あいの女神様   作:エンゼ

29 / 31
話はあまり進んでないですが、投稿させてください。


29話

 ──あぁ、今日のわたしはこのために呼ばれたんだ。

 

 そう思わずにはいられないほどに、愛すべき子がその現場にはいた。

 

 

 ────

 

 

「本日はよろしくお願いいたします」

「──ぁ、あぁ、よろしく」

 

 俺、大総、ミヤコさんで今日俺たちを呼んできたあの時の監督に頭を下げる。ルビーは大総にだっこされて眠っている。……今日はこいつは暇だからな。仕方ない。

 

「よく来たな、早熟ベイビー」

「……アイに仕事振ってくれるっていうから」

「まぁ、な。本当にアイが好きなんだな、お前」

 

 少し言葉を交わした後、ミヤコさんの方を見る監督。

 

「ところで……例の件、話は通ってるんだよな?」

「えぇ、一応。先日付で、この子は苺プロ所属になっています」

「上々。事務所に入ってない子役を使うのは怒られるからなぁ」

 

 再びこちらを向き、笑みを浮かべている監督。俺を使えることを嬉しく思っているようだ。

 

 だが、大総も使いたいと言っていたのに事務所所属対応は俺だけ。そこが気になり、監督に尋ねる。

 

「……大総さんはいいの。事務所に入らなくて」

「あぁ。映すとしてもホントに一瞬程度。それにエキストラはボランティアとしても募集が出来るから問題ない。問題はないんだが……正直来てくれるとは思ってなかったよ」

 

 少し驚いたような表情と、声のトーンからして、本当に予想外であったんだろう。さらに追及する。

 

「来ないと思ってたんだ」

「そりゃあなぁ。お前に関してもそうだが、これは俺のわがままみてーなもんだよ。付き合う義理はないはずだ。……あいや待てよ? あれか? 大総さんもアイの熱烈なファンなのか?」

「俺ほどじゃないのは確か」

「そりゃお前がおかしいんだよ早熟。……まぁとにかくだ、大総さんからすりゃ行く意味がほぼないようなもんだ。半ば諦めてたんだがね……」

 

 そりゃそうだ、と俺は一人思う。

 今日、大総はボランティアとしてここにいる。加えて、それは大総自身も了承している。ボランティアであるということを説明を受けた上で、ここに来ているのだから。

 

「……ねぇ」

「ん? なんだ早熟」

「俺はまだ分かる。前に撮りたいって言ってくれたし。でも、大総さんを撮りたいと思ったのはなんで? やっぱり前に言ってたみたいに、大総さんがあっち(映されるべき存在)だから?」

 

 子役は、ある意味で使いやすいと言えるかもしれない。何故ならまだ何もないからだ。経歴も、職業も。

 だけど大総は大人だ。立派な職業もあるし、時間の制約も大きい。だから誘いの段階で無理と分かっているはず。でも分かっている上で、この監督は大総へ打診をだした。それほどに、大総から何かを感じたんだろう。

 

「んー、まぁそれが主だな。カメラにどう映るか、お前の次には見てみたかったんだ」

「なるほどね」

「ただ……うーん、難しいな。大体どこで出させるかは決めてるんだが、ちょっと撮り方を改めなきゃならんかもしれん」

「え、それってどういう……」

「それはな──っと、すまん時間だ。後で話す。控えの小屋がそこにあるから、待機しといてくれ」

 

 その言葉を最後に、監督は現場の方へ。気にはなるが、結構時間を割いてもらったほうだし、なんなら後で話す時間も設けてくれるみたいだから、後で聞くことにする。

 

 ミヤコさんは各所関係者に挨拶周り。俺と大総、そしてルビーは小屋の中で待機をすることに。俺と大総には台本が与えられているからそれを確認。ルビーはさっき目が覚めたみたいだが大総に迷惑をかけたくないのか、ずっと抱き着いて基本動かない。

 ただ……長時間は中々厳しいようで。

 

「うー……」

「! うふふ、よしよし」

「あっ……えへへ」

 

 台本を真剣に読み込んでいる大総に構ってほしいのか、時々寂しそうに小さく唸る。それに気が付けるのが大総、すぐにルビーの望む行動をとる。ルビーがご満悦。ある程度満足すると落ち着いて、それを見計らって大総が台本への集中を再開。そしてまた──という無限ループ。

 

 あんまり迷惑かけるなよと思う反面、構ってほしそうなルビーに構う大総は凄く嬉しそうで何も言えない。そしてこの光景──どうしても思い出してしまう。大総のことを『おかあさん』と呼ぶもう一人の子のことを。

 

 ずっと見ていたくもあり、だけどちょっと思い出してしまうから目を背けたくもなる。

 

 大総も、そうなのだろうか。内心では、あの子のことを思い出しているのだろうか。

 

 

「──ちょっと!」

 

 

 築かれていた楽園は、一つの声によって乱される。

 ふと見れば、帽子を被った女の子。背丈からして、あんまり年齢に差はない。

 

「ここはプロのげんばなんだけど?! そいつむししてだいほんにせんねんしなさいよ!!」

 

 見る先は、俺と大総。台本を丸め、こっちに向けてきている。この子、どこかで見たような気がする。

 

 というか、何故この子はこっちに怒りをぶつけてきてるんだろうか?

 

「──あっ、ごめんね。初めてだから緊張しちゃってて。声をかけてくれてありがとね、お陰でもっと本気で頑張ろうって思えたよ」

「うっ──そ、そう。わかればいいのっ!」

 

 大総の対応に気圧されたのか、席を立ち離れていくその子。何だったんだ一体……。

 

「おかあさん、あの子って」

「うん、有馬かなちゃん。今話題の子役さんだね」

「あっ、思い出した! 『重曹を舐める』っての!」

「『10秒で泣ける』じゃなかったかなぁ。響きは似てるけど、失礼だからあんまり言わないようにね?」

「はーい」

 

 そうだ、『有馬かな』だ。天才子役の。

 テレビでは分からなかったが、どうやらちょっと性格はアレらしい。

 そして結局なんで怒ってたのかは分からない。確かに大総はルビーに構ってたし、時折俺は二人の方を見ていたが、怒るほどのことだっただろうか。

 

「……あの子」

 

 大総も何か思うところがあるのか、あいつの行った方向を見ている。ちょっとだけ、目が開いてるような……?

 

「……? アクアくん、どしたの?」

「あっ、いや、なんでも」

「そう? なにかあったらいつでも言ってね」

「……ありがと」

 

 ──エキストラさーん、準備お願いしまーす。

 

「あ、はーい! じゃ、そろそろ行くね。二人はどうする? 待てる? 一緒に来る?」

「え、おかあさんの演技見れるの?! 行く!!」

「分かった。アクア君はどうする?」

 

 ミヤコさんはまだ戻ってきてない。苺プロとして色々話をしてるんだろう。

 本音を言えばもう少し台本を読んでおきたいが、ルビー一人にすると絶対暴走する。ストッパーがいなきゃダメだ。

 

「行く」

「そっか。うん、それじゃ行こっか」

 

 それにもしかしたら、監督のあの言葉の意味が分かるかもしれないしな。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 ──エキストラさんたちには、ここからあそこまで歩いてもらって。

 ──分かりました。普通に歩けばいいんですよね?

 ──えぇ。あと心構えとしてですが……。

 

「まだかなぁ、おかあさんの出番」

「気持ちは伝わるがもうちょっと待て。今指導中のようだから」

 

 少しそわそわしながら待つルビー。その若干前に立つように俺はいる。理由は単純、ストッパーだ。あまり無いとは思うが、こいつが寂しさのあまり暴走して大総のほうへ走って行ってしまうかもしれない。流石にわきまえていると思いたいが……。

 

 本日参加のエキストラは大総含めて4人のようだ。今回の4人全員、道行く主人公とすれ違うってだけの役。映るのはほんの数秒程度で、意識して見てないとその人だって気が付くことすら難しい配置のようだ。

 

 要は、目立たないことが役目である。

 まぁそれは当然と言える。何せ主人公が一番目立つべきであるのだから。

 

 ──それじゃ本番いきまーす!

 

「……あ、始まるみたい!」

「分かってる。頼むから迷惑だけはかけるなよ。お前の『おかあさん』のためにも、今後この映画に出るアイのためにもだ」

「分かってるよーだ」

 

 もう本番の撮影が開始されるようだ。ちょっと説明を受けるだけでもう本番とは早いと思うが、そもそもここはそんなに時間のかけるべき場所じゃない。早急に終わらせてメインの部分に時間をかけることが大事だから、理解できる。

 

 思ったよりすぐに終わりそうだなと、思っていた。

 

 

 ──カットーッ!

 

 

 少し、騒がしい。どうやら監督が一旦中止させたようだ。どういうことかと監督の方を見ると、「やっぱりか」言わんばかりに頭を掻いていた。ただそれと対照的に、演者や他の人は何があったのか気が付いてない様子。

 監督だけが、気が付いているように見えた。

 

「あれ、どうしたんだろうね?」

「……何か、あったのかもしれないな」

「変なところ無かったけどなぁ。いつも通りおかあさんはおかあさんだったし」

「お前、ホントにあの人しか見えてなかったの──ッ!」

 

 始まる際に監督の言っていたことが蘇る。

 

 ──『ちょっと撮り方を改めなきゃならんかもしれん』

 

 ルビーの一言で気が付けた。これの意味が。

 

 大総は目立つ。少なくとも、一般人よりは。

 

 本人が意識していないし、何なら目立とうとしていないというのもあるから、意識してないと気が付けない程度。だがこの場において一番目立つ相手は誰かと聞かれれば、大総だと言えてしまうかもしれない。

 身内による色眼鏡の側面も大きいだろうが、俺にはそうにしか思えなかった。

 

 一番自然にしているだけで、あの中で一番目立ってしまう。もし本人が、もっと目立ちたいという思いを抱いてしまったら……?

 例えば、監督の言ってた適性に近いとされるアイドル。アイほどの魅力はないのは確実ではあるものの、もしそうなったらどうなるか?

 

 多くの人が、あいつの愛を真っ向から受けることになる。

 そうなればもしかしたら、ある意味あいつの望む世界に一歩近づいていくのかもしれない。

 

「──はは、まるで宗教だ」

 

 一人零す。

 アイドルには厄介オタクが付き物だ。それがもし大総にもいたとしたら、普通のアイドルとはまた違ったヤバイやつが表に出てきてしまうだろう。そう、あいつを神様として称えるような……。

 

「……()()?」

 

 どこか、引っかかる。デジャヴというやつだろうか。一度このようなことを聞いてきたような気がする。

 かなり前、もしかしたら前世だろうか。

 

 そうだ確か、(雨宮吾郎)の意識が終わりそうだったあの──。

 

「……お兄ちゃん?」

「ッ!」

「大丈夫? ブツブツ言ってたし、なんかぼーっとしてたけど」

 

 少し、考え込んでたようだ。

 

「あ、あぁ……もう大丈夫だ」

「ふーん……あ、おかあさんの撮影終わったみたい。お兄ちゃんもおかあさんに迷惑かけないようささっと終わらせてよ?」

「お前早く帰りたいだけだろ……」

 

 随分と余計なことを考えていたようだ。

 ──そうだ。あの時と今は何の関係もない。今の人生は最高だとは思っていたが、内心では少し前世を引きずっているところもあったらしい。それが出てしまった、といったところだろうか。

 

 撮影に関しては、よく分からないが解決していた。そこは監督のさじ加減という感じだろう。終わった後に聞いてみてもいいかもしれない。

 

 時間的に、俺の出番がもうすぐ来る。

 単体なら然程問題には思わないが、さっき突っかかってきた子との共演になる。

 

 ……何も、起こらないといいな。

 なんとなくそう思いつつ、改めて台本の読み直しを始めた。




あいさん
一回ストップ入れられ、配置を変えられたらOK貰った。
ちょっと迷惑かけちゃったかなと申し訳なさをかんじてる。
……あと、気になってる子がいるらしい。

アクアくん
ちょっと嫌なことを考えてた。
もう既に厄介オタクがいるとは微塵も思ってない。

ルビーちゃん
おかあさん目立ってたなーくらいの印象を抱いてた。
結構見る目がある側にいるっぽい。

監督さん
あいに会ってみて改めて「あぁこれエキストラ厳しいかも」と思ったっぽい。
実際そんな感じだったため、あまりカメラに映さずにするという手法で対処していた。

ミヤコさん
あいさつ周りに行ってた。多分そろそろ戻ってくる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。