黒色のミノタウロス型の邪神を倒すと、クラインさんは俺とキリトさんの方を向く。
「キリト、先のはなんだ!?レインもあの技は何だよ!?あんな技、刀にも両手剣にもねぇぞ」
「…言わなきゃダメか?」
「当たり前だ」
「システム外スキル《スキルコネクト》だよ」
「OSSの《百鬼乱戦桜花》です」
OSS(オリジナルソードスキル)とは五月に《ソードスキル》が実装された時に当時にアップデートされたものだ。
名前の通り、独自に剣技を作ることが出来る。
これが導入された直後様々な人が開発に挑戦して挫折を味わった。
登録自体は簡単なもので、ウインドウから剣技記録モードに入って記録開始ボタンを押す。
後は剣を振り回し、技が終わった所で登録終了をする。
だが、OSSをシステムに認めてもらうにはいくつか厳しい条件がある。
斬撃や刺突の単発技はほぼすべてのバリエーションが既存のソードスキルとして登録されてるので必然的にOSSは連続技でないといけない。
それに、重心移動や攻撃軌道に無理が僅かにあってもいけない。
止めに登録するときのスピードは完全版ソードスキルに迫るものでないといけない。
システムアシストなしに実現不可能な速度の剣技を実行するという矛盾と言ってもいいほどだ。
そのハードルをクリアするには反復練習しかない。
一連の動きを脳に刻み込むように何度も何度も繰り返し、反復する。
この地味な作業に耐え切れず殆どのプレイヤーはOSSの登録を諦めた。
中にはOSSの開発・登録に成功した人もいるが………
「OSSって、今の技、十一連撃あったよな。よく開発できたな」
アルブスがそう言ってきたので俺は肩に乗ったフィーを指差す。
「フィーのお陰だ。こいつの持つ特殊スキルのお陰で開発に成功したんだよ」
フィーがもつ特殊スキル《時忘れ》。
この技は一時的にプレイヤーの敏捷値を四十パーセント上げることのできる技だ。
これを使い、さらに敏捷値を一時的にあげるアイテムも使用して、俺はほんの一瞬だけ、ALO最速の地位を手に入れた。
時を忘れる程の速さ、故に《時忘れ》なんだと思う。
だが、《時忘れ》は発動してる間のみ、敏捷値があがるので、常に発動してないといけない。
さらに、MPの消費も桁違いで、発動時間はせいぜい10秒が限界。
おまけに使った後は、得体のしれない気持ち悪さと立ちくらみ、眩暈などがする。
おかげでOSSを登録した後、三日ほどALOにログインできなかった。
ログインしようとすると、気分が悪くなってすぐに脳波異常で、自動カットアウトを起こしたし。
「ま、とにかく詳しい話は後だ。今は先を進もう」
キリトさんの指示により、俺たちは第三層を目指して降りる。
第三層のボスは単眼巨人やミノタウロスの二倍ほどの身長にムカデのような脚が十本、攻撃力もかなり高い邪神だった。
タゲを取っていた俺とキリトさん、クラインさん、アルブスは何度もHPがレッドになり、いつ死んでもおかしくない状況に胃を痛めながら戦闘を九分間続けた。
シリカ、リズさん、シノンさん、リーファさんが頑張って巨人の足を一本一本斬り落として、最後は動けなくなったところをキリトさんの《スキルコネクト》と俺のOSSで仕留めた。
そのまま一気に第四層にまで雪崩込み、ボス部屋の奥の通路に踏み込んだ瞬間、あるものを見つけた。
それは、細長い氷柱で作られた檻だった。
その中には一人の女性がいた。
身長はアスナさんと同じぐらい、肌は、俺みたいなアルビノの白ではなく粉雪のように白く美しい、長く流れる深いブラウン・ゴールドの髪、そして体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸部のボリュー…イテテテテテテ!
シリカが行き成り俺の頬を引っ張りだした。
「何すんだよ、シリカ!」
「今、あの人に鼻の下伸ばしてたでしょ!」
「お兄ちゃん!浮気は駄目だよ!」
「の、伸ばしてなんかない!」
「じゃあ、あの人の何処見てたのよ!」
シリカは俺があの女性の胸を凝視したことが許せないらしい。
ユウナにも怒られた。
「アヤメ、正直に答えて。今、私とあの女の何処を見て比、何を比べたか答えて」
「し、シノン。頼むからその矢を俺に向けないでくれ」
「な、なんだよ?」
「べっつに~。アルブスが何処の誰に鼻の下をだらしなく伸ばしてようが私には関係ないもん」
あっちはあっちで、俺と同様に彼女(アルブスはまだだが)に怒られてる。
「お願い。私を………此処から出して」
女性が、か細い声で助けを求めると、クラインさんは、フラフラと近づいていた。
そんなクラインさんのバンダナの尻尾をキリトさんは掴み止める。
「罠だ」
「罠だよ」
「罠だと思う」
キリトさん、アスナさん、リーファさんがそう言う。
「お、おう。罠だよな………罠、かな?」
往生際の悪いクラインさんを見て、キリトさんがユイちゃんに尋ねる。
「NPCです。ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。ですが、この人はHPゲージを持っています」
「HPがあるってことは戦闘になるかもしれないってことだよな」
「罠ですね」
「罠ですよ」
「罠ね」
「罠だろ」
「罠だね」
「罠だな」
シリカ、俺、リズさん、アルブス、シノンさん、アヤメさんの順に言う。
「もちろん罠だとは言い切れないが、今は寄り道してる暇はないんだ。一刻も早くスリュムの所に辿り着かないと」
ちなみにスリュムとは動物型邪神を狩り尽したら報酬にエクスキャリバーを与えると言ったNPCでキリトさん曰く、こいつがラスボスだとの予想だ。
「お、おう、うむ、まぁ、そうだよな、うん」
クラインさんは小刻みに頷き、氷の檻から視線を外す。
そのまま、奥に見える階段へと足を走らせると後ろからまた声が聞こえた。
「お願い……誰か」
正直、助けてあげたい。
それは俺だけじゃなく、此処にいる皆がそう思ってるはずだ。
もしこれが通常のクエストなら助けて、一緒に連れて行き、最終局面で、「愚か者共め!」みたいな展開になってもまた楽しいのだろうが、今は、そんなリスクを背負う暇はない。
そう思ってると、急にクラインさんが足を止める。
それに気づき、全員が後ろを向く。
「罠だよな、罠だ、解かってる。でも、罠でもよ……それでも俺は……あの人をここに置いていけねぇ!例え、それでクエが失敗して……アルンが崩壊しちまったとしても……それでもここで助けるのが、俺の生き様……武士道って奴なんだよ!」
そう叫ぶとクラインさんは氷の檻に向かって走り出す。
その時、俺の中で二つの感情があった。
クラインさん、アホだ。
と
クラインさん、カッコいい。
の、二つだ。
どちらが上回っていたかは、俺でもわからないが、確かにこの二つの感情があるのは確かだ。
「今、助けてやっかんな!」
そう言ってクラインさんは氷の檻を刀で破壊する。
「……ありがとう。妖精の剣士様」
「立てるかい?怪我はねえか?」
クラインさんは完全にこのストーリーに《入り込んで》いる。
まぁ、こういったゲームではよくあることだし、俺もたまに感情移入することもあるしな。
「出口までちょっと遠いけど、一人で帰れるかい、姉さん?」
クラインさんがそう問うと、女性は目を伏せて沈黙した。
「私はこのまま城から逃げ出す訳にいきません。巨人の王スリュムに奪われた我が一族の秘宝を取り戻すために忍び込んだのですが、三番目の門番に見つかり捕えられてしまいました。宝を取り返さずして戻ることはできません。どうか、私を一緒にスリュムの部屋に連れて行っていただけませんか?」
「お……う……む」
クラインさんはこればかりは決められないらしく首をひねった。
「なんかキナくさい展開だね」
「だなぁ」
アスナさんとキリトさんが呟く。
「こうなりゃ、自棄だ。連れて行こう」
「百パーセント罠だと決まったわけじゃないし、このままこの分岐で行くしかないだろ」
「それに、案外連れて行ったら重要な人物だったなんてありえますしね」
アルブス、アヤメさん、俺の順でこの女性を連れて行くことに賛同した。
このままここで時間を浪費するもの無駄だしな。
でも、背後のシリカとユウナの視線が痛い。
アルブスとアヤメさんも同じらしく、リズさんとシノンさんの視線を感じてる。
「よっしゃ!引き受けたぜ姉さん!袖すり合うも一蓮托生!一緒にスリュムの野郎をぶっ倒しちまおうぜ!」
「ありがとうございます、剣士様!」
そう言って女性はクラインさんに抱き付く。
「ユイに変なことわざ聞かさせるなよー」
キリトさんはそう言って現れたダイアログウインドウのイエスのボタンを押す。
そして、俺たちのパーティーの十一人目のメンバーが追加された。
名前は、フレイヤか。
HPとMPが高いな。
とくにMPが驚くほどの数値だ。
メイジ型でこの先も味方なら心強いんだがな。
「ダンジョンの構造からして、あの階段下りたら多分すぐラスボスの部屋だ。いままでのボスより更に強いだろうけど、あとはもう小細工抜きでぶつかってみるしかない。序盤は、攻撃パターンが摑めるまで防御主体、反撃のタイミングは指示する。ボスのゲージが黄色くなるとこと赤くなるとこでパターン変わるだろうから注意してくれ」
全員が頷くのを買うにんするとキリトさんは語気を強めて叫んだ。
「ラストバトル、全開でぶっ飛ばそうぜ!」
『おー!』
三回目の気合に、キリトさんの頭上に居るユイちゃん、俺の肩にいるフィー、シリカの頭上と肩に居るユウナとピナも声を上げ、フレイアさんまでもが唱和してくれた。