あいの女神様   作:エンゼ

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長くなりすぎそうなため、分割です。


28話

 突然任された仕事をなんとかこなし、ちょっとした仕事も持ち帰ったあの日から少し経った。アイちゃんのドラマが無事に放送されて、そこからさらに注目されたみたいで、アイちゃんはどんどん人気を獲得していってるらしい。

 

 だけどあれから、特に日常に大きな変化はない。確かにアイちゃんは人気になってきて、ちょっとだけ仕事の時間が長くなったりしたようだけど、まだ未成年ということもあって帰宅が夜中とかになっちゃうことはない。

 だから、いつもみたいに寝るときは子守歌を歌ってあげることもあるし、おしゃべりをする時間だってある。

 

 ……強いて言うなら、アイちゃんの"あの愛"がさらに強くなっていってるくらい、かな。二人きりになることも少し増えてきた気がする。昔はなんとも思わなかったけど、"あの愛"を向けられるようになってからは、少しだけ照れくさい……のかな? わたしでも、これに関しては分からない。

 

 変わってきてるといえば、アクアくんやルビーちゃんもそこに入るかもしれない。アイちゃんのことが大好きなのは変わってないけど、すくすく育ってくれる。毎日接してるから、意外とすぐに「ここが変わった!」っていうのは分かることは難しいけど、思い出を振り返れば一瞬。大きくなってきたなって実感できる。

 

 この子たちはどんな大人になっていくのかな。いつかは、こんな日常が終わっちゃうのかな。

 施設の子たちにもこれまで抱いてきたし、今でも抱いてる少し寂しくなる感情。でも喜ばしいことだ。この子たちにとってはわたしとの時間は僅かなものだろうけど、旅立っていくまでは直接愛させてね。もちろん、それより先でも、ずっと愛しているけど。

 

 まぁ、これくらいかな。後の日常は大きく変わってない。

 いつもみたいに買い物をして、荷物を持って星野家におじゃまして、ミヤコさんに挨拶をしつつ荷物整理をして、アクアくんやルビーちゃんのお世話をして……という風に、変わってない。

 

 もちろん、それは今日という日も例外じゃない。……うん、そのつもりだったんだけど……。

 

 

「本当に申し訳ない。大総……さん」

 

 

 ──?

 

 玄関開けたら初手土下座してるアクアくんが目の前に。

 

 謝られる心当たりもないし、あまりにも綺麗な土下座でびっくりしてしまって、フリーズしてしまう。

 

 どういうこと? というか土下座なんてどこで学んじゃったのかな? あ、ドラマかな。一緒には見れなかったけどアイちゃんのドラマがやってたし、それに派生して色んなドラマ見始めちゃった? ……それだとしても、何故わたしは土下座されてるの?

 

「あっ、いつの間にこんなとこに……って何してるのっ?!」

「あ、ミヤコさん」

「大総さん。お疲れ様。……びっくりしたでしょう?」

「えぇ、まぁ……アクアくん、どうしたんですか?」

 

 土下座を止めさせてその場に座らせるミヤコさん。だけどアクアくんはまだ不満そう。まだ謝り足りないと言わんばかりに。

 ……どうしちゃったんだろう。

 

 これがあまり大きいことじゃなかったら、ミヤコさんも軽いノリでそのことを話してくれるはず。それをちょっと期待していたんだけど……。

 

「……ごめんね大総さん。私がちゃんとしていればこんなことには……」

「ミヤコさん?」

 

 反応が想像と違っていた。

 ミヤコさんがこの反応をすると言うことは、結構重大そうだ。……まさか、アイちゃんやルビーちゃんに何かあった……?

 

「あ! 安心してちょうだい。アイさんたちに何かあったわけではないわ。いつも通り元気よ」

「あっ、そうなんですね。ほっとしました。では、一体……?」

 

 本格的に謝られるような覚えはない。ただミヤコさんからも謝られたということは、何かがあったことには違いない。

 本当に何なんだろう。果たしてわたしはその謝罪を受けられるのだろうか……などのように、色々考えを巡らせていた中、ミヤコさんから告げられた。

 

 

「大総さん、映画に出たいとか思ったことあるかしら……?」

 

 

 この言葉の意味が、しばらくは理解できないでいた。

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

「えっと、最初から整理させていただきますね」

 

 買ってきた荷物を冷蔵庫とかに仕舞って、ソファに座ってある程度落ち着いてから事情を聞いて、ようやく現状が分かってきた。

 ちなみにルビーちゃんはわたしの膝に座ってる。すっかり定位置になってきた。そしてアクアくんは、土下座こそしてないけど、正座をしてる。そんなことしなくていいのに……。

 

「前に撮影したアイちゃんが出るドラマが最近放送されて、アイちゃんの出番が想定以上に少なかったと」

「……あぁ」

「そこで、アクアくんがたまたま持っていたあの監督さんの名刺の連絡先に電話して、なんでアイちゃんの出番が少なかったのか聞いてみたと」

「……そう、だな」

「少なかったのは色々事情があって仕方なくで、監督さん側も結果的に少なくなっちゃったことには申し訳なく思ってたし、それ抜きにしてもアイちゃんを認めていたから、アイちゃんに映画の仕事を振りたいと言ってくださったと」

「……あってる」

「でもその条件として、アクアくんとわたしが映画に出る事、と」

「ええ、実際に苺プロへそのような仕事依頼が届いていたわ」

「……うーん……??」

 

 経緯は分かった。だけど動機が見えない。あの監督さんがアクアくんを気に入っていたんだろうなっていうのは凄く分かる。だからこそ、あの時面倒を見てくれていたという節もあるんだろうから。でもわたしを出る条件にする理由がない。そこが本当に不思議だ。

 

 ルビーちゃんは「おかあさん、映画に出るの?!」と言ってくれてる。まだよくわかってないし、実感できていない自分もいるので、「そうなのかなぁ」という曖昧な返し方しかできない。

 

 それに、さっきの話で気になっちゃうことが多くある。

 そもそもアイちゃんの出番そんなに少なかったかなということ。アイちゃんはあのドラマでは主役と呼べる立ち位置ではなかった。だから必然的に主役の子の出番が多くなって、アイちゃんの出番が少なくなっちゃうのは仕方ないんじゃないかなって思う。

 これは今の話のポイントはここではないんだけどね。

 

「ちなみに、仕事の内容とか……」

「大総さんが呼ばれたのはエキストラね。一般人の一人として人が欲しいみたい。エキストラって本当は専用の事務所に話が行くことが多いみたいなんだけど、何故かその監督は大総さんをご所望みたいで……」

「……なるほど?」

 

 エキストラ。すなわち数多くいる一般人の一人を演じる存在。一見簡単そうに感じるけど、意外とそうでもなさそうだとわたしは思ってる。だって個から群にならないといけないから。"誰から見ても一般人"に見られなきゃいけないというのは案外難しいものだと思う。それこそ、愛がなきゃできない。

 

 また、アクアくんは普通に一つの役として呼ばれたらしい。まぁアクアくんはそういうの得意そうだもんね。

 

 ただ、ここでどうしても目を背けられない一番大きな問題がある。それは、さっきからずっと思ってること。

 

「……なんでわたしなんでしょうか?」

「正直、私もそう思ってるの。壱護も同じみたい。その監督とは一度顔を合わせたくらいでしょう?」

「えぇ、多少会話こそしましたけど、当たり障りないことしか話してないはずなんですよね……」

「……全く心当たりがないって言われるとそうじゃないんだけどねぇ……」

「え? あの、それって……」

「カンタンだよっ!」

 

 あの監督さんがわたしを呼んだ理由について考えていると、話を聞いてたルビーちゃんが自信ありげに話始める。

 

「おかあさんミリョクテキだもん! あと、お兄ちゃんからきいたけど、おかあさんも"めいし"もらったんでしょ? 気に入られたってことなんじゃないかなぁ」

「……確かにそんな話もあったわね。ルビーの言うことが正しいなら、割と辻褄が合う気がするわ」

「ただ話しただけなんですけどね……?」

 

 考えても、わたしが呼ばれたことにあんまり納得が出来ない。だけどこれは、正直あんまり考えてもあまり意味がないことなのかもしれない。

 

 大事なのは、監督さんがわたしを呼んだという事実。もし断ろうものなら、きっと苺プロへの印象が悪くなるはず。だったら……。

 

「行くべき……ですよね。アイちゃんの仕事にもなりますし、苺プロの発展のことを考えるなら、断りにくいでしょうし」

 

 だったら、行くしかない。そう思って決意を固めようとしていた最中、少し息を吐いてミヤコさんは告げる。

 

「まぁ、そうね。行ってくれたほうがプロダクションとしては有難いのかもしれない」

 

「でも」と間髪入れずに、ミヤコさんは言葉を紡いだ。

 

「でもね大総さん、これは強制じゃないわ。やりたくないならやらなくていいの。これ以上大総さんに迷惑をかけたくないの。現状今こうしてこの子たちを一緒に見てくれてるだけで凄く助かってる。あの時の仕事は本当に切羽詰まってたから本当に例外中の例外。今は断ることが出来る状況なの。全ての仕事を受けなきゃいけないほど苦しくはないのよ、今の苺プロって」

「……ミヤコさん」

「勿論やるって言ってくれるなら、全力でサポートする。だけど大総さんも大総さんでお仕事があるでしょう? 普段皆を寝かせたらそのまま施設に戻って次の日の準備をしていること、前に教えてくれたわよね? いくら日々の仕事を楽しく出来てるからって、限度があるはず。というか私としては、やらないで欲しいとさえ思ってるわ。今のお仕事に、天職と言っていた施設でのお仕事に専念して欲しいから」

「……」

 

 ミヤコさんの思いが、強く伝わってくる。わたしの事を強く思って、この発言をしてくれたことを。

 

 確かにミヤコさんの言う通り、現状はかなり忙しい。だから、出来るだけ今の仕事のことだけを考えるようにしてほしいという考えは凄く真っ当。

 

 ミヤコさんの思いを汲み取るなら、断るべきだ。他でもない会社の経営側に居るミヤコさんがそういうのだから。

 

 ……だけど。

 

「わたし、出てみようと思います」

「?! 大総さん……?」

 

 志願する。ミヤコさんもアクアくんやルビーちゃんも驚いた目でわたしを見ていた。本当に出る気なのかと、そもそも出られるのかと、そんな風に語っているようだった。

 

 確かに、大変だろう。でも体力的には問題ないし、苺プロとしても仕事を受けられてよいだろうという思いもある。

 

 でも、それ以上に。

 

「もっと知ってみたいんです。あの、愛だらけだった世界を、さらに詳しく。前はドラマでした。だったら映画では、どれだけ愛に溢れているんだろうって。……この年で新たなチャレンジをするのは、かなり勇気がいりますけどね」

 

 ある意味、こうしてオファーを貰えたのは幸運なことだ。その世界を見るきっかけをくれたのだから。

 

「心配してくれてありがとうございます、ミヤコさん。でも、これはわたしが出てみたいって思うんです。ミヤコさんを始めとした苺プロの方々にはご迷惑をおかけしちゃいますが、そのお仕事受けさせていただいてもよいでしょうか?」

「……本当にいいのね?」

「はい」

 

 少し考える仕草をして、ミヤコさんは再び話始めた。

 

「……少し、壱護と話してみるわ。出来る限り、大総さんの希望に沿うようにしてみる」

「! ありがとうございます!」

「っ……あぁ、私大総さんには弱いわね。大総さん自身の思いで語られたら、受け入れるしかないじゃない」

「ふふっ、でしょう?」

「分かっててやったのね? まったく、流石というかなんというか……」

 

 このあとはいつも通り、子どもたちと触れ合って日常を謳歌した。その日帰るときにミヤコさんから改めて気持ちを聞かれたけど、何にも変わってないから同じように返した。

 

 ──これは後日にはなるけど、斉藤さんからも同じような話をされて、こちらでも同じように答えた。

 

 そしたら出ることが確定した。年甲斐なくちょっとわくわくしてる。

 

 撮影日はアクアくんと一緒みたいで、今回は仕事にミヤコさんがついてきてくれるらしい。

 

 あぁ、楽しみ。多くの愛を、もしかしたらあの時とは違う種類の愛を感じとることが出来るかもしれない。

 

 ──アイちゃんの伝えてきてくれる愛が、分かるようになるかもしれない。

 

 精一杯取り組もう。その時が、いつか来ることを信じて。

 




大総あい
楽しみだけど、それ以上にアイちゃんからの"愛"を理解したい。

斉藤ミヤコ
純粋に、あいのことが心配

星野アクア
見事な土下座。申し訳無さすぎてずっとうつむいてた。

星野ルビー
「おかあさん映画に出るの?!」
→「おかあさんそんなに大変なの……?」
→「……え、おかあさん大丈夫? まぁでもおかあさんが大丈夫なら大丈夫か……」
お膝の上で心配しておりました。


星野アイ
おしごと
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