アヤメさんが衝撃的なことをした後、シノンさんが俺たちに話したいことがあると言って俺たちを呼んだ。
そこで、五年前の強盗事件のこと、そして、その時、強盗から銃を奪い強盗を殺したこと、それがきっかけで銃を見ると発作を起こしてしまうことを聞いた。
「俺も」
シノンさんの話を聞いた後、キリトさんが口を開いた。
「俺も、人を殺した」
「え?」
「……それを言ったら、俺だって人を殺しましたよ」
「シノン、死銃が俺たちと因縁があるっていったよな。あれは、あるゲームでの話なんだ。SAO…ソードアート・オンラインって分かるか?」
シノンさんは口を開けて驚いた。
この日本でSAO事件のことを知らない人はいないはずだ。
「じゃあ、貴方たちは……」
「ああ、俺たちは《SAO生還者》だ。そして、彼奴らもだ」
「SAOには犯罪を犯したプレイヤーを《オレンジプレイヤー》って呼んでた。その中で、人を楽しんで殺してるプレイヤーを《レッド》と呼んだ。その中でもっとも危険な連中が《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》だ」
「彼奴らは様々な方法を使い多くのプレイヤーを殺していきました。そして、とうとう大規模な討伐作戦が決行されました」
「全員を無力化して牢獄に送る手はずだった。戦力的にも、レベル的にも安全なプレイヤーを招集して、夜明けに急襲した。だが、裏切者がいたのか、はたまたスパイがいたのか、とにかく情報が漏れてたんだ。そのため、奴等はアジトに罠を張って待ち構えていた。すぐに混戦状態になった。その中で俺は……………ラフコフのメンバーを三人殺害した。
最初の一人は仲間を守る為に心臓を突き刺した。残りの二人は自分の命を守る為に」
スバルさんの藩士が終わるとキリトさんも俯き加減で話す。
「俺も、アヤメと同じだ。あの世界で人を殺した。剣を止めようと思えば止めれたはずだ。でも、おれは怒りに任せて剣を振った。根っこじゃ彼奴らと同じさ。いや、ある意味ではもっと罪深い。俺は自分でしたことを無理矢理忘れてたんだ。その時に斬った二人の顔や名前を、現実に戻ってからも一度として思い出そうとしなかった。昨日、総督府でアイツと、ジョニー・ブラックと会うまでは」
「ジョニー・ブラック?」
「ナイフを持ってた男だ。アイツとは討伐作戦の際に剣を交えた」
「そして、死銃の名はザザ。SAOでは赤目のザザと呼ばれエストックって武器が獲物だった。俺にとっては因縁の相手だ」
「じゃあ………死剣は?」
「…………SAOにそれと同じ異名をもった人が居ました」
「そいつの名前は?」
「スバル、ですが、彼は俺が殺しました」
「え?」
スバルは俺がSAOの中で殺した相手だ。
それは間違いない。
だが、死剣と一回剣をぶつけ合って分かった。
脚の動かし方から戦い方はまるでスバルさんそのものだった。
「じゃあ、死剣は本物の幽霊?」
「違います。幽霊ならこんな回りくどいことしません。きっとスバルさんの腹心の部下か、それに近いものだと思います」
そこで一通り話が終了する。
「教えて、貴方たちはどうやってその過去を乗り越えたの?」
シノンさんの質問に俺たちは答えた。
「乗り越えてなんかないさ」
「人の死を乗り越えるってのは普通は出来ない。いや、出来たらいけないんだ」
「その人を殺した意味、重さ、全てを受け止めて考える。それが俺たちに出来る最低限の償いなんです」
「受け止めて、考え続けるなんて……私、私には出来ない……」
「だからこそ、逃げちゃいけないんだ。いつかそれを受け止められるように、自分と戦うんだ」
俺たちの答えを聞いて、シノンさんはまた黙りだした。
俺たちも何も言わずにただ沈黙が続く。
「死銃に、どうやって対抗するの?」
シノンさんがこの空気を壊した。
確かに対抗する方法を考えないとどうにもならないな。
「まず、死銃、ザザたちはどうやってプレイヤーを殺すのかから考えよう。そこから対抗策を考えるんだ」
「今の所、対抗策はあの銃に撃たれないぐらいしかありませんね」
「でも、アミュスフィアはナーヴギアほどの出力は出せないはずよ」
「そういえば言ってなかったな。《ゼクシード》と《薄塩たらこ》、それと死剣にやられた《ロード》は脳の破壊じゃなく、心不全で殺されたんだ」
キリトさんが言い忘れていたことを伝えるとアヤメさんは不思議な顔をした。
「心不全?VR関係だから脳かと思たんだが違うのか。なら、原因はVRゲームでも、アミュスフィアでもないのか」
「まさか、本当に超能力………とか?」
「仮想世界から銃を撃って、生身の人間を殺す方法なんて存在しないと思いたいが……………待てよ。あの銃が本当に人を殺す力があるなら、どうしてあいつは俺をあの銃で撃たなかったんだ?実際俺はアイツのライフル弾を一発だが食らった。あそこであの銃を使えば確実に殺せたはずだ」
「そう言えば、ペイルライダーを殺した時、近くにダインもいたのに殺さなかったわ。アバターは残ってたし、HP関係なく殺せるならHPが無くても殺せるはず…………」
アヤメさんとシノンさんの言う通りだ。
どうしてアヤメさんをあの銃で撃たなかったのか?
どうしてダインさんを撃たなかったのか?
「アヤメさん、《ゼクシード》《薄塩たらこ》《ロード》《ペイルライダー》そしてシノンさんの五人で共通してることってなんですか?」
「共通…………しいて言うなら全員《AGI特化型ビルドじゃない》ってぐらいだ」
「でもちょっと無理があるわ。STRに偏ってたり、VITに偏ってたりするし」
「ん~~~~~~、シノン。《ゼクシード》《薄塩たらこ》《ロード》の三人と話したことあるか?」
「《ゼクシード》は全大会の優勝者だし、《ロード》はレア銃を持ってることで有名だったけど話したこと無いわ。《薄塩たらこ》とは少し話したことあるけど」
「どんな話だ?」
「別に、ただ商品に何を貰うかって話よ」
「確か、ゲーム内でのアイテムか現実でモデルガンを貰うかって選択式なんだよな」
「現実で貰う?まさか運営体から贈られるのか?」
「ええ、国際郵便でね」
そこでキリトさんは宙の一点を見つめ何かを考えた。
「でも、俺がアカウントを作った時、リアル情報なんてメールアドレスか性別年齢しか要求されなかったぜ。住所はどうやって?」
「キリトさん、忘れたんですか?BoBにエントリーするとき、住所を入力する欄があったじゃないですか」
「ああ、そういえばそうだっ……………、シノン!前の大会では誰が賞品に何を貰ったか分かるか!?」
キリトさんが真剣な表情となり、シノンさんに聞く。
「えっと、ダインはゲーム内での装備。《ゼクシード》《薄塩たらこ》《ロード》はモデルガンだと思うわ。《ゼクシード》は効率主義だし、《薄塩たらこ》は本人が言ってた。《ロード》はリアルでも重度のミリタリーマニアって言われてたから」
「シノンは!?」
「私もモデルガンよ。まぁ、引き出しにしまいっぱなしだけど」
シノンさんが、付け加えるように言うが、キリトさんはもう聞いていなかった。
それどころかぶつぶつと何か言い始めた。
「ああ!そうか、そうだったのか!!」
急に立ち上がり声を上げた。
「俺たちは、とんでもない勘違いをしていたんだ!」
「キリトさん、誤解って?」
「VRMMOは、プレイヤーの意識を切り離し、現実世界から仮想世界に行く。プレイヤーはそこで喋り、走り、戦う。だから、死銃も死剣もこの世界から殺してると思った」
「違うのか?」
「違う。プレイヤーの身体も、心も、移動なんてしちゃいない。現実世界と仮想世界の違いは脳が受け取る情報量の多寡の違いだけ。アミュスフィアで、電子パルスに変換された映像を見て、音楽を聴いてるだけだ」
「何を、言ってるの?」
「死銃と死剣、奴等には現実世界での共犯者がいるんだ!死銃か死剣がGGO内でプレイヤーを撃つか斬るをする。それと同時に、ターゲットの部屋に侵入した共犯者が、プレイヤーを殺す。これが、この事件の真相だ!」
キリトさんの推理に俺は納得した。
確かにこの方法なら可能だ。
「だが、どうやって住所を、現実の家を知るんだ?」
「モデルガンが送られたって言ってただろ」
「あ、そうか!」
そこで俺もあることに気付いた。
「エントリーの際、プレイヤーは端末を使って本名や、住所を入力する。その時に、後ろから覗き見たんですね!」
「ああ、遠近エフェクトもスコープか双眼鏡を通してみれば無効化できる」
「でも、そんなことしたらGMに突き出されてアカウント抹消されかねない。アメリカのゲームだからハラスメント関係はかなり対処が厳しいわよ」
「なるほど。《メタマテリアル光歪曲迷彩》か。あれを圏内で使い、ステルス化してスコープを使いエントリーデータの住所と本名を覗き見てたってことか」
これで、現実の家の突き止め方と、殺害方法は分かった。
「なら、鍵は?それに家の人もいるはず」
「《ゼクシード》《薄塩たらこ》《ロード》の三人は一人暮らしだ。それにGGOにログインしてれば意識はないから多少ロックの解除に手間取っても気付かれることは」
「いえ、ロックの解除に時間はかからないはずです」
俺は声を上げ、キリトさんの推理を否定する。
「どうしてだ?」
「まず心不全を起こした方法ですが、これは薬品を使ったはずです。薬品は多分サクシニルコリン。少なくとも、これは普通じゃ手には入れません。でも、一つだけ手に入るところがあります」
「何処だ?」
「病院です。それに病院には緊急時に患者の部屋に入る為の合法マスターコードがあります。ザザ、死剣、ジョニーブラックの誰かの家がもし病院なら薬品とセキュリティを解除するコードが手に入ります。それに無針高圧注射器を使えば穴も目立ちませんし、元々体は腐敗してましたから、穴もばれません。さらにVRMMOプレイヤーが心不全を起こすのはよくありますから、最初から薬品での殺害と考えて調べなければ分からないはずです」
「……よく知ってるな」
「言いましたよね。俺の親、医者なんです」
そこで説明が終わる。
これで、全ての謎が解けた。
後は、あの三人を倒して、後で菊岡さんに連絡して、警察に捕まえて貰えばすべて終わる。
「ちょっと待て。今の話が本当なら、現実のシノンの家には今その共犯者がいるってこと」
「あ、ああ!」
それに気づきシノンさんが表情をこわばらせる。
「落ち着けシノン!」
アヤメさんがシノンさんの肩を掴み叫ぶ。
「今、ここで自動切断したら危険だ!大丈夫だ!ザザがあの銃でお前を撃たない限り、お前は無事だ。共犯者も手を出せない。だから安心しろ」
「でも、怖い………怖いよ」
シノンさんはアヤメさんにすがるように抱き付く。
アヤメさんはシノンさんをあやすように抱きしめ返し、背中を優しく擦っていた。
そうすることで、シノンさんは少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「落ち着いたか?」
「………もう少しこのまま」
なんか再び俺とキリトさんが空気になったな。
「そういえば、俺シノンに謝らないといけなかった」
「え?何を?」
「その…………キスしたことだよ」
あ~、そう言えばしてましたね。
それも思いっきし。
「!?」
シノンさんは思い出して口を魚みたいにパクパクしている。
「行き成り、お前の初めて奪って悪かった。お前が新か………シュピーゲルのことが好きなのは知ってたのに」
「え?…………今なんて?」
「だから、お前がシュピーゲルのことが好きって」
「……………何言ってるのよ」
「…………へ?」
「別に、彼の事そういう対象に見てないわよ」
「え!?だ、だって、公園でシュピーゲルに待っててって言ってたよな」
「あれは、私が自分の過去を乗り越えて普通の女の子になれるまで待っててって意味で、そういう意味は無いわよ」
「え、えええ!!」
アヤメさんが絶叫を上げる。
ああ、今日最初に会った時落ち込んでたのはそういうことだったのか……………
「それと、好きでもない男と、パートナーやれる程、私安い女じゃないわ」
ん?それって……………ええ!?
「し、シノン…………」
「……続きは全て終わってからよ」
そう言ってシノンさんはそっぽを向く。
さっきまで張り詰めていた空気が和んだ。
「よ、よし、取りあえず死銃はアヤメとシノンが相手。レインは死剣、俺はジョニーと戦う」
「はい」
「わ、わかった」
「OK」
取りあえず、俺とキリトさんはさきに洞窟から出てそれぞれの相手と戦うことなった。
「レイン」
「何ですか?」
「《ステルベン》と《プレアデス》、どっちが死銃だと思う?」
「《ステルベン》です」
「理由は?」
「《プレアデス》は星の名前なんです。そして、それの和名はスバルって言います」
「…………じゃあ、《プレアデス》は」
「はい、死剣です」
「…………勝てるか?」
「勝ちます」
「そうか、じゃあ、行って来い。俺はジョニーをやりに行く」
「キリトさん、ご武運を」
「お前もな」
キリトさんは七回目のスキャンでJ・Bの居場所を見つけそちらに向かった。
俺もプレアデスを見つけその場所に向かった。
アヤメSIDE
取りあえず俺はシノンと作戦を立てる為穴に立てこもった。
死銃がシノンを狙っているなら必ずここに来る。
スキャンに反応が無ければこっちにくるのは当たり前だ。
「アヤメ」
「…どうした?」
「……私は、アヤメを守るわ」
そう言ってシノンは俺の手を握る。
「………アヤメも、私を守ってくれる?」
「………ああ、当たり前だろ」
「………なら、証拠見せて」
そう言ってシノンが目を瞑ってくる。
こんな時に何を強請って来てるんだよ!?
いや、でも、これでシノンが安心するなら……………
そう言い聞かせ、俺はシノンにもう一度キスをする。
「………ありがとう。落ち着いたわ」
「………それはよかった」
おそらく今俺の顔は真っ赤だろう。
まさか、一日で好きな奴と二階もキスするとは……………ん?
「シノン、この視界の右端にある赤い丸が点滅してるんだが」
「え…………これ、ライブ中継カメラ。基本戦闘しか映さないけど、人数が減ったからこんな所まできたのね」
「それって、今のが全国ネットで配信されたってことだよな…………」
「……そうね」
は、恥ずかしいいいいいいいいい!!!
「もう開き直りましょう」
「……そうだな」
開き直り、銃剣付のドラグノフを肩に担ぐ。
「シノン、手順はいつもと同じ、俺が囮になってお前が狙撃。そこから、俺の接近戦で止めだ」
「ええ、分かったわ」
「じゃあ、行ってくる」
「…………気を付けてね」
シノンの言葉に俺は後ろを振り向かずに親指を立てて答えた。
次回、キリトVSジョニー・ブラック
お楽しみに