あいの女神様   作:エンゼ

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難しかったです。


4話

 ライブ当日。朝早くから準備があるアイちゃんを見送って、その後時間までやれる仕事を全部こなし、施設の子達にその時間で注げるだけ愛を注ぎきった後、休みをもらった。

 

 もちろんいきなり休むってことを伝えたわけじゃなくて、ちゃんと前から今日は休みたいってことを伝えてはいた。

 だけどこの施設、結構人手は足りてない方だって聞いてた。だから休みを取るのは難しいかなって思ってたんだけど、あっさり貰えた。

 

 楽しんでおいで、って言ってくれた。だから、今日は目一杯楽しむことにしよう。

 

 さらにチケットをよくよく見てみたら、かなりステージに近い席みたい。アイちゃんがこれまでどんなことを積み上げてきたのか、それがよく分かる場所ということ。成長したあの子が凄く楽しみ。

 

 それにしても……『アイドル』かぁ。確か、元々の意味は『偶像』なんだっけ。日々の生活に潤い──愛を求められ崇拝されるもの。だけど今のアイドルはちゃんと生きてる。

 

 つまり、愛を振り撒く存在こそアイドルということなんだろう。まるで、わたしの生き様をそのまま職業にした感じだ。

 

 愛を知らなかったアイちゃんが、そんなアイドルになったんだ。ホントに、成長したなぁ。この前まで、愛を知らなかったのに。

 

 ……時が経つのは早いなぁ。

 

 色々と考えている内に、ライブ会場へ到着。どこかこじんまりとしてる場所だった。

 まぁでも、あんまり大きさは関係ないと思う。大事なのは規模じゃなくて、内容だしね。

 

 周りのお客さんのちらほら来ている。満席じゃない。でも、多いほうだと思う。

 

 指定された場所に来て、その時を待つ。アイドルのライブには一回も行ったことがないんだけど、何かしないといけないものなのかな……? ペンライト振るとか。

 

 でも周りを見る限り、全員が全員そうじゃない。だから別にやらなくてもいいのかな。その辺りのマナーは分からないけど、とにかくアイちゃんの晴れ舞台だ。それはしっかり目に焼き付けないと。

 

 ……そういえば、アイちゃんはユニットでデビューするんだっけ。なら、他の子もアイちゃんと同じように愛を振り撒いてくれるのかな。これは期待が高まるね。

 

「──お、嬢ちゃんじゃないか」

「あら、斉藤さん。お久しぶりです」

 

 今か今かと待っているとき、アイちゃんが所属してる事務所の社長、斉藤さんがやってきた。

 

「いよいよ、なんですね」

「あぁ、ついにだ」

 

 こうして斉藤さんと話すのは初めてじゃない。アイちゃんがアイドルになるために書類とかの手続きをするとき、保護者として私が相手をしたから。

 

 最初は若すぎるってことでちょっと不安そうではあったけど、認めてくれたのか段々と普通になってくれた。

 

 始めは敬語ではあったけど、明らかに斉藤さんが年上ということで、素で話してもらうのをお願いした。だからこうして、普通に話してくれている。

 

「しかし、その中でもアイは特に頑張ってた。お姉ちゃんにいいところ見せるんだって勢いでね」

「あら、本当ですか? 嬉しい」

 

 さらに期待が高まってく。あぁ、本当に楽しみ。

 

「おっ、そろそろか」

 

 ステージに目を向ける斉藤さん。どうやら、そろそろ始まるみたい。

 

 わたしもステージに目を移す。もうすぐ始まるんだ。アイドルのライブを見るのは初めてだから、心がぞくぞくしてきている。

 

 さぁ、見せて。ちゃんと、目は離さないから。

 

 

 ─────

 

 

 一つ、深呼吸。それでも止まらない若干の震え。

 

 今までで、多分ここまで緊張したことないと思う。

 

 ステージ脇から見える、私を待ってくれているお姉ちゃん。今日は、今日だけは、失敗は許されない。

 

 この日のために、頑張ってきた。この日のためだけに、完璧に仕上げてきた。

 

 全ては、お姉ちゃんの愛を私だけのものにするために。今日で、少しでもお姉ちゃんの中のわたしを大きくするために。

 

 だから、私は全力でやる。一緒にやる皆には申し訳ないけど、今日の主役は私たちじゃなくて私だけでいい。

 

 そうしないと、お姉ちゃんの目に他の子も映ってしまうかもしれないから。

 

 もう一度、深呼吸。お姉ちゃんのことを思うと、不思議と震えは止まってきた。

 

 ……よし、いける。

 

 タイミング良くかけられる出番だという声。これから、本番だ。

 

 見ててね、お姉ちゃんと、ステージに出たのも束の間──

 

 

 ──気が付いたら、終わってた。

 

 とにかく夢中だった。全てを出しきった。息が切れてることに今気が付いた。

 

 大きな声たちが私たちにかけられてる。皆、こっちを見てる。盛り上がってる。佐藤社長の言ってた成功って、こういうことだと思う。

 

 だけど私が欲しいのはこれじゃない。すぐにお姉ちゃんのほうに目をやった。

 

 ──あぁ……っ! 

 

 どくんと、心が激しく動いた。全身が喜び出してきた。ぞくぞくが止まらない。

 

 お姉ちゃんが私を見てくれてる。でも、それだけじゃない。

 

 今のお姉ちゃんの目の中には、私しかいない! 

 

 これが喜べないわけがない。今までちゃんとレッスンをしてきて本当によかった。

 

 確実にお姉ちゃんの中の私を大きくできた。大きすぎる一歩だ。この道は正しいんだって、今はっきり分かった。

 

『ありがとうございました!!』

 

 メンバーで声を揃えて最後の挨拶。同時に起こる沢山の拍手。最高の形でこのライブを行うことが出来た。

 

 だけど、これは始まりでしかない。まだまだこんなもんじゃ満足出来ない。

 

 確かにお姉ちゃんの中の私は凄く大きくなってくれた。でもそれじゃダメ。

 

 全部私になってくれないと、イヤだ。

 

 他の施設の子も、“センパイ“も、全部私で塗りつぶしてしまわないと、お姉ちゃんの『唯一』になれない。

 

 これが出来て初めて、お姉ちゃんの『愛』は全部私だけのものになる。それが最高の幸せなんだから。

 

 だから、これからが本当に大事。これからも手を抜かないで、完璧で究極になれれば、きっとお姉ちゃんは私だけを見てくれるようになるはず。

 

 お願い、ずっと見ていてお姉ちゃん。

 

 私だけが映るようなっても、二人でお婆ちゃんになっても、死ぬときも、その先でも、ずっとずっとずぅっと、ね。

 

 

 ────

 

 

 ──気が付いたら、全部終わってた。

 

 感動って、こういうことを言うんだと思う。何も考えられなかった。分かるのは、すごかったってことだけ。

 

 終わって、ステージからアイちゃんたちが居なくなって、ようやく感覚が戻り始めた。

 

 ──あぁ、すごい。すごい! これが、アイドル! 

 

 総てが一つの愛を築いていた。ダンスも歌も、全部愛で出来ていた。

 

 あの愛を知らなかったはずのアイちゃんが、ちゃんと愛を振り撒くことができていた。

 

 ……ホントに、大きくなったなぁ。

 

 あの頃のアイちゃんが、こんなになっちゃって。

 

 なんとなく、いつもと立場が変わっちゃった気がした。わたしが愛を受け取る側で、アイちゃんがくれる側。

 

 まだ本物じゃないみたいけど、形が出来てるだけでも成長してる。

 

 ここから本物になっていけば、今以上にアイドルとしてアイちゃんが輝く。それはすなわち、アイちゃんが幸せになっていくのを意味する。

 

 なんて喜ばしいことなんだろう。嬉しいなぁ。……わたしも、見習っていかないと。

 

「──ゃん、嬢ちゃん!」

「──っ! 斉藤さん? どうしました?」

「お、戻ってきたか。いや、ステージからずっと目を離してなかったからな。大丈夫か?」

「あぁはい。大丈夫です」

 

 少し辺りを見渡してみる。ちょうど物販のほうへ人が流れているのが見えた。

 

「すごかったろ?」

 

 得意気な表情でこちらを見てくる斉藤さん。

 

「──はい。とても」

 

 そう言われたら、こう返すしかない。

 これを聞いて斉藤さんは、どこかほっとした様子だ。

 

「おぉ、そりゃよかった。これで約束も守れるってもんよ」

「約束……?」

「おっと、こっちの話だ。すまない」

 

 なんの話だろ……? まぁでもわたしには関係ない話みたいだし、深く突っ込まないほうがいいね。

 

 再び、視線を誰もいないステージに向ける。

 

「それにしても……ホント、すごかったです」

 

 まだうっすらと、さっきのライブの様子が見えている。ここまで感動したのは、初めてなのかもしれない。

 

「アイドルって、すごいんですね」

「お、嬢ちゃん。アイドルに興味出てきたのか?」

「あはは、もうそんな年じゃないですよ。でも……」

 

 一息置いて、続けた。

 

「もし昔に戻れたり、生まれ変わったりしたら、アイドルを目指したくなる……そんなライブでした」

 

 アイドルという存在をそこまで知らなかったから、昔は選択肢にすらなかった。だけど、“こうだ“と知ってしまった。

 

 思っていた以上に愛を大切にして、さらに愛を振り撒く素晴らしい存在。わたしの生き様がそのまま……いや、それ以上に現れていた。

 

 今のわたしはもうやることもあるし居場所もある。年もアイドルをやるにしては高くなりすぎてしまった。

 

 だから、アイちゃんに託そう。この先アイドルとして世界中に愛を振り撒くことを。

 

「斉藤さん」

「ん、どした?」

 

 そのために──。

 

「アイちゃんを見つけてくださって、ありがとうございます」

 

 向き直し、頭を深く下げる。

 

「そしてこれからもアイちゃんを、どうかよろしくお願いいたします」

 

 この人になら、任せられる。スカウトからデビューまで、しっかりアイちゃんを見てきてくれて、ここまで持ってきてくれた。

 

 だからきっと、大丈夫。

 

「……あぁ、任された」

 

 力強いお言葉。……うん、これなら大丈夫。

 

「さて、物販に行きましょうか」

「お、アイには会っていかないのか?」

「おそらく事務所で打ち上げがあるでしょう? 終わる頃、また迎えに来ますね。では、失礼します」

「いや、多分そのまま迎えに来て貰ったほうが喜ぶだろうが……まぁいいか」

 

 今日は凄く疲れて帰ってくるだろう。ここで沢山の愛を貰ったから、返していかなきゃ。うんと甘やかしてあげよう。

 

 あぁ、良いライブだった。次のライブも見れたらいいなぁ。




大総あい。
アイに対する気持ちは大きくなった(無意識)。
初ライブの感動はまだ抜けそうにない。

星野アイ。
大きな一歩を歩めた。
多分着実に完璧で究極、最強で無敵のアイドルになる。
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