あいの女神様   作:エンゼ

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26話

 あのライブから、数日経つ。感覚はまだ抜けそうにない。

 

 愛を注いでるときだったり、誰かと話をしているときは一旦別の場所に置いておくことは出来ている。だけど、忘れることは決してない。

 心のどこかで、その感覚は残り続けてる。

 

 それはふと一人になったときに、甦ってくる。

 

 何度も考えた。一人の時に。

 あれは何なんだろう。どういう愛なんだろう。わたしには、どうしても分からなかった。

 思いきってアイちゃんに聞いてしまおうとも思った。だけど、聞けなかった。なんとなく、これは自分で理解に至らないとダメな気がして。

 

 だから、考え続けてる。

 わたしがこれを理解出来たら……多分、その時がアイちゃんの言ってた『待ってて』に繋がるかもしれないから。

 

 今のような一人の時間。普通ならまた、こうして考え始めるものなのだけど……今日だけは、それは出来ない。一旦置いておくべき。

 

 それは何でかというと──。

 

 

「……久しぶりだね、さりな」

 

 

 今日は、さりなのお墓参りだから。

 

「うふふ。もしかしてわたし、毎回同じように話しかけちゃってるかな?」

 

 持参したのは花と線香。そしてさっき汲んできた打ち水用の水。

 

「一人でごめんね? 本当はさりなも先輩に会いたかったと思うけど……」

 

 花をかえて、汚れてる部分を拭いて、打ち水して、線香を炊く。……どうか、天国では安らかに過ごしてほしいという思いをもって。

 

 ねぇさりな、さりなの推しのアイちゃんはまだ現役だよ。すっごく輝いてる。だから、これからも見守っていてね──。

 

「……うん、よし。じゃあまたね。今度はきっとまた……二人で来るから」

 

 そう、今日は一人だけのお墓参り。辺りには、本当に誰もいない。

 

 うっすら期待してた。今日のお墓参りに、先輩も来てくれるんじゃないかって。……だけど、来なかった。本当に、どこに行ってしまったんだろう。

 

 わたしは先輩の家族じゃない。ただの先輩後輩の関係。だから捜索願いとかは出すことが出来ない。わたしには、ただ無事でいてくれることを願うことしか出来ないんだ。

 

 諸々の片付けをしつつ、帰りの準備。わたしの宮崎の用事は、これだけ。病院には──行く必要もないかもしれない。ここに来ていなかったり、連絡がないってことは……きっとそういうことなんだろうから。

 それにわたしの我が儘で、他の方への治療が遅れるなんてことはあってはいけない。病院は、お医者さんの持つ愛によって、患者さんを治療する場所なんだから。

 

 だから、もう帰宅。乗る飛行機までには、時間がまだまだあるのだけれど。

 

 それにしても……本当に都合がよかった。

 仕事の有休に関してはあっさり許されたけど、あの子たちにあたってはそうもいかない。いきなり一日中ミヤコさん一人にするのも申し訳ない……と、思っていたらまさかのアイちゃんの休み。今は目一杯子どもたちとふれ合っているはず。

 

 だからわたしは今日いなくても大丈夫かってことで、朝から宮崎に行くって話をした。

 

『明日朝から宮崎に行ってくるから、明日は来れないんだ。ごめんね?』

『え、宮崎って……なんで?』

『……ちょっとね。それに来れないのは明日だけ。用事が終わったらすぐに帰ってくるからね』

『……うん、分かった。でも心配だから、連絡はしてね?』

『うん、ちゃんとするよ。お土産も買ってくるからね』

 

 この時、赤ちゃん二人が不思議な目でわたしを見ていた。特に、アクア君のほうが。それが何でなのかは分かってないままだけど……。

 

「……うん、よし」

 

 今全部終わったから、この便で帰るよって旨をアイちゃんに連絡。あとはお土産を選んで、帰るだけ。だから霊園の出入口に向かって歩きだそうしたその時──。

 

 ──ビュオオオオ……!

 

 後ろから、すごい風がした。

 つむじ風、というべきものが。

 

 思わず振り向いた。そこには……女の子がいた。

 

 不思議だった。だって、さっきまで周りに誰もいなかったのに。

 子どもが簡単に来れるような場所じゃないはずなのに。

 

「こんにちは、おねえさん」

「──あ、こんにちは」

 

 微笑みながら声を掛けてくるその子。思わず返事をし、すぐにしゃがんてその子に目線の高さを合わせた。

 

「初めまして。こんなところでどうしたの? よかったら、名前を教えてくれると嬉しいな」

 

 考えても目の前に女の子がいる事実は変わらない。なら考えるよりは、この子のことを先に考えるべき。

 

 気配的にも、周りには誰もいない。もしかしたら迷い込んできちゃったのかな。そうじゃなくても話しかけてきてくれたってことは何か困ってるかもだから、この子のために出来ることをしよう。

 

 それを知るためにも、まずは話を聞かないといけない。

 

「名前……そうね、ツクヨミ。えぇ、ツクヨミとでも呼んでちょうだい?」

「ツクヨミちゃんだね。わたしはあい。大総あいっていうんだ。よろしくね」

「えぇ、よろしく。おねえさん」

 

 ニコニコとわたしを見るツクヨミちゃん。なんだか、凄く不思議な子だ。愛が不足しているわけではなさそう。不安がってもない。

 

「ツクヨミちゃんは何でここにいるの? 一緒に来た人はいる?」

「一人。だって今日は、おねえさんに会いに来たんだから」

「……わたしに?」

 

 じっとわたしを、そのままの笑みで見続けるツクヨミちゃん。……何を、見ているんだろう?

 それに言い方的に、まるでわたしを知っていたみたい。見抜けなかっただけで、本当は愛が足りなかったりするのかな。

 

 でも、ツクヨミちゃんは遠い。近くにはいるけれど。

 もっとツクヨミちゃんのことを知ることができれば、愛せるのかな。

 

「──うん、やっぱり。素質しかない。

 でも、おねえさんはどっちを選ぶのかな。今のおねえさんみたいな感じ?

 ……それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……? いきなりどうしたの?」

「早めに決めておいたほうがいいよ。最後に決める権利はおねえさんにあるけど、そこまでの道は用意されちゃってるから」

「本当にごめんね、一体何を──ッ!」

 

 ──ビュオオオオ!!

 

 またつむじ風。今度は目の前で。

 思わず目を瞑っちゃう。

 

「またね、おねえさん」

 

 ──バサァッ!

 

 同時にツクヨミちゃんの声と、羽ばたく音。気がついたら、目の前には誰もいなかった。

 

 いるのはわたしだけ。隠れてる気配もない……気がする。

 足元にあるのは、カラスの羽っぽい。

 

 ……なんだったんだろう。本当に。

 変な忠告みたいのをされちゃった。2つから選ぶ? 何のこと?

 今まで経験してきたことの中で、一番不思議だった。

 

 でも、ツクヨミちゃんがいたことが嘘だとはどうしても思えない。そこにさっきまでいたことは、多分間違いなんかじゃない。

 

「また、ね。ツクヨミちゃん」

 

 また、会えるかな。その時は……ちゃんと愛させてくれると嬉しいな。

 

 

 

 ───

 

 

 

 空港に到着。とりあえずお土産を買うために、お土産コーナーへ。

 その間も、色々な思いが頭の中を駆け巡っていた。

 

 あのライブからのアイちゃんへの思い。さりなのもとに行けてよかった気持ち。来なかった先輩への心配。……ツクヨミちゃんの忠告。

 

 特に強いのはアイちゃんへのものと、さっきのツクヨミちゃんのもの。

 短い間でかなり色々あってしまってる。こんなに心を動かされることが今まで連続してなかったから、こういうときどうしていけばいいんだろうって感じだ。

 

 何から考えていくべきなんだろう。そう考えていたとき。

 

「大総さん?」

「……ん? あぁ、カミキ君!」

 

 久しぶりのカミキ君だ。前会ったときは施設のあたり。だからここからだと飛行機の距離の場所。ここで出会えたことに凄く驚いた。

 

「久しぶりだね。まさかこんなところで会えるなんて」

「えぇ、本当ですね。本日はどうしてこちらに?」

「ちょっとした用事でね。カミキ君は……お仕事?」

「そうですね、近々こちらで撮影でして」

「そうなんだ。大変だね……」

 

 見ると、スーツケースを持ってる。結構長丁場な撮影なのかもしれない。

 

「最近はどう? 元気にしてた?」

「えぇ。こうしていつものように大総さんが愛を下さるからこそ、元気にやっておりますよ」

「あらあら、ありがとう」

 

 何にも変わってない。少し見ない間に大きくなってる気がしてるのに、前と同じようにお話してる。

 

「……?」

 

 その瞬間カミキ君が首をかしげた。

 

「……大総さん、最近何かありました?」

「へ?」

「なんとなく、悩みがあるように見えます」

 

 ……凄い。当てられた。役者さんってそういうことも分かってしまうのかな。

 

「もし出来れば、話してみてくれませんか。相談相手くらいにはなれるかと思います」

 

 カミキ君の言う通り相談しちゃうのも手な気がする。今考えていることを、わたし一人で抱えるにはちょっと重たいかもしれないから。

 

 だけど……。

 

「……ううん、大丈夫」

 

 なんとなく、これはわたしだけで完結させなきゃいけないような気がした。

 話して楽になる、なんてことも勿論ある。でも、これらだけはわたしがきっちり考えて、答えを出すべきだと思ったんだ。

 

「そう……ですか?」

「大丈夫。ありがとねカミキ君、気を使ってくれて」

「いえ、そんな! 現状大総さんに僕が出来ることなんてこれくらいで……」

「それでも、だよ」

「あっ……」

 

 優しく、カミキ君の頭を撫でる。流石にハグは恥ずかしがる年頃だろうから。施設の子たちがそうだったから。

 

 ……愛を感じる。最初のカミキ君だったらこんな風にしなかっただろうに。今では丁寧な愛を感じる。成長してくれたことが、凄く嬉しい。

 

「……大総さん、安心してください」

 

 だけど、やっぱり遠い。

 

「大総さんのお悩み、一つ心当たりがあります」

「……カミキ君?」

「大変申し訳ないのですけれども、今すぐの解決はないです。しかし……5年、いや3年以内には必ず解決します。()()()()()()()解決されれば、さらにあなたは女神になることが出来るはずですから──ッ!」

 

 語気が強まってく。わたししか見えていないみたい。

 

「だから……待っていてください、その時を。大丈夫です、大総さんならいとも容易く乗り越えられるでしょう。あなたが、大総さんである限り」

 

 いや……わたしさえも、見えていない?

 

「──おや、時間ですね……名残惜しいですが、失礼します。またいつか、お会いしましょう」

「──あ、うん。お仕事頑張ってね……?」

 

 嵐みたいなやり取りをしていたら、時間が来ちゃったみたい。

 ……やっぱり遠かった。ツクヨミちゃんとは違う遠さだった。

 

 前よりも離れてる気がする。今までで一番近かったのは、もしや一番初めに会ったときなのかも。

 

 さっきは何も変わってないって思ったけど……真っ直ぐじゃなくなってるかもしれない。

 いや真っ直ぐに立ってはいる。いるんだけど……捻れてきてる?

 

 これはあんまり良くない。なんでそうなっちゃったのかは分からないけど、愛が不足してきちゃっているのかもしれない。

 ……連絡先、交換しておけばよかったかな? そうすれば、言葉で愛をいつでも伝えられるのに。

 

 ……変な方向に行ってしまわないといいんだけどな。

 

「……あっ、お土産」

 

 時計を見れば、あんまり時間がない。だから今回はパパッと決めてしまうことに。

 

 荷物検査をすぐに済ませて、ピピッとするところも通過。あとはここで飛行機を待つだけ。

 

 

 わたしはあんまり頭がよくないから、今降ってきてること全部を理解して、行動することなんてできない。

 わたしに出来るのは……愛することだけ。目の前に、近くに、周りに、世界にいてくれる、総てを。

 

 それが、わたしのはずだから。




大総あい。
最近色々あってキャパオーバー気味。
だけど原点は、総てを愛すること。何かあればそこに立ち帰る。

カミキ君
そろそろヤバい。順調に狂信者(厄介ファン)になっている。


???(暫定ツクヨミちゃん)
あいの選択を、見守っている。
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