ゆっくり更新にはなってますが、完結まで進むつもりですので、今後もよろしくお願いします。
最初はすごくびっくりしたし、すごく嬉しかった。
死んでしまってから数年が経ってたけど、健康な身体で、前と同じ女の子になっていた。私はどうやら、別の人間に転生をしてしまったらしい。
名前は星野瑠美衣。長いこと病院にいた私でも凄い名前だなって思うくらいにはぶっ飛んでるなとは思ったけど、正直そんなことどうても良くなるくらいには、今世は最高だった。
『はーいルビー、ママでちゅよー?』
何せ、前世では会うことなんて出来なかったあのアイがママとしてそこにいるんだから。
ものの数秒で困惑なんてどっかに行ったし、むしろ最高の気分になった。
だって!! あのアイが目の前にいてくれて、そしてめちゃくちゃ甘やかしてくれるんだよ?!?! 最高以外の言葉で表せないわけないよね?!?!
……こんな感じで、最初は良かった。これだけで今世は勝ちだって言っているようなものなんだから。
だけど段々と落ち着いていくうちに、三つのとんでもないことに気が付いてしまった。
一つ目は、アイに子どもがいるじゃん、ということ。実は双子だから、私だけではなくてもう一人いる。これがよくよく考えなくても結構ヤバいのかは分かっちゃう。
まぁでも、これは逆に私がこうして楽しく過ごせちゃうから、逆にありがとうと言った気持ちもあった。それに今のところ父親の姿は全く見えないし、見せてくれなさそうでもあるから、大丈夫(?)なのかも。
二つ目は、せんせのこと。ここがどこなのか分からないけど、アイの活動してた場所からしてほぼ絶対宮崎からは遠い。でもこれも、宮崎のどこの病院なのかは分かってるし、大きくなってからせんせに会いに行けばいいから、あんまり気にしてない。
一番の問題は三つ目。それは──おかあさんのこと。
私のおかあさん……大総あいさん。前世の私に愛を教えてくれた人。あのママの代わりにおかあさんになってくれて、最後の最後まで愛してくれた人。
せんせと同じかそれ以上ってくらい、大切だった人。
これも普通はせんせと同じように、大きくなってから会いに行けばいいと思えるかもしれない。
でも、私はおかあさんが具体的にどこで働いてるかを知らない。知ってるのは宮崎から飛行機の距離にいて、親のいない子どもを保護するところの職員さんをしてるってことだけ。
電話もしていたけど、携帯に登録してからはそこから掛けてたってのもあって完全には覚えてない。つまり、殆ど何にも知らないってこと。
正直に言ってしまうと、私はあんまりアイを母親として見れてなかった。だって、そこにはもうおかあさんがいたから。
だから、いっぱい甘えた。おかあさんを忘れるために。アイを母親として見るために。
でも、無理だった。どうしてもおかあさんが、おかあさんのくれる大きすぎるあの愛が忘れられない。
会いたいよ、おかあさん……と、ずっと考えていた──そんな時だった。
『──あ、お姉ちゃん! いらっしゃい!』
『うふふ、お邪魔するね?』
信じられなかった。
『今日から仕事の時間をずらしてもらったから、育児に参加出来るようになったよ』
『え、ホント?! お姉ちゃんと一緒にお世話出来るの?!』
だってそこにいたのは、前から全く変わってなくて、すごく温かい──。
『そうだよ。だからどんどん頼ってね! 呼ばれたらすぐ行くくらいの勢いだから!』
──おかあさんが、そこにいたんだから。
おぎゃあああああ!!
泣いた。もうめちゃくちゃに泣いた。
だってホントに二度と会えないと思ってたおかあさんが、何にも変わらないでそこにいてくれたから。
『あ、あらあら? ルビーちゃん? どうしたの?』
『え、ルビー泣きながらめちゃくちゃ強くお姉ちゃん掴んでるよ?! もう好きになったんだ。流石お姉ちゃんだね!』
『そ、そうなのかなぁ……?』
ちょっとだけびっくりしていたけれど、おかあさんはおかあさんだった。
『──大丈夫。いいこだからねぇ』
あの時と同じ言葉をくれて、あの時と同じくらい優しい手つきで撫でてくれる。
またその言葉を聞けたのが嬉しくて。またこうして触れ合えてることが嬉しくて。泣き止みたかったけど泣き止めなかった。
前世の心のどこかで、最初からおかあさんの子どもだったらなんて思っていたのが、こうして殆ど叶った。
そこからの私は、最早無敵と言っていいくらいだった。
最推しのアイが、さらにおかあさんがいてくれる。欲しかったものがほぼ全部ある。
そして、アイをおかあさんと同一視しようとしなくなった。やっぱりアイは私にとっては推し。でも、アイは母親であろうとしてる。それには応えたいし、何よりオギャりたい。
だから私の中で分けた。アイはママで、大総さんはおかあさん。
せんせにもおかあさんに言えばすぐに会えるかもしれない。そのためにはまず私がさりなだってことを伝えなきゃいけない。
おかあさんなら大丈夫だって分かっているけど、中々勇気が出ない。……それにまだ赤ちゃんだし、喋ったら流石に変だって思われそうだし、先の話ではあるけど。
最早夢じゃないかって思えるくらいには、全部が最高。
逆に言えば、それが一番怖い。
今の幸せが本当じゃなかったらどうしよう?
おかあさんやママに愛されて、毎日毎日が楽しくて、それなのに全部夢だったら?
──そんな心を無くさせてくれるのも、またおかあさんだった。
ママには申し訳ないけど、やっぱり母としてはおかあさんが上に感じちゃう。
傍にいると安心するし、何より誰よりも温かい。前世から感じてきた、一番安心できるもの。もう二度と離したくないもの。
抱っこしてくれたときは、ただその温かさを求めてしまう。
ほぼ毎日来てくれるけど、その温かさが当たり前じゃなくなることを知っているから。
だから私は、今日もおかあさんに甘える。
いつか私の正体を明かして、おかあさんとせんせであの時みたいに楽しく過ごせることも願って。
──────
『──もしかしてお前、俺と同じか?』
これからとんでもなく長い付き合いになる妹、ルビーにかけた初めての声がこれだった。
まだ互いにハイハイしかできない年齢。とても言葉なんか喋られるはずがないのだが……転生者である俺とルビーは普通からは逸脱しているようであった。
……とはいえ、SNSでアンチとレスバを繰り広げる赤ん坊がどこにいるかって話ではある。
そんなルビーだが、大総を前にすると性格が一変する。無邪気な要素が殆どなくなり、大総の愛を一心に受けようとする。
アイに対して甘える際にも同じようにしているが、ベクトルが違い過ぎる。……まるで、実の母に甘えているみたいだ。
「ねぇ、なんで赤ちゃんらしく振舞わないの??」
色々試行していた最中、アイが仕事に行く準備を始めていなくなった隙にルビーが問いかけて来る。
「赤ちゃんらしく?」
「そう。ママのおっぱい吸わないし、おかあさんにも甘えない。まぁおっぱいは倫理的にヤバイからいいとしてさ、おかあさんの愛を避けるのはなんで?」
単純に疑問に感じた故の質問のよう。倫理的にヤバイからいいってなんだ。俺からすればこいつも倫理的にヤバイ方なんだが。
まぁ、こいつには俺が元成人男性であることを明かしている。なら前世も女だった自分はまだ大丈夫とかいう謎理論だったりするんだろうけども。
気になっているのは大総のことについて。確かに、あの愛を敢えて避けるのは普通は難しい。正直俺が前世の記憶を全然持っていなかったら素直に甘えてしまっていたと思うくらいに。
「……別にいいだろ」
「いや、いいんだけどね? だって、私がその分おかあさんを独り占めできるし。でも、おかあさんの愛を避けられるのがなんでかはちょっと気になるんだよね。避けようと思っても避けられるものじゃないと思うのに」
「……」
言わんとすることは分かる。なんなら気を抜けばあいつの愛に包まれてしまいそうになるのだから。
俺が耐えられてるのは一重に、あいつが俺の後輩であるがため。先輩として、後輩に甘えるのがキツイためだ。
ただでさえオムツだったり食事だったりで苦しいのだ。そこに甘えるも追加などもっての他──っ!
これはある意味、俺の意地。だけどこの意地だけは、取り下げるつもりはなかった。
「……元成人男性として、あれに甘えすぎると今度こそ終わりな気がする」
とはいえ、俺が大総に甘えない理由はそれだけじゃなくてこれも含まれている。
呑み込まれるとでもいうのだろうか。俺を俺たらしめる部分がごっそりなくなってしまうんじゃないかと感じてしまうところがあるからだ。
「ふーん、そうなんだ」
そこまでの興味はないのか、生返事をするルビー。気になると言っていたが、こいつにとっては本当に大総を独り占めできることの方が重要なんだろうな。俺の口から甘えない理由が説明されることが大事なんだろう。
今でもこれから来るであろう大総を待っているのか、ちらちらと目線がドアの方に向いている。
こいつ、もしかして前世ではあまり愛を受けてこなかったやつなのかもしれないな。だとするなら大総への執着も分かるかもしれない。
……やっぱり、似ているな。
「──! おむつ交換したいからあっち行って」
「はいはい」
離れた途端、おむつ交換要求のための泣きを始めるルビー。もうアイはここにはおらず、迎えに来た社長と共に仕事に行ってしまった。加えて大総も来ていない。そのため、必然的にルビーのおむつを替えられるのはただ一人になる。
「はー……なんで私がこんな仕事……一応私社長夫人じゃないの……?」
斎藤ミヤコさん。苺プロの社長夫人で、基本的に俺たちの身の回りの世話を常日頃からやり続けている。
「美少年と仕事出来ると思ってアイツと結婚したのに、与えられた仕事は16歳アイドルの子どもの世話? そんで父親不明の片親とか闇深すぎるだろっ!!」
愚痴を言いながらもテキパキとおむつ交換を完了させる。大総からの助言などもあったのだろうが、最初の頃よりめちゃくちゃ上手くなっている気がする。
「そもそも、私はベビーシッターをやりに嫁に来てんじゃねぇぇ!!」
怒りに任せて交換したおむつをゴミ箱へ放り投げ。勢いでゴミ箱が大きく揺れた。
「ママに尽くせるのは幸福以外の何物でもないでしょ。ちょっと頭おかしいんじゃない?」
「それは一部そうかもしれないが……彼女の言ってることも結構正当性が見受けられるぞ」
こうなっても仕方がないとも言えるだろう。
実子でない子を、外に連れ出すことも禁止で、ずっとこの部屋で面倒を見続けないといけない。さらに彼女自身も言ったように、この現状をミヤコさん自身が望んだわけでもない。朝から晩までアイが仕事の間ずっと一人で俺たちを見ているわけだ。こうして爆発しちゃってもおかしくない。
「……ちょっと、疲れたわね……」
少し発散してすっきりしたのか、崩れるようにその場に座り込むミヤコさん。
だけど、一つだけミヤコさんにとって幸運があるとすれば──。
「──お邪魔しますね。あ、ミヤコさん、お疲れ様です」
「あ、あぁ、めが……じゃなくて大総さん……っ! よかった……」
彼女は一人じゃない、というところだろう。
「……随分とお疲れのようですね。すみません、もっとわたしが早く来ることが出来れば……」
「そ、そんなことないわよ? 正直大総さんが来てくれるってだけで凄く助かってるから」
「あら、そうですか? うふふ、ミヤコさんもお上手ですね」
「本音なのよ……?」
持っていたマイバッグから食料を冷蔵庫に詰めていく。ミヤコさんが世話で外に出られないという関係上、いつも大総がこうして物を買ってきてくれている。
「あーう!」
「あれ? あ、ルビーちゃん? ごめんね、もうちょっと待っててね」
「だ!」
隣にいたはずのルビーがいつの間にか大総の足元にいる。いくらなんでも速すぎだろ……。どんだけ好きなんだ本当に。
「おまたせ。よっこいしょっと……。アクアくんも、こんにちは」
「……だ」
一応、手を振り返すくらいはしておく。大総を邪険に扱いたいわけではないからだ。
「ミヤコさん。少し休んではどうでしょう? 少しでしたら、わたしだけでもなんとかなると思うので」
「申し訳ないけど、そうさせてもらおうかしら。……正直、大総さんだけで、少しどころかずっと大丈夫だと思うけれど」
「……わたしは、アクアくんからはあまり好かれてないみたいなので」
「あぁ……」
ぐぅ! 刺さる……! 毎度のことながら、心が痛い……。
あとルビー、睨むな! お前は俺にどうして欲しいんだよ……!
「……ミヤコさん、今日の夜──アイちゃんやこの子たちが眠った後とか少しだけお時間大丈夫ですか?」
「え? 私は大丈夫だけれど……」
「よかったら、お話しませんか? ミヤコさんとはまだ改まってお話したことがないかと思って」
少し、驚いた。
大総はあまり自分からアクションを起こすタイプではなく、やってきた相手を受け入れるというように、どちらかというと受け身なタイプだと思ったからだ。
「……大総さん、明日も仕事があるんじゃないの?」
「あぁ、わたしのことは気にしないでください。私がしたくて提案させてもらってるんですから。とはいえ、ミヤコさんも明日があるでしょうから、少しだけですけどね」
「そう? なら、いいわ。今夜ね、楽しみにしてるわ」
「えぇ、よろしくお願いします。とりあえず、しばらくは任せてください」
「頼もしいわね……。じゃあ、少し休んでくるわ」
「えぇ、ごゆっくり」
どんな話をするのだろう。単純に気になる。
今夜は、頑張って起きておくか。なんとなく、そう決意した。
大総あい。
仕事をしながらほぼ毎日アクルビの世話をしに来れてしまうスーパーウーマン。多分体力に限界はない。
今夜お話しませんかとミヤコさんを誘った。
星野アクア。
元成人男性の赤ちゃん。相変わらずあいにそっけなくしちゃうし、それに罪悪感を覚えてる。
頑張って起きるらしい。
星野ルビー。
あいがきた瞬間真っ先にあいの元へいった。その後はずっと抱っこされてた。
今日もおかあさんから愛してもらう。ママは別腹。
斎藤ミヤコ。
あいがいる関係上、精神的にほんの少し安定気味。休憩出来るというのは偉大。あの瞬間やってきたあいが女神様に見えたとかなんとか。
今夜お話しませんかとナンパみたいなお誘いを受けた。