どうぞゆるりとお読みください。
「あひゃぁぁぁぁぁ!!」
変な悲鳴を上げながらシリカは突進してくる青いイノシシ≪フレンジーボア≫避ける。
「避けてばっかじゃ、倒せないぞ」
ゆっくり歩きながらそう言いシリカに近づく。
「だ、だって、鼻息荒くしながら突っ込んでくるんだよ!!普通は避けるよ!!」
敬語じゃなくなっているが、こっちの方が気楽でいい。
「そんなんじゃ、レベルが上がらないぞ。モーションを起こしてソードスキルを発動、後はシステムが命中させてくれるよ」
「ん~~~~」
シリカは少し考えながら右足を後ろに下げ、腰を落とし、右手の短剣を逆手に持ち
腰のところにまで持っていき、構えた。
そして、短剣が淡い水色の光を放ちそして、
「せやぁぁぁぁぁぁ!!」
短剣用下位ソードスキル≪エッジスラッシュ≫が発動し、フレンジ―ボアの首を切り裂いた。
クリティカルだったらしく、残り4割のHPがなくなり、
イノシシは断末魔をあげ、ガラスのように砕け消えた。
「や、やった――――――!!」
シリカが、歓喜の声をあげ、とび跳ねた。
「おめでとさん。初めてにしては上出来だ」
「レインのおかげだよ」
その後も狩りを続けレベルが俺は4、シリカは3になった。
時刻は17時13分でアインクラッドは夕陽でオレンジ色に染まっていた。
「楽しかった」
「初日で、しかも初心者がレベルを3にまで上げるとは、恐れ入るよ」
今、俺たちは草原の上に座りながら、会話をしている。
シリカは物覚えが良く、ほんの2,3回練習しただけで、ソードスキルの使い方に慣れてしまった。
「レインのおかげで今日は楽しかったよ。ありがとね」
「あ、あぁ」
シリカの言葉に思わず顔が赤くなってしまった。
夕陽が出てて助かった。
そういえば、友人と会う約束してたっけ。
後で謝っておかないとな。
「この後どうする?まだ続けるか?」
「今日は、もう落ちるよ。お母さんに怒られちゃうし」
「そうか、明日は?」
「うん、明日もログインするよ」
「なら、明日も一緒にやろうぜ。友人を紹介するよ」
「いいよ。じゃあ、また明日ね。」
そして、シリカは右手を振りメニュー画面を開きログアウトしようとした。
「あれ?変だな」
シリカが疑問の声をあげた。
「どうした?」
「ログアウトボタンが無い」
「はぁ?何言ってんだよ。ちゃんと、メニューの一番下に・・・・・・・無い」
おかしなことにメニューから本当にログアウトボタンが無い。
バグか?
いいや、ログアウトボタンが無いなんて今後の運営に支障をきたすぞ。
「シリカ、GMコールしてみて」
「やってるよ。でも、反応が無い」
試しに俺もしてみるが、まったく反応が無い。
どうなってんだ?
「運営側からのアナウンスも無い。本当にどうしたんだ?」
シリカと頭を抱えて悩んでいると突然、鐘のような音が鳴り響いた。
「何だ!?」
「え、な、何!?」
突然のことに驚いていると、体が鮮やかなブルーの光に包まれた。
これは、場所移動アイテムによる≪転移≫だ。
βテストの時に体験したからわかったが、俺もシリカも転移アイテムは使ってないし持ってもいない。
なら、これは運営側による強制転移だ。
でも、アナウンスもなしにするか?
転移が終わるとそこは≪始まりの町≫にいた。
他にも、たくさんのプレイヤーたちが集まっていた。
やっぱり、他にもログアウトボタンが無いプレイヤーがいたか。
もしかしたら、全プレイヤーが集まっているかもしれない。
数秒経ち、周りがざわつき始めた。
徐々にそれが苛立ち変わり始めた頃、空に【System Announcement】の文字が浮かびあがった。
ようやく、運営側からのアナウンスが始まる。
ほっとし、肩の力を抜いた。
しかし、夕焼けに染まった空の一部がどろりと垂れ下がり、空中でとどまった。
そして、そのどろりとした塊が形を変え20メートルはある人間の形になった。
形はSAOに出てくるGMの恰好をしている。
だか、そのGMのローブの中に顏は無く、袖の中には腕も無い。
肉体自体がない。
とりあえずGMのアバターの恰好だけを用意しただけみたいだ。
アナウンスの為に用意したのか。
だが、アナウンスの為にGMのアバターなんているのか?
GMの両手がゆっくりと揚がり口を開いた。
『プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ。
私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
茅場晶彦。
SAOを作った天才ゲームデザイナーで量子物理学者だ。
そして、ナ―ヴギアの基礎設計者でもある。
だが、彼は、メディアへの露出を極力避け、GMの役割なんかもしなかったはずだ。
何故こんなことを。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが無いことに気づいてると思う。
それは、不具合ではなく≪ソードアート・オンライン≫本来の仕様である』
仕様だと!?
意味が分からない。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームからログアウトすることはできない』
城ってのはまさか≪アインクラッド≫のことか?
『また、外部の人間によってナ―ヴギアの停止、解除を試みられた場合、ナ―ヴギアが諸君の脳を破壊する』
脳の………破壊だと?
つまり殺すってことか。
「そ、そんなことできるわけが……」
横にいたシリカが声をあげた。
「…可能だ。最新技術っていっても原理は電子レンジと同じ。出力さえあれば脳を蒸し焼きにすることもできる」
「で、でも、電源コードをいきなり抜けば…」
「ナ―ヴギアの重さの3割はバッテリセルだ。
コードを抜いても無駄だ」
「そ、そんな…」
だが、もし瞬間停電でも起きたりしたどうするつもりだ?
『正確には10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナ―ヴギア本体のロック解除、または分解、破壊のいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。
現時点で、警告を無視しナ―ヴギアの強制除装を試み、すでに、213名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している』
213人。
それが、死んだ人たちの数なのか。
『今、ありとあらゆる情報メディアによってこの状況は報道されている。
ナ―ヴギアを装着したまま、2時間の回路切断猶予時間のうちに病院、施設に搬送される。
現実の肉体は、厳重な介護体制のもとにおかれる。
諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい。』
この状況で呑気に遊べってか
ふざけてやがる
こんなのもうゲームじゃない
『さらに、≪ソードアート・オンライン≫はもうただのゲームではない。
もう一つの現実だ。
今後、ありとあらゆる蘇生手段は機能しない。
HPがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、ナ―ヴギアによって脳を破壊される』
ナ―ヴギアを外すと死ぬ、HPがゼロになれば死ぬ。
笑えないぜ。
俺たちに助かる手段は無いのか。
『このゲームから解放される条件はただ一つ。アインクラッドの最上部、第100層に辿り着き最終ボスを倒すことだ。
そうすれば、生き残ったプレイヤーは全員は安全にログアウトされることを保証しよう』
その言葉で多くのプレイヤーは黙りこんだ。
だが、第100層なんていけるのか?
βテストの時は10層までしかクリアできなかった。
第10層にいたっては、ボスすら倒せていない。
プレイヤー達がどよめいていると茅場はまた口を開いた。
『最後に諸君にこれが現実である証拠を見せよう。
アイテムストレージに私からのプレゼントがある。
確認してくれたまえ』
アイテムストレージを開くとそこに一つあった。
アイテム名[手鏡]
オブジェクト化し鏡を覗くと自分が作った顔があった。
黒い髪に黒い目、日本人らしい肌、平均的な顏。
確かにおれのアバターだ。
首をかしげていると、急に体を白い光が包んだ。
2,3秒経ち光が消えた。
何が起こったんだ?
横を見ると、シリカではなく別の女の子がいた。
長くもなく短くもない髪をツインテールにした、普通の可愛らしい子だ。
それより、シリカは?
「あれ?レイン!!どこ?」
「え?」
横にいる見知らぬ女の子は確かに俺の名を呼んだ。
まさか!!
もう一度鏡を見るとそこには
白い髪に赤い目、透けるような白い肌。
そして、普通の顏。
間違いない。
俺の現実の顔だ。
となると、この子は…
「…シリカか?」
その子は振り向き俺をまっすぐ見据えて
「…レイン?」
そう言った。
なるほど、現実だという証拠ね。
確かに現実だな。
「どういうことなの!?レイン、顔が変わってるよ!?」
「お前もだ。ほら」
鏡を見せるとシリカは
「あ、あたしの顏だ…」
やっぱりか…
「現実だと認識させるために現実の顔に変えられたんだろう」
「で、でも、どうやって」
「ナ―ヴギアの信号素子で頭から顏をすっぽり覆ってるだろう。
脳だけでなく顏の表面も精細に把握出来るんだろう。
体のほうはキャリブレーションで自分の体を触ったりしただろう。
その時に体格もデータ化したんだろう」
「でも、どうしてこんなことを…」
「それは…もうすぐ本人が言うだろう」
俺の予想通り茅場はまた、言葉をはっした。
『諸君は、今なぜこのようなことをしたのか、と思っているだろう。
大規模なテロでも身代金目的でもない。
私の目的はすでに達成してる。
この状況こそが私の最終目的なのだ。
…以上で≪ソードアート・オンライン≫正式チュートリアルを終了する。
プレイヤー諸君の健闘を祈る』
そう言って茅場(GM)の姿は空に同化していくように消えた。
しばしの静寂の後、広場に絶叫が響いた。
プレイヤーたちはどなり、わめき、悲鳴をあげた。
俺はシリカの手を引っ張り人気が少ない路地に移動した。
「…シリカ」
シリカは肩を震わせ下を向いていた。
「そんな…嘘だよ。これは、悪い夢だよ。
だから……早く覚めて……」
精神的にまずいな。
「シリカ、今日は宿に泊まろう。
明日のことは明日考えよう」
シリカは無言で頷いた。
俺はシリカの手を握り引っ張るような形でNPCが経営する宿まで歩いた。
「・・・部屋二つ空いてますか?」
NPCの主人に聞くと二人部屋が一つしか空いていないと言われた。
「仕方がない、シリカ。一人で泊まれ。俺は外で寝る」
宿から出ようとすると不意に袖を引っ張られる間隔が襲った。
引っ張ったのはシリカだった。
「どうした?」
「……一人は不安だから一緒にいて」
…俺はバカだな。
普通に考えたらこの状況で女の子一人はかなり不安なのに
それを一人で泊まらせるなんて何考えてるんだか。
「…わかった」
部屋に入り、シリカを片方のベットに寝かせて俺は反対側のベットに移動した。
部屋の電気を消し、寝ようとすると
「…ねぇ。」
シリカがこっちを見ていた。
「…なんだ?」
「その…怖いから…同じベットで寝ても…いい?」
…………これは一人が不安でという意味であって深い意味は無い。
てか、普通はそうだよな。
一瞬でも邪なこと考えてすみません。
「あ、あぁ、いいぞ。」
「うん…ありがとう。」
そう言ってシリカはベットに入ってきた。
異性と寝るなんて妹が3歳の時以来だな。
そう思いながら目を閉じた。
こうして、全てが終わり、全てが始まった。
最悪なルールと恐怖を生み出して。
長がった。
今回は頑張りました。