「ここか。」
「そうみたいだね。」
今、俺とシリカはあるクエストを受けるために少し下の層に降りてきている。
そのクエストはあるNPCの鍛冶屋で請けることができるらしく
クエストの報酬が研磨の無料パスと簡易砥石50個らしい。
簡易砥石はNPCショップで1個10コルで安く手に入るからそこまで魅力は無いが
研磨の無料パスはかなり欲しい。
研磨は1回500コルぐらいが相場でぼったくりなプレイヤー鍛冶屋では1000コルということもある。
もっともパスはここの鍛冶屋でしか使えないか無料は非常に魅力的だ。
店に入るとNPCの女主人がいる。
場所が町の中心から大きく外れているためか人がいない。
女主人に近づくと頭上に「!」がでた。
「どうしたんですか?」
シリカが女主人に話しかけると女主人はこちらに振り向き溜息混じりに話してくる。
「ああ、旅の御二方、どうか私の悲願の手伝いをしてもらえませんか?」
シリカが言うにはこのクエストは男女のペアでしか受けることができないクエストで
尚且つ、1回しか起こらないクエストらしい。
アインクラッドでは女性プレイヤーは少なく、ここは最前線からも近いため
モンスターもそれなりに強い。
攻略組の女性プレイヤーの数は知らないが、俺が知る限りでは、
血盟騎士団副団長のアスナさんと
最近攻略組に入ってきたギルド《月夜の黒猫団》所属のサチさんぐらいだ。
そのため、このクエストはまだ残っていたらしい。
そういえば、《月夜の黒猫団》の人たちとキリトさんは親しいみたいだ。
ソロプレイヤーのキリトさんにしては珍しい。
「いいですよ。なんですか?」
シリカがクエストを受託し、クエストが開始になった。
クエスト 女主人の悲願
依頼人 女主人
内容
10層で手に入る素材を持ってきてください。
その後、その素材で作った装備を着てあるお願いを聞いてください。
それで私の悲願は叶います。
よろしくお願いします。
必要素材:ピュアスパイダーの糸×50
純白の布×20
純白の衣×20
薄手の白布×5
エラメント鉱石×2
クエストクリア条件
全ての素材を集めて女主人に渡す
※このクエストは途中放棄できません。
どれもレア度は大したことはないが
ドロップ率が低い素材ばかりだ。
共通アイテムウインドウには
ピュアスパイダーの糸×38
純白の布×12
純白の衣×29
薄手の白布×2
エラメント鉱石×3
糸と布、白布が足りない。
「シリカ。サッサと取りに行くか。」
「うん。」
店を出て、転移門に向かい10層まで下りた。
「シリカ。どうだった?」
「糸が4つと布が2つ出た。そっちは?」
「糸が5つと布3つ、白布が3つ。」
「じゃあ、白布は終わりだね。」
後、糸が3つに布3つか。
ここまでで、2時間近く経つな。
正直疲れた。
フィーもピナもなんかぐったりしてる気がするな。
「シリカ、少し休憩しよう。」
「うん。わかった。」
手近な木の木陰に座り、シリカがアイテム欄から箱を取り出した。
箱の中身はシリカが作ったサンドイッチだ。
「相変わらずうまそうだな。」
「うまそうじゃなくてうまいの。」
少し拗ねたように言うシリカ。
シリカは料理スキルを取得していた今は熟練度638らしい。
そのため、攻略に行くときや、出かけるときはいつも弁当を作る。
これが、結構うまい。
「ピナとフィーはこっちね。」
ピナにはナッツに砂糖をまぶしたものを
フィーには下味を付けた生肉を上げる。
「きゅる♪」
「ふぃー♪」
嬉しそうに食べ始める2匹を眺め俺達も食事を始める。
「そういえば、シリカ。」
「ん?」
2人でサンドイッチをもふもふ食べてると不意にあることを思った。
「シリカってリアルで料理できるの?」
「・・・・・・え?」
俺の質問に固まるシリカ。
もしかして
「・・・でき「できるよ!できますとも!うん、できる!」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
その発言ができないことを証明してることだってことに気づいてないのか。
「う~~~~~~~~~。」
俺を親の仇を見る目で睨んでくる。
あんまり怖くない。
むしろ、可愛い。
・・・・・はっ!
俺は今何を考えていた?
最近、どうもシリカのことになると調子が狂う気がする。
「本当にできるもん。」
「・・・あ~、うん、そうか。」
「本当だよ!」
「あ~、分かった。分かったから。」
「信じてないでしょ!!」
そ、そこまで怒らなくても。
「なら、現実に帰ったらソレを証明してあげるから!」
え?まじで?
「絶対に分からせてやるんだから。」
そう言ってサンドイッチをまた頬張る。
・・・・何て言うか、絶対に生き残らないといけない理由がもう1つできた。
1時間が経過し、全ての素材が集まった。
集まった素材を持ち、鍛冶屋まで持っていき、女主人に渡すと
「ありがとう。それじゃ、明日、また来てください。
その時に次のことをお願いします。」
と言われたので宿に引き上げた。
翌日、言われた通りに店に行くと女店主がにこやかに迎えてくれた。
「おはよう。それじゃあ、これをどうぞ。」
そして、俺とシリカの前に出されたのは、
純白のタキシードとウエディングドレスだった。
「「・・・・・・・はっ?」」
「これを着て、50層にある教会で写真を撮って来て。
これは記録結晶。」
なんだって!?
これを着て写真!?
そんな・・・・・・恥ずかしい真似ができるか!!
隣を見るとシリカが顔を真っ赤にして固まってる。
こういうクエストってこと知らなかったのかよ。
気が付くと50層にある教会の前にいた。
アイテムウインドウを開くとそこには『純白のタキシード』と書かれた装備品があった。
更に言えば、エラメント鉱石で作られた指輪まである。
ちなみに名前は『誓いの指輪』だ。
・・・・ナニソレ?ハズイ。
「・・・・・・・・・・・」
なんかシリカは悟りを開いたのかさっきからずっと無言で虚空を見つめてるし、
どうしたらいいんだろう。
「あ~、やめとくか?」
「!?」
「いや、ほら、別にやらないといけないクエストでもないしさ、
まぁ、途中放棄できないから、クエスト受注蘭には残ったままになるけど。」
「・・・・それ、なんか気持ち悪い。」
だよね。
俺もいやだ。
「もしかして、レインは私とその、あの、そういう写真を撮るのは嫌なの?」
涙目プラス上目使い。
勝てません。
「え?い、いや、別に嫌じゃない。・・・シリカはいいのか?」
「・・・・・べ、別に嫌じゃない//」
顔を赤くしながらシリカが言う。
その時の顔が可愛く不覚にもドキッとした。
「あ~、なら、着替えるか。」
着替えるといってもアイテム欄から装備を選択するだけなのだが。
『純白のタキシード』を装備すると全ステータスが30%アップした。
恐ろしい装備アイテムだ。
ボス戦とかで使えそうだが、タキシードを着た男が両手剣を振り回してる姿って
軽くホラーだな。
「お、お待たせ。」
シリカの声に振り向くとそこにはウエディングドレスを着たシリカがいた。
ご丁寧にベールなんかも付いている。
「ど、どうかな?」
「あ、ああ、よく・・・似合ってる。」
「そ、そっか、レインも似合ってるよ。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
会話が続かない。
「取り敢えず、写真撮るか。」
「そうだね。」
記録結晶を取り出し写真を撮ろうとするとあることに気が付いた。
「・・・どうやって撮ろう?」
「あっ。」
クエスト内容では写真の構図が決まっている。
1つ目はツーショット
2つ目は腕組
3つ目がお姫様だっこ
以上の3つになる。
どれも2人で写らないといけないため誰か取る人がいないといけない。
・・・・・・最悪だ。
「お前ら、13歳の分際で結婚とか早いだろ?」
「「違います!!」」
結局、俺達はアヤメさんを呼び写真を撮ってもらうことにした。
まぁ、予想通り軽く弄られたが。
「取り敢えず、これでお前らを撮ればいいんだな。」
「はい。」
「よし、分かった。俺がお前たちの一生の思い出を写真にして残してやろう。」
1発殴ろうか。
「はい、いくぞ~、チーズ。」
最初はツーショットを撮る。
これは恥ずかしくはない。
次は腕組。
これは少し恥ずかしい。
シリカがおずおずと手を伸ばし、俺の腕に絡めて腕を組んで来る。
ここだけの話、シリカは同年代の女子と比べて・・・・その・・・・
あまり胸の発育が良くないがかろうじてある。
故にそのわずかな膨らみが腕にあたり、少し恥ずかしい。
最後は、お姫様だっこか。
「い、いくぞ。シリカ。」
「う、うん。」
腰を落としシリカの膝の裏と首に手を回し持ち上げる。
両手剣を使うから筋力値上げといてよかった。
「辛くない?」
「う~ん、少し・・・」
「・・・・な、なら・・・」
そう言うとシリカは腕を首に回した。
「うお!?」
「こ、こうすれば、少し楽でしょ。」
シリカの顔が近い。
あ~~~~、緊張する!!
シリカのファンだったら卒倒するだろう。
「いやいや、見せつけてくれるね~。」
アヤメさんはニヤニヤしながら言ってくる。
「いくぞ。ハイ、チーズ。」
「ありがとうございます。こちらが、お礼の品です。」
女主人が嬉しそうに簡易砥石と研磨無料パスを渡してくる。
2つのアイテムを仕舞い、一息つく。
「お渡しした、タキシードとドレス、指輪は普通の装備として使えますから
どうぞ使ってください。」
タキシードはもう着ないだろうが、指輪は使える。
『誓いの指輪』は装備者が受けたダメージを半減してくれるアイテムだ。
ただし、使用するにはパーティーを組んでいるメンバーが
同じ指輪をつけてないといけない。
ダメージの半減というよりどちらかと言えば
ダメージを2人で折半する感じだ。
まぁ、それでもようは使いようだな。
「後、今日撮った写真は当店で記念として飾りますので。」
え?・・・・・それは聞いてない。
シリカも驚いている。
店を出てからシリカはずっと無言だった。
黙っていられるとこちらとしては気まずくてしょうがない。
「その、なんだ、結構おもしろクエストだったな。」
「・・・うん、そうだね。」
「「・・・・・・・・・・・・」」
会話終わった!!
本当にどうしよう。
こういう時どうすればいいのか思いつかない。
どうしよう。
「レインはさ、」
「え?」
「良かったの?あたしとあんな写真、撮って。」
思いつめたような顔をして聞いて来る。
・・・・なんで、そんな顔するかな。
「いいんだよ。別に、そんなこと気にするなよ。
たかが、クエストだろ。」
「・・・そうだよね。たかが、クエストだよね・・・・・」
「「・・・・・・・・・・」」
また、寂しそうな顔しやがって
「でも、シリカと一緒にやれて良かったとは思う。」
たかがクエストだっていう気持ちは本物だ。
それと同時に、シリカと一緒にやれて良かったと思う気持ちも本物だ。
「・・・・そっか。」
その言葉で元気がでたのか笑顔になる。
やっぱり、シリカには笑顔が似合うな。
「早く、宿屋に戻ろ。」
「おう。」
シリカSIDE
実を言うと、このクエストがこういうものだってのは最初から知っていた。
アルゴさんから聞いていたから。
このクエストをレインとやりたかったのは
少なからずあたしにはそういう願望があるから。
・・・・あたしはレインが好き。
パートナーとしても、友達としても、異性としても。
でも、レインがあたしをどう思っているのか私は知らない。
もしかしたら、パートナーとしか思ってないかもしれない。
・・・・・いや、多分そう思っているだろう。
はぁ~、あたしはとんでもないのを好きになったな。
私のこの恋は叶わないかもしれない。
だって初恋だから。
初恋は叶わない。
よくそう言われる。
もしかしたら、本当なのかもしれない。
だから、せめてもの思い出としてこのクエストに誘った。
お姫様だっこしてる写真を1枚余分にアヤメさんに撮ってもらった。
レインは気づいてないだろうけど、実は
この写真のあたしは笑っている。
好きな人にお姫様だっこをされたら誰だって嬉しい。
この写真はあたしの宝だ。
それと、レインと話し合い、指輪をお互い付けることにした。
場所は右手の人差指だが、お揃いだ。
それが、嬉しい。
でも、本当は小指か左手の薬指にはめたかった。
まぁ、取りあえずはお揃いの指輪と写真で満足しておこう。
今だけは。
どうでしょうか?
楽しんでくれたら幸いです。