あいの女神様   作:エンゼ

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短め。
上手くまとめられてることを願います。


11話

 少し、時は戻る。それはアイがいつもより早くレッスンを済ませ、いつもの迎えの場所であいを待っていた時のことだ。

 

 鼻歌を歌いながらアイは待っていた。お姉ちゃんが、あいがやってくるのを。それが日々を生きるアイにとっての至高の時間であり、誰にも邪魔されない最強の時間なのだから。

 

「まだかなまだかなー?」

 

 さっきから何度も何度も時計を確認している。しかし迎えの時間はまだ先。後数分というこの時間が、アイにとってはかなり長く感じていた。

 

 ここで、アイは思いつく。そうだ、電話しちゃえばいいじゃん! と。

 

 普段あいは歩いて迎えに来る。電話出来ないというわけではない。さらにここにあいが着くまで声が聞けてお話が出来る。やらない理由はどこにもなかった。

 

 思い立ったが吉日。さっそくアイは電話を取り出し、一番上に登録してあるあいの番号にかける。

 

 ──しかし。

 

「……あれ?」

 

 呼び出し音はならず、いきなり留守番電話に繋がる。一旦切ってもう一度かけなおすも、変わらない。

 

 こうなっている場合はいくつか考えられる。

 一つは、電源を切ってる場合。だがあいが携帯を買ったのは、この時間帯に電話するためでもある。そのため今このタイミングで電源を切ってるとは考えにくい。

 

 もう一つは、圏外にいる場合。しかしこれも、今あいはこちらに向かってきているはずのため考えられない。そのためこれでもない。

 

 他にもあるが、一番可能性が高くて、一番アイが考えたくない場合が一つある。それは──誰かと話し中という線だ。

 

「……」

 

 携帯を買ったあの日からたまにあいから操作方法を教えてほしいと頼まれることはあり、その時さりげなく電話帳を盗み見たりしていた。少なくともそこでは、アイのみしか登録はなかった。もし今でもこのままなら、話し中の可能性は低いと見る事もできる。

 

 しかし、嫌な妄想は止まるところを知らない。仮に施設の他の職員との連絡とかだったらまだいいだろう。あくまで仕事上での付き合いしかないのだから。ただ──もしアイの知らないところで愛を振りまいていたとしたら?

 

 あいの愛は大きすぎて、世界中にそれを向け続けているということはアイもとっくの昔に理解している。あいの愛するという行為を止めることは不可能だということも。

 

 ただそうだとしても──自分の知らないところで、自分に向いてほしい愛が他に向けられるということは、アイにとって非常に苦しいものだった。

 

「……ちがう、ちがうはず」

 

 浮かんでくる考えを頑張って打ち消そうとする。しかし消えない。考えたくないはずなのに、その思考は止まらない。

 

 あいは施設の仕事で忙しいはずだから誰かと知り合う時間なんてないはずだ、と考えを持っていこうとするものの、少し前に有休で宮崎に行ったはずだからその時連絡先を交換したのではないか? という答えが返ってくる。

 

 加えて宮崎は九州。あの"センパイ"がいるとされる場所。携帯を買ってから今まで電話帳に登録はなかったことから、アイは繋がりはないと判断したため何もしなかったが、ここに来て繋がってるかもしれない。

 

 もし、今あのセンパイとあいが話しているとしたら……?

 

「っ!」

 

 思わず、自身を抱きかかえる。震え出した身体を落ち着かせるように。

 

 何度も深呼吸。何度もそんなのあり得ないと言い聞かせる。

 そのセンパイは医者らしいから、病院にいかないと会えない。アイが有休中に体調が悪くなったなんて話は聞いてないから病院に行くはずがない。だから無理だと。

 

 ──じゃあなんで宮崎に行ってきたの?

 

 そもそもの理由についてアイは知らなかった。5日間あいに会えないという寂しさ、帰ってきた後に約束してくれた埋め合わせ、この二つのことで頭がいっぱいであったのだ。帰ってきたあいと会えたとき、嬉しすぎてすぐ全部どうでも良くなったというのもあるのだが。

 

 今になって感じてきた大きな不安。心が乱れに乱れるには、十分すぎた。

 

「あ、アイちゃ……ん?」

 

 丁度その時、あいが集合場所にやってきた。いつもなら駆け寄っていくところではあるが、今回はしない。それどころではないのだ。

 

 そんなアイの様子に違和感を覚えたようで、あいは心配そうに近づく。

 

「ねぇアイちゃん、どうした──」

「お姉ちゃん」

 

 あいの言葉を切って、話しかける。どうか杞憂であってくれと、切に願いながら。

 

「教えて。さっき、誰と電話してたの?」

 

 ここで電源を切っていただったり、電話相手は職員であれば、これまでの話はなかったことになる。考えなくていいことになる。どうかそのように答えてくれと考えながら、あいの返事を待った。

 

 

「……んー……」

 

 

 しかし、これを受けてのあいは何も答えない。というよりも、考えているような様子だ。

 

 隠そうとしてる。すぐにアイは感じた。

 

 ──なんで? どうして? 私には言えないことなの?

 

「なんで、言ってくれないの」

 

 ぐちゃぐちゃとした疑念がアイを包む。

 

「あいや、そういうわけじゃなくてね」

「じゃあどうしてッ?!」

「!」

 

 気が付けば、叫んでいた。抑えきれなかったのだ。自身の中に渦巻いている、このもやもやを。

 

「教えてよ! 私が電話したときに電話してた相手くらい! それとも何! 私より愛してる人だったりするの?! ねぇ答えてよ、お姉ちゃん! 

 ……あっ」

 

 言い終わってからアイは感じた。やってしまった、と。本能のままに吐き出してしまったからだ。確かにこれらは本音ではある。しかし、これによってあいに悪印象を与えてしまったのではないかと感じ、怖くなった。

 

 お願い、どうか嫌わないで。この思いを抱きつつ、一連の行動の罪悪感からか、俯いてしまう。

 

「──あぁ、そういうことなんだね」

 

 瞬間、アイは抱きしめられた。続いて撫でられる頭。身体を包み込む温かさ。突然のことで、アイは呆然としてしまった。

 

「大丈夫、大丈夫だよ。アイちゃんのことも、すっごく愛してるからね」

 

 優しい声で、言い聞かせるようにしてゆっくり告げるあい。その言葉は全て本当。嘘なんてどこにもなかった。

 

 だが、アイが欲しい言葉はそれじゃなかった。

 

「ちがうんだよ、お姉ちゃん……!」

 

 嬉しくないはずがない。だけど、違うのだ。今このときだけではなく、昔から欲しい言葉は、“も“じゃない。

 

「私は、お姉ちゃんのことを────!」

 

 ……この続きはなかった。言葉に出てこなかったのだ。なぜなら、アイが止めたから。

 

「……アイちゃん?」

 

 ──今私は、なんて言おうとしたの?

 

 自問する。答えはすぐに出てきた。“愛してる“だと。

 

 だからこそ、自分だけを見て欲しい。自分だけにその愛が欲しい。

 

 ──でも、その“愛してる“は本当なの?

 

 さらに自問する。……これには、答えられなかった。

 

 アイがアイドルになった所以は、唯一になるためだけではない。愛するということを知るためでもある。もちろん大きさはずいぶん小さいが。

 

 最初は形から入って、段々と理解していく、そのつもりだった。しかし人気も出てきて色んな人にアイドルとして愛を振り撒いていってるものの、その愛が本当になってるとは思えなかった。

 

 だから、止まってしまったのだ。今自分が持ってるこの愛が、本当だって自信を持てないから。

 

「……ううん、なんでもない」

 

 ここでアイは感じる。あいにより愛してもらうなら、まずは自分からあいに並び立たなきゃいけないんじゃないかと。

 

 すなわち、本当の愛。それを持って伝えることが出来て、よりあいを理解することで、さらに自分を大きくすることが出来るのではないかと。

 

「……そう? それならいいんだけど。もうちょっとこのままでいとく?」

「うん」

 

 ハグの状態がしばらく続く。その間にも、アイの思考は止まらない。

 

 本当の愛。これはアイドルを続けていけば分かるのだろうか、と。仕事も増えてきて、何度かライブをしてきてはいる。しかし知れている気がしないのだ。ほとんど何も変わってない。嘘の、形だけの愛を振り撒くだけ。

 

 やり方は学べた。だが、肝心の中身が分からない。となればこれは、アイドルだけでは分からないのかもしれない、と感じ始める。

 

「……落ち着いた、かな?」

「……うん。ごめんね、お姉ちゃん」

「いいんだよ。ちょっと疲れちゃってたのかな? 今日は早めに寝ようね」

「……寝るまでそばにいてくれる?」

「もちろん」

 

 手を繋いで、帰路につく。さっきのこともあってか、いつもみたいに和気あいあいとはならない。だが、アイにとってはあいがそばにいる、それだけが救いだった。

 

「……電話の子ね、ちょっと事情が色々複雑なんだ。だからなんて言えばいいかわかんなくて」

 

 事情が複雑。ということは、一回話に出てきたセンパイというわけではなさそうだ。少し、アイはほっとした。

 

「一言で言えばそうだね……アイちゃんに似てる子、かな」

「え」

 

 これにはアイは驚いた。あいは基本的に、誰かを愛する時は他の誰かを通してみたりはしないからだ。これはその人自身を愛するためである。

 

 しかしそんなあいが、電話の相手から星野アイという存在を見ていた。もちろんこれはたとえであり、常にそうしていたわけではないだろうが、少しでもあったというのは事実。

 

「そう、なんだ」

「もちろん、アイちゃんへの愛も忘れてないよ。忘れるなんてありえないけどね」

 

 順調に、あいの中のアイは大きくなっている。前々から感じていたことでもあったが、改めてそれを感じとった。

 

「ねぇお姉ちゃん」

「ん、なぁに?」

 

 ならば、後は自分次第でもあるのかもしれない。

 

「──待っててくれる?」

 

 いろんな意味を包含した、この言葉。しかしその意図はアイしか分からない。普通ならここで何をと聞き返すものであろうが、あいは微笑んで告げた。

 

「うん、待つよ。いつまでも」

 

 あいが何を思ってこう答えたのかは、アイには分からない。だが、待つとはっきり言ってくれた。

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 アイは決意する。嘘じゃない愛を知ることを。そしてそれを一番に伝える相手は、今隣にいるこの人にするということを。




大総あい。
待つことにした女神様。

星野アイ。
相手を魅了するだけじゃなくて、自分も変わるべきなのではと感じ始めた。
この後ちゃんと一緒に寝ました。


大総あいについて。
糸目です。常に総てを愛してるため、瞳には慈愛の象徴(ハート)があります。愛する時、目を見開きます。あと常に笑顔です。
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