二人のビーストテイマー   作:ほにゃー

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第1話 巨城《スリュムヘイム》突入

秘密のトンネルに入り、俺達十人は階段を下る。

 

「うへぇ~、一体、何段あるのよ、この階段」

 

ここに来るのが初めてなリズさんは愚痴りながら階段を下る。

 

「確か、新アインクラッドの迷宮区タワーまるまる一個はあったかなー」

 

先頭に立って、階段を下っているアスナさんが答えるとリズさんはうへぇっといった顔をする。

 

「あのな、普通ならヨツンヘイムまで最速で二時間掛かるのが、ここを降りれば五分だぞ。一段一段感謝の念を込めながら降りたまえ諸君」

 

「あんたが造ったわけじゃないでしょ」

 

キリトさんの前を歩いていたシノンさんがぼそっと一言。

 

「ツッコミありがとう」

 

キリトさんはわざわざツッコんでくれたことに感謝と握手代わりにシノンさんの尻尾を掴む。

 

ケットシー特有の三角耳と尻尾は本来なら人間に無いものだが、どういう訳か感覚がある。

 

慣れてないプレイヤーが、強く握られたりすると《すっごい変な感じ》がする。

 

だから、まだキャラを作って二週間のシノンさんが尻尾を掴まれたりすれば

 

「フギャア!!」

 

こうなるのは、当たり前。

 

シノンさんは振り向き、階段を降りながらキリトさんを引っ掻こうとするも、シノンさんの攻撃をキリトさんはひょいひょいと躱す。

 

「アンタ、次やったら体中の穴と言う穴に火矢ブッコムからね!」

 

先頭集団の女性陣とユウナ、ユイちゃんはキリトさんに向かって合掌した。

 

「キリト……お前は勇敢だった」

 

「キリトさん………ご愁傷様です」

 

「え?きゅ、急にどうしたんだ?」

 

俺たちの反応にキリトさんは焦り出す。

 

「キリト、後ろだ」

 

アルブスの指摘にキリトさんが後ろを振り向くと、そこには、槍の穂先をキリトさんの頭に向けてるアヤメさんがいた。

 

「あ、アヤメ?」

 

「キリト………死ぬか、死ぬか選ばしてやろう」

 

「………生きたいって選択肢は?」

 

「無い!」

 

「う、うわああああああああああ!!」

 

「待ちやがれ!」

 

全速力で階段を下るキリトさんの後ろを槍を持って追いかけるアヤメさんの姿はまさしく、鬼だった。

 

「彼氏持ちの女性にセクハラしたらああなるってのは目に見えてるのに」

 

「それもよりによって、アヤメだしな」

 

「本当、勇敢だぜ、彼奴。いや、むしろアホか」

 

『まったく(だよ)(です)(ね)』

 

俺とアルブス、クラインさんはキリトさんの行動を評価し、女性陣はそれに賛成する。

 

階段を降りると、キリトさんは必死に土下座をしてアヤメさんに許しを請いでいた。

 

なんとか、許してもらった後、アスナさんが呪文を唱え全員に凍結耐性の魔法を掛ける。

 

「おっけ」

 

アスナさんの声を受け、リーファさんは頷くと指笛を吹く。

 

すると、遠くから白い翼が生えた象のような水母がやってきた。

 

あれがトンキーか。

 

てか、なんでトンキー?

 

「うおお!?」

 

トンキーの登場にクラインさんは驚き、一歩下がる。

 

「へーきへーき、こいつ草食だから」

 

「でも、こないだ地上から持ってきた魚、一口で食べたよ」

 

「……へ、へぇ」

 

リーファさんの言葉にクラインさんはまた一歩下がる。

 

トンキーは鼻を伸ばし、クラインさんの頭に触れる。

 

「うぴょるほ!?」

 

変わった声を上げて驚くクラインさんの背中をキリトさんは押す。

 

「ほら、背中に乗れっつてるよ」

 

「お、俺、祖父ちゃんの遺言でアメ車と空飛ぶ像には乗るなって言われててよぉ」

 

「こないだダイシ―・カフェで祖父ちゃんの手作りって干し柿くれただろ!うまかったからまた下さい!」

 

背中をもうひと押しして、クラインさんはおっかなびっくりと、トンキーの背中に移る。

 

次に、度胸のあるシノンさんとアヤメさんが乗り、リズさんがどっこいしょと言って続き、アルブスがそれを注意して乗る。

 

リーファさんとアスナさんは慣れているらしくぴょーんと飛び乗る。

 

「あ、しまった」

 

「どうしました?」

 

「いや、トンキーに人数制限あるの忘れてた」

 

え?あるの?

 

「何人まで乗れるんですか?」

 

「最大八人」

 

ってことは、二人は乗れないってことか。

 

「仕方がないし、ここは往復する形で分けて乗るか」

 

キリトさんが無難な考えを提案するが、シリカがそれを遮る。

 

「大丈夫です。あたしにイイ考えありますから」

 

そう言ってシリカはピナに呪文を掛ける。

 

すると、小竜のピナは大きくなり、トンキーと同じ大きさのある翼竜になる。

 

「あたしとレインはピナで行きますから」

 

「いいのか?MPの消費もかなりあるだろ」

 

「それも大丈夫です」

 

そう言うとシリカは右手に填めた指輪を見せる。

 

それは、数か月前に俺とクリアしたクエストの報酬の指輪だった。

 

そのクエストとはマリッジクエストのことだ。

 

旧アインクラッドでの報酬は、《誓いの指輪》で、ダメージを同じ指輪を付けたプレイヤーとダメージを分けることの出来るものだった。

 

新アインクラッドでは、報酬が《秘術の指輪》になっており、MPの消費量軽減とMP回復のダブル効果付になっていた。

 

無論、俺もこの指輪を装備している。

 

これのお陰で大量にMPを消費する変異魔法も燃費良く使えるし、僅かではあるが十秒ごとにMPも回復する。

 

いいアイテムだ。

 

「そうか、なら大丈夫だな」

 

キリトさんも納得し、トンキーの背中に飛び乗る。

 

俺とシリカも成長したピナの背に跨る。

 

「よぉし、トンキー。ダンジョンの入口までお願い」

 

リーファさんが叫ぶとトンキーは一鳴きし、ダンジョンの入口を目指し飛ぶ。

 

その後に続き、俺たちも移動する。

 

「ねぇ、これ落っこちたらどうなるのかな?」

 

リズさんが身を乗り出し下を覗きながら質問する。

 

「そのうち、そこにいる、昔アインクラッドの外周の柱から次の層に行こうとして、落っこちた人が試してくれるよ」

 

アスナさんは後ろに居るキリトさんを見ながら言う。

 

「落下ならネコ科動物の方が向いてるんじゃないか?」

 

キリトさんが俺とシリカ、シノンさんを見ながら言ってくるので、俺達三人は首を横に振って否定する。

 

すると、行き成りトンキーが急降下し、全員が下に猛スピードで落下していく。

 

シリカは慌ててピナに指示し、下に降りる。

 

トンキーに追いつき、同じ高度を保つ。

 

「お、お兄ちゃん!あれ!」

 

リーファさんが大声を上げて、指を指す。

 

指差した方を見ると、そこには三十人程のレイドパーティーがトンキーと同じ種族の動物型邪神を襲っていた。

 

それだけなら、普通の邪神狩りパーティーなのだが、その光景に俺達全員が驚愕した。

 

何故なら、人型邪神と一緒に動物型邪神を襲っていたからだ。

 

人型邪神が持っていた鈍器みたいな剣で動物型邪神の外郭を叩き割り、プレイヤー達が魔法や矢、ソードスキルを放つ。

 

「あれは……どうなってるの?」

 

アスナさんが喘ぐように囁いた。

 

「あのパーティーの中に邪神のテイムに成功したやつでもいるのか?」

 

「それはありえません。邪神級モンスターのテイム成功率はケットシーのマスターテイマーが専用装備でフルブーストしても0パーセントです」

 

アヤメさんの疑問にシリカが首を振って否定する。

 

「ってことはつまり、あれは………《便乗》してるってのか?」

 

「そんな都合よくモンスターの憎悪値を管理できるかよ」

 

クラインさんの推理にアルブスは冷静に疑問を唱える。

 

それと同時に、動物型邪神が倒され、ポリゴンになって消える。

 

そして、俺たちはまた驚愕した。

 

人型邪神はプレイヤーを襲うことなくそのままプレイヤー達と移動したからだ。

 

「ど、どうして戦闘にならないんだ!?」

 

キリトさんが全員が思ったことを言う。

 

「あれ!」

 

リーファさんが更に指差す先には、別の人型邪神と別のレイドパーティーが別の動物型邪神を襲っていた。

 

「もしかして、ヨツンヘイムで見つかった新しいスローター系クエストってこれ?人型邪神と協力して、動物型邪神を殲滅する、みたいな」

 

リズさんの言葉に全員が息を呑む。

 

すると、俺たちの後ろで眩い光が輝き、その光が凝縮して人型になった。

 

そして、現れたのはローブふうの長い衣装に足元まである長い金髪、そして、三メートルはある身の丈の女性だった。

 

「私は湖の女王《ウルズ》。我が眷属と契りを結びし妖精たちよ。私と二人の妹から一つの請願があります。どうか、この国を《霜の巨人族》の攻撃から救ってほしい」

 

「お兄ちゃん、あの女の人NPCだよ。でも、固定応答モジュールじゃなくって、コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続しているみたいなの」

 

「てことは、AI化してるってことか」

 

ユウナの言葉に納得し、ウルズの話を聞く。

 

ウルズが言うには、かつて《ヨツンヘイム》は《アルヴヘイム》と同じく、世界樹イグドラシルの恩寵を受け、豊かな自然に囲まれた土地だったという。

 

中央大空洞と呼ばれる大穴も、本来は煌く透明な水によって満たされた泉であり、天蓋からぶら下がっているだけの世界樹の根も、泉に達して全方向に広がっているほどであった。

 

水面から広がる太い根の上には丸太で組まれた街が存在しており、地上のアルンに似た風景だ。

 

だが、そんな時ある奴が現れた。

 

ヨツンヘイムの更なる下層に存在する《ニブルヘイム》、その地を支配する霜の巨人族の王《スリュム》はその身を狼に変えてこの地に潜り込み、鍛冶の神《ヴェルンド》が鍛えた“全ての鉄と木を断つ剣”である《聖剣エクスキャリバー》をウルズの泉に投げ入れ、世界樹の根を断ち切った。

 

そのためこの世界の恩寵は失われたそうだ。

 

世界樹の根は天蓋へと上り、木の葉は落ち、草は枯れ、雪と氷に覆われ、根は巨大な氷塊を付着させたまま、天蓋に突き刺さった。

 

その後、霜の巨人族はニブルヘイムからヨツンヘイムへと進撃し、丘の巨人族動を捕らえ、大氷塊に居城《スリュムヘイム》を築きあげた。

 

更に全ての丘の巨人族が滅びれば、ウルズの力は消滅し、スリュムヘイムをアルヴヘイムにぶつかるという。

 

「そんなことしたら、アルンの街がぶっ壊れちまうだろうが!」

 

クラインさんが憤慨し叫ぶと、ウルズは頷く。

 

「彼奴の目的は、アルヴヘイムを氷雪に閉ざし、イグドラシルの梢に攻め込み、そこに実るという『黄金の林檎』を手に入れることです」

 

確か、世界樹の天辺に近いエリアにやたら強いオオワシのMobに守られてるエリアがあったな。

 

もしかして、そこにあるのか?

 

そう思いながら、再びウルズの話に耳を傾ける。

 

丘の巨人族を中々殲滅できないことにいらだったスリュムと霜巨人の将軍は、とうとう俺達プレイヤーの力を借りる手段に出た。

 

エクスキャリバーを与えるという報酬を餌に。

 

 

だが実際の報酬はヴェルンドが作ったエクスキャリバーそっくりの強力な失敗作、《偽剣カリバーン》を与えるつもりらしい。

 

「ですが、彼は一つ過ちを犯しました。妖精の戦士たちに協力させるため配下の巨人族を殆どスリュムヘイム地上に下ろしたのです。現在奴の居城であるスリュムヘイムの護りは薄くなっています。いまこの時が好機と言えるでしょう。妖精達よ、彼の居城の『要の台座』より、エクスキャリバーを引き抜いてください」

 

そして、俺たちは《氷宮の剣聖》というクエストが始まった。

 

 

 

 

「なんだが、すごいことになってきたね」

 

ウルズが消え、俺たちは再び、上昇しダンジョンを目指す中、トンキーの背中でアスナさんが呟く。

 

「これって普通のクエスト……なんだよね?でも、その割には大掛かりすぎるっていうか、動物型の邪神を殲滅すると今度は地上までも霜巨人に占領されるとか言ってなかった?」

 

「確かに言ってたな」

 

「だが、運営側が告知も無しにこんなことするか?普通なら最低でも一週間前には予告するだろ」

 

シノンさん、アヤメさん、アルブスの順に話、アルブスの意見に全員が頷く。

 

「あの、これは百パーセントの確度はないんですが、ALOは他の《ザ・シード》規格VRMMOと大きく異なる点が一つあります。それは、ゲームを動かしてる《カーディナル・システム》が機能縮小版ではなく旧SAOに使われていたフルスペック版の複製だと言うことです」

 

「本来のカーディナル・システムには、シュリンク版で削られた機能が幾つかあって、その内の一つに《クエスト自動生成機能》ってのがあるの。ネットワークを介して、世界各地の伝承を集めて、それらの固有名詞やストーリー・パターンを利用・翻案して、クエストを無限にジェネレートし続けるの」

 

「てことは、俺たちが散々やってたクエは、全部システムが自動で作ってたってことか?」

 

「どおりで多すぎると思ったのよ。75層時点で、情報屋のクエスト・データベースに乗ってるだけでも一万個を超えてたもの」

 

ユイちゃんとユウナの説明にアヤメさんとアスナさんが納得した声を上げる。

 

「ってことは、このクエストも自動生成されたものってことか?」

 

「その可能性はあります」

 

キリトさんの質問にユイちゃんは険しい顔で答える

 

「つまり、ストーリーの展開次第では、本当に有り得るのか……」

 

「それだけじゃないよ、お兄ちゃん」

 

今度はユウナも険しい顔になる。

 

「ALOの原形になってる北欧神話には、《最終戦争》も含まれてるの。ヨツンヘイムやニブルヘイムから霜の巨人族が進行してくるだけじゃなく、《ムスペルヘイム》って言う灼熱の世界から灼熱の巨人族までも現れて、世界樹を焼き尽くすかも………」

 

「いくらなんでも、ゲームシステムが、自分の管理してるマップを丸ごと崩壊させるようなことできるはずが……!」

 

リーファさんがもっともなことを言うが、ユイちゃんとユウナは首を左右に振る。

 

「オリジナルのカーディナル・システムにはワールドマップを全て破壊し尽くす権限があるの」

 

「なぜなら、旧カーディナルの最後の任務は、浮遊城アインクラッドの崩壊させることだったのですから」

 

今度こそ、俺たちは呆然と黙り込んだ。

 

「仮に《ラグナログ》が起きても、それが運営側の意図せざる展開なら《巻き戻す》ことは可能なんじゃないのか?」

 

《巻き戻す》とは、バックアップ。データを使い現状を上書きすることだ。

 

確かにそれをすれば、最悪の事態は回避できるんじゃ……

 

そう思いユウナを見るが、ユウナは頷かなかった。

 

「運営が手動で全データのバックアップを取って、物理的に分割されたメディアに保管していれば可能だよ」

 

「ですが、カーディナルの自動バックアップ機能を利用していた場合、設定次第では、巻き戻せるのはプレイヤーデータだけで、フィールドは含まれないかもしれません」

 

再び全員が黙るとクラインさんが「そうじゃん!」と叫び、ウインドウを開くがすぐに「ダメじゃん!」と頭を抱える。

 

「なんのコントよ」

 

「いや、GM呼んで、この状況知ってんのか聞こうと思ったんだけどよぉ。人力サポート時間外でやんの……」

 

「年末の、日曜の、午前中だからな」

 

キリトさんは溜息を吐き、上を仰ぎ見る。

 

俺もそれに倣い仰ぎ見る。

 

もし、スリュムヘイムが突き抜けたら、アルンの街は大騒ぎどころの騒ぎじゃすまない。

 

「こうなったら、やるしかないよ」

 

リーファさんは右手にぶら下げたメダリオンを高くかざす。

 

ウルズから渡されたそれには、綺麗にカットされた宝石が埋め込まれてるが、カット面の六割が黒くなって光を反射していない。

 

この石が全て黒く染まった時、動物型邪神は殲滅され、ウルズの力も完全に消滅したことを示すそうだ。

 

そして、その時こそ、《スリュム》と霜の巨人族の侵攻が開始される。

 

「……そうだな。元々今日は、あの城に殴り込んで《エクスキャリバー》をゲットするためだったんだ。護りが薄いってのは願ったり叶ったりだ!」

 

そう言ってキリトさんはウインドウを操作し、リズさんが制作した剣と交差させて、新アインクラッドの15層のボスドロップした剣を装備する。

 

「オッシャ!今年最後の大クエストだ!ばしーんと決めて、明日のMトモの一面飾ってやろうぜ!」

 

クラインさんが腰の刀を抜き、叫ぶ。

 

『おお――!』

 

それに合わせ、俺たちも叫ぶ。

 

ダンジョンの入口のある氷のテラスに降り、それぞれ武器を構える。

 

前衛に俺、キリトさん、クラインさん、リーファさん、アルブス。

 

中衛にシリカ、リズさん、アヤメさん。

 

後衛にアスナさん、シノンさん。

 

こういったフォーメーションを素早く組む。

 

「皆、行くぞ!」

 

『おお―――!』

 

さっきよりも大声を上げ、キリトさんを先頭に、全員氷の床を蹴り飛ばし、巨城《スリュムヘイム》に突入した。

 

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