「サーシャさん、ユウナを頼みます」
「はい、ユウナちゃんは任せて」
俺とシリカは翌日ユウナを連れて《はじまりの町》のサーシャさんの所を訪れた。
ユウナを預けるために。
最初はユウナ自身もついて来ると言ってたのだが今回はあまりにも危険すぎるために
無理矢理に納得させた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・」
心配そうに俺とシリカを見つめてくる。
膝を折り、ユウナの目を見ながら頭を撫でる。
「必ず迎えに来るから大人しく待っててな」
「いい子にしててね」
その言葉を最後にユウナに背を向けて転移門まで歩く。
「・・・必ず迎えに来よう」
「うん」
第55層 グランザム 《血盟騎士団》本部
「結構な人数いるな」
《血盟騎士団》の本部に来ると攻略組で顔の知ってるプレイヤーが沢山いた。
クラインさんのギルド《風林火山》、《聖龍連合》、その他の攻略組ギルド。
「お前たちも来たのか」
前からキリトさんが歩いて来て声を掛けてきた。
「はい、どうしても倒さないといけない奴がいるんです」
俺の脳裏に白いフード付きのポンチョを纏い白い刀を持った奴がよぎる。
「そうか・・・でも、殺しだけは考えるなよ」
「・・・分かってます」
会話が終わると《血盟騎士団》の団員が現れて会議が始まった。
「これより《ラフィン・コフィン討伐作戦》会議を始めます。まず、今回の討伐作戦の
指揮官を紹介します」
「今回、討伐作戦指揮官を務める《聖龍連合》幹部のコーネリアだ。言うことは一つ。
命が惜しい奴はここを去っても咎めない。だが、自分たちが今やらなければならないことを
よく考えたうえで決めてくれ」
コーネリアさんの言葉に誰一人としてここを去ろうとした人はいなかった。
「ふっ、聞くだけ無駄だったか」
それだけ言うとコーネリアさんは背を向け椅子に座った。
「では会議に移ります。まず、《ラフィン・コフィン》の主要メンバーについて説明します」
ボードを出し、そこに4枚の写真が貼られる。
「まず、《ラフィン・コフィン》のリーダーのPoH。武器はモンスタードロップの
《友切包丁(メイド・チョッパー)》を使います。本人のステータス、武器の性能も相当なものですが、彼自身の戦闘技術も高いので気を付けるように」
長躯を膝上までのポンチョで身を包み、フードを目深にかぶっている男が説明される。
三カ国語を話せるらしく日本語に英語やスペイン語のスラングの混じる喋り方をするらしい。
また、カリスマ性もあり、《血盟騎士団》団長のヒースクリフさんと対局な魅力を秘めてる。
「次はザザです。またの名を《赤目のザザ》エストック使いです」
ザザは赤をイメージカラーにしており、特に髪と眼の色を赤にカスタマイズしている。
言葉を短く切りながら話す癖があり、多くのエストック使いを殺し、殺したプレイヤーの
エストックを奪ってコレクションしてるらしい。
「次はジョニー・ブラック。彼はザザの相棒で毒ナイフを使います。基本的に黒を基調とした装備をしています」
その時、クラインさんがキリトさんに何か耳打ちをしていたが気にしないことにした。
確か、ジョニー・ブラックは子供っぽい態度と外見でザザと組み10人以上のプレイヤーを
殺してきた。PoHを「ヘッド」と呼びPoHのことを信仰しているような奴だ。
「そして、最後に《白き殺戮者》アルブス。全身を白の装備でコーディネートし、目立つ外見で、彼自身の強さは恐らく《ラフィン・コフィン》では、PoHを抜く強さだと思います。」
アルブスは《ラフィン・コフィン》の中で異質の存在でPoHに惹かれて《ラフィン・コフィン》に入ったのではなく自らの意思と信念をもって入りPoHの命令には従わない奴だ。
だが、アルブスにPoHは絶対的な信頼を置き、ザザやジョニー・ブラックも彼に一目を置いてる。
むしろ、PoHよりもアルブスが危険だ。
「そして、これはまだ確定ではありませんが・・・アルブスは元攻略組との情報があります」
その情報に周りは騒めきだす。
俺も冷静を装っているが内心は驚いていた。
アイツが元攻略組・・・・
その瞬間頭に何かがよぎった。
しかし、それが何なのか分からなかった。
「次は作戦について説明します。《ラフィン・コフィン》は下層にある洞窟ダンジョンの
安全地帯を根城にしてます。そこは包囲し無血投降をさせます。それに応じない場合は戦闘です。HPをレッドに落とし再度投降を促します。《ラフィン・コフィン》も人間なので
そうなれば大人しく投降するはずです。」
「それはあくまで予想だ。もし、奴らがそれでも投降に応じなかったらどうする?」
声を上げたのはアヤメさんだった。
「その時は・・・・・」
プレイヤーは目を伏せそれ以上何も言わなかった。
「分かってるんだろ。奴らは思い通りに行く相手じゃねぇ。場合によては俺達の手で殺さざるを得ないんだ」
アヤメさんは真剣な目でここにいるメンバーに訴えた。
全員が言葉を失う。
「そいつの言う通りだ」
コーネリアさんが立ち上がりメンバーを見る。
「いいか?向うが自分、仲間を殺しそうになったら全力で自分も殺しにいけ。
でないと、死ぬのは自分か仲間だ」
そして、まだコーネリアさんは黙る。
「それでは。討伐作戦は明朝午前3時に行います。それまでは休息にします。これにて
会議を終了します」
第55層 グランザム 宿屋《ルーティン》 PM 9:00
あれからずっと頭からアルブスのことが離れない。
元攻略組・・・・
不確かな情報のはずなのにそれが引っ掛かり気になる。
俺は・・・アルブスを知ってるのか?
いや、アイツとはあの時、迷宮区であったのが初めてだ。
なのに、それが引っかかる。
「くそっ!」
苛立ち、壁を殴る。
殴るとそこに紫色のシステムタグが現れて《Immortal object》の表示がでる。
ソレを眺めていると数秒後には消えた。
「・・・・はぁ」
思わずため息が漏れる。
そして、今度は不安が押し寄せてきた。
もし、この作戦で命を落としたら・・・・いや、それより、もしシリカが死んだら
俺はどうなるんだ?
その瞬間俺は部屋を飛び出し、シリカの隣の部屋の戸を強く叩いた。
「シリカ!開けてくれ!」
何度も何度も扉を叩くと扉が開いた。
「レイン?急にどうしたの?」
慌てた様子でシリカが寝間着の状態で現れる。
しまった。
勢いで来たがその後のことを考えてなかった。
流石に不安になったなんて恥ずかしくて言えない。
何か別の理由を・・・・
「い、一緒に寝ないか?」
「へ!?」
し、しまった!!
おもわず口に出た言葉がこれかよ!?
咄嗟にでたとはいえなんだよそれ!?
ただの変態じゃないか!
「わ、悪い!今のは忘れてくれ!」
踵を返し、部屋に戻ろうとするとシリカに腕を掴まれた。
「待って!その・・・わ、私の部屋でいい?」
顔を真っ赤にしながらシリカはそう言ってくる。
「あ、ああ、構わない」
シリカに引きずられる形で部屋に入る。
扉が閉まりシリカと二人っきりになる。
ピナとフィーがいるから2人だけじゃないが2匹はもう寝てる。
「あ~、その、寝るか?」
「そ、そうだね」
部屋の電気を消し、ベットに潜り込む。
ベットが意外と狭く密着しないと入り切らなかった。
そのため、シリカと背中合わせで寝ることになった。
何も喋らずにただただ時間が過ぎる。
「ねぇ、起きてる?」
最初に沈黙を破ったのはシリカだった。
「起きてる」
「来てくれてありがと」
「え?」
いきなりお礼を言ってくるので驚いた。
「もし、レインが来なかったら私の方からレインの部屋に行ってたよ」
「・・・怖いのか?」
「うん。・・・でも、死ぬことでも人を殺すことがじゃない
・・・・レインを失うのが怖いの」
体を捻りシリカの方に向けるとシリカもこちらを向いていた。
「もしレインが死んだりしたらって考えると・・・私・・・」
目に涙を溜めてシリカが言ってくる。
「最近、夢を見るの。レインが死んで私の前からいなくなる夢を。
目が覚めてレインがいるのが実感できて安心できるの。
もし、これが現実になったら・・・私」
俺は何も言わずにシリカを抱きしめた。
最近、この手のやり取りが多い気がするな。
「大丈夫だ。約束したろ?お前の前から居なくならない。絶対に守ってやるから
心配するな。俺はここにいる」
「・・・うん」
抱きしめながらシリカの頭を撫でてやるとシリカは安心したのか笑顔になった。
「ねぇ、このままで寝てもいい?」
「あぁ、ゆっくり休め」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
生き残ってやる。
何が何でも生き残ってやる。
シリカの為にも・・・