すみません。
咳も止まり、頭痛も無くなったので更新再開です。
二○二四年十一月六日、約二ヵ月前、俺はキリトさんと共に、アインクラッドの七十五層で、最強のプレイヤーにしてラスボスでもあったヒースクリフさんを倒した。
その時、俺はHPを全損し、死に、キリトさんとキリトさんを庇ったアスナさんも死んだ。
だが、どういうワケか、次に目を覚ましたら病院のベッドの上だった。
茅場さんからの最後の報酬のつもりなのか、俺は生きていた。
俺はもしや、キリトさんとアスナさんも生きてるのでと考えた。
目を覚ました次の日、俺の下に一人の男性が来た。
彼は自分は《総務省SAO事件対策本部》の者だと名乗った。
対策本部と言っても、行ったのは被害者たちの病院の受け入れ態勢を整えたり、ごくわずかなプレイヤーデータをモニターしていたぐらいらしい。
そのモニターをしていた結果、俺のレベルと存在座標から俺が《攻略組》の上位プレイヤーであることを知り、一体何があったのかを聞きに来た。
そこで、俺は知り合い、特にシリカの情報と引き換えに知っていることを全て話す事を条件に出した。
その人も、キリトさんの証言(後でキリトさんにも聞きに行ってたのを知った)と俺の証言に食い違いが無いか調べるために、その条件を飲んでくれた。
そして、シリカとアスナさんはまだ目覚めてなく、さらに、全国で三○○人のプレイヤーが目を覚ましてない事を知った。
シリカが何処に収容されているのかを聞くと運がいいのか判らないが、そこは俺がいるこの病院、そして、俺の父さんが外科部長を務める病院だった。
リハビリをこなしながら、俺は時間が許す限りシリカの下を訪れた。
退院してからも、毎日毎日病室に通った。
そして、今日もシリカのいる病室に訪れた。
受付の看護師の人は俺の知ってる人で、俺が来るといつも通りの笑顔でパスコードを渡してくれる。
それを受け取り、シリカのいる病室に行く。
綾野珪子と書かれたプレートの下のスリットにパスを通す。
電子ロックが解除され、ドアがスライドされる。
中に入り、そこに置かれてるベッドに目をやる。
シリカはそこに居た。
今だに、ナーヴギアを頭に被り、目を閉じ横たわっている。
近くの椅子に座り、シリカの右手に触れる。
「早く目覚めてくれ。寂しいんだよ」
小声で呟き、右手を両手で包み込む。
その時、ドアがスライドし誰かが入って来た。
振り向くと、そこには、一人の女性が花を持っていた。
「あら、雫君。いらっしゃい」
この人は、シリカの母親の綾野冴子さんだ。
顔立ちがシリカとよく似ている。
「どうも、お邪魔してます」
「いいのよ。来てくれる方がこの子も喜ぶわ」
そう言って、枯れかかった花を花瓶から取り、水を変え、新しい花を挿した。
冴子さんとあったのは、俺が初めてシリカの病室を訪れた時だ。
その時は、父親の綾野敬一さんもいた。
二人には自分とシリカの関係を伝えた。
SAOでコンビを組んでいたことも、付き合っていたことも。
二人とも最初は戸惑っていたが、その後、あの世界でのことを聞かせてほしいと言って来た。
だから、俺は危険な所は伏せ、SAOでの事を話した。
全てを話すと、二人は揃って俺に頭を下げてきた。
「娘を守ってくれてありがとう。これからも、娘を頼む」
そう言われた。
要するに親公認になったわけだ。
これで、シリカが目覚めてくれたらもう何も言うこと無いんだが………
その後、少し冴子さんと話すと、俺は病室を出た。
そして、今度は所沢総合病院に向かう。
次はアスナさんのお見舞いだ。
通行パスを受付で貰い、最上階の病室に行くと、ちょうどキリトさんとあった。
「あ、キリトさん」
声を掛けるが、キリトさんは反応しなかった。
そして、俺に気付かないで、そのまま横を通って行く。
どうしたんだ?
不思議に思い、アスナさんの病室に入ると髪をオールバックにし、ダークグレーのスーツを着た眼鏡を掛けた男の人がいた。
「おや?君は?」
「……どうも、朝霧雫です」
「朝霧君か。僕は須郷伸之だ。明日菜さんの婚約者だ」
その言葉に俺は目を見開いた。
明日菜さんが俺達とは違う良い所のお嬢様だと知っていた。
だから、もしかしたらと思っていた。
そうか、キリトさんが落ち込んでたのはこのことか。
それにしても、この男、なんか嫌な感じだ。
「君は、この子とどういった関係だい?」
アスナさんの髪を一房摘み上げ、音を立ててすり合わせる。
その行為に俺は嫌悪感を抱いた。
「……友達です」
「へぇ~………なら、君もSAOのプレイヤーかな?」
俺は何も答えず、ただこの男、須郷を見る。
「黙ってるってことは、そうなんだね。よかったら、プレイヤーネーム、教えてもらえると嬉しいな」
それにも応えず、俺は須郷を見る。
いや、殆ど睨んでるも同然に見ていた。
「……スバルってプレイヤーは知ってるかな」
その名に俺は目を見開いた。
「僕の従弟なんだけどね。彼もSAOやっていたんだ。でも、不幸なことに死んでしまった。原因はPK。プレイヤーに殺されたんだ」
更に俺は目を見開いた。
SAOでの出来事は口外禁止されている。
いくら従兄でも家族でもないこの男にまで伝わるはずがない。
それに、SAOのモニターで分かることは、死亡した日ぐらいしか分からない。
なのに、どうして原因まで知ってる………
「で、そのPKしたプレイヤーの名は、レイン。ねぇ、朝霧君。何か知ってるかい?」
にやっと口角を上げ、こちらを見る。
その姿に俺は恐怖し、逃げ出そうとする。
だが、逃げ出せなかった。
行き成り何者かが、俺の右手を掴み、捻りあげ、俺を床に押し倒す。
「あがっ!?」
「おいおい、逃げんじゃねぇよ。レイン」
聞覚えのある声に、身の毛がよだった。
嘘だ。
そんなはずがない。
だって、この声は………
恐る恐る、顔を後ろに向ける。
「よぉ、まだ俺の事覚えてるか?覚えてるよなぁ。なんせ、自分が殺した相手なんだしよ」
スバルがそこにいた。
「ど、どうして?死んだ……はずじゃ……」
「伸之兄さんのお陰だよ。兄さんのお陰で、俺は生き残れた。俺がSAOに捕らわれた時、兄さんは俺のナーヴギアを兄さんの会社にある巨大なスーパーコンピューターに接続した。俺のHPが無くなり、ナーヴギアが俺の脳を破壊する時、あるバグを起こし、俺の死を偽造した。結果、俺は死なず、ゲームから解放されるまで意識をナーヴギアに置いたまま、ゲームの行方を見ていたって訳だ。それと、お前の事は全部話しておいたぜ」
「昴くん、この子が君の言ってたレイン君かい?」
「そうだよ」
須郷は興味深そうに、俺の顔を覗き込んでくる。
「そうか。君がレイン君か。ねぇ、レイン君はさ、《アーガス》がその後どうなったか知ってるかい?」
「……解散したと聞いてる」
「その通り。開発費と事件の補償で莫大な負債を背負った会社は消滅。その後、SAOサーバーの維持を任されたのは総合電子機器メーカー《レクト》のフルダイブ技術部門に委託された。そこはボクが務める部署でね。言うなれば、明日菜の命はボクが握ってるも同じだ。なら、その対価として、この娘との結婚をしたっていいだろ。ま、法的な入籍は出来ないから、僕が結城家の養子になることになる。そうなれば、結城家は僕の物となる」
この男、この状況を利用する気だ。
アスナさんが自分の意思を言えないことをいいことに、それを利用する気だ。
「あ、そうそう。もし、このこと誰かに行ったらどうなるか分かるよね。君の大事な彼女さんが亡くなるかもしれない」
!?この男………シリカの事を知ってる!?
……いや、スバルが生きていたんだから、シリカのことを知っていても不思議じゃない……
「じゃ、もう帰って貰おうか。昴くん、彼を送ってあげなさい」
「分かったよ。兄さん」
スバルは俺の手を離し、俺を立ち上がらせる。
そのまま、俺は病院のロビーまで連れてかれる。
「じゃあ、帰りな。そして、目覚めない彼女と残りの人生を楽しむがいい」
そう言って、スバルは俺の下を離れた。
家にどうやって帰ったか覚えてない。
気がづくと自分の部屋に居た。
俺はコートを脱ぎ捨て、ベッドに座り込んだ。
一体、どうしたらいいんだ?
あの男の事を誰かに話せば、シリカの命は無い。
いや、それ以前に俺の話を誰が信じてくれる?
………無力だ。
あの世界では、俺は攻略組として、最前線で戦っていた。
だが、この世界、現実では、俺は力のない子供だ。
背中からベッドに倒れ込み、天井を仰ぐ。
もう二度と、俺はシリカと言葉を交わすことも、互いに触れ合うことも叶わないのか。
「雫、入るぞ」
扉がノックされ、入って来たのは父さんだった。
「父さん。今日は、早いんだね」
ベッドから体を起こし、父さんの方を見る。
「いや、ちょっと忘れ物を取りに来ただけだ。すぐに戻る」
そう言うと、父さんは俺の椅子に座り、俺の方を見る。
「なにか悩んでるのか?」
「……父さん、もし、目の前で怪我してる人が二人いたとするよ。片方は、出血も激しく助かる見込みは無い。でも、もう片方はすぐにでも治療すれば助かるかもしれない。そうなったら、父さんは助からない患者を諦める?」
俺の質問に、父さんは少し考えると口を開いた。
「考えるより、手を動かす」
「え?」
「諦めるかを考える前に、まずは行動することだ。考えることは、この状況に限っては無駄なことだ。もしかしたら、奇跡的に二人とも助かるかもしれない」
そう言うと、父さんは立ち上がり、俺の頭に手を置く。
「何もせずに諦めるのは愚かだ。だが、諦めずに、一つの希望に手を伸ばすのは、愚かじゃない。もし、今お前が、何かを諦めているなら、こう言おう。絶対に、諦めるな。何もせずに諦めるぐらいなら、やって後悔しろ。その方が、諦めることよりも何倍もいい」
頭から手を離すと、父さんは部屋を出る。
「じゃ、俺は病院に戻る。いいか、諦めるなよ」
その言葉を最後に、扉が閉まった。
「……諦めるな……か………そうかもな」
そう呟いて、再びベッドに倒れ込む。
諦めなければ、希望がある。
こんな姿、シリカに見られたら、怒られるな。
とにかく、行動しよう。
諦めるにはまだ早い。
そう思い、諦める事を止め、行動を起こすことにした。
そう考えていると、自然と眠気が襲ってきて、俺は眠りに落ちた。
「ん?………朝か。寝ちまったか」
ベッドから体を起こし、伸びをする。
その時、机の上に置いといた携帯に着信が入った。
手に取り開くと、パソコンの方にメールが届いた知らせだった。
パソコンを開き、メールボックスを開くと、一件の新着メッセージを確認する。
相手は………エギルさんだ。
エギルさんとは、退院後に再会し、その時、メールアドレスを交換した。
メールは本文も何もなく、一枚の画像が添付されていた。
その添付された画像を開き、俺は驚いた。
画像は引き伸ばされ、ドットが荒いが、その姿は、まぎれもなく俺の知ってる人だ。
「………アスナ、さん?」