二人のビーストテイマー   作:ほにゃー

126 / 135
第2話 妖精の国へ

エギルさんの店は、台東区御徒町のごみごみとした裏通りにある。

 

煤けたような黒い木造で、小さなドアの上に金属製の看板があり、《DiceyCafe》と刻まれている。

 

扉を押し開けると、カランっとベルの音が響く。

 

カウンターでグラスを拭いていたエギルさんがこっちを見て、笑う。

 

「よう、来たか」

 

「どうも」

 

軽く挨拶をすると、エギルさんは、俺の前にカフェオレを出す。

 

淹れたばっかなのか、湯気が立っていて温かい。

 

お礼を言って、一口飲む。

 

身体の底から温まる。

 

「エギルさん、あの写真は」

 

「まぁ、待て。もうすぐキリトも来る。そしたら全て話す」

 

そう言われ、大人しくカフェオレを飲みながら待つ。

 

一杯目を飲み終わり、二杯目を淹れてもらうと、店の扉が開いた。

 

入って来たのはキリトさんだった。

 

「あ、レインも来てたのか」

 

「はい、エギルさんに呼ばれて」

 

キリトさんは、カウンターに座り、エギルさんに聞く。

 

「で、あの写真はどういうことだ?」

 

「少し長くなるんだが………これ、知ってるか?」

 

エギルさんはカウンター下から何かを取り出し、テーブルの上を滑らせて、俺達の前に出す。

 

「これ、ゲームですか?」

 

「《アミュスフィア》っていうナーヴギアの後継機対応のMMOだ」

 

「ってことは、これも、VRMMOか」

 

パッケージを見せて貰い、タイトルを読む。

 

「あるふ……へいむ……おんらいん?」

 

何とか英語のタイトルを読む。

 

どういう意味だ?

 

「アルヴヘイムって発音するらしい。意味は、妖精の国だそうだ」

 

「妖精?なんかほのぼのしてそうだな。まったり系か?」

 

「そうでもないぜ。どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」

 

「どスキル制?」

 

聞いたこと無い言葉なので聞き返す。

 

「いわゆる《レベル》が存在しないらしい。各種スキルが反復で上昇するだけで、HPもたいして上がらない。戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、ソードスキルなし、魔法ありのSAOってところだ」

 

「PK推奨ってのは?」

 

キリトさんが質問をする。

 

「プレイヤーはキャラメイクでいろんな種族を選ぶわけだ。違う種族ならPKできるんだとさ」

 

「確かにハードだ。だけど、そんなマニア向け仕様じゃ、人気で無いだろう」

 

「それがそうでもない。今、大人気だそうだ。理由は《飛べる》からだそうだ」

 

「「飛べる?」」

 

キリトさんとハモる。

 

「妖精だから、翅がある。フライト・エンジンとやらが搭載されていて、慣れると自由に飛びまわれる」

 

「凄いな、翅はどう制御するんだ?」

 

「さあな。だが、相当難しいらしい」

 

「そりゃそうさ。人間には無い翅を操るんだ。背中の筋肉を動かすのかな?」

 

キリトさんの目がゲーマーの目になってる。

 

「キリトさん」

 

「んん!」

 

エギルさんが咳払いし、俺は名前を呼ぶ。

 

キリトさんは我に返り、コーヒーを一口飲む。

 

「で、この大人気ゲームがアスナとどういう関係があるんだ?」

 

そうだ。

 

俺とキリトさんはあの写真の件で呼ばれたんだ。

 

エギルさんは今度は写真を取り出し、俺達の前に置く。

 

「どう思う?」

 

「……似ている」

 

「はい、確かに似ています」

 

「やっぱりそう思うか」

 

「早く教えてくれ、ここは何処なんだ!」

 

キリトさんが大声を上げてエギルさんに問い詰める。

 

「その中だよ。アヴルヘイム・オンラインの」

 

俺とキリトさんは驚く。

 

エギルさんは手元にあるパッケージを引っくり返し、後ろのイラストの真ん中にある樹を指差す。

 

「世界樹、と言うんだとさ。九つの種族に分かれたプレイヤーは世界樹の上にある城に、他の種族に先駆けて到着する事を競ってるんだ」

 

「なら、飛んで行けばいいんじゃ……」

 

「滞空時間があって、無限には飛べないらしい。でだ、体格順に五人のプレイヤーが肩車をして多段ロケット方式で樹の枝を目指した」

 

「ははは、なりるほど。馬鹿だけど頭いいな」

 

あれ?それって結局バカなの?頭良いの?

 

どうでもいい疑問が頭に浮かんだ。

 

「だが、ぎりぎりで到着できなかったそうだ。でも、到達高度の証拠に五人目が何枚か写真を撮った。その一枚に巨大な鳥籠が写ってた」

 

「鳥籠?」

 

「そいつをぎりぎりまで引き延ばしたのが、その写真だ」

 

「でも、どうして、アスナがゲームの中に?」

 

キリトさんがもう一度パッケージを見ると、いきなり険しい顔になった。

 

どうしたのかと思い、覗いてみると、そこには《レクト・プログレス》とあった。

 

そこで俺は気づいた。

 

《レクト》はアスナさんのお父さんがCEOを務める会社。

 

その会社のフルダイブ技術部門は、あの男、須郷が託されてる所だ。

 

自分の領域に入れておけば安全とでも思ったのか?

 

どちらにしろ、好都合だ。

 

ゲームの世界なら俺とキリトさんで行ける。

 

それにスキル制ならレベリングする必要もない。

 

「エギル、このソフト、貰って行ってもいいか?」

 

「構わんが、行く気なのか?」

 

「この目で確かめる」

 

ソフトを鞄に詰めるキリトさんを、エギルさんは心配そうに見る。

 

キリトさんも心では、何かまた嫌なことが起きるのではと思ってるはずだ。

 

でも、キリトさんはその恐怖を振り払うかのように笑う。

 

「死んでもいいゲームだなんてぬるすぎるぜ」

 

そう言うキリトさんにエギルさんは呆れたような顔をした。

 

「キリトさん、俺も行きます」

 

「……いいのか?」

 

「はい、戦力は多い方がいいです。それに、大切な人を助けたいってのはキリトさんだけじゃないんです」

 

「……分かった。なら行くぞ」

 

「はい!」

 

「………はぁ、こんなことだろうと思ったよ」

 

溜息を付き、同じソフトを取り出して渡してくる。

 

「エギルさん!」

 

「こんなこともあろうかと二つ買っといたんだよ。都合で俺は一緒には行けない。だから、お前たちで行くんだ」

 

「ありがとうございます!」

 

お礼を言って、コートのポッケにソフトをねじ込む。

 

「ハードを買わなきゃな」

 

「ナーヴギアで動くぜ。アミュスフィアはナーヴギアのセキュリティ強化版でしかないからな」

 

なら、よかった。

 

ナーヴギアならまだうちにある。

 

「そりゃ、ありがたい」

 

「助け出せよ。アスナを。でないと、俺たちの戦いは終わらない」

 

「ああ、いつかここでオフをやろう」

 

「必ず、連れ戻します」

 

そう言って、俺達は拳をぶつけた。

 

家に着くと、二階の自分の部屋に駆け上がり、コートを脱ぎ、ソフトを取り出す。

 

ナーヴギアの電源を入れ、ROMカードをスロットに挿入する。

 

そして、ベッドに横になりナーヴギアを被る。

 

「リンク・スタート!」

 

暗闇の世界に飛び、そして、虹色のリングを潜り抜けるとアカウント情報登録ステージについた。

 

『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。最初に、性別と名前を入力してください』

 

性別は男で、名前は二年間愛用した《Rain》と入力した。

 

『それでは、種族を決めましょう』

 

種族か…………どれにするか………

 

俺は両手剣や両手斧といった重量系の武器が初期装備なのはノームかサラマンダーだな。

 

この二つから選ぶか。

 

どれにするかを考えながら二つの種族を行ったり来たりする。

 

「よし、ノームにしよう」

 

そう思い、ボタンを弄るのを止め、ノームにする。

 

その時、操作をミスり、ノームではなく、敏捷性に長けたケットシーが目の前に来る。

 

「あ……」

 

おまけに、決定ボタンも押してしまった。

 

『それでは、ケットシー領のホームタウンへ転送します。幸運をお祈りします』

 

その言葉を最後に再び光の渦に巻き込まれ、次に感じたのは浮遊感だった。

 

「やっちまった」

 

目線を腰に移し、そこに装備されてる貧弱そうな短剣を見つめ、溜息を吐く

 

下に視線を移すと、海に浮かぶ孤島の真上にいた。

 

あれが、ケットシー領のホームタウン。

 

徐々に中央の城に近づいて行く。

 

すると、急に映像がフリーズした。

 

あちこちでポリゴンが欠け、ノイズが走る。

 

「な、なんだ!?」

 

喚く暇もなく、再び落下し、暗闇の中に落ちていく。

 

そして、森の中に落下した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。