邪神たちと問題児たちが異世界から来るそうですよ?(仮) 作:一瀬 宮斗
プロローグ
五月晴れだった。
川辺に薫る初夏の気配を感じながら、
「あ、黒点発見。やっぱり太陽が氷河期に入り始めてるってのは本当なのかね」
"天は俺の上に人を創らず"が座右の銘の彼は寒冷より温暖化を推進したいらしい。
「何か面白い事ねえかなぁ………」
ヘッドホンをはずすと川辺の向こうで、不良の集団の声が聞こえた。中心には彼らが集団で暴行を加えた少年が泣き寝入りで土下座させられている。
「おいヤベえって。コイツマジ泣きしてるぜ。汚ねえから川に突っ込んで洗濯すっか?」
「どうせなら全裸で跳び込ませようぜ。両手両足縛ってよ」
「ひっ………!」
少年はガクガクと震えながら達磨のようにしゃがみこむ。逆廻十六夜はゆっくりと上体を起こし、数十m先で殴る蹴るを続けていた彼らへ話しかけた。
「………あー暇。超暇。暇が売れたらひと稼ぎ出来る自信があるね。どうだい、そこの頭悪そうな戯け共。娯楽を提供してくれたらもれなく暇という名の長期入院休暇をプレゼンするぜ」
「オラ、さっさと脱いで川に飛び込めよ」
「やっぱり両手くらい縛ろうぜ。足があったら死なねえって」
「助けて………助けて………助けて………!」
逆廻十六夜に対する反応はない。当然だろう。
叫んだわけでは無く、まるで隣いるかのような声音で話しかけたのだ。
逆廻十六夜の声が彼らに届くはずもなく、言葉は風にまかれて消えた。
「……………」
十六夜は無言で立ち上がる。
川辺で手ごろな石を二、三個拾い上げると、今度は盛大に叫び声をあげて石を投げ、
「俺も混ぜろやゴラァァァァァ!!」
読んで字の如く、石は第三宇宙速度に匹敵する馬鹿げた速度を叩きだし、轟音と共に粉塵を巻き上げて不良と少年を川辺ごと吹き飛ばした。
「ぎゃあああ!」
「さ、逆廻十六夜だ!!全員逃げろッ!!」
「た、助け―――」
「オラオラ、ドンドン投げ込むぞ!」
ヤハハと豪快な笑い声と共に打ち込まれる投石がクレーターを生み出す様は、さながら爆撃である。その一方的な光景に苛めていた不良も苛められていた少年も、同様に恐怖して逃げ出した。
誤解のないようにいうならば、逆廻十六夜は少年を助ける為に一石投じたわけではない。
"強きを挫き、弱きも挫く"というのもまた、逆廻十六夜の座右の銘の一つというだけだ。
「ハハ、だらしねえだらしねえ!気合いが入ってるのは格好だけかよ!」
逆廻十六夜は腹を抱えて全員の逃げる様子を笑い飛ばした。
周囲の音はその笑い声だけだ。人の気配は一切なく、十六夜の笑い声が消えると同時に、一帯には閑散とした空気が立ちこめる。
静まりかえる川辺に人の気配は一切ない。彼と同じ年頃の少年少女は今頃、学校で昼食を取っている頃だろう。逆廻十六夜は無言のまま立ちつくし、
「………。つまんね」
本音を、心の底から吐き捨てるように吐露した。
虚しさをため息と共に吐き出した逆廻十六夜は、鞄を拾って川辺に背を向ける。
「………ん?」
ヒュウ、と。足を踏み出すと同時に横薙ぎの強風が吹いた。風とともに舞った一枚の封書が不自然な軌道を描き、鞄の隙間を縫うようにしてヒラヒラと投書される。
「………なんだ、今の」
不可解な軌跡を描いた封書を手に取る。
封書には達筆でこう書かれていた。『逆廻十六夜殿へ』と。
* * * * *
ミンミンミンと、蝉時雨の音が五月蝿い庭に対して、
「鬱陶しいわ、黙りなさい!!」
ピタリ。蝉たちは示し合わせたように黙り込んだ。久遠家のお嬢様の一喝は求愛行動よりも優先されるらしい。しかし日本で五指に入る大財閥なのに、廊下の空調が行き届いてないのはどういうことか。自室に飛び込み、カシャリと鍵を閉めたのを確認して、ベッドの上に身を投げ出す。するとはずみでベッドが大きく上下に揺れた。
しかし物足りなかったのだろう。もう一度身体を捻らせるようにして大きくバウンドさせた。
「財閥解体にともなう親族会議?そんなものの為に日本の端の端まで呼び出されるとは思いもよらなかったわ」
数か月に亘って続けられた親族会議に決着をつけるべく、久遠飛鳥は本家御当主殿の前に引きずり出された。財閥の後ろ盾を、齢十五になったばかりの小娘に『どうにかしてくれ』と泣きついてきた親族たちには呆れてものも言えない。
呆れ果てたまま当主の屋敷にまで足を運んだ久遠飛鳥は当主に向かって一言、
「四の五の言わず、速やかに財閥の解体に協力してください」
「分かった」
二の句はない。本当に十秒と掛からぬ話し合いだった。それは最早会議でも何でもない。
久遠飛鳥は決着がつくや否や踵を返して屋敷を後にした。この展開を期待していた親族たちも、目と耳を疑うやり取りにポカンと口を開けて見送るだけだった。
―――親族曰く、久遠家の御令嬢が口にした言葉は絶対になる。
別に掟や決まりがある訳ではなく、ただ彼女が口にした事は絶対にそのとおりになるのだ。強力な暗示や催眠、洗脳とも言われているが、久遠飛鳥にそんな自覚はない。
「………くだらない。あの大爺様でさえこれよ。ホントに笑えるわ」
久遠飛鳥はうつぶせのままベッドシートを強く握りしめる。
久遠飛鳥は、無味な人間関係に飽き飽きしていた。
「………暑い。何でこう蒸しっとしているのかしら」
正装は猛暑の最大の障害だ。髪留めのリボン以外全て取り払ってしまおうか。
ふっと久遠飛鳥の目線が泳いだ先の机の上に、不審な封書が置いてあることに気づく。
封書にはこう書かれていた。『久遠飛鳥殿へ』と。
「……………?」
飛鳥は首を傾げた。そしてすかさずドアに、窓に、隠し扉の緊急避難路に目をやる。どれも閉じた状態で使われた形跡はない。その時、ドアをノックする音とメイドの声が響いた。
「飛鳥お嬢様。冷たいお飲み物を―――」
「ねえ貴女。つかぬことを聞くけど、私がいない間に誰か部屋に入った?」
「?この部屋の鍵はお嬢様の持つ鍵しかありませんから、誰も出入りは出来ません」
「そう………そうよね。いいわ、下がって」
メイドは一礼して部屋を出る。久遠飛鳥は再度部屋の出入り可能な場所を詳しく調べたが、使われた痕跡は一切見られなかった。
「………。ふふ。どなたか知りませんが、密室殺人ならぬ密室投書とは気に入りました」
猛暑も忘れ、久方ぶりの笑みを浮かべる。久遠飛鳥は嬉々として封を切った。
* * * * *
秋霖が過ぎ去り、季節は紅葉前線に差しかかる。葉の色彩が褪せぬ間に見に行こうと自室で着物を着こみ、準備を進めていた
『た、大変や耀のお嬢ちゃん!空からお嬢に宛てた手紙が!』
「………空から?」
先に断っておくが、怪猫の類ではない。特別なのは猫ではなく春日部耀のほうである。
三毛猫は春日部耀の肩に飛び乗るように手紙を押しつける。
『勘違いしないでくだせえお嬢!ワシは一言も嘘は言っとりません!ホントに御天道様からヒラヒラと降ってきたんや!』
言い訳のように言葉を重ねる三毛猫の頭を軽く撫でてやり、猫を持ち上げて微笑んだ。
「信じてる。嘘じゃない」
幼くも端正な笑顔で返す。三毛猫は落ち着きを取り戻したのか、今度は封書の中身が気になって仕方がないと、瞳を爛々と輝かせ始めた。
『お嬢、早く開けて下せえ。好奇心の余りストレスで禿げちまう』
「うん。帰ってきたらね」
春日部耀は封書と三毛猫を一度置き、着物を着る作業に戻る。しかし好奇心旺盛な猫にはそれが我慢ならなかった。もう一度爪を立ててよじ登ると、
『おーじょーうー!早く読んでおくんなせえ!こんな着物なんて後にして―――』
ビリ。そんな嫌な音。
恐る恐る袖の下に目をやると、着物の脇から足先までが醜く裂けていた。
「…………………………………………………………………………………………………、」
『お、お嬢………!』
無言のまま打ちひしがれる。柄に紅葉をあしらった朱色の振袖は、春日部耀のお気に入りの一着でもある。季節ものでもある為、この時季に着なければ来年まで着る機会が無い。
しかしこの裂け具合を見るに一日二日で修繕可能とは思えない。
………本当に残念だ。なんと口にすればいいのか分からなかった。
『お、お嬢………ワ、ワシ……!』
「いいよ、別に。破れた物はしかたがない」
一度だけため息を吐いてから、三毛猫に苦笑する。春日部耀は近くに置いてあった私服に着替える。スリーブレスのジャケットとショートパンツを着込み、着物に合わせた髪留めを外し、三毛猫が持ってきた手紙の封を切った。
『なんて書いてあるんです?』
「……………」
空から降ってきた手紙の封を切り、長いこと沈黙する。
好奇心旺盛な三毛猫は春日部耀の肩に乗り、その文章を読んだ。
* * * * *
吐く息も白くなってきた頃のそこらの一般家庭となんら変わりのない家の居間―――
「あ、
「ニャル子、私にも。あー………」
「何で私があんたなんかに渡さなきゃなんないんですか!あんたは自腹で一人で買いに行って帰って来るな!」
「ま、真尋くん!く、口を開けて!あーん………」
「させませんよハス太くん!てかあんた男でしょうが!ああ、クー子近づくなくっつくなうざったらしい!」
「………少年。ニャル子が虐める………。慰めて」
「真尋くんとは男どうしだけど、愛さえあれば関係ないよねっ!」
「……………」
―――訂正させてもらう。一般家庭とどう見ても違う居間で少々中性的な顔立ちの少年――
「真尋さん、助けて下さい!このままだと貴方の最愛の人である私ことニャル子がクー子の手によって処女を奪われてしまいますよ………ってあれ?真尋さん?何で階段のほうに向かってるんですか?何で階段登ってるんですか?何で部屋のドアを開ける音がしたんですか!?ちょっ!鍵をかける音まで!?真尋さー……」
パタン。ガチャッ。僕は何も見なかった、これで良かったのだ。
「………ん?」
部屋を見やると、ベッドの上の方に封書が置いてある。
「どうしたんですか、真尋さん」
「いや、ニャル子。お前らって僕宛てに手紙とか書いたか?」
「いえ、私もクー子もハス太くんも書いてなかったと思いますよ?」
「そうか………、ところで鍵は?」
「こじ開けました(ドヤァ」
八坂真尋はどこからかフォークを取り出しモノクロの服を着込んだ美少女――ニャル子の頭に0フレームノーラグで突き刺す。
「ギャンッ!?何をするんですか真尋さん!」
「ニャル子、この封書何かわかるか?僕には厄介事の匂いがすることしかわからない」
「へっ?むむぅ…これは………」
ニャル子は少しの間黙り込み、何故か唾の部分を弾くと刃が出てきそうな帽子を被り、
「こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!こんな悪には出会ったことがねえほどになァーーーッ」
「御託はいいからさっさと話せ、刺すぞ」
「アッハイ。ええっとですね、おそらくこれは異世界へと召喚するための媒体だと思われますね」
「はあ?」
八坂真尋はもう一度封書を見る。厄介事の匂いがする以外になんの変哲もないような封書である。しかし、ニャル子の正体を考えると嘘とも考えにくい。
ここで八坂真尋は考えた。もし、この封書を開けた時のメリットを―――
メリット①ニャル子たちともう会わなくていい。
―――なるほど。
「よし、開けよう」
「ちょっ!真尋さん!?戻れないかもなんですよ!!?」
胃薬を飲まなくてはならない毎日から逃げれるのなら異世界に行った方がいいだろう。
怪しい封書の封を切り、手紙の内容を読む。後ろの方が騒がしいが無視する。手紙の内容は―――
* * * * *
「あー行っちゃいましたか。真尋さん」
「………ニャル子、どうしたの」
「ニャル子ちゃん、声が下まで届いてたよ?」
「あー、いえ。真尋さんが異世界行きの封書をきっちゃいましてね」
「…ニャル子、これ。ハス太も」
「………ん?これさっきの封書じゃないですか、私たち宛になってますけど」
「これで私たちも少年について行ける」
「感謝はしますけど、どうやって手に入れたんです?コレ」
「
「………さいですか」
「あはは……、じゃあ開けちゃおっ、ねっ?」
「そうですね、待ってて下さいね真尋さん!ニャル子がすぐ行きますから!」
「…少年、覚えとくといい。魔王からは逃げられない」
異質な手紙の手に入れ方をした彼女たちも封を切り、手紙を読む………
* * * * *
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの"箱庭"に来られたし』
* * * * *
「わっ」
「きゃ!」
「わわっ」
「………」
「真尋さーん、来ましたよー!」
「な、何でお前らここに!!?」
七人の視界は間を置かずに開けた。
急転直下、彼らは上空4000mほどの位置で投げ出されたのだ。
落下に伴う圧力に苦しみながらも、三人は同様の感想を抱き、同様の言葉を口にした。
「ど、何処だここ!?」
眼前には見た事のない風景が広がっていた。
彼らの前に広がる世界は―――完全無欠に異世界だった。
「………またダメだったよ」
「やつは人の話を聞かないからな」
「おいばかやめろ」
面白くなかったですよね?そう思ったのなら貴方は正常な人間です。面白いと思ったのなら貴方のSAN値は減少していて不定の狂気に陥っているのでしょう。この先ずっとこのようなノリですので、期待はしないでください。もう一度言います、期待はしないでください。大切なことなので二回言いました。感想で受けが良かったら更新するかもしれません。但し、リアル学生なので、平日更新は困難かと思います。それでもよければこんな駄小説ですが、よろしくお願いします。