二人のビーストテイマー   作:ほにゃー

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第36話 涙

あの後、キリトさんから事情を聴き、女の子の名前がユイということと、記憶がないと言うことが分かった。

 

気を失ったユイちゃんは数分で目が覚めたが、長距離を瞬時に移動する転移門を使うことにキリトさんとアスナさんが難色を示し、サーシャさんの誘いもあってキリトさんたちは教会に泊まることになった。

 

俺たちも泊まったらと言われたが、キリトさんとアスナさん、ユイちゃんの三人もいるし、サーシャさんの負担になると思い断った。

 

俺たちもユイちゃんのことが心配なので翌日また来ると伝え家に帰った。

 

「ねぇ、レイン」

 

「ん?」

 

夜、寝ようと布団に潜り込むと、シリカが声を掛けてくる。

 

「ユイちゃんって、もしかして、ユウナちゃんと同じなのかな?」

 

それは俺も思った。

 

不自然なステータス、記憶喪失

 

記憶喪失は違うか、ステータスの不自然は同じだ。

 

だが、そのステータスもユウナとかなり違う。

 

《Yui-MHCP001》と奇怪な名前に、HPバーもEXPバーも無く、コマンドボタンも《アイテム》《オプション》しかない。

 

だから、俺はユウナ違うんじゃないかと思う。

 

一番考えられるのはユイが《アーガス》、茅場昌彦の会社のスタッフという考えだ。

 

だが、あんな十歳もいってないような子がスタッフとは考えにくい。

 

一体……………

 

「それも、含めて明日話し合おう」

 

「そうだね」

 

シリカはそう言って、俺の隣に潜り込んでくる。

 

「じゃ、おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

部屋の照明を落とし、俺も眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目が覚めると、すぐに朝食を摂り、第1層の教会に向かった。

 

教会に付くとギンがいた。

 

「ギン、サーシャさんとキリトさんとアスナさん、それとユイちゃんは?」

 

「サーシャ先生と昨日の兄ちゃんたちなら、向うの部屋に居るぞ。なんか《軍》の奴も一緒だったぜ」

 

「《軍》?まさか、昨日のことか?」

 

「いんや、それとは違うみたいだぜ。行くなら気を付けろよな」

 

ギンはそう言って、自分の部屋に向かう。

 

俺たちもキリトさんに会いに行こうとその部屋に向かう。

 

とびらを開けるとそこには、私服ではなく、武器と防具を装備したキリトさんとアスナさんがいた。

 

後ろには、《軍》のプレイヤーと思しき人もいる。

 

「キリトさん。どうしたんですか?武器なんか持って?」

 

「ああ、なんでも《軍》のリーダーのシンカーさんって人とコーバッツが、あるダンジョンの最奥にいるそうだ。それを助けに行くんだよ」

 

「どういうことですか?」

 

キリトさんの話を聞くと、《軍》は二つの派閥があり、それがシンカー派とキバオウ派の二つ。

 

シンカーさんは放任主義で、キバオウが好き放題にやり、キバオウ派は《軍》での権力を徐々に強めていった。

 

だが、資材の蓄積にうつつを抜かし、その為末端のプレイヤーからの声が上がり、そこで、キバオウは74層のフロアボスを《軍》のプレイヤーのみで倒そうと考えた。

 

キバオウ派の中からハイレベルのプレイヤーを選出し、最前線に送り出そうとした矢先、コーバッツさんが独断で攻略を決行。

 

コーバッツさんたちはボスを倒せなかったが、コーバッツさんたちによる反乱宣言でシンカー派は真っ向からキバオウ派と対立。

 

そこから、シンカー派とキバオウ派による争いが激化した。

 

シンカー派はキバオウ派の徴税を厳しく取り締まり、キバオウ派はそれに呼応するかのように徴税を厳しく行った。

 

だが、徐々にシンカー派は力を付け始め、それはとうとうキバオウ派を食らい尽くす勢いだった。

 

そこで、キバオウはシンカー派筆頭のコーバッツさんとシンカーさんに話し合いを丸腰での持ち込み、回廊結晶でダンジョンの最奥に放逐。

 

シンカーさんとコーバッツさんはキバオウの話を信じ、武装どころか結晶アイテムすら持っていなかった。

 

そのため、今二人はダンジョンから出るに出られない状況。

 

そこで、ユリエールさん(キリトさんたちの後ろに居た《軍》の女性プレイヤー)が、昨日のキリトさんたちのことを聞き、助けをお願いにきた。

 

「それで、これからシンカーさんとコーバッツさんを助けに行くと?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、キリトさん、俺たちも連れて行ってください」

 

「いいのか?それはこっちとしては有難い」

 

「ま、待って下さい!こんな子供を連れて行くんですか?」

 

ユリエールさんが、心配そうに俺とシリカを見る。

 

「大丈夫ですよ。この二人も攻略組ですから」

 

「《飯綱使い》と《竜使い》の二つ名は知ってますよね?」

 

「は、はい。確か、最年少の攻略組で、ビーストテイマーの少年少女と…………まさか、この二人が?」

 

ユリエールさんの質問に俺達は頷いて答える。

 

「そ、そうでしたか。これは失礼しました」

 

ユリエールさんは慌てて頭を下げてくる。

 

その行動に俺達は驚く。

 

「頭を上げてください」

 

「そうですよ。攻略組ってってもあたしたち子供ですし」

 

「いえ。子供と言えども実力は私よりも遥かに上、それを敬わずにどうしろといいますか?不躾とは思いますがお願いします。どうか、シンカーとコーバッツの救出にお力をお貸しください!」

 

「はい」

 

「あたしたちでよかったら」

 

こうして、俺たちもシンカーさん&コーバッツさん救出作戦に協力することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、肝心のダンジョンは何層にあるんだ?」

 

キリトさんがユリエールさんい質問をする。

 

最初にそれを聞いときましょうよ。

 

「ここ、です」

 

その言葉に俺は耳を疑った。

 

「ここって?」

 

「ここ、《はじまりの街》の中心部に大きなダンジョンがあるんです。シンカーたち、多分そこの奥に」

 

「マジかよ。βテストの時はそんなの無かったぞ」

 

「確かに」

 

「上層攻略の進み具合によって解放されていくタイプなのでしょう。キバオウは、ここのダンジョンを独占しようと計画していました」

 

「専用の狩場があればもうかるからな」

 

「それに未踏破のダンジョンなら一度しか出ないレアアイテムとかもありますしね。結構な儲けが出たと思いますよ」

 

「それが、そうもいかなかったんですよ」

 

ユリエールさんの口調はわずかに軽快と言った感じになった。

 

「なんでも60層クラスのモンスターが出るので殆ど狩りは出来なかったそうです。命からがら逃げだし、使った転移結晶の数で大赤字だとか」

 

「ははは、なるほどな」

 

そんな話をしてるうちに、ダンジョンへの入り口に着く。

 

「ここが入口です。ちょっと暗くて狭いんですが……」

 

ユリエールさんは気かがりそうにユイちゃんを見る。

 

ユイちゃんはそれに気づき心外そうに

 

「ユイ、怖くないよ!」

 

そう言った。

 

「大丈夫ですよ。この子見た目よりずっとしっかりしてますから」

 

「うむ、きっと将来はいい剣士になる」

 

「キリトさん、それは親バカですよ」

 

「レインにも子供ができたら分かるさ」

 

そんな会話をしてる俺達を見てユリエールさんは頷く。

 

「では、いきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぉぉぉぉぉ!りゃぁぁぁぁ!」

 

キリトさんがそんな叫び声を上げながら、両手に握った二本の剣で群がるモンスターを斬りまくる。

 

そんな、キリトさんをアスナさんはやれやれといった感じに呆れ、ユイちゃんは「パパがんばれー」と声援を送り、ユリエールさんはキリトさんのバーサーカーっぶりに唖然としてる。

 

俺とシリカはそんな様子をみながら思った。

 

((俺達(私達)来た意味あったのかな?))

 

「なんかすみません」

 

「いえいえ、あれは最早病気みたいなものですから」

 

「ユリエールさん、シンカーさんとコーバッツさんの位置はどうなってます?」

 

俺の質問にユリエールさんはマップを見せて教えてくれる。

 

「シンカーたちはこの一から動いていません。おそらく安全地帯にいるのだと。そこまで行けば転移結晶が使えます」

 

「いや~、戦った戦った!」

 

ユリエールさんの話が終わると同時にキリトさんが一仕事を終えてくる。

 

「すみません」

 

「いや、好きで戦ってるんだし、アイテムも出るし」

 

「へ~、何か良い物でも出た?」

 

「ああ!」

 

そう言ってキリトさんがある物をオブジェクト化する。

 

グロテスクな肉塊を。

 

「な、なんですか、それ?」

 

「スカベンジトードの肉!ゲテモノ程うまいって言うからな!アスナ、後で調理してくれよ!」

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

アスナさんは、絶叫を上げ、肉を放り投げる。

 

さらに、共通アイテムタブから残りの肉を取り出し、全て放り投げる。

 

「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

キリトさんが情けない声を上げる。

 

その様子を見ていたユリエールさんは、我慢できないと言った感じにくくっと笑い声を漏らした。

 

「お姉ちゃん、笑った!」

 

ユリエールさんお笑いにユイちゃんが反応する。

 

そういえば、昨日、気を失った時、ギンたちが笑ってる時だった。

 

喜びに特別な感情でもあるのか?

 

 

 

その後、順調にモンスターを倒していき、とうとう安全地帯が目に入った。

 

「安全地帯よ!」

 

アスナさんが声を上げる。

 

「奥にプレイヤーが二人、グリーンだ」

 

「シンカー!コーバッツ!」

 

キリトさんが言うや否やユリエールさんは走り出した。

 

右手を上げ、声を上げる。

 

「シンカー!コーバッツ!」

 

「ユリエ――――――ル!」

 

「ユリエ―ル殿――――!」

 

ユリエールさんお声に気付き、シンカーさんとコーバッツさんが大声を上げる。

 

「シンカー!コーバッツ!」

 

「来ちゃダメだ!」

 

「其の通路には!」

 

その言葉と同時に俺は視界の端にある物を見つけた。

 

黄色のカーソル。

 

《The Fatal-scythe》という名の固有名詞。

 

ボスモンスターだ!

 

「ユリエールさん!戻って!」

 

アスナさんが叫ぶが、ユリエールさんに聞こえてない。

 

するとキリトさんが走り出し、ユリエールさんを抱える。

 

そして、素早く、剣を抜き床に突き刺し、ブレーキを掛ける。

 

止まると、すぐ目の前に鎌が振り下ろされた。

 

ボスの姿はまるで死神のような恰好をした髑髏モンスターだ。

 

「シリカ!あいつの、データは!」

 

「レイン、やばいよ!アイツ、データが見えない!」

 

「何!」

 

シリカの識別スキルの熟練度で分からないとなると、こいつ90層クラスか!

 

アスナさんは、ユイちゃんをユリエールさんに預け、安全地帯に送り出すと、細剣を抜き、構える。

 

「アスナ、レイン、シリカ、全員ですぐに転移結晶で脱出しろ。俺の識別スキルでもこいつのデータがまるで見えない。おそらく、90層クラスだ」

 

キリトさん言葉にアスナさんが息を呑む。

 

「俺が時間を稼ぐ」

 

「キリト君も一緒に」

 

「後から行く!」

 

確かにキリトさんのスピードなら、あいつに追いつかれること無く安全地帯に逃げれるはずだ。

 

でも、万が一のこともある。

 

「キリトさん!俺も残ります!」

 

「レイン!」

 

「キリトさん一人、置いて行くこと何て出来ませんよ!」

 

背中の大太刀を抜き、構える。

 

「シリカ!アスナさんたちと早く脱出しろ!」

 

俺が叫び終わるとアスナさんの声が響いた。

 

「ユイちゃんを頼みます!」

 

「四人で脱出を!」

 

すると、シリカとアスナさんがそれぞれの武器を手に来る。

 

「シリカ、逃げろって」

 

「この世界で帰りを待つって結構堪えるんだよ」

 

その言葉に俺は何も言い返せなかった。

 

アスナさんも同じらしくキリトさんは一緒に戦うことを許した。

 

《The Fatal-scythe》が鎌を振り下ろす。

 

キリトさんは両手の剣を交差させ、更にアスナさんも細剣を重ね防御の体勢を取る。

 

だが、《The Fatal-scythe》の攻撃を重く強いらしく、キリトさんとアスナさんの体をたやすく吹きとばした。

 

「キリトさん!………くっ、くらえ!」

 

俺は大太刀スキル《泉山桜花》を発動し、斬る。

 

だが、《The Fatal-scythe》のHPは数ドットしか減らなかった。

 

強すぎる。

 

おまけに、スキル発動後の硬直で体が動かない。

 

そこに、鎌での攻撃が来る。

 

防御もできずに、鎌が俺に直撃しようとすると、間にシリカが入って攻撃を受け止めようとする。

 

だが、受け止められずにシリカも吹き飛ばされる。

 

なんとか、シリカを受け止めるが、受け止めきれずにそのまま倒れ込む。

 

俺もシリカもキリトさんもアスナさんも動けない。

 

このままじゃ、やられる。

 

そう思った時、いきなりユイちゃんが現れた。

 

「バカ!逃げろ!」

 

キリトさんが声を上げる。

 

《The Fatal-scythe》が鎌をユイちゃんに振り下ろそうとする。

 

「大丈夫だよ。パパ、ママ」

 

振り下ろされた鎌はユイちゃんの手前で止まる。

 

いや、何かによって阻まれている。

 

紫色のシステムタグ《Immortal object》

 

それに俺は驚いた。

 

どうして、そんなものがユイちゃんにあるのか理解できなかった。

 

すると、ユイちゃんは空中に浮かびあがり掌から焔を出す。

 

そして、その炎から一本の剣が生み出された。

 

その剣は炎を帯びて、俺の大太刀よりも長い剣だ。

 

その剣を振りかざし、《The Fatal-scythe》に斬り掛かる。

 

《The Fatal-scythe》は鎌で剣を受け止めるが、剣は鎌ごと斬り裂き、《The Fatal-scythe》の額に落ちる。

 

そして、剣の炎が《The Fatal-scythe》を包み込み、消滅させた。

 

静かになった空間の中、ユイちゃんは振り向く。

 

「パパ、ママ、全部思い出したよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は安全地帯に移動し、ユイちゃんから話を聞いた。

 

「<<ソードアート・オンライン>>という名のこの世界は、ひとつの巨大なシステムによって制御されています。

システムの名前は<<カーディナル>>、それが、この世界のバランスを自らの判断に基づいて制御しているのです。

カーディナルはもともと、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました。

二つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、更に無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する……。

モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています。

……しかし、ひとつだけ人間の手に委ねなければならないものがありました。

プレイヤーの精神性に由来するトラブル、それだけは同じ人間でないと解決できない……そのために、数十人規模のスタッフが用意される、はずでした」

 

はずでしたってことは違う方法がとられたのか。

 

「カーディナルの開発者たちは、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したのです。

ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーのもとを訪れて話を聞く……。

《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》MHCP試作一号、コードネーム《Yui》。それがわたしです」

 

「プログラム……?AIだっていうの……?」

 

ユイちゃんは悲しそうな笑顔のまま頷いた。

 

「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられています。……偽物なんです、全部……この涙も……。ごめんなさい、アスナさん……」

 

「でも……でも、記憶がなかったのは……?AIにそんなこと起きるの……?」

 

「……二年前……。正式サービスが始まった日……何が起きたのかはわたしにも詳しくは解らないのですが、カーディナルが予定にない命令をわたしに下したのです。

プレイヤーに対する一切の干渉禁止……。

具体的な接触が許されない状況で、わたしはやむなくプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けました。

状態は……最悪と言っていいものでした……。ほとんど全てのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時として狂気に陥る人すらいました。

わたしはそんな人たちの心をずっと見続けてきました。

本来であればすぐにでもそのプレイヤーのもとに赴き、話を聞き、問題を解決しなくてはならない……しかしプレイヤーにこちらから接触することはできない……。

義務だけがあり権利のない矛盾した状況のなか、わたしは徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していきました……

ある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメーターを持つ二人のプレイヤーに気付きました。

喜び……安らぎ……でもそれだけじゃない……。

この感情はなんだろう、そう思ってわたしはその二人のモニターを続けました。

会話や行動に触れるたび、わたしの中に不思議な欲求が生まれました。

そんなルーチンはなかったはずなのですが……あの二人のそばに行きたい……直接、わたしと話をしてほしい……。

すこしでも近くにいたくて、わたしは毎日、二人の暮らすプレイヤーホームから一番近いシステムコンソールで実体化し、彷徨いました。

その頃にはもうわたしはかなり壊れてしまっていたのだと思います。

森の中で、お二人の姿を見た時……すごく、嬉しかった……。おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに……。

わたし、ただの、プログラムなのに……」

 

「それは違う」

 

俺は、いつの間にか声を上げていた。

 

「そうやって考えて、行動できるならシステムもプログラムも関係ない。ユイちゃんはユイちゃんだ」

 

「………レインさん」

 

「レインの言う通りだ」

 

キリトさんはユイちゃんに近づき、目線を合わせる。

 

「ユイはもうシステムに操られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の望みを言葉にできるはずだよ。ユイの望みはなんだい?」

 

「……私は……私は……ずっと一緒に居たいです」

 

「ずっと、一緒だよ、ユイちゃん」

 

アスナさんは泣きながらユイちゃんを抱きしめる。

 

「ああ。ユイは俺達の子供だ。一緒に帰ろう」

 

「……もう、遅いんです」

 

ユイちゃんの口から、否定的な言葉が聞こえた。

 

「なんでだよ……遅いって……」

 

「わたしが記憶を取り戻したのは……あの石に接触したせいなんです」

 

ユイちゃんはそう言って黒い直方体の意志を指差す。

 

「これはGMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです。コレを使ってモンスターを消去したんですが、同時に今私のプログラムもチェックされています。システムの命令に違反した私は異物として消去されるでしょう」

 

消去って………そんな………

 

「なんとかならないのか!?」

 

「……パパ、ママ。これでお別れです」

 

「嫌!そんなの嫌だよ!これからじゃない!これから、楽しく……仲良く暮らそうって…」

 

アスナさんが泣きながらユイちゃんを抱きしめる。

 

「ユイ!行くな!」

 

キリトさんもユイちゃんの手を握り締める。

 

「パパとママの傍に居ると、みんなが笑顔になれる。お願いです。これからも、私の代わりにみんなに笑顔を分けてあげてください」

 

「嫌だよ!私、ユイちゃんがいないと、笑えないよ!」

 

「…………ママ………笑って」

 

その言葉を最後に、ユイちゃんは消えた。

 

「う……うわああああああ」

 

アスナさんは、膝から崩れ落ち、泣いた。

 

「カーディナル!いや、茅場!そういつも、お前の思う通りになると思うなよ!」

 

キリトさんは叫び、コンソールを叩く。

 

「今ならまだ、ここのGMアカウントでシステムに割り込めるかも」

 

巨大なウインドウが出現し、高速でスクロールする文字列が輝き、部屋を照らす。

 

キリトさんは幾つかのコマンドを入力する。

 

小さなプログレスバーウインドウが現れ、横線が右端まで到達すると、コンソール全体が青白く輝き、フラッシュする。

 

それと同時に張れる音が死、キリトさんを吹き飛ばす。

 

「キリト君!」

 

アスナさんが駆け寄ると、キリトさんは何かをアスナさんに何かを渡した。

 

涙の形をしたクリスタルだった。

 

「これは……」

 

「ユイが起動した管理者権限が切れる前にユイのプログラムをシステムから切り離して、オブジェクト化したんだ。………ユイの心だよ」

 

「ユイちゃん……そこに居るんだね……。私の………ユイちゃん……」

 

アスナさんはまた涙を流し、クリスタルを握り締めた。

 

その様子を見て、俺はシリカを促し、逃げるようにダンジョンを抜け出した。

 

あの場には居たくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると俺は装備を戻さず、ずっと椅子に座ったまま下を向いていた。

 

「どうしたの?」

 

シリカが心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「…………キリトさんたちの姿がさ、あの時の俺達と似てたんだよ」

 

ユウナと別れる時の姿に。

 

「でも、キリトさんは俺達とは違った結末だった。キリトさんは、ユイちゃんを救った。助けれた。なのに………俺は、ユウナを助けることが出来なかった」

 

俺の話にシリカは黙って聞いてくれた。

 

「悔しいよ、俺は。俺に出来ることはキリトさんにもできる。だけど、キリトさんが出来ることは俺には出来ない。あの場をすぐに離れたのだって、あのままだと、自分とキリトさんの差を感じて惨めになりそうだったからだ。俺、最低だよ………」

 

気が付けば、俺は涙を流してた。

 

自分の無力さが悔しくて、ユウナの時、何もできなかった自分が悔しくて。

 

そんなことを思ってると何かに包まれる感触がした。

 

気が付くと俺はシリカに抱きしめられていた。

 

「最低じゃないよ。私達の年代ならそう思っても仕方がないよ」

 

シリカはそう言って優しく笑い掛けてくる。

 

「確かに私達はユウナちゃんを助けられなかった。でも、ユウナちゃんを幸せにしてあげることはできた。半年一緒に過ごして、いっぱい思い出作って、本当の兄弟のように一緒に居てあげた。

助けれなかったけど、幸せにはしてあげれた。

それは確かだよ。

それに、レイン言ってたでしょ。ユイちゃんはユイちゃんだって。

そう言える人が最低な訳ないよ」

 

「………シリカ……くっ……」

 

「いいよ。泣いても。今は私しかいないから」

 

「……ありがとう」

 

俺はシリカを抱きしめ、そして、泣いた。

 

溜めてた物を吐き出すかのように。

 




14歳でも精神年齢は12歳、子供ですからこんなことを感じても仕方がないと思います。

次回は75層ボス戦の話になります。

言い忘れてましたが、この小説はSAO編~GGO編+エクスキャリバー獲得クエスト、絶剣のストーリーで終了のつもりです。

どうか、最後までお付き合いください。
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