二人のビーストテイマー   作:ほにゃー

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アヤメさんの本名は水無月危(みなづき あやめ)と言います


第4話 朝田詩乃と水無月危

校門から出ると冷たい風が頬を撫でる。

 

身震いし、首に巻いているマフラーに深く顔を埋める。

 

授業も終わり、キリトこと和人たちとゲーセンにでも寄ろうかと思ったが、和人は明日菜と放課後デート、白牙は里香と夕飯の買い物(住む家が見つかるまでの間、篠崎家に居候しているとのこと)、雫は珪子を含めた友達六人で帰ってしまったので、仕方がなく俺は一人寂しく家に向かって帰っている。

 

「あ、晩飯の材料無かった」

 

途中で、冷蔵庫の中に缶コーヒーと、コーヒーゼリー、卵しかないのを思い出し、足をアーケード街のスーパーマーケットに向ける。

 

SAO事件の後、現実に戻った俺を待っていたのは一人暮らしだった。

 

何でも、俺がSAOの中に居る間に親父の転勤(アメリカ)が決まり、仕方がなく親父とお袋はアメリカに引っ越し、住んでいた家も売りに出されていた。

 

残された俺は、親父たちが事前に契約していたアパートで一人暮らしをし、親父たちからの仕送りでやりくりをしている。

 

偶にエギルの店でバイトなどもしている。

 

一人暮らしって何かと不便なんだよな。

 

料理洗濯は自分でしないといけないし、朝も自分で起きないといけないし、とにかく面倒だ。

 

等と考えていると「ばぁん!」と女の声が路地裏から聞こえた。

 

不思議に思い、路地裏に入ると四人の女がいた。

 

正確に言うと、一人の女子を三人の女子が囲んでいた。

 

そして、俺は囲まれている女子に見覚えがあった。

 

「朝田!」

 

俺は声を上げる。

 

朝田詩乃。

 

偶然にもアパートの隣同士で、そこそこ近所付き合いがあった子だ。

 

だが、五月の時、朝田の部屋に女三人が朝田の家に無断で入り、その時、俺が警察を呼んでやった。

 

その後色々あって仲良くなり、一緒にGGOを始め、今では互いに掛け替えのないパートナーだ。

 

周りに居た女どもを無視し、朝田の下に駆け寄る。

 

「おい!どうした!?」

 

「み……水無月」

 

朝田は辛そうに口元を押さえ、見上げてくる。

 

「………お前ら、朝田のなんだ?」

 

低音のボイスで女どもに問う。

 

「な、何って友達だけど?」

 

女どもはビビりながらも答える。

 

「友達?……ふざけるな。お前らみたいな奴が朝田の友達な訳あるか!」

 

睨みつけるように女どもを見る。

 

「ひっ!」と、声を上げ、一歩後ろに下がる女ども。

 

「こっちです!お巡りさん、早く!」

 

若い男の声が聞こえた。

 

その男の声を聞くと三人の女は走って消えた。

 

まぁ、一度警察にお世話になってるから、二度もお世話にはなりたくないだろう。

 

「朝田、大丈夫か?」

 

「…ええ、ありがとう。水無月」

 

朝田の背中を擦りながら手を取り立ち上がらせる。

 

「えっと、大丈夫?」

 

背後から、おずおずと小柄な少年が声を掛けてくる。

 

そこには、見知った顔がいた。

 

新川恭二。

 

朝田の同級生だった少年だ。

 

どうして過去形なのかというと、新川は所属していたサッカー部の先輩に苛めを受けていて、二学期以降から学校に行ってないそうだ。

 

「大丈夫。ありがと、新川君。警察は?」

 

「出任せだよ」

 

頭を掻きながら笑う新川に呆れながらも俺も笑う。

 

「でも、どうしてここに居たんだ?」

 

「うん。そこのゲーセンに居たんだ。裏口から出たら朝田さんが囲まれててさ。110番しようかと思ったけど、その前に水無月君が助けに来たから、ハッタリでもっと」

 

ちなみに、朝田と俺をGGOに誘ったのは新川だ。

 

六月ぐらいに新川が朝田を誘い、俺もよかったらと誘われGGOを始めた。

 

「二人とも、何か飲まない?奢るからさ」

 

「いいのか?」

 

「いいの?」

 

「うん、この前の大暴れの話を聞かせてよ」

 

新川のお誘いを有難く受け取り、三人で新川の案内の下、喫茶店に入る。

 

俺はホットコーヒー、朝田はミルクティー、新川はコーヒーフロートを注文した。

 

「聞いたよ、一昨日の話。大活躍だったそうだね」

 

アイスコーヒーに浮かぶバニラアイスを突っつきながら新川が聞いて来る。

 

「そんなこと無いわよ。作戦的には失敗だった」

 

「スコードロンの7人中4人やられて、奇襲でこの結果じゃ、とても勝った気にはなれないさ」

 

「それでも凄いよ。あのミニガン使いの《ヘビモス》は集団戦で負けたことは無いし、《イーサン》は《闇風》と同レベルのプレイヤーなんだし」

 

「そんなに有名人なのか?」

 

「《バレット・オブ・バレッツ》のランキングで見たこと無いから知らなかった」

 

「そりゃそうだよ。《イーサン》は最強の称号とかそう言う俗物には興味が無いんだってさ。他人に値札を張られるのは好きじゃないとか言ってるらしいよ」

 

なるほど、《イーサン》は根からの戦士って訳か。

 

「それと、《ヘビモス》だって、ミニガンが最強とは言え、弾薬を500発も持てば、重量オーバーで走れないんだ。《BoB》はソロの遭遇戦だから、遠くから狙われたら一溜りもないさ。その代り仲間から充分な支援があれば無敵だけど。反則だよ、あんな兵器」

 

新川は口を尖らせる。

 

「それを言ったら私のへカートⅡも反則って言われてるよ。持っている方からにしてみれば色々苦労もあるのよね。ヘビモスさんもそう思ってるよ」

 

「ちぇ、贅沢な悩みだな…………次の《BoB》はどうするの?」

 

「もちろんでるよ。前回の二十位から上のプレイヤーのデータは揃ったし、今度はへカートを持っていくつもり。今度は全員………………上位入賞して見せるわ」

 

全員を殺すと言おうとしたのだろうが、慌てて誤魔かしていた。

 

「水無月はどうするの?今回もやめとく?」

 

「そうだな………ドラグノフの扱いにも慣れたし今回は出てみるか」

 

「扱いに慣れたって……狙撃銃を狙撃じゃなくって接近戦に使うってどうかしてるわよ」

 

「確かに、水無月君の攻撃の仕方には最初は度肝を抜かれたよ」

 

そう言われても、こっちは二年間あの世界で槍を使ってきたんだ。

 

そう簡単に他の武器を使いたいとは思わないし、何よりこっちの方が俺は戦い易いんだ。

 

「でも、あんな無茶苦茶な戦法で勝ち続けてるから凄いわよね」

 

「本当に二人は凄いよ。GGOに誘ったのは僕なのに、もう追い抜かれちゃったか」

 

「そんなことないぜ。新川も前回は予選の準決勝まで行っただろ。あそこまで言ったらもう運だぜ」

 

「本当に惜しかったよね。決勝戦まで行けたら本大会には出られたのに」

 

「ダメさ。AGI型じゃあ、余程のレア運がなきゃもう無理だよ。ああ、ステ振り間違ったなぁ」

 

新川のアバター、シュピーゲルはGGO当初最強と言われたタイプAGI一極型だ。

 

このタイプは圧倒的な回避力、速射力によってGGOの当初こそ他のプレイヤーを圧倒してきたが、GGOのマップが攻略されるにつれ登場した強力な実弾銃を装備するのに必要なSTR、つまり筋力値が事欠き、銃自体の命中精度が向上することによって回避も思うようにいかなくなって八か月を超えるころにはもう主流ではなくなった。

 

それでも、連射力がものを言う大口径の強力なライフル《FN・FAL》や《H&K・G3》などのレア武器が手に入ればまだまだ一線で通用するし、実際前回のBoBの準優勝者の《闇風》はAGI一極型なので、一概にAGI型が通用しないってのは間違ってると思う。

 

「確かにレア銃が強いてのはあると思うが、強い奴等の中にレア銃を持っている奴がいるってだけでレア銃を持っている奴が強いって訳ではないと思うぞ」

 

「そうね、実際、前の本大会に出た三十人も半数が店売りの吊るし武器をカスタムしてたよ」

 

「それは、水無月君は強いし、朝田さんは超レア物の銃を持ってて、その上STR先行のバランス型だからからそう言えるんだよ。やっぱ武装の性能差は大きいよ」

 

コーヒーフロートを掻きまわし、新川は溜息を吐く。

 

「じゃあ、今回の大会は諦めるのか?」

 

「うん、諦めたよ」

 

「そう………まぁ、勉強もあるしね。予備校の大検コース行ってるんでしょ?も死とかはどう?」

 

新川は不登校になっていて、そのことで散々親父さんと揉めたらしい。

 

まぁ、家が病院だからな。

 

それも仕方がないか。

 

結局は自宅学習は認められて、再来年の大学入学資格検定を受けて、タイムロス無しで親父さんと同じ私立大学の医学部に合格するのが条件ということになったらしい。

 

「あ、うん。大丈夫、成績は学校に行ってた頃を維持してるよ」

 

「よろしい」

 

その後、朝田は晩御飯の準備があるから帰らないといけなくなり、そこで今日お開きとなった。

 

新川と別れ、アパートに向かって朝田と帰る。

 

部屋の前で朝田と別れ、部屋に入る。

 

「あ、晩飯の材料忘れてた」

 

材料を買うことを忘れてたことを思い出し、頭を掻く。

 

仕方がないし、今日の晩飯はコンビニでいいか。

 

そう考え、ブレザーの上着を脱ぎながら、冷蔵庫から缶コーヒーを一本取り出す。

 

脱いだ上着を親父たちが事前に買っといてくれたソファーに投げ捨て、その隣に座り、缶コーヒーのプルタブを開ける。

 

一口飲んだ後、息を吐き天井を見上げる。

 

そして、目を閉じる。

 

閉じると、二人の女性の顔が浮かんでくる。

 

へカートⅡを担ぎ、自分に微笑を向けてくるシノンを

 

クールでいても時折年相応な女性らしい笑顔を浮かべる朝田を

 

缶コーヒーを持っていない腕を閉じた瞼の上に置き、呟く。

 

「好き………なんだろうな、きっと」

 

もう何回したか分からない回答を自分に向けて言う。

 

その度に、恥ずかしくなる自分がアホに思えてくる。

 

「でも…………俺には告白する資格なんてあるのかね………」

 

こんな、人殺しの俺を。

 

レイン、キリト、アルブス。

 

あの三人もPKをしている(アルブスは間接的だが)。

 

だが、あの三人にはそれを受け止め、その重荷を一緒に背負ってくれてる奴がいる。

 

俺にはそんな相手はいない。

 

正直、あの三人が羨ましい。

 

「………何無い物ねだりしてるんだが」

 

一気に缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に投げ入れる。

 

部屋のエアコンのリモコンを弄り、弱い暖房を入れる。

 

制服を着替え、ゆったりとした黒いジャージに着替える。

 

ベットに横になり、アミュスフィアを被る。

 

「リンク・スタート」

 

取りあえずGGOで一暴れしたら、晩飯でも買いに行こう。

 

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