アイちゃん視点のみです
今日は、お姉ちゃんが久し振りにライブに来てくれる日。まぁそもそもアイドル復帰してから初のライブということもあって、私自身がライブに出ること自体が久々なんだけど。
──そう、私が子どもを産んでから、お姉ちゃんに来てもらう初のライブが今日。
休止していた期間は長かったようで、短かったようで……私の中では結構あっという間な気がしてる。
『愛』をお姉ちゃんに伝えたくて、それを知りたくて、子どもを作った。相手は誰でもよかった。だから、たまたま仕事で知り合った同世代の子を直感で選んで、やることを済ませた。
その行為自体も、してみることで何か分かるかなと思ってたこともあったけど、終わってみれば何にも感じなかった。ただ、そんなもんかと思っただけだった。この先二度としないと思う。
まぁ、そんなこんなで私は妊娠して、子どもを授かった。子どもを産むために宮崎に行って、お姉ちゃんにお世話されて、無事に生まれて、専用の家に住むようになって、子育てをお姉ちゃんたちに手伝ってもらいながらアイドルに復帰して──本当に、思えばあっという間。
思っていたより辛かったし、きついところもあった。だけどそれ以上に──楽しかったし、嬉しかった。お姉ちゃんとの病院での思い出、仕事から帰ってきた後の子どもたちとのふれあい、お姉ちゃんとずっと一緒に居れたこと……こんなの一例だけど、そういうのをいくらでも思い出せる。
そしてその思い出は、今も継続してる。
仕事に復帰してから、給与の世知辛さやレッスンなどで、心も身体も疲れていっぱいになることが多くなった。
だけどそんな疲れも、帰ってお姉ちゃんや子どもたちと接するだけで無くなっちゃう。それも、とんでもない早さで。このために頑張ってきたんだと思えてしまうくらいに。
もう、毎日が最高で毎日が幸せ。
──それに、段々と『愛』が分かってきた気がしてきている。
私の最初の目的。お姉ちゃんに伝えたい『愛』という感情を、私のものにすること。
お姉ちゃんと、そして子どもたちとも接してきて、感じつつある。
お姉ちゃんに対する気持ちと、子どもたちに対する気持ち──これはおんなじなんじゃないかって。
だって、お姉ちゃんと話してる時も子どもたちと触れ合ってる時もすごく心が温かくなるし、ずっと一緒にいたいなって思う。なら、これらの気持ちは一緒なのかもしれないって。
それに対して、ちょっと違うんじゃないかって思うところもある……けど、じゃあ他に何と聞かれたら分からないし、一緒であるのに違うっていうのも意味が分からない。だからきっと、これが『愛』なんだ。
今日のライブは、それを改めて確認したいって意味も含まれてる。ライブを見てくれているお姉ちゃんを見て、自分の思う素直な気持ちを。
それと、今までライブで意識していたことである『お姉ちゃんの中の私を大きくする』……これはもう必要無いんじゃないかって気がしてる。
だって、お姉ちゃんは私と一緒にあの子たちを育ててくれてる。多分それはずっとずっと、あの子たちが大きくなるまで続いてく。なら、お姉ちゃんは私とずっと一緒にいてくれることになる。それなら、必要ないんじゃないかなって。
……どこか、引っ掛かるところがあるけど、きっとこれが正解のはずなんだ。この引っ掛かりは、ライブが終われば消えているはず。
うん、これが正解。これが私の知りたかった『愛』そのもののはずなの。
──そう思いながら、今日のライブに臨んでいる。
『本日はB小町のお三方にお越し頂きましたー!』
今日のライブは販促イベントのミニライブ。全員が全員見れるわけじゃなく、抽選でしか見に来れない。
だけど今日のライブにはお姉ちゃんがいてほしくて、社長にお願いしてチケットを分けてもらって、お姉ちゃんに渡した。
これで、分かるはず。お姉ちゃんには申し訳ないけど、これは私の感情を私が知るためのライブでもあるんだ。
とはいえまずは、開始の振り付け、歌を意識しなきゃ。お姉ちゃんがここにいることは、確認する必要はない。だってお姉ちゃんは絶対来てくれるし、絶対見るって言ってくれたから。
だからお姉ちゃんがいるのは当たり前として、お姉ちゃんに見てもらうために最高のパフォーマンスをする。復帰したての時期でもあるし、お姉ちゃんが見る私は最高にしたいから、それが大前提。
余裕が出てきたら、お姉ちゃんの方を見る。そこで感じた気持ちが、本当の気持ちのはず。きっと、考えてる気持ちと同じになると思うのだけど。
……やっぱり、ちょっと引っかかるなぁ。
でもこれからお姉ちゃんを見れば、全部わかるはず。だからこの引っかかりが嘘なのか本当なのか、はっきりする。
私は『愛は本心で伝えるもの』ってお姉ちゃんから教わった。
だから『愛』に関しては、あんまり嘘を吐きたくない。それはお姉ちゃんにとって違うものだから。
そういう理由で、私は今回に関して自分で自分の考えを上塗りしない。ふっと感じたものが全て……になるはずだから。
さぁ、そろそろ余裕が出てくるころ。会場全体をきちんと意識して見てみる。
まぁでも、お姉ちゃんに関してはすぐ見つけられる……そう、思っていた。
一つへ、目線がいった。お姉ちゃんじゃない。
めちゃくちゃ目立ってたっていうのもある。けど何よりその子たちは──ウチの子たちだったのだからッ!
「「バブ! バブッ!! バブゥッ!!!」」
サイリウムを振って必死にオタ芸をしているアクアとルビー。
どこでオタ芸を知ったのか、サイリウムはどこで手に入れたのか、そもそも何でここに居るのか──気になろうと思えば気になるところなんて山ほどある。
それほどウチの子やたちは天才ってだけかもしれないけど。
まぁ今はそんなのどうでもいい。
今私を支配するのはたった一つの気持ち。
「(うちの子、きゃわ~~~♥♥♥)」
胸が物凄く温かくなる。アイドルをやっててよかったと感じる。
今なお私にサイリウムを振ってくれてるあの子たちが愛おしくて仕方ない。
あぁもう、今がライブじゃなければ飛びついて抱きしめにいったのに!
あぁ、これがきっと家族に対する『愛』。ちょっとずつ理解してきてはいたけれど、ここで一気に来た。
ちょっと狙いとは違ったけど、段々分かってきた。お姉ちゃんに対して感じてたこれもきっと──。
「(──ぁ)」
いた。お姉ちゃんだ。
私を、見てくれてる。その瞳に、私だけがいる。
「(──あれ)」
間違いなく、心がじんと来る。温かくなってる。
でも、おかしい。あの子たちと……違う。
──トクンッ
胸が高鳴る。ドキドキする。
それに……奥の方から、"何か"が湧き出てくる感じがするッ!
思考が段々と、お姉ちゃんだけで埋め尽くされていく。あの子たちとは違う、また別の想いが!
──もっと、もっと、もっと!!
より動きを意識して。より表情を意識して。
今はお姉ちゃんに全てをぶつけたくて。
──もっと、私だけを見てッッ!!
お姉ちゃんを私で染めたい。お姉ちゃんの中で私を唯一にしたい。
久しぶりに、私の全てが一本の芯になれた気がした。
あぁ、
「──」
まだ、お姉ちゃんの中には私しかいない。
周りなんて気にならない。見えないし聞こえない。お姉ちゃんと、私だけのライブ。きっと、お姉ちゃんもそのはず。
だからお姉ちゃんだけに全部見せてあげる。お姉ちゃんのために、お姉ちゃんの唯一になるために──!!
『──あっ、び、B小町の皆さん、ありがとうございましたーっ!』
──気が付いたら、終わってた。
途中から何も覚えてない。だけど、やり切ったってことだけは覚えてる。
あぁ、これで分かっちゃった。お姉ちゃんへの気持ちとあの子たちへの気持ちは、愛の種類が──違うんだってこと。
これにちゃんとした名前があるのか、私はそれを受けてどうしたいのか……まだまだ、それはこれから。
でも、時間はちゃんとある。急ぎすぎなくてもいい。
待ってくれるってお姉ちゃんは言ってたけど、待たせすぎたくもないから。
回りまわって、一周してきた感じ。だけど、大事な回り道だった。愛に違いがあることが分かったんだから。
──もうちょっとだよ、お姉ちゃん。あとちょっとなんだ。
だからあともう少し待ってて。必ず見つけてみせるから!
一番星・星野アイ。
一周回って自分の想いが分かってきた。ただ、その名前等についてはこれから理解していくとのこと。
"伝える"日が近づいてるのかもしれない。
ライブを見ていた女神様。
ただ、アイちゃんだけを見ていた。周りの人なんて、まるでいないかのように──。