あいの女神様   作:エンゼ

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13話

 有休を早める申請は、意外とあっさり通された。

 取れた時間は二日。すなわち一泊するだけの時間は得ることが出来た。

 

 前に比べたらかなり短い時間。だけど、会えなかった分も含めて沢山愛してあげればいい。

 

 今回は時間も時間だから、持ってくる荷物の量は少ない。でも、種類は一つだけ増えている。

 それは、料理。結構前に作ってきてほしいと言われてた手作り料理。沢山調べて、入院してる人でも大丈夫そうなものを作って持ってきている。

 

 そしてお昼が少し過ぎた頃、わたしは再びこの宮崎の地に立っていた。

 

「──お久しぶりです。先輩」

「……あぁ。来てくれてありがとう」

「いえいえ。わたしも来ることができて、嬉しいですから」

 

 迎えに来てくれた先輩に挨拶。以前に比べると、通話を何度もしていた分、そこまで久しぶりという風には感じない。

 

 今回も前のように先輩に送って貰えるとのことなので、そのまま駐車場の方へと向かっていく。

 

「……正直、難しいと思ってたよ。いや頼んだのは俺なんだが、そっちの仕事も忙しそうだったからな」

「元々、予定の確保はしてたんです。ただ今回は有難いことに、その予定を早めにしていただけるとのことだったので」

 

 本当のことを言うと、この申請は通るとは思ってなかった。たまに他の人がもう少し人手が欲しいと溢していたように、一人あたりの仕事の量は多い方。この前の有休はなんとかもぎ取れたけど、それは前もって組んでいた予定だったからなんとかなったものだ。

 

 今回は期間こそ短くはなったけど、いきなりの予定変更を申し出ていたから、流石に難しいと返されてもおかしくなかった。

 

「そう、なのか?」

「えぇ。というより、本当ならもっと早く来るべきだったのですが……期間が空いてしまいすみません」

「いや、それは仕方ない。それに、来てくれたってだけでさりなちゃんはきっと喜ぶ」

 

 そういって、先輩は笑った。だけどただ笑ったって感じではなくて、何かを隠してるような、そんな笑顔。

 

 気になりはする。でも先輩のことだから、きっと何か理由があってのことだと思う。

 

 あまり深く突っ込まない方がいいかもしれない。そう思ったから、別の話題を振ることにした。

 

「そういえばですが、先輩。さりなちゃんは元気ですか?」

「!」

「ここ最近の電話で、ちょっと元気がなくなってるなって気がしてて……気のせいならいいんですけど」

 

 頭に浮かんでくるのは、日に日に元気がなくなってるような声をしたさりなちゃん。変化は微々たるものではあるけど、電話し始めた時に比べると違いは明らか。

 

「だからわたし、料理作ってきたんです。元気になってもらいたくて。かなり調べて、さりなちゃんでも食べられるものを作ってきたつもりなんですが、一度試食してもらえたりしませんか?」

「……」

「……先輩?」

 

 黙り込んでしまった。だけどこれにも、何かを隠してるような気がする。……というより、なんて言おうとしてるか考えてる?

 

「……大総、すまない」

「先輩?」

「あの子はもう、長くない」

 

 なんとか絞り出したような声だった。震えていた。それだけで全部察することが出来た。

 

「……そう、ですか」

 

 そっと、作ってきた料理をしまい込んだ。

 ……わたしがもうちょっと早く来れれば、食べてもらえたのかな。約束、守りたかったのに。

 

 でも、嘆いても何も変わらない。わたしがさりなちゃんのために出来ることは何か?

 

「──なら、とびっきり愛してあげないとですね」

 

 そんなの決まってる。いつもみたいに、愛することだけ。声だけじゃない、直接的な愛を。空っぽになりかけてるさりなちゃんに注いであげるんだ。

 

「……そう、だな」

 

 どこか、先輩の力が抜けた気がした。

 

「本当に変わらないな。お前は」

 

 くすっとした笑顔で、少し嬉しそうに先輩はそう言った。だから、わたしもいつもみたいに笑顔で返す。

 

「えぇ。それがわたしですから」

 

 

 

 ─────

 

 

 

「ぁ、おかあさん……!」

 

 病室に入って最初に映ったのは、前よりも多くの管を付けてベッドに横たわるさりなちゃんの姿。なんとかして元気を出そうとしてくれてるけど、それが逆に前より元気がなくなってしまったと思わせるようだった。

 

「──久しぶり、さりな」

 

 さりなちゃんはきっと、わたしが過度に心配することなんて望んでない。前会ったときみたいに、電話している時みたいに、いつもみたいに振舞ったほうが絶対にいい。だって、愛するんだから。

 

「ごめんね、本当はもっと早く来たかったんだけど」

「うぅん。おかぁさんがきてくれるだけでうれしい」

「そう? さりなが喜んでくれるなら、来てよかった」

「ぁ……へへ」

 

 傷つけないように優しく、さりなちゃんを撫でる。かなり嬉しそうで、わたしも嬉しい。

 

 それにしても、本当に久しぶり。電話していたからそこまででもないかななんて思っていたけど、こうして実際に会って話すのは違うなと思えた。先輩の時はそんなに感じなかったのにだ。ちょっと不思議。

 

「ねぇ、いつまでいてくれるの……?」

「明日までだよ。今日はこの後最後までいれるけど、明日は夕方ごろに帰らなきゃだから、それまでかな」

「そっか……」

「前より短くてごめんね。でもその分、いっぱいお話しよっか!」

「! うん……っ!」

 

 それから少しの間、色んな話をした。B小町の事、最近のこと、買い物に出て二人きりにしてくれた先輩のことやわたしのことまで。本当に色んな話を二人で楽しくやった。

 

 前みたいにペースは速くなく、むしろ遅くなったほう。でも全然気にならなかったし、さりなちゃんも気にしてる様子はなかった。

 

「──ね、おかぁさん」

 

 そんな時、さりなちゃんからある話題が振られた。

 

「おかぁさんはさ、うまれかわったらなにになりたい……?」

「っ」

 

 一瞬、怯んだ。だけどすぐに思いなおす。ここで動揺しちゃいけないって。それをさりなちゃんはきっと望んでいないから。

 

「……うーん、そうだね。さりなはある?」

「うん……あるよ。わたしね……『アイドル』になりたいの」

「!」

 

 今度は違う意味で驚いた。わたしと同じだったから。

 だけどさりなちゃんはB小町のことを結成初期のころから推してたって聞いてる。なら、自然とこう思うのも不思議じゃないかもしれない。

 

「……実はね、わたしもそうなんだ。もし生まれ変われたらアイドルになりたいって思ってる」

「! おかあさんも……?!」

「うん。まぁわたしはもうおばさんだからねぇ。多分難しいよ。でも、さりなは違うよ」

 

 再び優しく撫でで、続けた。

 

「さりなならなれる。生まれ変わりなんてしなくても、わたしや先輩を始めとした、皆を魅了する立派なアイドルにね」

 

 前々から感じてた。この子はどこかアイちゃんに似てる。どこっていうのはまだはっきり見つけられてないけど、そう思えた。だからかもしれない。この子なら、アイドルとして輝けるって思うのは。

 

「そう、かな……? なら、おかぁさんは"おし"の"にごう"だね……!」

「あら、二号なの?」

「うん。"いちごう"は、せんせなの。だから、おかぁさんは"にごう"……!」

「そっかぁ、先輩が……」

 

 先輩のことだ。きっとわたしよりも崇高なことを言ったに違いない。わたしも本心をそのまま話したことには違いないんだけど、この言葉より先輩の言葉のほうがさりなちゃんに響くんだろうなぁと感じる。

 

「それに、おかぁさんもアイドルできるよ……っ! だって、ぜんぜんキレイだし」

「あらそう? 嬉しいなぁ。なら、もしアイドルになったらわたしのことも推してくれる?」

「もちろん……!」

 

 きっと気をつかってくれただけなんだろうけど、こういうのはお世辞でも結構嬉しくなる。

 

 ──それからも、わたしたちは話を続けた。先輩が帰ってきて途中から三人になったけど、許されるだけの時間を殆ど全部使って、今まで直接会えなかった分を取り返すようにして、話をしていった。

 

 来てよかった。その思いは強くなるばかりだった。直接会えて愛を直接伝えられるから。だけど同時にこうも思う。さりなちゃんを直接愛する時間はもう大分少なくなってきているんだって。

 

 話してみて確信できた。本当にさりなちゃんはもう少ししかないということを。直接愛せるのは、今回の有休期間が最後だってことを。だからと言って、何か特別なことはするつもりはないし、さりなちゃんもきっと望んでないはずだ。

 

 わたしは変わらない。最後までいつも通りで居続ける。だってわたしが出来るのは、愛することだけなんだから。

 

 

 

 ────

 

 

 

 二日目。今日は朝からさりなちゃんの傍にいることが出来る。加えて先輩も休み。普段に比べてラフな格好をして、一緒にさりなちゃんのお見舞いにきた。

 

 昨日ぶりだけど、全然会話は途切れない。やっぱり会話のペースはちょっとゆっくりではあるんだけど、皆笑顔が絶えることはなかった。愛で満たされていた。

 

 本当に楽しくて尊い、素晴らしい時間。だけどそういった時間ほど過ぎ去ってしまうのは凄く早い。

 

「……もうこんな時間」

 

 いつの間にか、予定していた病院を出発して空港に向かう時間間近になっていた。

 

「……もう、おしまいなの……?」

「……残念だけど、そうだな」

「……ごめんね。必ず、また来るから」

 

 指切をして約束を交わす。……守れないことへの謝罪を心の中で強くしながら。

 

「向こうについたらまた電話するね? そのときにまたお話ししましょ?」

「……うん……」

 

 納得はしてないけど、理解はしてくれたみたい。よかった

 

 だけどこれで、きっと最後になる。だから、最後にとびっきりの愛を与えよう。

 

 ぎゅっと、さりなちゃんを包み込む。

 

「──おかぁさん……?」

「愛してるよ。さりな。いつまでもね」

 

 少しの間、抱きしめ続けた。出来ればこのまま抱きしめ続けてあげたい。でも、時間がそれを許さない。

 

「……大総」

「はい、わかってます。……それじゃさりな、またね」

「ぁ……うん。ばいばい……」

 

 病室を出て、そのまま先輩と共に駐車場へ。その面持ちは、どこか重かった。

 

「……あと長くて一ヶ月、だそうだ。その間の時期に、もう一回来れたりするか……?」

「……すみません」

「……そう、だよな。すまない、無茶を言った」

 

 それ以降、あまり会話はなかった。あまりそういった気分になれなかった、ということもあるのかもしれない。

 

 あと一ヶ月。長いようで、短い期間。さりなちゃんの灯は、それだけの時間で燃え尽きてしまう。

 

 ……ひどく、残酷なものだ。世界がもっと強い愛で出来ていれば、こんな理不尽は起きにくいと思うのに。

 

 そんなことを思っていると、いつの間にか空港についていた。今回も見送ってくれるみたいで、途中まで先輩が付き添ってくれている。しかしここで、先輩の携帯に着信が入ったようだった。

 

「すまない電話だ。少し出てくる」

「分かりました」

 

 まだ出発までには時間はあるし、チェックイン終了の時間にもなっていない。かなり余裕のある時間。ちょっとくらいなら待ってても大丈夫。

 

 そういえば、前来たときはお土産をそこまで買っていなかった。今日はこうして今時間があるのだから、もう一品くらいはお土産を増やしてもいいだろう。

 

 さてと、お土産を買うために店に行こうと決めそのまま向かおうとしたその時──。

 

「──大総ッ!!」

 

 全速力でこちらに駆けてくるくる先輩の姿があった。さっき電話をしてくると言っていた時とは一変、そうとう慌てている様子。ただ事ではないことがすぐに理解できた。

 

 ──嫌な予感がする。

 

「……何か、あったんですか?」

 

 どうか当たらないで、そう思ったのもつかの間。

 

「さりなちゃんが……ッ!」

「!」

 

 理不尽は、続いてしまう──。




大総あい。
いつも通りで在り続ける女神。

雨宮吾郎。
さりなちゃんの死が目前ということで少し心が荒んできていたが、そんな中でもいつも通りで在り続けるあいで少し心が落ち着いていた。
しかしまた荒みが加速する。

天童寺さりな。
──。
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