二人のビーストテイマー   作:ほにゃー

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エピローグ

事件から二日後、私は今、学校の黒い土がむき出しになっている花壇に腰を掛け、ある人物を待っている。

 

その人物は校舎の北西端と焼却炉の間から現れ、私を見ると唇を歪め嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

遠藤たちだ。

 

「呼び出しておいて待たせないで」

 

「朝田さぁ、最近調子にのってない?」

 

「友達に向かってちょっとひどくない?」

 

取り巻きがそれぞれ効果的だと思ってる角度から威圧してくる。

 

正直、威圧も何も感じない。

 

「まぁ友達なんだから何でも言えばいいって。所でさ、いまアタシら困っててさぁ。2万、貸してよ」

 

「前にも言ったけどアンタ達みたいなのに貸すお金はない」

 

NXTポリマーレンズのメガネを外し、両目にありったけの力を込める。

 

遠藤は目を細め、低い声で言う。

 

「チョーシくれてんじゃねぇぞ。言っとくけどな、今日はマジで兄貴からアレ借りて来てんだからな。泣かすぞ朝田」

 

「好きにすれば」

 

遠藤は唇の両端を吊り上げ、大量のマスコットが付いた鞄からモデルガンを取り出した。

 

「これ、段ボールとか穴開けれんだぜ。絶対人に向けんなって言われたけどさぁ、朝田は平気だよな」

 

モデルガンを見た瞬間、心臓が早く鼓動し、呼吸が浅くなり、指先に冷気が這い登る感覚になる。

 

辛い、逃げたい、そんな感情が現れ、苦しくなる。

 

でも、逃げたら駄目だ。

 

逃げないで、受け止めるんだ!

 

私が期待した反応を見せなかったので遠藤はいらだつように吐き出す。

 

「泣けよ、朝田。土下座して謝れよ。本当に撃つぞ」

 

そう言ってモデルガンを私の左足に向ける。

 

ニヤリと笑い、トリガーを引く。

 

だが、弾は出ず、プラスチックが軋む音だけが聞こえる。

 

「クソッ、何だよこれ!」

 

鞄を足元に落とし、遠藤の手からモデルガンを奪い取る。

 

「『1911ガバメント』か、お兄さんは渋い趣味ね、私の好みじゃないけど。これはサムセーフティの他にグリップセーフティもあるから…こことここを解除しないと使えないの。あとは、シングルアクションだから最初は自分でコッキングしないとダメよ?」

 

私が手慣れた手付きで銃を扱う様子に遠藤たちは唖然としてる。

 

周りを見渡し、焼却炉の横に置いてあるポリバケツの上に、空き缶が置いてあるのを見てそれにモデルガンの銃口を向ける。

 

アイソセレス・スタンスで構え、息を溜めてからトリガーを引き絞り、小さなオレンジの弾が放出された。

 

クセがどんなものか分からないから外すと思ったけれど、運よく空き缶に命中して倒すことができた。

 

そのまま笑みを浮かべて遠藤達を見つめる。

 

「や、やめっ」

 

「確かに、これ人に向けないほうがいいわ」

 

モデルガンを地面に置き、鞄を拾ってからその場を去る。

 

「朝田!テメー、覚えてろよ!」

 

後ろから遠藤が叫んでいるが無視する。

 

遠藤達から距離を置くと、私は校舎の壁に寄り掛かった。

 

もう一度今と同じことをしろと言われても、もうできない。

 

ゆっくりと壁に軽く手を当てながら歩き、体の感覚が完全に治ってから校門へと向かって歩いた。

 

眼鏡を取り出し、そっとかけ直す。

 

マフラーを顔に寄せ、グラウンドの端に出ると、運動部の生徒たちが元気に声を出していた。

 

南側の林を抜け、ようやくと言った様子ながらも正門前の広場に出る。

 

生徒たちがそれぞれ何人かのグループや一人などで帰路についていく。

 

それらを縫うように早足で動くと、あることに気付いた。

 

学校を囲む塀の内側に、女子生徒たちの集団が足を止め、チラチラと校門の外へ視線を向けては、何かを話している。

 

その中に二人、そこそこ仲の良いクラスメイトがいることに気が付き、声を掛けた。

 

「どうしたの?」

 

「あ、朝田さん。今帰り?」

 

黒縁眼鏡を掛けたロングヘアの子が私に気付き、笑顔を向ける。

 

「ええ、それで、何があったの?」

 

今度は栗色の髪を二つに束ねた子が肩をすくめた笑いながら答えた。

 

「あのね、校門のところに、うちの生徒じゃない髪が長い男の子がいるの。バイク停めて、ヘルメットを二つ持ってるからウチの生徒を待ってるんじゃないかって。相手が誰だが興味あるじゃない?」

 

長髪の男の子という所でもう予想できる。

 

そっと塀から覗くと、校門の真ん前に、バイクを停め、缶コーヒー片手に私を待ってるアヤメがいた。

 

自然と笑みが零れる。

 

「どうしたの、朝田さん?」

 

「ううん、何でも無い。あの人、私の彼氏だから」

 

「そっか、彼氏か」

 

「なーんだ、彼氏か」

 

「「…………ええええええええええええ!?」」

 

二人の絶叫を聞き、私は校門を出る。

 

「お、詩乃」

 

「ごめん、待った?」

 

「いや、さっき来たばっかだよ」

 

嘘ばっか。

 

来たばかりなら、あんなに人がいる訳ないじゃない。

 

私にヘルメットを渡し、自分もヘルメットを被る。

 

鞄を斜めに掛け、オープンフェイスタイプのヘルメットを被るが、あご下のハーネスの止め方が分からなくて困った。

 

「じっとしてろ」

 

手を伸ばし、アヤメがベルトを固定する。

 

少し恥ずかしいが、恋人らしくて嬉しい。

 

「あ、スカートは大丈夫か?」

 

バイクのシートに跨りながらアヤメが聞いて来る。

 

「体育用のスパッツ穿いてるから大丈夫よ」

 

「いや、それでも………」

 

「何?なんなら確認してみる?」

 

少し、意地悪ぽっく言い、スカートの裾を掴む。

 

「ば、馬鹿!?何やってんだよ!いいから乗れ、行くぞ!」

 

照れるアヤメを見て、それが可愛いと思った。

 

バイクのリアシートに跨り、アヤメの腰に手を回す。

 

「しっかり詰まってろよ」

 

「分かってるわ」

 

そう言うとアヤメはキーを捻り、バイクを走らせる。

 

 

 

 

 

中央区銀座まで連れてこられ、そこで、私は菊岡と言う人を紹介された。

 

そこで、今回の事件の詳しい内容と、新川君の今後を聞かされた。

 

新川君は精神鑑定の結果次第では、医療少年院に行くらしい。

 

J・Bことジョニー・ブラックの金本敦と、プレアデスことスバルの吉川昴はまだ逮捕されてない。

 

そして、サクシニルコリンのカートリッジはまだ二本残ってるとも聞いた。

 

「それと、アヤメ君、ザザから君に、いや、君たちに伝言がある」

 

「何だ?」

 

「『これが終わりじゃない。終わらせる力は、お前たちには無い。すぐにお前も、それに気付かされる。It`s show time』以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「詩乃、これから時間があるか?」

 

喫茶店を出るとアヤメが口ごもりながら聞いて来る

 

「ええ、あるけど」

 

「じゃあ、ちょっと付き合ってほしいんだが」

 

「朝田!」

 

聞き覚えのある家に後ろを振り向く。

 

相手は遠藤だった。

 

「……何?まだ何か用?」

 

「さっきはよくもちょーしにのりやがって!ただ済むと思ってんのかよ!」

 

「別に」

 

「言ったよな、覚えてろって。私を馬鹿にしたこと後悔させてやるよ」

 

そう言うと後ろから髪を金髪に染め、耳や鼻に沢山のピアスを付けた男が居た。

 

「兄貴、こいつだよ」

 

「ああ、このコか」

 

どうやら遠藤の兄らしい。

 

「てか、結構可愛いじゃん。体は貧相だけど、楽しむ分にはいいかも」

 

私の身体を舐め回すように見てくることに嫌悪感を覚え、私は一歩下がる。

 

「んだよ。別に恐がらなくても」

 

「邪魔だ。消えろ」

 

アヤメが私の前に出て、守るように立つ。

 

「あん?何だテメー?」

 

「何コイツ?朝田の彼氏?」

 

遠藤は面白いものを見つけたと言わんばかりに笑う。

 

「彼氏さん、いいこと教えてあげようか?そいつね、人殺しなんだよ!しかも小学生の時に銃で人を撃ったんだってさ!気持ち悪いと思わない?」

 

「思わないね」

 

「は?」

 

アヤメの言葉が予想外だったのかまた唖然とする。

 

「むしろ、そうやって人の過去を嘲笑うかのようなお前の態度と、この発情ヤンキーの方が気持ち悪いね」

 

「あんだとぉ!女みたいに髪伸ばしてるくせによぉ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

遠藤兄が拳を握り殴りかかってくる。

 

アヤメは横に動き、拳を避けると、腕に手を添え、そのまま、一本背負いをした。

 

遠藤兄はそのまま背中から地面に倒れる。

 

「この野郎!殺すぞぉ!」

 

すると遠藤兄はポケットから折り畳みナイフを取り出しアヤメに向ける。

 

アヤメはだた何もせずナイフをじっと見つめた。

 

「何だよ?ビビって声も出ねぇか?」

 

アヤメがビビったと思ったのか、大きく出る。

 

「ほら、土下座しろ。泣いて土下座したら、許してや「お前、それが何か分かってるのか?」

 

急にアヤメが声を上げ、遠藤兄の言葉を遮る。

 

「あ?ナイフに決まってるだろ」

 

「なら、そのナイフは無いに使うんだ?」

 

「テメェーをぶっ殺すためだよ。いいか、テメーの命は今、この俺が握ってるんだ。大人しくいうことを」

 

「なら殺せよ」

 

「…………は?」

 

「そいつは脅しの道具じゃない。人を殺せる道具だ。ほら、やれ」

 

アヤメは手を広げ、遠藤兄に近づく。

 

「お、おい!それ以上近づくな!でねぇと、本気で刺すぞ!」

 

「握り方が甘い」

 

そう言って、ナイフを持ってる遠藤兄の手を取る。

 

「ナイフはこうやってしっかりと親指に力を入れて握れ。それと、狙うなら心臓は止めとけ。肋骨や胸骨に阻まれて、ナイフが刺さらないからな。刺すなら、腹だ。腹なら大量出血する。刺した後、抉ればより効果的だぞ」

 

ナイフを持つ手を誘導し、自分の腹に狙いを合わせる。

 

「や、やめろ!離せ!」

 

「………いいか。俺はあのゲーム、SAOを生き残ったプレイヤーで攻略組、いわゆるゲームクリアに貢献した奴の一人だ」

 

その言葉に遠藤と遠藤兄は顔を青ざめた。

 

「更に言えば、俺はあの世界で自分の身と仲間を守る為にプレイヤーを三人殺した」

 

遠藤たちは青ざめるだけでなく、体も震え出した。

 

「俺は殺す意味を知ってる。そして、殺す恐怖と殺される恐怖もな」

 

そこで、一拍置き、遠藤兄を睨む。

 

「殺す覚悟もない癖に、殺すとか気安く言ってんじゃねぇ!」

 

「ひ、ひいいいいいいいいいいいい!!?」

 

遠藤兄はナイフを手放し、そのまま走り去った。

 

「ちょ、兄貴!」

 

「おい」

 

兄を追いかけようとしていた遠藤をアヤメが呼び止める。

 

「お前、二度と詩乃に関わるな、もし、またこのようなこと分かったら、次は俺だけじゃない。俺の仲間も来るからな。……………覚えとけ!」

 

遠藤兄が落としたナイフを遠藤の足元に投げつけると刃が遠藤の足元の地面に突き刺さる。

 

遠藤はビビり、その場に座り込む。

 

そして、スカートの中から何か液体のようなものがあふれ出し、遠藤の周りを濡らす。

 

哀れと思うが、可哀想だと思わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤を放置し、次に連れてこられたの別の喫茶店だった。

 

「ここは?」

 

「俺たちSAO生還者たちの憩いの場」

 

中に入ると、大きな黒人のマスターと、三人の男の子と三人の女の子がいた。

 

「詩乃、紹介する。こいつらは共にあの世界を生き抜いた俺の友達で仲間だ」

 

この人たちがアヤメの友達…………

 

カウンターに座ってたのロングヘアーの子が近づいて来る。

 

「初めまして。私は結城明日菜。キャラネームはアスナで、SAOでは細剣使いで攻略組だったわ」

 

次に、茶髪にそばかすの女の子が寄って来た。

 

「私は篠崎里香。キャラネームはリズベットで、SAOではメイスを使ってたけど、本職は鍛冶職人よ。よろしく」

 

今度は茶髪を短めのツインテールにした小柄な女の子だ。

 

「綾野珪子です。キャラネームはシリカで、SAOでは短剣使いで、ビーストテイマーの攻略組でした。よろしくお願いしますね」

 

今度は、黒髪でアヤメと同じぐらいの身長の男の子だ。

 

「俺は桐永白牙。キャラネームはアルブスで、SAOでは、元ラフコフ所属から攻略組になった刀使いだ。よろしくな」

 

「え!ラフコフって!」

 

「大丈夫だ。こいつは良い奴だ」

 

ラフコフと言うことに驚いたが、アヤメがそう言うのでこの人を信じることにした。

 

次に、黒人のマスターが来る。

 

「俺はアンドリュー・ギルバード・ミルズだ。キャラネームはエギルだ。呼び方もエギルでいい。SAOでは斧使いだったか、商人でもあった。これからよろしくな」

 

最後に、黒髪で女顔の男の子と、白髪で、赤眼の小柄な男の子だ。

 

「知ってると思うけど、桐ケ谷和人ことキリトだ。SAOでは二刀流の剣士だった。よろしく」

 

「朝霧雫ことレインです。SAOでは、大太刀って言う武器を使ってました。改めてよろしくお願いします」

 

全員が言い終わると、アヤメが私の前に立った。

 

「水無月危。キャラネームはアヤメで、槍を使ってた」

 

言い終わると私を見つめ、何かを促してきた。

 

私はそれを理解し、皆を見る

 

「初めまして。朝田詩乃ことシノンです。GGOではスナイパーをしてます。よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、シノン」

 

全員の自己紹介が終わると、アヤメは真剣な目をする。

 

「実はここにいるメンバーには詩乃の過去を話した」

 

「え?」

 

「実は、昨日俺たち、と言っても俺とアスナとリズとアルブスの四人で昨日の学校を休んで、――市に行ってきたんだ」

 

キリトの言葉に驚いた。

 

その市は私が昔住んでた場所で、事件を起こした場所だ。

 

「シノン、お前はまだ会うべき人に会ってない。だから、俺たちはその人を捜した」

 

それと同時に、店の扉が開いた。

 

入って来たのは三十代前半の女性と小学校入学前だと思うの女の子だった。

 

顔が似てるから親子だと思う。

 

「はじめまして。朝田、詩乃さん、ですね……? 大澤祥惠と申します。この子は瑞恵。今年で四歳になります」

 

名前を言われても思い出せない。

 

その代りのように、祥惠と名乗った彼女が、今度ははっきりと言った。

 

「私が東京に引っ越してきたのは、この子が生まれてすぐです。それまでは――――○○町三町目郵便局で働いてました」

 

その郵便局は、あの事件があった場所………この人はあの時あそこにいた職員の人………

 

「ごめんなさい」

 

行き成り謝られて驚く。

 

どうして?

 

「私、あの事件のことを忘れたくて…夫が東京に転勤することを理由に、眼を逸らして…。あなたが傷ついて、苦しんでいらしていることに……すぐに、気が付けたはずなのに…。謝罪もしないで、お礼も言わないで……本当に、ごめんなさい…」

 

祥恵さんは間を開けると、瑞恵ちゃんの頭を優しく撫でてあげて、そして…、

 

 

「あの時、私のお腹にはこの子がいたんです。だから…詩乃さん、あなたは、私だけでなく……この子の命も、救ってくれました。ありがとう…本当に、ありがとう…」

 

涙を流しながら話す彼女の言葉は、私の胸の奥の…大きな氷の塊を解かしてくれるようだった。

 

「シノン」

 

アヤメが私の肩に手を置く。

 

「確かにお前は人を殺したかもしれない。でも、それ以上に、お前はあの時誰かを救った。それは確かなことだ」

 

すると瑞恵ちゃんが椅子から降りてとことこと寄って来た。

 

ポシェットに手をやり、何かを引っ張り出した。

 

そこにはクレヨンで男の人と女の人、その間に女の子が描かれていた。

 

そして一番上におぼえたての平仮名でこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しのおねえさんへ

 

 

 

 

 

 

 

「しのおねえさん。ママとみずえをたすけてくれて、ありがとう!」

 

その言葉に私は涙を流した。

 

画用紙を持ったまま、ぽろぽろと涙を零し続ける。

 

そんな私をアヤメは優しく抱きしめてくれた。

 

私はアヤメに甘えるように抱き付き、アヤメの胸の中で泣いた。

 

過去を全て受け止めることはまだできない。

 

きっと長い時間がかかるだろう。

 

でも、隣にアヤメが居てくれる。

 

だから私は歩き続けれる。

 

アヤメと一緒なら、この先どんな困難があっても乗り越えれる。

 

そんな気がした。

 




GGO編完結!

次回は番外編を書いてエクスキャリバー編に行き、また番外編を入れて、絶剣編に行きます。

次回もお楽しみに
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