「………ここか」
俺は今48層に来ている。
目的は武器の調達だ。
今俺が使っているのは《無双景光》っと言ってそれなりの名刀だが、《白龍刀》と比べるとその差は歴然だ。
その為、最近フレンド登録したレインから腕のいい鍛冶屋を紹介してもらった。
レインもあの《血盟騎士団》副団長の《閃光のアスナ》から紹介してもらったとのことだ。
扉を開け中に入ると一人の女が居た。
あれは……NPCか………。
「いらっしゃいませ」
「オーダーメイドを頼みたい。店主を呼んでくれないか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
NPCは奥に入って行った。
暫く待つと、また女が現れた。
「お待たせしました!《リズベット武具店》へ、ようこ…………そ」
現れた女を見て俺は驚いた。
「あ、あんた!桐永!?」
「篠崎!お前その髪なんだ!?」
「って、驚くのそこ!?」
篠崎里香、俺のクラスメイトだ。
「それにしても驚いた。篠崎がまさか髪をピンクに染めてるなんて………」
「だ・か・ら!これは私の友人が勝手にやっただけ!」
かれこれ三十分同じような会話をしている。
「それより、アンタがゲームをやるなんてね」
「そんなに変か?」
「だって、アンタの両親って医者と弁護士でしょ。それに、いかにも学歴重視って感じじゃない。だから、ゲームなんて無縁だと思ってた」
まぁ、確かに否定はできん。
実際、俺が本格的に始めたゲームはこのSAOが初めてだ。
それ以外でやったことあるゲームなんてドラゴンでクエストなゲームぐらいだ。
「俺だって、篠崎がこのゲームをやってることに驚いた。お前いっつも本読んでただろ」
「本読んでるからってゲームに興味が無いわけじゃないわよ」
そりゃそうだ。
「で、何の用なのよ?」
「そうだ。剣を作ってほしいんだよ。刀でスピード重視の」
「オーダーメイド?別にいいけど、結構値が張るわよ?」
「それは構わん。いいから作ってくれ」
そう言うと篠崎は少し渋い顔をした。
「悪いけど、今いろんなところから仕事の注文があるからあんたに回す分の素材は無いわ」
「………そうか」
残念だが、篠崎にも都合があるしな、出直すか。
「邪魔したな。次は忙しくない時に来る」
「待ちなさい!」
店を出ようとしたら急に篠崎が声を上げる。
「条件付きでいいならアンタの刀作ってもいいわよ」
「本当か?」
「ええ。実は欲しいインゴットがあるんだけどそれが手に入る60層のダンジョンの奥に居るMobが強いのよ。だから、それを一緒に狩りに行ってくれたらそのインゴットで作ってあげるわ」
一緒に?
「お前もついて来るのか?」
「そうだけど?」
「逆に足手まといにありそうなんだが………」
「あ、あ、あ、足手まといですって!?」
おう!?なんか逆鱗に触れたみたいだ!
「言っとくけど!これでもマスターメイサーだからね!足手まといになるわけないでしょ!」
「分かった、分かったから!お前と一緒に60層のフィールドに狩りに行く。OK?」
「OK!」
こうして篠崎もといリズベットとい一緒にインゴットを採りに行くことになった。
60層 洞窟フィールド
「暗いな」
「暗いわね」
俺を先頭に俺とリズは洞窟を突き進んでいる。
「なぁ、そのMobってどういう奴なんだ?」
「確か、全身ゴツゴツした岩のMobって話よ」
ロックゴーレム的な感じか………
リズの武器はメイス。
俺は刀。
正直相性的にリズを連れて来て正解かもしれないな。
暫く進むと広々とした空間に着いた。
そしてその中央にお目当てのモンスターがいた。
その姿に俺は驚愕した。
「おい、リズさんよ」
「な、なんでしょう?」
「お前、全身ゴツゴツした岩のMobって言ったよな?」
「…………言いました」
「あれのどこが岩だ!」
キラキラと光る体。
誰もが美しいと思うその姿。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
《ダイヤモンドゴーレム》
全身ゴツゴツしたダイヤモンドで覆われたMobだ。
「俺が抑えるからリズは横から殴りかかれ!」
「分かった!」
振り下ろされた腕を刀で受け止める。
予想より力が強く体が悲鳴を上げる。
俺は筋力値より敏捷値にステータスを振ってるからあまり肉弾戦は得意じゃない。
横目で見るとリズはソードスキルを発動し《ダイヤモンドゴーレム》の脇腹を殴っていた。
HPが1割程減った。
リズのレベルは65。
レベルから考えたらそれなりのダメージだな。
俺の獲物じゃ、大したダメージも与えられないだろう。
「リズ、俺がアイツの攻撃を受け止める。お前は攻撃に専念しろ!」
「わ、わかった!」
《無双景光》でゴーレムの拳を受け止め弾き、その隙にリズがメイスで殴りつける。
ソレを何十回と繰り返す。
HPをレッドに落としても攻撃パターンに変化はなくなんなくと倒せた。
「ふぅ~、倒せたか」
「お疲れ」
リズは意気揚々と駆け寄ってくる。
「おお、どうだ。インゴットは手に入ったか?」
「もちろん!」
そう言ってメニューウィンドウから一つのインゴットを取りだした。
《ダイヤモンドクリスタル・インゴット》
ゴツゴツとした重量感のあるダイヤモンドのインゴットだ。
「それなりの数が手に入ったし、これでアンタの分の刀も作れるわよ!」
リズは嬉しそうに肩を叩いて来る。
「あんまり叩くな。HPが減る」
メニューウィンドウから取り出したポーションを飲み干し、洞窟を後にする。
暫く進むと、俺は足を止めた。
「どうしたの?」
リズが声を掛けてくるが無視をする。
索敵スキルに反応がある。
プレイヤーで数は一。
それも俺達の背後から。
俺はとっさにリズを後ろに隠し、刀を構える。
そして、暗闇からそのプレイヤーの姿が現れた。
「よぉ、アルブス!久しぶりじゃ~ん!」
頭陀袋のような黒いマスクをで顔を覆った男だった。
こいつは!
「ジョニーか!」
「だ~いせいか~い!」
右手に毒ナイフを持ちいつも通りのムカつく喋り方をしてくる。
「ちょ、ちょっとアイツ、《ラフィン・コフィン》のジョニー・ブラックよね!?なんでここに居るのよ!?」
まずい…………リズが居るこの状況でコイツと戦うことは出来ない。
「何しに来たんだ?」
「な~に。取って食おうだなって考えてね~よ。簡単なお誘いだ」
右手で器用に毒ナイフを回転させながらジョニーは話す。
「ヘッドが再び《ラフィン・コフィン》を再建する。そのためにお前の力が必要だ。だから、来い」
やっぱり再建を企んでたか………
「ちょっと待って。何よ、一体何の話よ?」
リズは困惑していた。
「あ、なんだ?その女?お前のこれか?」
小指を立ててジョニーが茶化してくる。
「黙れ。それ以上喋るとその口縫い合わすぞ」
「おお~、怖い怖い」
肩をすくめて飄々と言う。
「おい、女。いいこと教えてやるよ。実はな」
「黙れ!」
一気に詰め寄り、《無双景光》を横薙ぎに振る。
ジョニーは体を仰け反らせて躱す。
「なんだよ~、もしかして、そいつに話してないのか?」
「うるせぇ!」
焦りと苛立ちから《空閃一刀》を発動する。
ジョニーは発動のタイミングを見極め躱し、俺の腕に毒ナイフを突き立てた。
「ぐっ!」
ナイフに塗られたマヒ毒に痺れて動けなくなる。
「アルブス!」
リズが駆け寄り俺を庇うように立つ。
「に……逃げろ…リズ」
「アンタを置いて逃げれるわけないでしょ!」
リズは震える手でメイスを構える。
その様子がおかしいのかジョニーは笑い出す。
「コイツは傑作だね!普通のプレイヤーが殺人者を庇うなんて!」
「さ……殺人者?」
「《白き殺戮者》この二つ名に聞覚えぐらいあるだろ?」
「え、ええ」
「そいつの名前は知ってるか?」
「知らないわよ!下層じゃ精々、二つ名と見た目ぐらいしか情報ないんだから」
「なら教えてやるよ。《白き殺戮者》の名前は」
やめろ………やめてくれ…………
「アルブス。今そこで麻痺って動けなくなってる奴さ」
「う………嘘」
「嘘じゃねぇよ。マジでマジモンの話だ。まぁ、そんなわけで、どうだ、アルブス。もう一度俺達の仲間にならないか?」
「…………断る」
「そうかい。なら………………死にな!」
ジョニーが毒ナイフを投擲してくる。
だが、次の瞬間、その攻撃は別の者の手によって阻まれた。
「落ち着け。ジョニー」
「へ、ヘッド!?」
なんで…………PoHが現れる。
リズは恐怖から足がすくみ座り込んでしまった。
「………アルブス。もう一度仲間になる気は無いんだな?」
「……あたり…前だ」
「そうか………残念だ」
そう言うとPoHは背を向ける。
「行くぞ。ジョニー」
「え?ヘッド、こいつ殺さないんですか?」
「牙を無くしたやつを狩ること以上につまらないものはない。今のコイツは殺す価値すらない」
そう言ってPoHは引き上げる。
「チェッ!ヘッドのご命令だ!今は見逃してやるよ!」
PoHに続きジョニーも引き上げる。
気がつけば俺の麻痺も解けていた。
目の前でいまだに座っているリズの肩に触れようとするが触れずに手を下ろす。
「…………帰ろう」
「…………うん」
歩いても良かったがそんな気分になれなかったので転移結晶を使って帰った。
なんとかリズの店に着いたが、街に着いてからリズは無言だった。
俺も何も言うことが出来ないので話しかけていない。
「ねぇ、どういうことが説明して」
リズがそう言ってきた。
俺は正直に話した。
もう隠しても仕方がないことだしな。
「俺には双子の弟がいるってのは知ってるよな?」
リズは頷く。
「弟もこのゲームをやっていた。アイツは攻略組だった。でも、死んだ」
そのことにリズはとても驚いていた。
「俺はその話をアイツ等、《ラフィン・コフィン》のザザとジョニーから聞いた。殺されたって言われて。殺したのは攻略組でビーストテイマーのレインと言われた」
「レインって《飯綱使い》って言われてる?」
「ああ、この店もアイツが紹介してくれた。………話を戻す。そこから、俺は復讐心に取りつかれただレインを殺そうと考え《ラフィン・コフィン》に入った。もっとも《ラフィン・コフィン討伐作戦》の時、レインと戦って真実を知ったがな」
俺の話にリズは口を挟まず話を聞いてくれた。
「……殺しはしたことあるの?」
「……いや、間接的ではあるが俺自身手を下したことは無い」
そう、俺自身この手で人を殺したことは無い。
あの時の俺の目的はレインを殺す事。
そのため別のプレイヤーを殺す気は無かった。
だが、間接的ではあるが殺しに加担したことはある。
後ろから7人のパーティーをマヒ毒を塗ったピックで麻痺らせた後、ザザがエストックを使い刺し殺した。
貫通継続ダメージにより徐々にHPが減っていくプレイヤーの死に顔を眺めていた。
その時の俺は今考えても驚くぐらい無感情だった。
その時にレインと出会った。
「すまない。お前に迷惑をかけたな」
「待ちなさい」
立ち上がり店を去ろうとリズが止めた。
「刀。作る約束でしょ。付いてきて」
そう言ってリズは奥の工房に向かう。
どうしようと一瞬悩んだが後を付いて行く。
リスは真っ赤になった炉に《ダイヤモンドクリスタル・インゴット》を放り込み、十分焼けたインゴットを取りだして金床に置いた。
そして壁に掛けている鍛冶ハンマーを取り上げ、そして振り下ろした。
確か武器を作る工程だと“作成する武器の種類と、使用する金属のランクに応じた回数インゴットを叩く”だっけ……
叩くだけだからプレイヤーの技術は関係ないのだがハンマーでインゴットを叩くリズの顔は真剣だった。
暫く槌音が響き続け、そして、インゴットが眩い白光を放った。
そして、一振りの刀が出来上がった。
出来上がった刀は美しいと言う言葉が似合う刀だ。
刀身は薄く向うが透けて見えた。
耐久値が不安に思えてくるが、調べると驚くぐらい耐久値が高い。
光にかざすと刀身の中で光が乱反射をし、白い光を放った。
まるで《白龍刀》の様な輝きだ。
「名前は《白影刀-絆-》初耳ってことは今の所情報や名鑑には乗ってない剣だと思うわ」
《白影刀-絆-》を握り締める。
まるで長い間からずっと使ってる感じがする。
手によく馴染んでいる。
二、三度振ってみる。
耐久値の割にとても軽い。
そして、何より俺の心が喜んでいる。
「こんないい剣が出来たのは三度目よ」
「他にもあるのか?」
「ええ、キリトとレインよ」
あの二人も作ってたのか………
「そうだ、代金はいくらだ?」
「いらないわ」
え?
「そんないい刀ができたんだもん。それこそあたしには最高の報酬よ。それにずっとアンタにはお礼がしたかったのよ」
「……お礼?」
「……え?覚えてないの?」
えっと、なんのことだっけ?
「あたしが中学入学したての頃いじめにあってたでしょ」
初耳なんだが?
「毎日が辛い日々で何度も不登校になりかけた。そんな時よ。アンタが助けてくれたのは」
俺が助けた?
「当時のあたしは髪伸ばしてて目が前髪で隠れてたのよ。そんな見た目だから虐められてた。その時アンタが言ってくれたのよ。「髪切ったらどうだ」って」
中一の時………前髪が長い女………あ。
「あの時の女ってリズだったのか?」
「そうよ。アンタの言葉で髪切ってみたの。そしたら、いじめがぼっくりと止んだのよ。だから、アンタのおかげ」
いや、あの時って夏で、偶然隣に居た長い髪の女がうざかったから言っただけで、そんなつもりは一切なかったんだが…………
「だから、そのお礼も兼ねてタダでいいわ」
そう言ってリズは笑った。
その笑顔に俺は不覚にも胸がドキッとした。
「そ、そうか。わかった」
「あと、前にアンタが何やってたのかなんてあたしにはどうでもいい。大事なのは今よ」
「…………そうか。ありがとな」
「あ、ちゃんとメンテには毎日来なさいよ」
「え、ここにか?」
「そうよ。私が作った剣を余所の鍛冶屋ましてやNPCの店でメンテなんかさせないわよ」
俺は頭を掻き、苦笑する。
「ああ、これから頼むぞ」
「任された!」
そう言って俺はリズと拳を重ねた。
やっとリズを登場させることが出来た。
それが嬉しい。
次からは74層からの話になります。
とうとう来た!
それでは次回もお楽しみに