二人のビーストテイマー   作:ほにゃー

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第13話 旅立つ剣士

連絡を貰って俺はすぐに家を飛び出した。

 

家を飛び出してからは何も覚えてない。

 

気が付くと、タクシーの中にいてもうすぐ病院に着くとこだった。

 

病院に着くと、もう一台別のタクシーが丁度着いたとこだった。

 

中から明日菜さんが今にも泣き出しそうな表情で出てきた。

 

俺達は顔を見合わせてからすぐさま病院の中へと駆け込む。

 

受付には既に話が通っていたようで、俺達のことを確認した看護婦はすぐにプレートを渡してくれて、

 

中央棟の最上階へ急ぐように言われた。

 

エレベーターに乗り込み、辿り着いた中央棟最上階……前に来た時には厳重に閉じられていたはずの無菌室が開いていて、

 

そこから1人の看護師が足早に出てきた。

 

「早く中へ」

 

囁くように言われ、中に入ると、無菌室には倉橋先生と、二人の看護師がジェルベッドに横たわる小さな姿を見ていた。

 

服装が通常の白衣だった。

 

そこで、俺はもう取り返しのつかない段階に来ていることを悟った。

 

俺達に気が付くと倉橋先生は俺たちを中に迎え入れた。

 

両足がふらつく明日菜さんを支え、部屋に入る。

 

ベッドの上には白いシーツを首元まで掛けられてる痩せた少女が横たわっていて、僅かにだが胸を上下させてる。

 

メディキュボイドも前と違って、長方形の筐体を二つに分離し、九十度後ろに倒されてる。

 

傍にある心電図の波形は弱々しい。

 

「間に合ってよかった」

 

それがどういう意味なのか俺はすぐに理解した。

 

「四十分前に、一度心臓が停止しました。投薬と除細動によって脈拍が戻りましたが、次は………もう………」

 

「っ…なん、で……なんで、ですか…。だって……ユウキは、まだ…」

 

「お二人がここに訪れた時から、彼女にこの状態が何時来てもおかしくない状態でした…。

《HIV消耗性症候群》による発熱、《脳原発性リンパ腫》の進行、それらの影響で木綿季君の命はずっと薄い氷上を歩くような状況だったのです…。しかし、木綿季くんはこの三ヶ月我々も驚愕する頑張りを見せた。絶望的な戦いを日々勝ち抜いてきたのです。いや、それを言うなら、木綿季くんにとって、この十五年そのものが長い長い、闘いだったのです。

HIVだけじゃない、冷酷な現実とも、彼女は抗い続けてきたのです。メディキュボイドの実用化も彼女がいなければ、確実に一年は遅れてたでしょう。…………だから、もう、ゆっくり休ませてあげましょう」

 

その時、ユウキがかすかに頭を動かした。

 

薄い瞼は震え、わずかに開く。

 

光を失っていた瞳が、僅かな光を湛えて、俺達を交互に見た。

 

唇が小さく動いて、シーツの下の右手がぴくりと震えてから、俺達へと差し伸べられた。

 

「握って、上げてください」

 

手を伸ばし、ユウキの手に触れる。

 

明日菜さんと一緒にユウキのひんやりとした右手を包み込むように握る。

 

すると、ユウキは何かを求めるように手を僅かに握った。

 

「先生………今、メディキュボイドは使えますか」

 

「え?それは、電源を入れれば………しかし、木綿季くんも、最期は機械の外で……」

 

「お願いします。ユウキは、もう一度あの世界に行きたがっています。俺たちにはわかるんです。お願いします」

 

倉橋先生は、数秒俺達をじっと見ると、頷き、メディキュボイドの側面のハンドルを回し、上半分をユウキの頭に被せた。

 

「起動に一分ほどかかります。アミュスフィアも、隣にあります」

 

「ありがとうございます」

 

倉橋先生にお礼を言い、俺はもう一度ユウキの手を握る。

 

「すぐに行く」

 

「待っててね、ユウキ」

 

無菌室を飛び出し、隣の部屋に駆け込む。

 

前と同じようにシートに座り、アミュスフィアを被る。

 

ALOにダイブすると、宿をすぐに飛び出し、二十二層に向かう。

 

アインクラッドは既に夕方だった。

 

小島に着くと、ユウキは俺達が剣を交えた場所に立っていた。

 

俺達に気付き、ユウキは濃紺のロングスカートを揺らしながら、振り向いた。

 

「ありがとう。ボクね、二人に渡すものがあったの忘れてたんだ。だから、どうしてもここで会いたかったの」

 

「渡すものって、なに?」

 

アスナさんは無理やり笑顔を浮かべ、訊き返す。

 

「いま作るから、待っててね…」

 

ユウキはウインドウを出し、何か短い操作を終えた。

 

ウインドウを消すと、右手で剣を音高く抜き放つ。

 

剣を大樹の幹に向け、まっすぐ構える。

 

今にも崩れ落ちそうな小さな体を両足で踏ん張って持ちこたえる。

 

草原を風が渡り、止んだ、その瞬間ユウキは動いた。

 

「やあっ!!」

 

裂帛の気合と共に、右手が閃く。

 

右上から左下に高速の突きを5発、剣を引き戻して今度は左上から右下に高速の突きを5発、そして十字が重なった部分に最後の一突きを放つ。

 

凄まじい炸裂音に、樹が折れてしまうのではと思った。

 

すると、幹に突きつけた剣尖を中心にして小さな紋章が展開した。

 

四角い羊皮紙も出てきて、その紋章を写し取って、端から巻き上げられて、一つの巻物が出来上がった。

 

ユウキはそれをそれを掴むと、背中からふらっと倒れる。

 

俺はすぐに動き、ユウキを支える。

 

「へんだな……痛くも、苦しくもないのに……力が入らないや………」

 

「安心しろ、疲れただけだ」

 

「そうだよ、休めばすぐによくなるよ」

 

「……うん」

 

ユウキは左手を持ち上げ、明日菜さんに突き出す。

 

「アスナ、これ、受け取って。ボクの……OSS……」

 

「わたしに、くれるの……?」

 

「アスナに……受け取って………ほしいんだ………。さ………ウインドウを」

 

「……うん」

 

アスナさんは左手を震えさせながら、ウインドウを開く。

 

巻物を受け取り、ウインドウの表面に置く。

 

巻物はたちまち光とともに消滅した。

 

「技の、名前は……《マザーズ・ロザリオ》…。アスナを、みんなを……きっと…守って、くれるよ…」

 

「うん…ありがとう、ユウキ。約束する……もし、いつかわたしがこの世界を去る時が来ても、必ずこの技は誰かに伝えるから…。あなたの剣は………永遠に絶えることはない」

 

「ありがとう、アスナ…」

 

ユウキはそう言うと、今度は俺の方を見る。

 

「レインには、これを受け取ってほしいんだ」

 

振るえる右手を持ち上げ、黒曜石の剣を差し出す。

 

「名前は………《マーキュリーフォルティス》。ALOで……ボクが最初に倒したモンスターのドロップアイテム。ボクの………大切な相棒」

 

「……いいのか?」

 

「うん……レインだから、受け取ってほしい………レインだから託せる」

 

「……わかった」

 

ユウキの剣を受け取り、ウィンドウに入れる。

 

「……ありがとう」

 

その時、幾つかの飛翔音が響いてきて、誰かが近くに降り立った。

 

降り立ったのは《スリーピング・ナイツ》の皆だった。

 

「ど、どうして……最後の見送りは……しないって、約束……なのに……」

 

「見送りじゃねぇ、カツ入れに来たんだよ。次の世界で、リーダーが僕たち抜きでしょぼくれてちゃ困るからな」

 

「次にいってもあんまウロウロしてないで、待ってろよ。俺達もすぐに行く」

 

「何……言ってんの……あんますぐ……来たら……怒る…からね」

 

「だめだめ。リーダーはさ、あたしらがいなきゃなんも出来ないじゃない。だから、大人しく、待って……待っ…ぁ…」

 

「だめ、ですよ…ノリさん。泣かない、約束……なんですから…」

 

「必ず、自分たちも行きます。だから……待ってて下さい」

 

「しょうがないな………ボクは……姉ちゃんと、クロービスと、メリダと、四人で待ってるから…。出来るだけ、遅く来るんだよ…?」

 

《スリーピング・ナイツ》の六人はしっかりと手を握り締め、再会を誓った。

 

そして、今度はキリトさん、シリカ、リズさん、アルブス、アヤメさん、シノンさん、リーファさんもやって来て、ユウキを囲む輪に入り、ユウキの手を握る。

 

それでも、まだ飛翔音が聞こえる。

 

一つではない。

 

幾つも重なって、荘厳なパイプオルガンのような反響音を造り出してる。

 

空を振り仰ぐと、シルフ領主のサクヤさんを先頭に沢山のシルフの人たちがいた。

 

あの人数だと、おそらくALOにログインしてるプレイヤー全員だと思う。

 

シルフだけでなく、ケットシー、サラマンダー、ウンディーネ、インプ、スプリガン、ノーム、レプラコーン、プーカ、全種族がそれぞれのリーダーを先頭に、色鮮やかなリボンのようになって、小島に向かって来た。

 

「すごい……妖精が、こんなにたくさん…」

 

「ユウキは嫌がるかもって思ったんだけど、わたしがリズ達にお願いしたの」

 

「嫌なんて……そんなこと、ないよ…。でも、どうして……なんで、こんなにたくさん…」

 

ユウキが吐息交じりに囁く間にも、小島に降り立った剣士たちは、少し距離を取って、片膝を着き、こうべを垂れる。

 

「だって……だって……ユウキ……あなたは。かつてこの世界に降り立った、最強の剣士。あなたほどの剣士は二度と現れない。そんな人を、寂しく見送るなんてできないよ。みんな、祈ってるんだよ………ユウキの、新しい旅が、ここと同じぐらい素敵なものに、なりますようにって」

 

「………嬉しい………ボク、嬉しいよ」

 

ユウキは首を持ち上げ、周囲を囲む剣士たちを見渡す。

 

「………ユウキ……あれを見ろ」

 

俺が指を刺しすと、ユウキはゆっくりとその方向に顔を向ける。、

 

「……うわー」

 

ユウキは驚きの声を上げる。

 

湖に沈みかけてる夕日の光が水面に反射し、虹色の光を放っていた。

 

「この層の、この時間にしかみることができない現象だ。知ってるヤツって、あまりいないんだぜ。………本当は、明日見せる予定だったんだ」

 

「凄い………とても……綺麗だ」

 

ユウキは俺に首を預けるようにもたれて来る。

 

「ずっと、考えてたんだ…。死ぬために生まれてきたボクの……世界に存在する意味は、なんなんだろうって…。何も生み出せなくて、与えられなくて、薬や機械を、たくさん無駄遣いして…。周りの人を困らせて、自分も悩んで、苦しんで……結局、消えるだけなら、もっと早くに消えたほうがいい…。何度も、何度も…そう思った……なんで、ボクは生きてるんだろう…って…」

 

ユウキの、残りの命が今、燃え尽きようとしていた。

 

抱き留めたユウキの体が、少しずつ軽くなり、透き通っていくようだった。

 

「でも……でもね……ようやく、答えが……見つかった。意味なんてなくても……生きて、いいんだって…。だって……最後の瞬間に、こんなに、たくさんの人に…囲まれて……大好きな人の腕の中で、旅を……終えられる、から…」

 

もう、涙を我慢することは出来なかった。

 

両目から、ボロボロと涙が零れ、ユウキの胸元に落ちていく。

 

ユウキは、最期の力を振り絞り、俺の頬に触れる

 

「泣かないで。泣くと………かっこいい顔が……台無しだよ」

 

……そういえば、ユウナにも同じこと言われたっけな………

 

「……ああ、悪かった」

 

涙を拭き、ユウキを見つめる。

 

そして、自然と笑みが浮かんできた。

 

「ユウキ、必ず、もう一度会おう。いつの日か、違う場所、違う世界でもう一度出会って、デートしよう」

 

「うん……その時はちゃんとエスコートしてよね」

 

「ああ………もちろんだ」

 

ユウキは、周りを囲む剣士たち、キリトさんたち、《スリーピング・ナイツ》の皆、アスナさんの順に目を合わせていき、最後に俺を見つめる。

 

ユウキの目から涙が零れる。

 

涙はユウキの白い頬を滑り、光となって消える。

 

「レイン、ありがとう、ボクに恋を、人を愛することを教えてくれて」

 

「……ああ、俺もだ。こんな俺を、好きになってくれて、愛してくれて、ありがとう」

 

ユウキの瞼が、ゆっくりと下がる。

 

「……おやすみ、ユウキ」

 

ユウキの小さな体を優しく抱きしめる。

 

 

おやすみなさい、レイン

 

 

心にユウキの声が響いた。

 

雪の結晶が、地面に落ち、消えるようにユウキの瞼は閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三月二十九日 日曜日 午後二時半過ぎ

 

この日、ALO最強の剣士《絶剣》ユウキは、その生涯を終えた。




日にちは実際に調べて、書きました。
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