あいの女神様   作:エンゼ

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短め。


2話

 高校を卒業して、わたしは元いた児童養護施設に就職した。形だけの書類や面接を済まし、正式にここの職員になることができた。

 

 だけど肩書きが変わっただけで、ここでの生活は今までと何も変わらない。総てを愛していくだけだ。

 

 でもここ最近、周りは変わってきてるところもある。新しい子が入ってきたりとか、思春期に入ってちょっと甘えてこなくなった子がいるとか、アイドルが忙しくて帰るのが遅くなったりとか、そんな感じ。最後のアイドルに関してはアイちゃんだけなんだけど。

 

 特に帰りが遅かったりしたら、わたしが保護者として迎えに行ったりしてる。その度に今日はダンスが出来るようになったとか、歌が上手く出来たとか色んなことを話してくれる。しかも、かなり嬉しそうに。

 

 最初ここにやってきたばかりのアイちゃんのことを思うと、嬉しく思う。愛することの素晴らしさもその都度実感してる。アイちゃんくらいの歳の子は気難しくなるものなんだけど、アイちゃんは変わらず愛を素直に受け止めてくれるのは嬉しい。

 

 だからといって、他の子に愛を注がないようにすることは絶対しない。愛は平等でなきゃいけないから。そういう時期が普通あるものなんだから。

 

 それに、そういう時期が来てるってことはちゃんと育ってる証拠だ。

 

 これまでちゃんと愛を受け止めてきた。だから愛を受けないように振る舞える。確かに少し寂しいって感じるところもあるけど、元気に育ってくれた嬉しさもある。

 

 世の中は、愛で構成されてる。日々この考えが固くなってきているのを感じていた。

 

 そんな何気ない日常の中に、新しく加わった子がいる。

 

 だけどその子は施設の子じゃない。アイちゃんと仕事で知り合ったらしい友達で、アイちゃんより年下の男の子。

 

 カミキヒカル君。自分のことをあの子はそう言ってた。

 

 初めて会ったとき、すぐ気がつけた。この子、生き方が歪んでるって。

 

 多分、ずっと空っぽなんだと思う。愛を知らなかったから、満たされないから、歪んだことをしないと器に注げない。

 

 このまま行けば、この子は最悪の人生を歩むことになる。愛が欲しいのに、それが分からなくて、別の何かで満たそうとするけどいつまでも満たせない。一生終わらないだろうそんな地獄の人生が。

 

 だからわたしは、その子も愛することに決めた。固まってきてるカミキ君の心を解かすように、少し強引に愛を注いだ。

 

 そのお陰か、少し変わった気がした。どこか、ここの子のような、でもまだ少し違うような、そんな感じ。

 

 でもダメな方向にはいなかった。歪みが少し消えてた。『愛』というものの感覚を、なんとなく分かってもらえた気がした。

 

 だからわたしは告げた。またおいでと。ここの子じゃないからとか関係ない。わたしは総てを愛してるんだから、本当ならここの枠を飛び越えて総てを直接愛しに行きたいくらいだ。

 

 でもわたしは一人しかいない。あぁ、わたしが何人もいればいいのに。そうすれば、世界を愛で満たすことが出来るのに。

 

 だけど一人って現実は変わらない。だからわたしはここにいる。

 

 ここに来れば基本的にいつでもわたしがいる。いつでも直接愛を伝えられる。そうすれば、わたしの愛を伝えやすくなるはず。

 

 わたしのスタンスは、来るものは拒まないだから。

 

 それに対して、カミキ君はすぐに了承してくれ、絶対来ると言ってくれた。少しだけ年相応になった感じがして、どこか微笑ましい。

 

 やっぱり愛だ。愛こそ総てだ。

 この調子で、一人でも多くのものに愛を直接伝えないと。

 

 誰がなんと言おうと、わたしはわたしの考えで生き続ける。それがわたしという人間の生き様なんだから。

 

 

 

 ─────

 

 

 

 この方は、麻薬だ。

 

 初めて出会ったとき、そう感じざるを得なかった。

 

 接しただけで分かった。この人の持つ無限の愛、その全てを全面に押し出してきている。

 

 最初は単なる好奇心だった。同じような感覚を持っていたはずなのに、決定的にどこかが違うアイをそんな風に育てた人間を知りたかった。

 

 話してみて、いつの間にか『愛』で満たされて、ようやく気がつけた。

 

 この方は狂っている。壊れている。

 全てに対して平等に無限の愛を与えるなんてこと、人間には出来ない。出来ていいわけがない。出来るはずがない。

 

 だがそれは、この方を“人間“として考えた場合のみだ。

 

 前提から違う。“人間“じゃない。この方は──そう、“女神“だ。

 

 人間に彼女のような思考は出来ない。しかし、女神なら話は違う。

 

 人の形をして、人の姿をして生まれてきてしまっただけで、その本質は女神だ。

 

 どんなものに対しても、平等に、とんでもなく大きな愛を与える存在。それが彼女。

 彼女の愛は無限だ。無限にはどうやっても無限のまま。だから本当に無限の愛を全てに振り撒ける。

 

 女神であるからこそ、これを当たり前のようにやることが出来てしまうんだ。

 

 思わず、僕は跪いていた。この方は、必ず愛してくれる。普通から外れて、異常とされる部類に属してる僕でさえも、彼女は当たり前のように愛してくださる。

 

 あぁ、とても心地よい! 満たされていく! 同時に強く強く感じる。この愛を享受するために、僕は生まれてきたのだと!

 

 この方こそまさしくIDOLだ。世の中に存在するアイドルなんかじゃない。まさに本物。唯一にして、完全。それがこの『大総あい』という存在だ。

 

 だからこの方は、孤高でいなくちゃいけない。誰も侵してはいけない。女神であり続けるべきなんだ。

 誰も、彼女の『愛する』という行為を邪魔してはいけない。

 

 女神であり続ける限り、彼女の愛は僕にも注がれる。ようやく、この器を満たせる方法が知れたんだ。逃すわけにはいかない。

 

 彼女は“人間“になってはいけない。愛を有限してはいけない。そのために僕は、この人生全部を捧げよう。

 

 ここで思い出す。アイが、どういう雰囲気を纏ってこの方の話をしていたのかを。

 

 感じられたのは、喜びや微量の悲しみ。そして──どす黒く、大きい独占欲。

 

 思わず拳を強く握りしめた。あの時は特に何も思わなかったが、今は違う。

 

 あれは、駄目だ。女神に対して向ける目をしていなかった。明らかにあれは──人に堕とそうとしてる。

 

 許されない。許されてたまるか。彼女は女神でなくちゃいけないんだ。

 

 ──邪魔だ。

 

 そう思った瞬間から、アイという存在に対して嫌悪の感情が止まらなくなった。

 

 消さないと。この結論に至るには、時間はかからなかった。

 

 だが現状、アイはあの方の近くに居続けている。それをいきなり消せば、あの方が動揺してしまうかもしれない。おそらくすぐに戻るだろうが、その少しの間でもその愛が途絶えてしまうのは望まない。

 

 だから、機会を窺おう。その時を待とう。いつまでも、待ち続けてやる。

 

 彼女という生命が、人の身体であるが故に終了してしまうその時まで、女神であり続けさせるために。

 

 ──ですから、貴女は女神であり続けてください。愛を与え続けてください。そのために僕は、全てを捧げます。

 

 この旨を、その日別れる時に告げた。本人は分かっておられない様子ではあったけれど。

 でも、それでいい。彼女が自身を女神だと自覚するべきじゃない。ありのままの彼女こそ、女神なのだから。

 

 あぁ、なんて良い日だったんだろう。生きる意味を、ようやく見つけることが出来た。

 

 この日からの僕は、生まれ変わったんだ。満たされない器を満たしにいこうとするだけの人生は終わったんだ。

 

 世界は、なんて美しいんだろう。生まれて初めて、僕はそう感じたのだった。




大総あい。
高校を卒業してそのまま就職。
どうやら女神らしい。

カミキヒカル
『あい』に愛され、愛を知る。
その愛を消そうとする(なくそうとする)アイをよく思わなくなり始めた。
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