翌日、珪子のお見舞いに行ったり、筋トレをするなどして時間を潰し、午後3時になると、ベッドに横になり、ALOにログインした。
すると、ちょうどキリトさんもログインしたところだった。
「よう、昨日ぶりだな」
「おはようございます」
そして、リーファさんも店に入って来た。
「お待たせ」
「いや、そんな待ってないよ」
「俺達も今来たところです」
「そっか、ちょっと買い物してたから、かなり遅れたかなって思っちゃった」
「買い物か……俺も色々準備しないとな。この剣じゃ頼りないし」
俺も色々買わないといけないな。
剣はこれでいいとして、防具とかポーションとか欲しい。
「じゃあ、武器屋行こっか。お金持ってる」
「えっと…………このユルドって単位か?」
「そうだよ。……ない?」
「いや、ある、かなり」
「なら行こ」
「ああ、ほら、ユイ起きろ。行くぞ」
キリトさんが声を掛けると、ユイちゃんがキリトさんの胸ポケットから顔を出し眠そうに欠伸をする。
武器屋に行き、防具は胸当てぐらいであとは防御属性強化された服と、ブーツに鉄板を取り付けるので済ませた。
キリトさんも防具は黒がメインの服にロングコートで済ませたが、武器選びに困っていた。
結局、キリトさんはアバターと同じぐらいの大きさの剣を選んでいた。
確かに重いだろうけど……………俺が呆れる中、リーファさんは笑っていた。
剣の先が地面に擦りそうになっていて、まるで剣士の真似事をしてる子供に見えた。
その後、世界樹に向け出発する際、シルフ領のシンボルの風の塔へと向かっていた。
「なぁ、どうして塔に行くんだ?」
「長距離を飛ぶときは塔のてっぺんから飛ぶのよ。高度が稼げるから」
「なるほどね」
「さ、行こ。夜までには森を抜けておきたいからね」
リーファさんはキリトさんの背中を押し、塔の中へ入っていく。
その後を俺は少し足早に追いかける。
塔の中はたくさんのシルフ族でにぎわっていた。
「リーファ!」
「あ、こんにちは、シグルド」
魔力で動いているエレベーターに向かっていると、声を掛けられた。
リーファさんに声を掛けてきた男性プレイヤーはリーファさんの知り合いらしく、リーファさんは挨拶する。
「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」
「うん、まあね」
「残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか?」
「パーティーに参加するのは都合の付くときだけで、抜けたくなったらいつでも抜けていい約束だったでしょ」
「だが、お前は俺のパーティーの一員として既に名が通ってる。そのお前が理由もなく抜けたら、こちらの顔に泥を塗られることになる」
自分勝手にも程がある。
約束しておきながら自分の都合が悪くなると、理屈を付けて誤魔化そうとする。
SAOでもこういう大人はいた。
まぁ、全員デュエルで黙らせたけど。
子供と思って舐めやがって…………
「仲間はアイテムじゃないぜ」
「なんだと?」
キリトさんが前に出て、シグルドさんの前に立つ。
「他のプレイヤーをあんたの大事な剣や鎧みたいに装備欄にロックしとくことはできないって言ったのさ」
「き、貴様!」
キリトさんの言葉に、シグルドは腰の剣の柄に手をかける。
「屑漁りのスプリガン風情がつけあがるな!どうせ領地を追い出された《レネゲイド》だろうが!」
「失礼なこと言わないで!彼はあたしの新しいパートナーよ!」
シグルドの言葉にリーファさんは叫び替えしていた。
「なん……だと……リーファ、領地を捨てる気なのか……」
「……ええ、そうよ。あたし、ここをでるわ」
「……子虫が這いまわる程度なら捨て置こうと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗り過ぎたな。のこのこと他種族の領地に入ってくるからには斬られても文句は言わんだろうな」
キリトさんに剣を向け、芝居がかったセリフにキリトさんは肩をすくめる。
そんなキリトさんの態度にシグルドは今にも斬り掛かりそうだった。
そこで、俺はキリトさんの前に出た。
「キリトさんを斬るなら、最初に俺を斬ってからにしてください」
「何?」
「どうしました?それとも、まさか斬ることに今更怖気づいたわけじゃないですよね?」
「なっ!?………ケットシーの分際で生意気な!」
キリトさんから標的を俺に変え、剣を向けてくる。
「まずいっすよ、シグさん。こんな所で無抵抗の相手を、それもケットシーをキルしたら」
後ろに居たプレイヤーの言葉にシグルドははっとする。
ここには、俺たち以外にも他のシルフのプレイヤーがいる。
シルフ領では、俺たちはシルフに攻撃ができない。
でも、向うは違う。
俺たちを斬ろうと思えば簡単に切れる。
だが、デュエルでも、スパイ行為をしたわけでもないのに、相手を斬れば見栄えがいいとは思えない。
そして、俺はケットシー。
ケットシーはシルフと古くからの親交があるらしいから、シルフ領で俺が斬られれば、ケットシーとシルフの関係は悪くなる。
それに、この人はシルフ族でもかなり有名な人らしい。
回りの反応を見れば分かる。
それに、こういう人は自分のメンツを気にする人だ。
これで、大人しく下がるはず………
「せいぜい外では逃げ隠れることだな。……リーファ、……今俺を裏切れば、近いうちに必ず後悔することになるぞ」
「留まって後悔するよりはずっとマシだわ」
「戻りたくなったときのために、泣いて土下座する練習をしておくんだな」
それだけ言うとシグルドとその仲間たちは去って行った。
「ごめん、変なことに巻き込んじゃって」
「いや………でも、いいのか?領地を捨てるなんて?」
キリトさんお言葉にリーファさんは無言になり、そのままキリトさんの背中を押してエレベーターに向かう。
その様子を見て、俺もも慌てて乗る。
塔の最上階に着くと、そこには、海原、草原、森、山脈が広がっていた。
「おお、すごい」
「空が近くに感じる………」
キリトさん、俺の順番で感想を言う。
「でしょ。この空を見てるといろんあことがちっちゃく思えてくるよね。……いいきっかけだったよ。いつかはここを出ていくつもりだったし」
「そうか……でも、喧嘩別れのような形にさせちゃって……」
「どの道、穏便にはいかなかったよ。………なんで、ああやって縛ったり、縛られたりするのかな……せっかく翅があるのに………」
「フクザツですね、人間は」
リーファさんの質問に答えたのは、俺でも、キリトさんでもなく、ユイちゃんだった。
「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません」
「求める……?」
「わたしなら……」
そう言うと、ユイちゃんはキリトさんの頬にキスをした。
「こうします。とてもシンプルで明確です」
リーファさんは、呆然とし、キリトさんは苦笑いをする。
「す、すごいAIね。プレイべートピクシーってみんなそうなの?」
「こいつは特に変なんだよ」
そう言ってキリトさんはユイちゃんを摘み上げ、胸ポケットに押し込む。
「リーファちゃん!」
その時、誰かがリーファさんに声を掛けた。
「あ……レコン」
「ひ、ひどいよ、一言声かけてから出発してもいいじゃない」
「ごめーん、忘れてた」
レコンさんは肩を落とすが、すぐに持ち直し真剣な顔で言った。
「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」
「その場の勢い半分だけどね。あんたはどうするの?」
「決まってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから……」
「えー、別にいらない」
リーファさんの言葉によろけるが、レコンさんはそんなことじゃメゲなかった。
「ま、まあそういうわけだから当然僕もついてくよ……と言いたいとこだけど、ちょっと気になることがあるんだよね……」
「……なに?」
「まだ確証はないんだけど……少し調べたいから、僕はもうしばらくシグルドのパーティーに残るよ。……キリトさん、レインくん、彼女、トラブルに飛び込んでくくせがあるんで、気をつけてくださいね」
「あ、ああ。わかった」
「はい、気を付けます」
「それから、言っときますけど、彼女は僕の」
その瞬間、リーファさんがレコンさんの足を踏みつけた。
「イッツ!」
「しばらくは中立区域に居るから、何かあったらメールでね!」
それだけ言うと、リーファさんは翅を広げ飛んだ。
俺たちも翅を広げリーファさんの後に続く。
リーファさんに追いつくとリーファさんは俺たちの方を振り向く。
「さ、急ごう!一回の飛行であの湖まで行くよ!」
笑顔でそう言った。
パキンッ!
「あっ」
口で咥え、鎖を切りつけていたナイフが折れ、ポリゴンの破片になって消える。
手枷の方は長い間、斬り続けられ耐久値は結構削られたはずだ。
今度は手枷に歯で噛みつく。
何度も歯で噛みつく。
現実でやったら間違いなく歯が悪くなる。
「やれやれ、無駄な抵抗を」
「!?」
手枷を破壊することに夢中で、スバルが入ってきたことに気がづかなかった。
「どうせ、ここから逃げ出したところでこの世界に君の場所なんてありゃしないんだよ」
相変わらずムカつく笑みと声だ。
耳を塞ぎたいけど、塞ぐこともできない。
「てかさ、そこまでしてここから逃げ出す必要なんてあるの?このままずっと寝ていれば、嫌なことから逃げられるんだぜ。そして、俺に従えばここからも出してやるし、自由も与えてやる。最もこの世界だけでだが」
「…………くだらない」
「あ゛?」
あたしの言葉にスバルは眉を寄せて顔を顰める。
「そんな言葉現実から逃げだがってる奴の台詞でしかない。あたしは、そんな言葉に乗らない。そして、諦めない。絶対に、ここから逃げ出して、現実に、レインの元に帰るんだ!」
あたしは腕に力を込め左右に引っ張る。
「な、何を!?」
スバルが驚きに声を上げるが、すぐにいつもの気味の悪い笑顔を浮かべる。
「む、無駄さ!その手枷は破壊不能オブジェクト一歩手前の耐久値を誇る!俺が何でその手枷を破壊不能オブジェクトにしなかったか分かるか?それは、破壊できるのに、破壊までたどり着けないって絶望を与える為さ!だから、そいつはそう簡単に壊れたりはしないんだよ!」
例えそうだとしても、あたしは…………あたしは!
「諦めて…………たまるかッ!」
その言葉と同時に、手枷が甲高い金属音を響かせ壊れる音と、ポリゴンが砕け散る音が響いた。
「なっ!?」
床に降りると同時に、そのまま跳躍し、スバルの顔を目掛け拳を叩き込む。
「ぶべらっ!?」
殴られそのまま吹き飛んだスバルは壁に頭を強打する。
動き出す前に、落ちている鎖を手に、一気に縛り上げる。
「な、何を!?」
「腕を縛り上げれば、ログアウトもできないでしょ!」
ついでに猿轡も施し、その場に転がす。
「ん―――!ん―――!?」
「ごめんね、何言ってるかちっとも分からないし、分かりたくもない」
舌を出して挑発し、部屋の扉を閉める。
「よし、なんとか脱出方法を探し出さないと」
そしてあたしは、石造りの通路を素足で走り出し、その場を去った。
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