ガクト・コウヤは今日ほど自らの安易な行動を嘆いたことはないだろう。いつも通り在庫数の確認や新作商品の品出しといったアルバイトとしての仕事はしっかりとこなした上で、それでもこんな絶妙に辺鄙な場所にある個人経営の模型店に平日の昼間から客が来る筈もなく、こうした時は決まってレジで使用しているPCでこっそりネットサーフィンに勤しんだり、時には入り浸っている掲示板を眺めたり程々にレスを書き込んで時間を潰すのが此処でのバイトの日課であった。
(…どうしてこうなった)
今日はそんないつにも増して暇な1日で、開店から2〜3時間が経っても客が1人、【HG 1/144 ガイアガンダム】の再販品を購入した女性だけという明らかに暇が確定したかのような状況。普段からバイトの時間中にサボりで掲示板に書き込みをするような人物だ、自らスレッドを立てるのは時間の問題であっただろう。
(あんなスレを立てたばっかりに…)
【ここだけガンプラバトルで】
そう銘を打ってスレを立てたスレッドはビルダー…というよりかはプラモデラーなら誰もが一度は憧れる想像若しくは空想の世界である【全てのプラモデルがガンプラバトルのように戦える】というもの。
ガンプラバトルとその根底を支えるプラフスキー粒子が発見されてから早くも9年、それなりに年月が経過した昨今だが、今尚ガンプラバトルはその名の通り【ガンプラ】でしか戦えず、コトブキヤやアオシマは勿論ハセガワにフジミといった他の会社のプラモデルはバトルシステムに認証されず、かといってガンプラブランドを抱えるBANDAIだとしてもガンプラ以外のBANDAIプラモデルもシステムに読み取られない。同じHGというある種の共通ブランドを以てしても、バトルシステムはまるで断固と言わんばかりにガンプラ以外を拒み続けている。
システムを開発したPPSE社にどんな思惑や方針があるのかは今も開示されず、この数年で本格的な考察から陰謀論染みた与太話も世間では溢れかえっている。
【かつて放映された【ガンプラビルダーズ】のコンセプトに忠実に】【ガンダム作品同士でもシステム周りや設定間でのバランス調整が困難】【MSだけでもべらぼうなのに他作品どころか現実世界の兵器まで数えたらキリがない】【開発陣は重度のガノタ】【経営者上位がガンダムを信仰している】【ガンダム至上主義】【日本のロボットはガンダム】【実は何も考えてない】
……といったのがネット上では飛び交うほどに、PPSEは今もだんまりを貫き通している。システムの根底を支えるプラフスキー粒子の生産方法まで一切を秘匿するレベルに同社は沈黙している。ガンプラバトルという世界規模の市場を手に入れたのだから、それを維持する以上はしないというのも考えではあるのだろう。
閑話休題
ガンプラバトルとはその名の通りガンプラでバトルを行うためのシステムであり、ガンプラつまりは【ガンダム作品機体のプラモデル】のみが適合し、他社は勿論他作品のプラモデルはガンプラバトルが出来ないというのが常識であり、もしそれが覆るとしても暫く先まではないだろうというのが世間一般の認識である。
『Please set your 【GUNPLA】』
バトルシステムが生成したガンプラファイター…ガンプラを操作する所謂コクピット空間に合成音声のアナウンスが流れる。既にバトルシステムは起動済み。【ちょっと細工が施された】GPベースを筐体に接続し、バトルシステムも戦闘ジオラマも生成まで完了している。
戦闘区域は市街地。無人化して戦場となった都市をイメージしているのか、砂と硝煙の混ざった風と、割れたガラスとあちこちのコンクリートに刻まれた弾痕が、如何にもな空気感を描いているのをサブモニターが表示している。
『何しているんですかー!早くプラモをセットしてくださーい!』
もう1つのサブモニターに通信ウインドが表示され、そこに女性の顔が映し出される。
綺麗な白銀の髪に透き通るかのような白い顔肌、もしこれで瞳まで銀若しくは白であれば色んな意味で差別されていたのでは?と思うかのような美貌の女性。幸いにも瞳は黒色であるそんな彼女なのだが、その声色は明らかにこの場に立つガクト・コウヤことコウヤを揶揄う仕草であり、表情も良い意味で悪い笑みを浮かべている。
「…やっぱりやらなきゃ駄目です?」
『駄目ですー!配信してるんですから、視聴者さん達をこれ以上待たせてはいけませんよ!』
「いやだからなんで配信…いやそもそもなんで店長勝手にこん……あ、いやその…」
コウヤが反論しようとしたところで言葉が止まる。事の発端が自身の行いにあったことを思い出した彼は自ずと口を閉じる。その発端というのも【バイト中にサボってスレを建てて眺めてたら珍しく表に出てきた店長にそれを見られて怒られた】という、至極真っ当なものなのだ。最も、そこから転じて【
『私は準備出来てますから、早くして下さい』
「出来たってことは…【認識】したんですか?」
『勿論です!私と私の優秀な友達による共同制作の【特製プログラム】なんですから!』
その言葉に思わずゴクリと喉を鳴らし、コウヤは手にしているプラモデル…【コトブキヤ ロックマン(ロックマン エグゼ)】に視線を落とす。コトブキヤという他社のプラモデル。当然ガンプラではないどころかガンダムとは一切関係のない【ロックマン】という作品群の立体物の1つ。ガンプラバトルのシステムを起動し、ガンプラバトルをする場所に立っている以上本来であれば持っている筈ない作品。
「…!」
ええい!ままよ!という感じにコウヤはそれをGPベースにセットする。本来であればこの時点でGPベースが異常を知らせるシステム通知を発し、警告を発するか程なくしてバトルシステムが強制的に停止する筈である…が、
通常のガンプラバトル同様にプラフスキー粒子がプラモデルへと散布され、プラスチックの塊に過ぎないそれに光を灯していく。
約14cmという一般的なHGガンプラ相当の体躯。紺色の全身に両手足の青色、水色のラインと黄色の肩部をアクセントに、【ロックマン】を代名詞たる頭部のメットと、【ロックマン.
「マジかよ…ホントに認証した…」
ロックマンがカタパルトエリアに搬送され、コウヤの手元に操作用のアームレイカーが出現する。それに手を構えたことで漸くこれが夢幻ではなく、紛れもない現実であることを彼に実感させた。
『コウヤ君も準備出来ましたね!では始めますよ!』
「い、いつでもどうぞ!」
店長と呼ばれている彼女も声を上げ、コウヤも身構える。ここから先は未開の世界。【ガンプラバトルであってガンプラバトルではない何か】を自分達はこれから行うのだ。何が起こるか分からない、全てが未知で溢れかえっている。そんな状況を前にガンプラファイターである彼がワクワクしない筈がなかった。
『レーナエイ・ミリー!【ジャガーノート】!』
『ガクト・コウヤ!プラグイン!【ロックマン.
2人が同時にアームレイカーを操作する。各々のカタパルトに乗せられた【機体】と【ネットナビ】が電磁加速によってバトルフィールドへと射出されていく。
『出撃!戦闘配置へ!!』
「トランスミッション!!」
ノリノリで掛け声や口上を叫び、2人は出撃を決めたのであった。
戦場である市街地に最初に降り立ったのはロックマン.EXEであった。プラモのスケールの関係上、体躯が周囲の建物やビル群と比較すると遜色ない、どちらかといえばロックマンが巨大化しているというような感じとなっているのだが、コウヤはロックマンをすぐさま手近のビルの物陰に身を潜めた。
(機体状態…というかロックマンの状態を確認するか)
さも当然のようにバトルシステム内で動いているロックマンだが、その実情は未知数。プラモの出来自体も店頭展示のサンプル作品ということで基本的な工作と部分塗装に墨入れといったの程々の完成度である今のロックマン.EXEに何が出来るのか。その把握をコウヤは第一に考えた。
(当然だけどスラスターやバーニアの推進機関は無し。武装は【ロックバスター】【キャノン】【ソード】の3種、それとSPスキル…こいつは)
『ALERT!ALERT!』
そうこうしていると途端に警告アラートが鳴り響き、咄嗟にコウヤはロックマンをその場から跳躍させる。直後、直前までいた隠れていたビル陰に何処からか砲弾が降り注ぎ、コンクリートとガラスの建造物を容易く吹き飛ばした。
ロックマン持ち前の身軽さで手近のビルの屋上に飛び上がり、着地と同時に砲撃した相手を確認する。11時方向、プラモデル間のスケール差もあるので正確な距離は不明だが大凡100mという砲撃戦をするにはかなりの至近距離。正直言って回避できたのが幸運なくらいの場所に陣取って、背部ガンマウントの滑腔砲を向けている機体がそこには鎮座していた。
【HG 1/48 ジャガーノート(シン搭乗機)】
4脚歩行という多脚兵装の中でもトップクラスの貧弱さ、機体前面に搭載した一見どう使うのか不明な2対の高周波ブレードとアンカーユニット、そして主武装の57mm滑腔砲の砲身をこちらに狙いを定めている。スケール違いの関係上、ロックマンよりも実際は小さい1/48のジャガーノートも実際に相対すると中々の大きさのキットであり、実際に各装備の口径が設定通りの威力とは思えないのだが。
『流石ですね、不意を突いたと思ったんですが』
「ファイターとしての腕は俺の方が上って知ってるでしょう?ねぇ店長?」
ジャガーノートの滑腔砲が再び火を吹く。今度はしっかりと視認した上で回避方向を定めてロックマンはその場からまたも跳躍し、隣のビルへ飛び移りながら右腕をジャガーノートへと定める。
「【ロックバスター】ッ!」
ロックマンの腕が変形し、その腕ごと筒型の火砲へと形を変える。照準及び誤差補正もほぼ完璧、放たれたピンクの光芒はジャガーノートへ一直線に迫ったが、相手もただ棒立ちな筈もなく即座に反応。ロックマン同様にビルから飛び降りて回避。それと同時にアンカーワイヤーを射出して手近のビルに引っ掛けたと思えばその勢いのまま立体機動を始め、見た目からは考えられないような身軽さで市街地の奥へと向かっていく。
(おいおいおい!?【
ロックバスターを連射するもも、ビルの隙間や街灯等の物陰を器用に駆け回り、更にはアンカーも併用して高い機動力を見せるジャガーノートに1発も命中しない。原作では【アルミの棺桶】と揶揄される機体が、別の意味で【アニメのような異次元の動き】をする様に、コウヤは舌を巻いた。
『ファイターの腕が何か言いました?』
「煽ってくれますねぇ…!」
『貴方の本気はそんなものではないでしょう!』
一瞬だけ振り返り、反撃の滑腔砲がジャガーノートより放たれる。迫る砲弾をロックバスターで迎撃し、爆発がコウヤの視界を奪う。その間にレーダーからジャガーノートの反応が消失する。
(……成る程)
視界からも索敵範囲からも逃れるジャガーノートとそれを駆るエリーの行動にコウヤはある予測を立てる。このバトルシステムの再現具合にもよるが、原作のジャガーノートは基本的に迎撃戦に用いられた機体だ。単機の性能はロボット作品の中でも下から数えた方が早い程には低く、とてもではないが敵と真っ向から戦うような機体ではない。
「つまり店長は待ち伏せするつもりか。ジャガーノートで正面切って戦うのはリスクが高い…たとえ今のロックマンとのスケール差を考慮しても、か」
コウヤが操るロックマンとジャガーノートを比較すると、ロックマンから見た場合のジャガーノートは巨大な機械蜘蛛、ジャガーノートから見たロックマンは斥候型より少し小さい自走地雷という感じだ。この比較だけならジャガーノートが有利にも見えるのだが、このバトルシステムがどこまで互いの機体を再現しているか不明な上、たとえ大きさの差が理由で有利だとしても真っ向勝負にリスクがあることには変わりがない。
「だったらここは」
ある種の
彼女とジャガーノートが陣を張ったのは市街地のちょうど中心部より少し外れた場所。中心部全域を視認出来る高架線が入り乱れた区画に機体を潜ませ、静かに彼が来るのを待っていた。
(彼なら私が待ち伏せするのは想定する筈。かといってもあの場所から此処へはほぼ一直線しかない)
待ち伏せされるのは分かってはいるが避けられない。そんな状況の場合、コウヤは決まって慎重に慎重を重ねた行動で進行する。
故にほぼ全域をカバー出来る場所での潜伏と狙撃準備。彼女ことレーナエイ・ミリーの戦術は対面性能が高くないジャガーノートにとって正にお手本の構えであった。
(さあどう来ますかガク)
その思惑は唐突に鳴り響いた警報音と、直後に走った衝撃によって呆気なく崩れ去った。
突如周辺の地形が迫撃にでも晒されたかのように爆発が上がり、自身が構えていた場所こそ高架下で無事なものの、あちこちの路面やビル、高架線の支柱が吹き飛ばされていく。
「い、一体何が!?」
レーダーに反応あり。12時方向の建造物、このバトルフィールドで最も高いビルの上に、その姿があった。
ロックマン.EXE
ジャガーノートとは様々な意味で次元の違う存在が、右腕を【
(迫撃による面制圧…!?確かにある種の慎重な行動のそれではありますけど!?)
だとしてもまさかたった1人、それもたった1門による砲撃でこれなのだ。原作再現で【使用回数に制限を設けている】とはいえ、バランス調整が甘かったことをミリーに認識させた。
『見つけましたよ、店長』
そして当然のように見つかっている。恐らくは迫撃の衝撃で機体が動いてしまったのだろうか。そんな微かな動きすら彼は見逃さず、こちら補足した瞬間にロックマンの顔を向け、同時に最高度のビルから飛び降りた。
「まだです!」
ミリーも飛び降りたロックマン目掛け即座に砲撃を開始。ガンマウントの滑腔砲を続けざまに放つ。不幸中の幸いかロックマンは砲撃を止めてただ落ちていくだけ。既に【キャノン】を撃ち尽くしたのか、かわりにその右腕からは鋭い剣を伸ばした【ソード】を展開して砲弾を切り落としつつ、ジャガーノート目掛けて降下してくる。
(接近戦がご所望ですか!ですが素直にそれをさせると思い)
が、
『【エリアスチール】』
その言葉と同時にロックマンが視界から
『流石に移動距離が長過ぎますね。後はクールタイムも設定と修正をしてください』
直後、眼前にロックマンが突如として出現し、それと同時に振り下ろされたソードによってジャガーノートは袈裟斬りに切り下ろされて呆気なく爆散した。
『Battle Ended』
あの作品の最終投稿からかれこれ約3年。
形式や描写方法も変わってますが、勘やノリを思い出しながら始めていこうと思います。
またリアル安価もやりたいですね。