キリトさんに言われた喫茶店に突き、手早く自転車を止める。
扉を手で軽く押し、中に入る。
「いらっしゃって……シリカじゃねぇか!」
「え…エギルさん?」
店の中にはエギルさんがいた。
「取り敢えず、座りな」
エギルさんに言われて、カウンターの席に着く。
「あの、どうしてエギルさんが?」
「ここは俺が経営している喫茶店なんだ」
「えっと、あたし、キリトさんに言われて」
「俺が頼んだんだ。シリカにも教えなきゃならないことがあるんだ」
「何をですか?」
「アスナと、レインのことだ」
「どういうことですか!?」
あたしは体を前にして、エギルさんに聞く。
「ま、待てって。キリトが来たら詳しいことを話すから」
「今すぐ言ってください!」
エギルさんの腕を掴み、ぶんぶんと振り回す。
エギルさんは困った顔をする。
その時
くぅ―――――――――
あたしのお腹がなった。
そう言えば、慌ててきたから朝御飯食べてないや。
それに、ここ二ヶ月は碌にご飯も食べてない。
「話はキリトが来てから話す。取りあえず、今はメシだ」
そう言ってエギルさんは、簡単なサンドイッチを作ってくれた。
「ありがとうございます」
「いいってことよ。俺の奢りだから気にするな」
エギルさんにもう一度お礼を言い、サンドイッチを食べる。
久々に美味しいと感じられた。
サンドイッチを食べ終わり、暫く一息ついていると、扉が開いた。
「よぉ、シリカ。久しぶり」
「キリトさん!」
キリトさんが入って来た。
本当に生きてたんだ。
じゃあ、レインも………
「よぉ、エギル。相変わらず、不景気な店だな」
「うるせぇ、これでも夜は繁盛してんだよ」
エギルさんとキリトさんは、SAOの世界でもやっていたようなやり取りをする。
それが、なんだが懐かしく思えた。
キリトさんは、カウンターに座り、エギルさんに聞く。
「で、あの写真はどういうことだ?」
「少し長くなるんだが………これ、知ってるか?」
エギルさんはカウンター下から何かを取り出し、テーブルの上を滑らせて、あたし達の前に出す。
「これ、ゲーム?」
「《アミュスフィア》っていうナーヴギアの後継機対応のMMOだ」
「ってことは、これも、VRMMOか」
パッケージを見せて貰い、タイトルを読む。
「あるふ……へいむ……おんらいん?」
何とか英語のタイトルを読む。
どういう意味だろう?
「アルヴヘイムって発音するらしい。意味は、妖精の国だそうだ」
「妖精?なんかほのぼのしてそうだな。まったり系か?」
「そうでもないぜ。どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」
「どスキル制?」
聞いたこと無い言葉なので聞き返す。
「いわゆる《レベル》が存在しないらしい。各種スキルが反復で上昇するだけで、HPもたいして上がらない。戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、ソードスキルなし、魔法ありのSAOってところだ
「PK推奨ってのは?」
キリトさんが質問をする。
「プレイヤーはキャラメイクでいろんな種族を選ぶわけだ。違う種族ならPKできるんだとさ」
「確かにハードだ。だけど、そんなマニア向け仕様じゃ、人気で無いだろう」
「それがそうでもない。今、大人気だそうだ。理由は《飛べる》からだそうだ」
「「飛べる?」」
キリトさんとハモる。
「妖精だから、翅がある。フライト・エンジンとやらが搭載されていて、慣れると自由に飛びまわれる」
「凄いな、翅はどう制御するんだ?」
「さあな。だが、相当難しいらしい」
「そりゃそうさ。人間には無い翅を操るんだ。背中の筋肉を動かすのかな?」
キリトさんの目がゲーマーの目になってる。
「キリトさん」
「んん!」
エギルさんが咳払いし、あたしは名前を呼ぶ。
キリトさんは我に返り、コーヒーを一口飲む。
「で、この大人気ゲームがアスナとレインにどう関係があるんだ」
そうだ。
あたしはそれを聞きに来たんだ。
でも、ゲームと関係って?
そう思ってると今度は写真を出してきた。
そこには
「アスナさん?」
アスナさんが写ってた。
これって…………
「似ている」
「やっぱりそう思うか」
「早く教えてくれ、ここは何処なんだ!」
キリトさんが大声を上げてエギルさんに問い詰める。
「その中だよ。アヴルヘイム・オンラインの」
あたしとキリトさんは驚く。
エギルさんは手元にあるパッケージを引っくり返し、後ろのイラストの真ん中にある気を指差す。
「世界樹、と言うんだとさ。九つの種族に分かれたプレイヤーは世界樹の上にある城に、他の種族に先駆けて到着する事を競ってるんだ」
「なら、飛んで行けばいいんじゃないんですか?」
「滞空時間があって、無限には飛べないらしい。でだ、体格順位五人のプレイヤーが肩車をして多段ロケット方式で樹の枝を目指した」
「ははは、なりるほど。馬鹿だけど頭いいな」
あれ?それって結局バカなの?頭良いの?
どうでもいい疑問が頭に浮かんだ。
「だが、ぎりぎりで到着できなかったそうだ。でも、到達高度の証拠に五人目が何枚か写真を撮った。その一枚に巨大な鳥籠が写ってた」
「鳥籠?」
「そいつをぎりぎりまで引き延ばしたのが、その写真だ。それで、もう一枚」
今度は別の写真を取り出して見せてくる。
「これって………レイン?」
純白のコートを纏い、巨大な剣を携えたレインの後姿を捉えた写真だった。
「エギル、これは?」
「世界樹の攻略クエストってのがあって、ある一定のラインにまで達すると現れるモンスターってことになってるらしい。妖精王護衛部隊隊長 レイル。最強のモンスターなんて言われてるそうだ」
モンスターって、レインは人なのに!
そのことに怒りが湧いてきた。
「どう思う?」
「………レインです。これは、絶対にレインです」
確証は無い。
でも、あたしの心が言ってる。
これは、レインだ。
生きてたんだ。
「でも、どうして、アスナとレインがゲームの中に?」
キリトさんがもう一度パッケージを見ると、いきなり険しい顔になった。
「エギル、このソフト、貰って行ってもいいか?」
「構わんが、行く気なのか?」
「この目で確かめる」
ソフトを鞄に詰めるキリトさんを、エギルさんは心配そうに見る。
キリトさんも心では、何かまた嫌なことが起きるのではと思ってるはずだ。
でも、キリトさんはその恐怖を振り払うかのように笑う。
「死んでもいいゲームだなんてぬるすぎるぜ」
そう言うキリトさんにエギルさんは呆れたような顔をした。
「シリカ、君はどうするんだ?」
キリトさんが聞いて来る。
答えは決まってる。
「行きます。レインを助けに」
「………はぁ、こんなことだろうと思ったよ」
溜息を付き、同じソフトを取り出して渡してくる。
「エギルさん!」
「こんなこともあろうかと二つ買っといたんだよ。都合で俺は一緒には行けない。だから、お前たちで行くんだ」
「ありがとうございます!」
お礼を言って、コートのポッケにソフトをねじ込む。
「ハードを買わなきゃな」
「ナーヴギアで動くぜ。アミュスフィアはナーヴギアのセキュリティ強化版でしかないからな」
なら、よかった。
ナーヴギアならまだうちにある。
「そりゃ、ありがたい」
「助け出せよ。アスナを、レインを。でないと、俺たちの戦いは終わらない」
「ああ、いつかここでオフをやろう」
「必ず、二人を連れ戻します」
そう言って、私達は拳をぶつけた。
外に出ると自転車ですぐに家まで帰った。
家に着くと、家電に留守電があり、聞くと、お母さんの帰りが夜遅くなるとあった。
お父さんも今日は帰りが遅いから、大丈夫だ。
二階の自分の部屋に駆け上がり、コートを脱ぎ、ソフトを取り出す。
ナーヴギアの電源を入れ、ROMカードをスロットに挿入する。
ベッドの上に居たピナを抱え、部屋の外に出す。
そして、ベッドに横になりナーヴギアを被る。
「リンク・スタート!」
暗闇の世界に飛び、そして、虹色のリングを潜り抜けるとアカウント情報登録ステージについた。
『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。最初に、性別と名前を入力してください』
柔らかい女性の声で、案内される。
性別は女で、名前は二年間愛用した《Silika》と入力した。
『それでは、種族を決めましょう』
種族か…………どれにしようかな?
種族を選んでると一つの種族が目に入った。
「猫妖精(ケットシー)……か」
敏捷性に長けていてモンスターをテイミングする魔法が得意な種族か。
うん、ビーストテイマーのあたしにはぴったりだ。
ケットシーを選択し、OKボタンをおす。
『それでは、ケットシー領のホームタウンへ転送します。幸運をお祈りします』
その言葉を最後に再び光の渦に巻き込まれ、次に感じたのは浮遊感だった。
そして、あたしは海に浮かぶ孤島の真上にいた。
あれが、ケットシー領のホームタウン。
徐々に中央の城に近づいて行く。
すると、急に映像がフリーズした。
あちこちでポリゴンが欠け、ノイズが走る。
「な、何!?」
喚く暇もなく、再び落下し、暗闇の中に落ちていく。
そして、森の中に落下した。