキだった。
メッセージで話したいことがある、それだけ書かれており、シリカは首を傾げながら小島に向かった。
「やぁ、シリカ」
背後から声を掛けられ、振り向くとそこにはユウキがいた。
「ごめんね、ユウキ。少し遅れちゃった」
「ううん、そんな待ってないよ」
そう言うユウキは何処か、何かを心に秘めてるような感じだった。
「ねぇ、用件って何?」
「……シリカ、ボクと戦って」
ユウキは愛用の黒い剣を抜き言い放つ。
「………どうして?前に一度戦ってユウキはあたしに勝ったじゃない」
「本気じゃなかったよね。手を抜いていたわけじゃないけど、本気で戦ってはいなかった。違う?」
「……どうして、そう思ったの?」
「レインに合わせて動ける人で、おまけにレインのパートナーならあの程度の実力な訳ないよ」
そう言うユウキにシリカは、息を吐き、背を向ける。
「あまりあたしを買い被らないで。あたしはユウキが思ってるような、強さは無いし、そんなに強くない。結果が見えてる勝負なんてやってもつまらないでしょ。あたし、帰るね」
翅を出し、飛ぼうとした瞬間、ユウキは言い放つ。
「そっか。なら、レインをもらってもいいよね?」
その言葉にシリカは翅を振るわせるのを止める。
「レインと釣り合わないパートナーなんていらない。レインもそう思ってるんじゃないかな?………でも、ボクならレインと釣り合う」
シリカはゆっくりと動き、ユウキと向かい合う。
「………レインのこと何も知らないくせに変なこと言わないで」
「ボクは本当の事を言っただけだよ。ボク、嘘って苦手なんだ」
「……いいよ、最初に喧嘩を仕掛けてきたのはそっちだから」
シリカは腰に手を伸ばし、短剣を抜く。
「……盗られたくなかったら、勝つことだね」
ユウキはシリカにデュエル申請をする。
設定で引き分け機能はOFFになっている。
「喧嘩を売ったこと後悔させてあげる」
シリカは素早く《完全決着モード》を選択する。
互いに距離を取り、剣を構える。
カウントが減っていく。
シリカは短剣を逆手に持ち、空いてる左手を強く握る。
ユウキはいつも通り、長剣を中段に構え、自然な半身の姿勢を取った。
カウントがゼロになる。
ゼロになった瞬間、シリカとユウキは同時に走り出した。
短剣と片手剣がぶつかり合い、鍔競り合う。
力で負けてるシリカが徐々に押され始め、ユウキが優勢になる。
シリカは押し返さず、一気に後ろに下がる。
その行動で、ユウキは前のめりになる。
しかし、ユウキは前のめりになりながらも、足を一歩踏み出し、体勢を保つ。
更に、一歩踏み出すと同時に、突きを放つ。
シリカは左手のガントレッドの手の甲の部分で剣を当て、掠らせ、軌道をずらす。
軌道をずらした後、シリカはユウキの胸に向け、掌底を叩き込む。
拳術スキル《心掌》。
拳術スキルで唯一、専用ナックルを装備せずに、ダメージを与えることのできるスキルだ。
ただし、ダメージを与えるには、的確に相手の心臓の中心に技を当てないといけない。
おまけに、外したりすれば、ダメージとスタン効果を与えられず、逆に自分がスキル発動後の硬直に陥るので使うプレイヤーはあまりいない。
予想外のダメージとスタンにユウキは反応が遅れ、シリカに懐に入られた。
シリカは、ユウキの腹部に下から突き上げるかのように拳を叩き込む。
首目掛け短剣を振り下ろすとするが、ユウキは剣の柄で、シリカの右手を弾き、そのまま、シリカの目を斬る。
咄嗟に顔を捻り、直撃を避けたが、剣先が左目を斬り、数秒間シリカは左側の視界を封じられる。
ユウキはそれを理解し、シリカの左側に移動し、攻撃をする。
左側を向こうと体を動かすも、その間に、ユウキは動き、常に視界に入らない位置に居る。
「せいっ!」
ユウキは剣を深々とシリカの脇腹に突き刺す。
そして、そのまま、剣を振り脇腹を切り裂こうと剣を動かす。
シリカは刺された不快感に顔を顰めながら、歯を食いしばり、右足を叩き付ける。
体術スキル《震脚》
震脚は文字通り、足を地面に叩き付けるもの。
ダメージを与える技ではなく、相手の動きを阻害するための技だ。
だが、シリカはユウキの動きに合わせて震脚を使った。
そのため、剣を振ろうとしたユウキは一瞬驚き、動きを止める。
その間に、シリカは動き、剣が脇腹から抜ける。
しかし、シリカのHPは既にレッドに入っている。
ユウキは攻撃の手を止めてしまったことに、心の中で舌打ちをする。
舌打ちをしながらも、動き、次の手を打つ。
シリカと数合打ち合うと、素早く剣でシリカの右足と、左足の付け根を斬る。
そこで、シリカの動きが僅かに鈍る。
(ここだ!)
止めを刺すつもりで、ユウキはOSSを発動する。
右肩から斜めに下ろすように放たれた五連撃の突きが放たれる。
本来なら、ここで勝負が決まる。
だが、シリカはユウキの剣の動きではなく、腕の動きを見ていた。
五連撃を放つ腕の動きに合せ、短剣を動かし、最初の五連撃を防ぐ。
次の五連撃は、最小の動きで躱し、短剣で受け流す。
最後の突きは、バク転をして、回避しようとするが、距離が足りず、ユウキの剣が当たりかける。
剣先がシリカの右足に当たる。
その時、ブーツの裏を見せるように動かし、剣先とブーツの裏があたる。
金属音が響いた。
シリカのブーツにも、レインと同じように鉄板が仕込まれている。
それにより、シリカはユウキの十一連撃のOSSを全て回避することに成功した。
だが、ユウキは諦めていなかった。
シリカの着地地点を予測し、そこに渾身の突きを放つ。
予想は見事当たり、シリカの着地と同時に、突きがシリカの眼前に迫る。
突きがシリカの顔にヒットする。
そして、ユウキの顔は驚愕に染まる。
何故なら、シリカはユウキの突きを歯で噛み、受け止めていた。
シリカは、剣から口を放と、短剣で素早く弾くと同時に、屈み、下から蹴りを放つ。
蹴りはユウキの顎に当たり、ユウキが若干浮かび上がる。
「まだまだ!!」
シリカは体を捻るようにして動き、ユウキの頭上から踵落としを落とす。
勢いよくユウキは頭を地面に叩き付けられる。
慌てて起き上がろうとすると、シリカは中級突進技《ラピット・バイト》を使う。
攻撃をモロに食らい、ユウキは背中を木に叩き付ける。
身体を襲った衝撃に思わず目を瞑り、目を開けると、シリカが短剣を自分に突きつけている。
HPはレッドになり、数ドット残っている状態。、
対してシリカも同じ。
だが、この状態から勝つのは無理。
剣を振る前に、シリカの方が先に短剣を突き刺すのが早い。
「………ボクの負けだね、リザイン」
ユウキは降参し、シリカの勝利が決まった。
シリカは、一息いれるとストレージからポーションを二つ出し、ユウキに一つ渡す。
「はい、どうぞ」
ユウキは、目をパチクリさせると、照れた様な笑みを浮かべる。
「ありがとう」
お礼と笑みを返し、ポーションを呷る。
「うん、シリカは強いや。流石はレインのパートナーだよ。ごめんね、嘘でもあんなこと言って」
「やっぱり、嘘だったんだ。戦い方に慢心があるように見えなかったし、容赦なくOSSも使ってきたから、おかしいと思ったんだ」
「あはははは、バレてたか」
頭を掻き、ユウキは照れる。
「………レインのこと、好きなんだよね?」
シリカはユウキの心を見透かすかのように聞く。
「……うん」
「…………好きになったものはしょうがないよね。別にユウキは悪くないよ。でも、その逆だったら、レインには容赦しないけどね」
「あ、あはははは」
シリカの黒い笑みに、ユウキは乾いた笑い声を上げる。
「………シリカ」
「何?」
「明日、レインに告白すること許して下さい」
「いいよ」
「って、軽っ!?」
軽くOKを出したので、ユウキは思わずツッコム。
「やっぱさ、そういう感情は隠しておくのは辛いと思うんだ。だから、言って楽になるんだったら、その方がいいでしょ。あたしは別に告白した位で、怒ったりしないし、仮にそれで付き合うことになったとしても、誰も責めない。まぁ、レインには少し怒るかな」
「……シリカ」
「でも、あたしはレインの事信じてる。絶対にあたしを捨てたりしないって」
「うわぁ、凄い自信だね」
「もちろん、信じてるからね」
そう言って互いに笑い合う。
「ありがとう、シリカ。いい勝負だった」
「今回は初めて見せる技ばかりだったから、勝てたんだよ。次は分からない。実際、あのOSSは危なかったよ、次は躱せないな」
「いやいや、シリカはとても強いよ。レインの傍にいるべきパートナーだ」
「ふふっ、ありがとう」
「じゃあ、またね」
「うん、また」
「ってことがあったんだ」
「シリカがユウキに勝ったのか!?」
と、以上がユウキから聞いた昨日の出来事らしい。
まさか、シリカがユウキに勝つとはな~。
「それにしても、二人の絆は凄いな~。ああ、もう、本当に悔しいや!」
ユウキは草原に寝転がりながら、空を仰ぐ。
「………ユウキ、デートしようぜ」
「……え?………ええ!?」
ユウキは飛び起きて、俺を見て来る。
顔が真っ赤だ。
「まぁ、なんだ。ちょっとした思い出づくりだよ。ユウキさえ良ければどうだ?」
「えっと…………いいの?」
「まぁ、シリカにバレたら怖いが………まぁ、いいだろ」
「……えっと、じゃあ、お願いします」
「おう。じゃあ、いつにするか………」
「明日はボク、倉橋先生と面談があるんだ。明後日は?」
「よし、明後日の午前十時にここの木で待ち合わせだ」
「うん!」
ユウキはこれ以上に無いぐらいの笑みを浮かべ、笑う。
ユウキに喜んでもらう為に、明後日のデートプランでも考えるか。
だが、そのプランは結局は無駄になった。
次の日、倉橋先生から連絡が入った。
ユウキの容態が急変したと。
なんか………書いてて悲しくなってきた