万物は、愛される権利がある。
総ての人や物、生物は尊いものであり、それを愛することは、自然なことなんだって。
わたしは、そう教えてもらった。お母さんに、お父さんに、色んな人に。『愛する』ということが、どれだけ素晴らしくて、どれだけ当たり前なのかということを。
だから、わたしは総てを愛することにした。文字の通り、総てを。
果てしない空を愛した。
地球の豊すぎる大地を愛した。
日々を生きる虫を愛した。
自然で溢れる緑を愛した。
輝きである太陽を愛した。
真っ暗な夜を愛した。
老若男女を愛した。
混沌と化している世の中を愛した。
それが当たり前で、素晴らしいことなんだから。
勿論、どれにも手を抜いたりしない。愛することは平等でなくちゃいけないんだから。それが普通だから。
そんなわたしを、周りはさらに愛してくれた。優しい子だと、とても良い子だと、色んな形で誉めてくれた。そこには確かに、愛があった。
わたしは愛し続けた。愛して、愛される。なんて良いことだろう。
愛には必ず、愛が返ってくる。何かを愛すれば、最終的にきっとわたしも愛される。
あぁ、こんな素晴らしいことを教えてもらえるなんて、わたしはなんて恵まれた家庭に生まれたんだろう!
だからあの日冷たくなってた両親のことも、わたしは愛した。今までと変わらず、愛を振り撒いた。
交通事故、だったらしい。事故の時にわたしは保育園にいて、二人でいるときに車に轢かれちゃったみたい。
だから、目を瞑った二人に会えたのは、お葬式のときだった。
久しぶりに会った両親、わたしは当然愛した。だって、二人はお父さんとお母さん。愛するのは当然だった。
すると、段々と周りから人がいなくなっていった。何故か誰も、前みたいな愛を向けてこなくなってしまった。
あれ、おかしいな。今まで通りちゃんと全部愛してるのに。ちゃんと言われた通りにやってるのに。
気味が悪いと言われた。
不気味だと言われた。
人じゃないと言われた。
全部愛した。なのに、さらにいなくなっていく。愛する度に、何故か消えていく。
まだまだ愛し足りないのに、それを伝える相手がいなくなっていく。少し、辛かった。その辛ささえも、愛した。
そして、気が付いた。足りないんだって。もっともっと愛さないといけないんだって。
愛する量も質も、足りなかったんだんだって。
愛も成長しなきゃいけなかったんだって。
だから広げて大きくした。
犯罪者を愛した。
炎上してる人を愛した。
愚痴を言ってる人を愛した。
その範囲をさらに広げて、質をぐんと上げた。
平等に、総てを愛した。
でも、まだ人はいない。きっと足りないからだ。だからさらに広げて、大きくし続けた。
これを続けていたら、いつの間にかわたしはある施設に入れられることになった。最初は理由は分からなかったけど、入れられてやっと気が付いた。
わたしに、ここの人たちを愛させるためだって。
ここの子たちは、誰も笑顔じゃなかった。
どこか荒れていた。ぎすぎすしていた。
愛に、飢えていた。
そんな彼ら彼女らと初めて会ったとき、いつの間にか、えくぼが出来ていた。
あぁ、やっと直接愛せる! 側にいる人たちを愛することができる!
しかも、小さい子からわたしよりも大きい子まで、様々な人を!
この日から、ここはわたしの楽園になった。
思う存分愛することが出来る。さらに前より多くの人を。
大人だろうが子どもだろうと、元からここに居ようと居まいと関係ない。わたしの近くにいるということは、わたしに直接愛される権利があるということなのだから。
遠くにいて直接愛せない人もいる。親戚の人やニュースで出てくるような人が良い例だ。勿論その人たちのこともここの子と同じように愛した。
確かに直接愛せるのは久しぶりではあったけど、だからといって贔屓していい理由にはならないから。
この子たちには、愛が足りなかった。わたしが注ぐ愛で、この場所が良くなっていく。愛を知っていく。
やっぱり、わたしは間違ってない。愛することこそ、わたしの生き甲斐なんだって!
そして、注がれた愛が返ってくる! 愛すれば愛される。やっぱり両親の言うことは正しかったんだ!
こんな調子で施設での生活を続けていって早数年、いつの間にかここはすっかり変わった。皆が笑顔でいられるようになってきたんだ。
それを見ると、ほっとすると同時に嬉しくなる。わたしの愛が、皆を変えることが出来たんだって。
年々、わたしは間違っていないんだという気持ちが正しくなっていく。だって、皆笑顔になったんだ。これが間違っているわけないもんね。
そんな時、施設に新しい子が入ってきた。
名前は『星野アイ』ちゃん。まだ愛を知らない子だった。
だからいつものように、その子を愛した。最初は戸惑っていたところもあったけど、続けていくとだんだんと受け入れてくれるようになって、お姉ちゃんと呼んでくれるくらいには愛で満たすことが出来た。
そして最終的には、皆と同じような笑顔になってくれるようになった。嘘なんかない、本心からの笑顔に。
また一人、愛することができた。わたしはここに居るのが向いているのかもしれない。
だけど、この世界には愛を知らない子がまだまだいると思う。だって規模の小さいこの辺りでさえ、こんなに愛されてない子たちでいっぱいだったんだから。
勿論そんな子たちもわたしは愛しているけど、ここの子たちにみたいに直接伝えないと本人には届かない。
つまり、愛するだけじゃなくて愛は届かせないと意味がないのかもしれないと、そんなことを思うようになってきた。
だから迷っていた。ここで生活をし続けるという道も確かにあるけど、その他に世界を巡って愛を伝え続けることもいいかもしれないと思ったから。
わたしは総てを平等に心から愛してる。だけどここに居続けたらそれはここにくる子にしか伝えられないんじゃないかって。
でもここにお世話になった恩もある。それにここに来る子は少なくない。もしわたしが離れたら、誰がその子を愛すればいいの?
心が二つある。どちらも根本は一緒。だけど拠点をどうするかって問題。
だから、色んな子に聞いてみた。端的に、どっちがいいと思うって。
結果は圧倒的に、ここに居てほしいってことだった。というか百パーセントそうだった。
特に大反対してきたのがアイちゃんだった。
これには少し驚いた。入ってきた頃に比べてここまで感情を表に出して必死になっているのは見たことなかったから。
それだけ、わたしの注いだ愛がこの子にあるということ。なんと喜ばしいことか。
どこかへ行こうと行くまいと愛することには変わらないんだけど、どうやらわたしはここにいるのが正解なのかもしれない。
そのため、わたしはここの一番上の人に「ここに居続けたい」旨を伝えた。
ここに来る子は成人、つまり18歳になると同時に基本的に退去になる。勿論いきなり追い出すとかじゃなくて、ちゃんとその辺りのフォローもしているみたいだけど。
それはわたしも例外じゃない。だから、高校卒業後に正式にここで働かせてもらえるようにお願いした。
ここで働くことが出来れば、引き続きここに来る子たちを愛することが出来るし、出て行ってしまった子たちの帰って来れる目印にもなる。所謂里帰り先として、ここに来る事も出来るということ。
そうなれば、今の子たちがいなくなってしまったとしても、帰ってきてくれた時にまた愛することが出来る。愛を伝えられる子が単純に増えるという事。
うん、なんと素晴らしい人生設計。隙が無さすぎる。
これを伝えた時、大学進学してから考えても遅くないと言われた。大学卒業後に本当にこれがやりたいなら止めないけど、まずは広い世界を知ってからでも遅くないんじゃないかと。
でも、わたしは大学進学をしないつもりでいた。だってそうでしょう? 大学在学中の4年間、その間にやってくる子を誰が愛するの? 現状でもまだまだ愛し足りてない子がいるのに、さらに期間を置くなんて考えられない。
そんな熱い思いを分かってくれたのか、わたしは晴れて卒業後にここで働くことが出来るようになった。
わたしが道を決めていったように、周りの子たちも次々自分たちの道を歩みだす準備を始めていた。ある子は公務員、ある子はサラリーマン、さらにある子はアイドルと、本当に様々。
ここを巣立つ準備をしているんだって考えると、少し寂しい。でも離れていても変わらず愛するし、たまに帰ってきたときや再会できたときに愛を伝えればいい。
もしかしたら助けを呼ばれたりもするかもしれないし、その時は行ってあげよう。その時は愛が足りなくなってきているのかもしれないから。
それに巣立てるのは、愛を知った証拠。愛されなかったひな鳥は、大人になる前に死んじゃうんだから。
この世界には愛が必要不可欠。愛がなければ、この世界も、宇宙も、人も、何もかもが成立しない。
だから、わたしは今日も総てを平等に大きく愛する。
それがわたしの──『大総あい』の生きる意味なんだから。
────
私、星野アイにとって、あの人はただ一人のお姉ちゃんだ。
お母さんに見放され、一人になってしまった私。『愛』が分からなくなった私。そんな私に、一から『本当の愛』を教えてくれた。
積極的に私に関わろうとしてくれた。考えてることをすぐに見抜いて、私を怖がらせないようにしてくれた。私のことを、『普通』まで戻そうとしてくれた。
行動も、言葉も、全てが本心からのものだった。お母さんのそれとはまるで違う。嘘も裏もない、ただ私を愛したいというだけの思い。
空っぽの器は、だんだんと満たされていった。世界が広くなっていった。全てお姉ちゃんがいてくれたから、実現出来たことだった。
だから、私は気が付いた。気が付いてしまったんだ。
──お姉ちゃんは、別に『私だけを愛しているわけじゃない』って。
視野を広げれた私の目に入ってきたのは、この世界に愛を向けるお姉ちゃんの姿。私を含めて、施設の他の子、さらには近所の子やお姉ちゃんの通う学校のクラスメートなんかにも、その愛を向けていた。
それも、『平等』に。誰に対してもおんなじくらいの愛だった。
だからといってその愛が小さいとかは感じなかった。むしろ私にとっては大きすぎるくらいにはあった。
でも、お姉ちゃんにとって私は愛する者の中の一人でしかない。だんだんと、この状況に満足出来なくなった。さらにある時から、こう思うようにもなっていた。
──『私だけを、愛してほしい』って。
その振りまいている愛を私だけに向けてほしい。私だけに構ってほしい。
だけど、お姉ちゃんには『特別』がない。縛るものがない。前にここを出て別のところに行こうとしてたくらいには、お姉ちゃんは自由だ。皆で説得してなんとかここに居続けてもらうようにしたけど、またいつお姉ちゃんがそう考えるか分からない。
私は怖い。何にも縛られない雲みたいなお姉ちゃんが、急にいなくなってしまうことが。お姉ちゃんの愛を感じられなくなることが。
だからお姉ちゃんの『特別』になりたい。今よりもっと愛されるためにも、お姉ちゃんを逃がさないためにも。
色々試した。お姉ちゃんといっぱいお話するとか、お姉ちゃんのやってることを手伝うとか、バレンタインでチョコを渡すとか、思いついたことは全部やった。
でも、お姉ちゃんには響かなかった。愛の量は変わらなかった。
振り出しに戻ってしまった。そんな時だった。佐藤社長? にアイドルにスカウトされたのは。
最初は断った。だって私は愛されたことはあっても、愛したことはないから。愛するという感覚が分からないから。
お姉ちゃんから『愛』は本心から伝えるものだって教えてもらった。嘘の愛は愛じゃないって。お母さんのやってたことは愛じゃなかったんだって。
それを全部伝えた。なのに、引かなかった。観客が求めてるのは綺麗な嘘だって。最初は嘘でもいつかは本当になるかもしれないって。
これには揺れた。形から入る。そんな方法もあるんだって。
そもそも、アイドルに興味がなかったわけじゃない。アイドルは愛して愛されるもの。アイドルになれば、お姉ちゃんみたいに愛せるようになるのかもしれないって思うから。そこを社長に見抜かれちゃって、さらに揺れた。
だけど、このままアイドルになっちゃえばお姉ちゃんの教えを裏切っちゃう。それが心残りだった。
でもそれを、佐藤社長のその次の言葉がかき消した。
『お前なら「特別」になれるんだ!』
──特別?
私が? 誰の?
詳しく話を聞いた。
佐藤社長は私ならトップアイドルになれると言った。誰もが目を奪われる、完璧で究極のアイドルに。
そうなれば、皆私しか見れなくなるって。
私は聞いた。
──お姉ちゃんも、私を『特別』にしてくれるかなと。
社長は答えた。当然だろ、と。
だから、私はアイドルになった。
全て自分のため。でも、それでもいいって社長は言った。
最初これをお姉ちゃんに言ったときは、期待してた反応とは違った。喜んでくれるし、応援もしてくれたんだけど、それは『特別』なものじゃなかった。
これを私は、まだ私が完璧で究極になれてないからだって思うようにした。今は始まったばっかりだから今までとおんなじなんだって。
これから私は、社長の言うようなアイドルになる。きっと大変かもしれない。もしかしたらきついことのほうが多いかも。
でも諦めるつもりはない。最後まで努力して、トップアイドルになってみせるよ。
そうすれば、お姉ちゃんの『唯一』になれるよね?
大総あい(オリ主)
愛することしか知らない少女。
全肯定両親に育てられてしまったため、愛の歯止めが効かなくなったまま今日に至る。
どんな人や物でも無条件で平等に愛することが出来る。
星野アイ
後の「一番星」。
アイドルになることで、"あい"の愛を独り占めしたいと考えている。