加えて短め。
前話と纏めてしまってもよかったかもしれない・・・
──この日を、このライブを、わたしは決して忘れることはないだろう。
ただ、最初は普通に見るつもりだった。あの子たちを連れて、ミヤコさんと一緒に、アイちゃんの復帰後のライブを見届ける……それだけのつもりだった。
だけど、違った。
圧倒された。気圧された。そして──未知をもたらしてくれた。
分からない。けど、嫌じゃない。
愛なんだけど、知ってる愛じゃない。
まるで、わたしだけに向けられているかのような──。
……教えて、アイちゃん。
これは──この愛は、一体何?
──────
ライブ会場前に到着後、一度わたしとミヤコさんたちは別れて、中で再び合流した。たどり着く場所は一緒だけど、経由が違うから。わたしは一般客として、ミヤコさんたちは関係者として。
一瞬、周りはミヤコさんたちに注目していた。まぁ、何せベビーカーに乗った双子の赤ちゃんを連れているから、仕方がないっちゃ仕方がないのかもしれない。
けど、すぐに視線はなくなった。多分それ以上に、アイちゃんを含むB小町のライブが気になるからだと思う。今か今かと、わくわくしているようだった。やっぱり、アイドルのファンは皆こうなのかな?
そしてそれは、この子たちも例外じゃなかったらしい。
「バブ!」
「バブバ」
「……あら?」
どこから取り出したのか、サイリウムを両手に持つ二人。しかも何やら使い方も知っていそうな雰囲気。
どこで手に入れたんだろう。ミヤコさんがあげたのかな。
まぁとにかく、精一杯楽しんでくれるみたい。自分のことじゃないけど、どこか嬉しい。
「……あれ、大総さんが用意したの?」
「あれ、ミヤコさんじゃないんですか?」
どうやら違うらしい。じゃあ……家から持ってきちゃったのかな。家はアイちゃんの家だけど、ミヤコさんも斉藤さんも出入りする。もしかしたら斉藤さんの私物を持ってきてしまったのかもしれない。
もしかしたらアイちゃんが使い方とかを教えちゃってたのかな。ちょっとあり得るかもしれない。
「まぁでも、使い方とか分かってそうだし、危なそうならすぐに取れるようにはしようと思います」
「私もそうするわ。……あ、そうだ」
すると突然、ミヤコさんが二人の前に。しゃがみ込んで二人を向いて、何かを言い始めた。
「二人は言葉が分かってくれてると思うから、話すわね。……大総さんにライブへ集中させてあげてちょうだい。
このライブは本当なら大総さんが一人で来るはずだったものでもあるから。全く騒がないっていうのは難しいでしょうけど……少しでもいいから、出来るだけ抑えてちょうだい……?」
「……バ」
「ブ」
「……やっぱり言葉分かってるわよね。大総さんの言う通り、成長が早いだけなのかしら……?」
なんて言っているかは分からないけれど、お話出来てそう。いつの間にあんなに仲良くなったのかな。目の前でそれを見ることが出来て、なんだか微笑ましい。
──ブー……
ここでもうすぐ始まることを知らせる放送。どうやら、そろそろみたい。
これまでのライブみたいに、この子たちにも意識を逸らさないようにしないとだから専念は出来ないけど……見させてもらうね、アイちゃん。
こっそり買っておいたサイリウムをアイちゃんカラーにしつつ、その時を待つ。
こういうときの振り方が未だによく分かってないけど、あれば更にライブを楽しめそうだから、買った。
「……大総さんも持ってるのね、それ。少し意外だわ」
「あら、そうですか? これを持ってると会場と一体になれて、更に愛を感じられる気が──」
「あぁ、納得したわ。その理由なら大総さんらしいわね」
「まぁ」
どこか既視感を感じるやり取りをミヤコさんとする。何だったけと想像したとき、一人すぐに出てきた。
──先輩
さりなちゃんと初めて会いに行った時期にあった、先輩とのやり取り。件の先輩とは、あの時から連絡がついていない。
心配の気持ちで満たされ始める。……だけど、今じゃない。
スゥっと、気持ちが切り替わっていく。消えたわけじゃない。ただ、一旦置いておいただけ。
これから始まるアイちゃんのライブにそんな気持ちで臨むなんて不誠実。成長したアイちゃんの愛を正しく感じられない。
それにもしここに先輩がいたら、ライブに集中しろって言ってくるはず。いつの間にか、アイちゃんの──B小町のファンになっていた先輩なら、ほぼ確実に。
だから、今はライブを楽しむことにしよう。愛を沢山感じよう。その成長を見守ることも、アイちゃんに対してわたしが出来ることの一つなんだから。
さぁ楽しもうと、決意したその瞬間──ライブが始まった。アイちゃんがセンターにいる。
久しぶりに生で見れてるかもしれない。そんなことを思いながらサイリウムを動かそうとした時……。
「「バブ! バブッ!! バブゥッ!!!」」
二人がめちゃくちゃ真剣に、そしてめちゃくちゃ派手にサイリウムを振る姿に目をやってしまう。
すごい。使い方を理解してる振り方……な気がする。だけど、とにかくすごい。
あぁ、連れてきてよかった。咄嗟にこう感じた。
この子たちには、もうアイちゃんしか見えてない。きっとずっと見たかったんだろう。そんな今まではテレビ越しだったアイドルとしてのアイちゃんが、こうして生で見ることが出来て、二人はとても嬉しそうにしている!
ふとアイちゃんのほうに目をやる。どうやら、必死にサイリウムを振ってる二人に気がついたみたい。
──この刹那、間違いなくアイちゃんの表情が変わった。言うならば、本当の笑顔、という感じに。
これまでの笑顔が全部作っていたとはわたしには思えない。少なくとも、今までわたしがライブに行った時はそんなことなかった。
だけど、明らかに違った。その向きが違う。まるで……わたしたちの面倒を見てくれた、施設の方々みたいだった。
これを見て、さらに嬉しくなった。本当に連れてきてよかったって。
何より、アイちゃんも二人に見てもらえて、すごく嬉しそうにしてる!
あぁ、きっとこの笑顔は多くの人を虜にする。さらに多くの人を愛することが出来てしまう。これでわたしの持っていた夢を、アイちゃんなら本当に成し遂げられる。その感覚が強くなってきた。
本当に成長したなぁと、微笑ましくアイちゃんを見ていたら……目が、合った。
──また、表情が変わった。
それは、いきなり来た。
何かに引き込まれる感覚。世界から、切り離された感じ。
自意識過剰じゃなければ、間違いないはず。
目が、顔が、ダンスが、総てがわたしに向けられていた。他に誰もいないみたいに。
知らない愛で、わたしを包み込んできた。
さっきまでとはかなり違う。
愛ではある。間違いはない。でも、それじゃない。
嫌かと言われても、そんなことないと即答出来てしまう。
何なら……嬉しい?
──とくん。
鼓動が、波打った。
そこそこ長く生きてきた中で初めての感覚。苦しさの少しあるけど、不思議と心地よさも覚えてるわたしもいる。
何なんだろう……この感覚は。
何なんだろう……この愛は──。
永遠に続くような気さえしていた、アイちゃんとわたしの、二人だけのライブ。それは、突然の終わりを迎えた。
「──あれ」
本当に、気が付いたら終わってた。いつの間にアイちゃんやB小町のメンバーは皆撤収してたし、残るのは盛大な拍手と、一部から聞こえるアンコールの声。
いきなり時間が飛ばされてたみたいで、ちょっと混乱していた。
「──大総さん? 大丈夫?」
「ぁ、えっと……はい」
「あぁ、よかった。ライブが終わったのに放心状態だったから……その様子だと、集中していたのかしらね?」
「……そう、なのかもしれないですね」
ライブに熱中してしまっていた。そういう理由が示されたことで、少し落ち着く。見ればルビーちゃんやアクアくんがこちらを心配そうに見てくれていた。ルビーちゃんに関しては、ちょっとおろおろした感じで。
あまりわたしを好いていないだろうアクアくんまでも、心配してくれてたみたい。……そんなに、集中していたんだ。
そんな自分にも驚きながら、大丈夫なことを示すためにアクアくんにはなでなで。ルビーちゃんにもと思ったけどおねだりされたため抱っこをした。いつもみたいに、ギュッとしてくれてる。
「……ごめんね、心配かけちゃったかな。でも大丈夫だからねぇ。
そんなことより……どうかな、二人とも。ライブ、楽しかった?」
「ダ!!!」
「……ダ」
「うん、それは良かった!」
きっと頷いてくれた。そんな気がした。
さっきの感情とか、何だったのかは、後で考えよう。
今は、この子たちに来てもらって良かった。見てくれて良かった。そう、思うことにしよう。
だから、一旦逸らすことにした。
大総あい。
謎の感情に襲われる。知らない愛だったようだ。
双子ちゃん。
ふぅ、ライブめちゃくちゃ良かった~……あれ、大総(おかあさん)っ!? ってなった。
とりあえず無事なようで、ほっとしている。
ミヤコさん。
双子が暴れ出したときは大分「終わった──」と思ってたけど、
結果としてあいさんにライブに熱中してもらってたからヨシッ! の精神だったりする。
ライブのあと、斉藤さんからお叱りがあったとか。
斉藤社長。
予想外のハプニングに驚き、元凶である双子の責任者のミヤコさんへお叱り。
でも結果として、今日があったからアイちゃん人気は増々上がっていくようなんですよ。