合わないとなった段階で読むのを止めていただけますと幸いです。
大総の撮影終了。撮り直しなどのちょっとした異例事態が発生したものの、そこはやはり社会人。ある程度バッファを積んだ状態でスケジュールを組んでいたようで、混乱の様子は見られない。
「ごめんね、上手くできなかったみたいで、長引かせちゃった」
「ううん、そんなことないよ! おかあさんかがやいてた!」
「うふふ、ありがとう」
既にルビーは大総の胸の中。ちょっとしか離れていないはずなのに、何かを埋めるようにぴったりくっついてる。
「あ、そろそろアクアくんの出番だね。大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「そっか。見守っているからね」
正直、大総のことや、前世のことを考えててそれどころじゃなかったってのも大きいんだが。
とはいえ、前世含めてこうして映画の出演者となり演技をする俳優は初体験。緊張していないと言えば嘘になる。
──アクアさーん、出番ですよ。
「あ、呼ばれてるよ。じゃ、行こうか」
「うん」
役回りとしては、怪しい病院で整形を受けるために、山奥の村にやってきた主人公の子を迎える不気味な子どもの内の一人。もう一人はさっきつっかかってきた有馬かな。
ただ、聞いたところによるとこの台本、元々俺が担当する者に該当する登場人物はいなかったらしい。ならば監督が急遽追加したということ。
これを受けて、俺は何を求められているのかを考えながら動く必要がある。
「じゃ、撮るぞー」
思考している内に、もう本番。この間も思考を止めない。
有馬かなを不自然じゃない程度に見る。表情、声、動作、全てが不気味だ。演技が上手い。流石天才と言われるだけのことはある。
ならばこれを真似る? いや、それだったら
敢えて監督は俺を選んだ。なら、俺のすべきことは──。
────
アクアくんの撮影は、一発で終わった。
何も変わっていない、いつものアクアくんだった。
「いつものお兄ちゃんだったねー。ね、おかあさん」
「うん、そうだね」
……あれでいいのかな? いや、監督さんがいいと思うなら勿論それでいいとは思うんだけど。いつものアクア君過ぎて、いいのかなって思ってしまう。
でも、確かにアクアくんは、同年代の子に比べてしっかりしてるから、逆にいつものが"らしい"のかもしれない。
それよりも、今わたしには気になってることがある。それは──。
「──問題大有りよ!」
今、わたしの視界に入っている子。大物の子役である、有馬かなちゃん。
「今のかな……! あの子より全然ダメだった……ッ!!」
『足りてない』。なんとなくだけど、そう感じてしまった。
「お願いだから! 次はもっと上手にやるから……!!」
そんなことはあってはならない。
この世界の総ては皆愛されるべきで、『足りない』子がいてはならない。
久々に、施設以外にそんな子を見つけてしまった。しかも"映像"という、愛に溢れている場所で見つけてしまうなんて、思いもしなかった。
「……ルビーちゃん、ちょっとアクアくんと一緒に待ってもらう事って出来る?」
「え?」
「もうすぐミヤコさんも帰ってくると思うし、ちょっとだけ行かなきゃいけないところがあるの」
「……」
今までこんなことをルビーちゃんに言ったことはなかった。だからちょっとだけ困惑してる様子。
「……うん、いいよ」
「! ありがとう」
「そのかわり! ……あとでもっとぎゅってしていい?」
「もちろん! そんなのいつだっていいんだからね?」
ゆっくりとルビーちゃんをアクアくんの元へ連れて行き下ろす。近くに居た主演の方やスタッフの方に少しだけ見てもらうことをお願いして、一人あの子の元へと歩み出した。
「! 大総さん」
「監督さん、その子とちょっとお話してもよろしいでしょうか……?」
「あ、あぁ。というかその目」
「ありがとうございます」
ゆっくりと、目の高さを合わせるためにかがむ。監督さんの服を掴んで泣いているその子に、まずは落ち着いてもらうために、言葉を紡いだ。
「──ねぇ、かなちゃん……って呼ばせてもらうね。ちょっとわたしとお話をしてくれないかな?」
「なによあんた!! 今はそれどころじゃないの! もっといい演技をしなきゃ」
「監督さんは待ってくれるよ。でもその前にちょっとお話してほしいの。ね、監督さん。待っててくれますよね?」
「……あ、あぁ」
「ありがとうございます。ほらね、待っててくれるって。だからちょっとだけわたしに時間をくれないかな?」
「……わかった」
かなちゃんを近くにあった椅子に座らせる。もちろん監督さんが見える位置で。本当に待っててくれることを目で見て分かるようにするために。
「はい。これ、飲んでほしいな」
「……なに、それ」
「オレンジジュース。冷えてるよ。演技して喉乾いてないかなって」
「べつにかわいてないけど。……でも、もらってあげる」
「ふふ、ありがとう」
わたしはその近くにしゃがむ。正面じゃない。あくまでわたしは、敵対関係じゃないから。
「……ね、かなちゃん」
「……なに」
「覚えてる? さっき、わたし一回NG出しちゃったの。エキストラなのに、歩いてるだけってはずなのに、失敗しちゃったんだ」
かなちゃんは、何も言わない。
「だから、かなちゃんはすごいなって思うの。だって1回で成功したし、演技だってしてたんだよ? わたしだったら、緊張しちゃって上手く出来ないよ」
「……でも、あの子のほうがすごかった」
「うん、確かにあの子もすごかった。でも、かなちゃんもすごかった。だからそれで」
「──違うの!!」
立ち上がって、かなちゃんはわたしを見下す。怒っているような、そんな目付きで。
「一番じゃなきゃダメなの! 誰よりも、演技が上手じゃなきゃいけないの!! だって、そうじゃなきゃ──」
「……ほめてもらえない?」
「ッ!!」
──あぁ、やっぱり。
怯えたような目を見て、そう思った。
この子にはやっぱり、愛が足りてない。
「なんで……」
「……わたしにはね、分かっちゃうんだ。皆には内緒だよ?」
理由は分からない。かなちゃんのご両親は、ちょっと忙しいのかもしれない。愛する時間が取れてないのかもしれない。それ以外の理由なのかもしれない。
だけどそんなことは、あっていいはずがないんだ。
「かなちゃんはすごいよ。これは本当のことだよ。だってそうじゃなきゃ、『10秒で泣ける子役』って言われないでしょ?」
「……で、でも、1番じゃなきゃママは」
「多分ね、かなちゃんのおかあさんはちょっと疲れてるだけ。ちょっと、愛し方をド忘れしちゃっただけなんだよ。だからね……」
かなちゃんの手を取って、しっかり目を見て、愛をさらに込めて、伝える。
「思い出してくれるまででいいから、わたしにもかなちゃんを
「え……?」
そのまま手を、頭の上に。
「すごいね、えらいね、かなちゃん。わたしみたいな普通の人は、かなちゃんみたいな演技はできないよ」
「え……ぁ」
「かなちゃんはこれから大きくなるもんね。さらにすごくなっちゃうんだ。ふふ、楽しみだなぁ」
「ぁ、ぅ……」
「いっぱいがんばってきたんだよね。大変だったこともあったはずなのに、乗り越えたってことだもんね。うん、やっぱりすごいし、えらいよ」
「……」
顔を赤くして、俯いちゃった。でも、撫でる手は止めない。
「でもねかなちゃん。今のかなちゃんがもーっと凄くなる方法があるんだよ?」
「……ぇ?」
「ほら、ちょっと周りを見てみてほしいな」
言った通りに、ゆっくりながら現場を見渡してくれるかなちゃん。
かなちゃんにとっては、いつもの景色かもしれない。だから、改めてここの凄さを伝える。
「──まず、監督さん。かなちゃんが出てたシーンも、わたしが見ていたシーンも、全部見てる。一人ひとりを丁寧に見てるね」
「……」
「次に、スタッフさん。撮影で使う道具を出したり、かなちゃんたちがしっかし演技できるように、お水とかのサポートをしてくれてる」
「……うん」
「最後に、他の出演者さんたち。さっき、かなちゃんと一緒に撮影していた方、スタッフさんたちと仲良さそうにお話してる。他の人も監督さんも、皆仲良さそう。ね、なんで皆仲良くなってるんだと思う?」
「…………わかんない」
「それはね……皆が、支え合って一つのものを作ってるって、知ってるからだよ」
そう、一つの物を作るためにこれだけ多くの人が動いてる。
まだ小さいから、全部は分からないかもしれない。実際、ちょっと不思議そうにしているのだから。
でも、伝えなきゃいけない。この世界が、愛で成立してるってことを。
「かなちゃんはすごい。でも、その凄さが出せてるのはなんでかな。
もちろん、かなちゃんがすっごく頑張ってきたからでもあるよ。でも、それだけじゃテレビには出れない。テレビに出るには、まず撮影してくれる人がいる。舞台を整えてくれる人がいる。元気にカメラに映るように、髪とかを整えてくれる人がいる。
ほら、これだけでもすごく多くの人がいる」
愛がなきゃ、こんなことはできない。愛があるから、サポートするという仕事が存在してる。
少しでも、かなちゃんに分かって欲しい。
「皆に支えてもらってこそ、『有馬かな』ちゃんが輝けてる。今がまさにそうだね。
そんなかなちゃんが、周りへ愛を伝えていったらどうかな。きっと周りの人たちは、さらにかなちゃんに輝いてほしいって感じると思うの」
かなちゃんはじっとわたしの方を見てる。
「わたしはかなちゃんにはさらに輝いてほしい。だから、かなちゃんから周りに愛を伝えて行って欲しいんだ」
「……どうすればいいの?」
「簡単だよ。何かをしてもらったら、『ありがとう』って感謝の気持ちを伝える。されて嫌なことはしない。もししちゃったら心から『ごめんなさい』って謝る。この三つだけ」
「それだけで、いいの?」
「うん、それだけでいいの」
「……そうなんだ」
少しだけ、無言の時間。
わたしとしては伝えきった。どうなるかは、かなちゃん次第。
「……ねぇ」
「ん? なぁに?」
「一番じゃなくても……ほめて、くれるのよね?」
「もちろん」
「じゃあ、一番だったらさらにほめてくれるってことよね?」
「……ん? まぁ、そう……なのかな?」
「なら!」
わたしの前に立って、強い目で、言ってくれた。
「なら、もっと上手くなる! 今日はあの子のほうがすごかったけど、次はあの子より上手になってみせる!!」
話す前と言ってることは似てる。でも、根っこが違う。
あぁよかった。少しは、愛することが出来たはずだから。
「さっき言ってたこと、やってみる。さらにすごくなってみせるから!
だから……その、ありがとう!!」
「! ……ふふ、どういたしまして」
多分、もう大丈夫だ。
完璧に理解してくれてるわけじゃなさそうだけど、形から入ってもいい。まずは行動してみることも大事だから。
わたしの元から離れて、色んな人に早速実践しに行ってるみたいだ。
まずは監督さん、そしてマネージャーさんかな? そんな感じの方々に対して。
……うん、ホントにもう大丈夫そうだね。
「すみません監督さん、お時間取らせてしまって」
「あ、いやそれはいい。……すごいな大総さん。まさかあんな風になってくれるとは」
「長く活動するなら、愛はさらに大事だと思いますので」
「……惜しいなぁ」
「? 何かおっしゃいました?」
「いや、なんでもない。とにかく、今日はありがとな」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
それを最後にして、監督さんとお別れ。ルビーちゃんの元へと戻る。
「ごめんね、遅くなっちゃって。あ、ミヤコさんもお疲れ様です」
「大総さん! ごめんなさいね。結局大総さんに任せっきりになっちゃって」
「いえいえ、大事なお仕事をされてたのですから、仕方ないですよ」
「おかあさん、だっこぉ」
「ふふ、おいで?」
ルビーちゃんを抱っこをする。アクアくんは甘えてこない。いつもの感じ。
そしてどうやら、今日の撮影は終わりっぽい。ミヤコさんが教えてくれた。現場の雰囲気もそんな感じに見える。
さて帰ろうか、と帰路につこうとした時、走ってくる足音が聞こえてきた。
「ねぇ!」
「! かなちゃん」
何か言いたいことあったのかな。
ルビーちゃんをだっこしつつ、しゃがみこんで目の高さを合わせる。
「……なまえ」
「へ?」
「なまえ、おしえてよ」
「あ、わたしの? そうだった。まだ教えてなかったね。
わたしはね、『大総あい』っていうの」
「あい? あのアイドルとおんなじ?」
「うふふ、そうだね。アイドルのアイちゃんと一緒だ。あ、でもわたしは平仮名なんだよ。えっと……ほら」
もっている施設の名刺をかなちゃんに差し出す。
施設の者として外部の人ともやり取りすることがあるから、それ用で一応施設として作成していた名刺。こんなところで活きるだなんて。
「それ、あげちゃうね。何かあったらそこに書いてる場所においで? 大体わたしは、そこにいるから」
「……いく。ぜったいいくから」
「うふふ、待ってるね」
それを最後に、別れた。
かなちゃんは次の仕事もあるらしい。流石人気の子役さんだ。
わたしたちは今日これでお仕事終わり。本当に後は帰るだけだ。
「ねぇおかあさん、名刺とかもってたの?」
「うん、たまーに施設の外から来た人とお話するから、その時用にね」
「……あとでそれ一つちょーだい?」
「え? いいけど……なんなら今あげちゃうね。はい」
「!! ありがとッ!!」
めちゃくちゃ喜んでくれた。……何がいいんだろ、ただの名刺なのに。
「……大総さんも罪な女ねぇ」
「え、それどういう意味ですか?」
「いえ、なにも。それより大総さん、やっぱりうちでデビューしてみない?」
「うふふ、お上手ですねぇ。でも今日も一回NG出しちゃったんですよ? エキストラなのに」
「冗談よ。というかそんなもんじゃないかしら。普通は緊張しちゃうものだしね」
最初に言ってたことはよく分からなかったけど、NGに関してミヤコさんがそんなもんと言ってくれるなら、そういうものなのかもしれない。
「ねぇ」
「? アクアくんどうしたの?」
「あの子に、何を話したの?」
「あの子……かなちゃんだね。えっと、愛について、かな」
「アイについて?」
「アイちゃんじゃないよー。うふふ、アクアくんはママのこと好きなんだね」
「……」
「あ、遅くなったけど今日はお疲れ様、アクアくん。かっこよかったよ」
「ッ……!」
素直に褒める。最初にカメラに映って演技したはずなのに、すごく堂々としていた。
でも、きっと内心大変だったはず。誰も見つけられないであろうそれも、わたしは愛したい。
「あ、お兄ちゃん照れてるー!」
「ルビー、うるさい」
「あ、うるさいって言われた! おかあさーん、お兄ちゃんがいじめるぅ」
「あらあら、うふふ」
兄妹のかわいいじゃれあいを眺めていると、遠くから声が聞こえてきた。
聞き覚えしかないものだった。
「アクアー、ルビー、お姉ちゃーん!」
「……あ! ママだ!」
「あれ、本当だ。アイちゃんだね」
今日は別で撮影があるって聞いてたんだけど、どうしてここに?
「アクアとお姉ちゃんの撮影があるって聞いて、抜けだして来ちゃった!」
「誤解されるようなことを言うな! ちゃんと終わらせてから来たんだからな! っと、お疲れ様、嬢ちゃん」
「斉藤さん」
どうやら、仕事終わりにここに来てくれたらしい。でも残念、撮影は両方とも終わってしまったから。
「いやまぁ、スケジュール的に終わってるだろうなぁとは思ってたさ。だから単なる迎えだよ」
「お姉ちゃんやこの子たちに会いたくなっちゃって。お疲れ様だねアクアー」
アイちゃんにだっこされてちょっと嬉しそうなアクアくん。やっぱり母親が一番なのかもしれないね。
さてじゃあ、このまま皆で帰ろうか。
そんなとき、斉藤さんからある提案をされた。
「そうだ。アイと嬢ちゃん、この子たちは預かっておくからよ、ちょいと買い物を頼まれちゃくれないか?」
大総あい。
また一人、愛した。
有馬かな。
自分を心から認めてくれる人に出会ってしまった。
自分がよくなる方法も教えてもらったので、これからそれを信じて実践していく。いい子だね。
星野アクア。
演技頑張った。
かと思ったらなんか後輩がまた一人堕としててびっくり
あといきなり褒められてびっくりして照れちゃった。かわいいね。
星野ルビー。
愛することがおかあさん、ということを理解しているため、心苦しいながら送り出した。
最初に名刺をもらえたかなちゃんにちょっと嫉妬。でも自分も名刺ゲットしたしセーフ。
斉藤ミヤコ。
裏で色々やってた。大変だったらしい。
星野アイ。
撮影終わりに顔見たくておねだりして現場に来た。
このあとデートするらしい。
社長
なんかデートしろって二人にお願いした。