ホウエンにてチャンピオンを目指す   作:轍_

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第1話 旅立ち 黄色い悪魔? 白い天使?

 

 時は流れ。

 俺は暖かな陽射しを浴び自宅前に立っていた。

 

「ミキ。本当に行ってしまうのね」

「うん。ごめん……」

 

 母さんには小さな頃から10歳になったら旅に出ると常々言っていた。

 でも出発する今になっても母さんは俺のことが心配らしい。

 俺の体は10歳だし心配されるのはあたりまえなことだと思う。

 それでも……。

 俺は好奇心に勝てなかった。

 

「時々顔見せに戻ってくるよ。たまには連絡もするからさ」

 

 気休めかもしれないが俺はとっさに頭に浮かんだ言葉を呟く。

 俺の言葉を受けた母さんは笑んだ。

 でも表情が思ったとおり晴れてなかった……。

 

「ちゃんと準備はした? 体調は?」

 

 寂しそうに言って母は俺を強く抱きしめた。

 

「大丈夫」

 

 俺はされるがままで母の温もりが体を包む。

 

「ウインディちゃん。ミキをお願いね」

 

 母が抱擁をとき俺のかたわらに座るウインディを撫でた。

 尻尾を振り気持ち良さそうに目を細めると任せろと表明するように「ワウ!」と一声吠えた。

 

 俺は「じゃあ」と母に背を向け歩く。

 後ろから母が「がんばってねミキ! ……お父さんによろしくね!」と言う声が聞こえた。

 もちろん! 説教してやる。

 好奇心に勝てず母さんを1人にする俺がなにをと思った。

 しかしそれでもあんまりだ。

 仕事が忙しいからって長いこと連絡すら寄越さないのは。

 

 俺は申し訳程度に軽く手を挙げふりかえることなくオダマキ博士研究所に向かった。

 

 

 

 

 

 オダマキ博士研究所に着いた俺は目的を果たすため門のベルを押した。

 しかし暫く待ってもオダマキ博士が出て来ない。

 俺は隣のウインディと顔を見合わせたあと仕方なく研究所の敷地に入った。

 

「オダマキ博士。ミキです。ポケモン図鑑を貰いに伺いました」

 

 何度かドアを叩き呼びかけると研究所の中からドタドタとせわしない音が聞こえやっとドアが開いた。

 

「おおミキ君。こんな朝早くからどうしたんだ。ささ。中に入って」

 

 今起きたのだろう目はしょぼしょぼ髪はボサボサのオダマキ博士が顔を覗かせた。

 俺は笑みを堪えて「お邪魔します」と断り研究所に入った。

 

 研究所の中は研究に使うのだろう機材や書類でごった返していた。

 オダマキ博士は中に篭って研究する性分ではないしフィールドワークが多いから片付ける時間もないのかなと思い見なかったことにする。

 そしてここに来た目的を早々に果たすことにした。

 

「博士。お久しぶりです。来て早々ですがポケモン図鑑を頂けませんか」

「ん? そうだったそうだった。そういえば今日渡す約束だったね。ちょっと待っててね」

 

 研究所に入る時にも思ったけど……もしかして博士は今日の約束忘れてた?

 もし博士が覚えてなかったらフィールドワークの多い博士が研究所に居なかったかもしれない……。

 なにはともあれ居てくれて助りました博士。

 いえ本当に。

 

 俺がそんな事を考えてる間に博士は机の上をゴソゴソと漁りその中からポケモン図鑑を引っ張り出していた。

 

「ミキ君。これが君に渡すポケモン図鑑だ。一応貴重な物だから大事に扱うように」

「ありがとうございます」

 

 博士からポケモン図鑑を受け取った俺は繁々と図鑑を観察する。

 掌に丁度良く収まるサイズ。

 前世の記憶にある折りたたみ式携帯電話に似た形状だった。

 

 ポケモン図鑑は博士宅にお邪魔した時にたびたび触らせてもらったから使い方もわかる上に見慣れてもいる。

 それでも自分の物として手に持ったポケモン図鑑は特別そんな気がした。

 

「本来ならポケモン図鑑と一緒にポケモンも1匹渡すのだが君にはウインディがいるしなあ……」

 

 博士は困ったように呟いて俺の傍らのウインディを見る。

 

「博士。お気遣い結構です。俺には頼りになるウインディがいますから」

 

 俺が誇らしげに言うとウインディは澄まし顔で博士を見返した。

 

 ポケモントレーナーは1匹のポケモンと共に旅立つという暗黙のルールがある。

 まあ昔から続けてることなので習慣化して今も続いてるだけっぽいけど。

 

「うーん。でもなあ……そうだ。ミキ君少し待っていたまえ」

 

 博士は思案したあと急いで二階に上がって行きタマゴを抱え下りてきた。

 

「ポケモンの代わりになるがこのタマゴを渡そう」

 

 俺は差し出されたタマゴを両手で受け取り「いいんですか」と確認した。

 

「知り合いから貰ったんだ。でも正直扱いに困っててね。厄介払いみたいだが貰ってやってくれないか。もう少しで孵るはずだ」

「そういう事でしたらありがたく頂戴します。では博士。慌ただしくてすみませんがそろそろ失礼します」

「困ったことがあればいつでも連絡しなさい」

「はい。その時は遠慮なく博士を頼らせてもらいます」

 

 俺は顔に笑みを浮かべタマゴをバックパックに先ほど貰った図鑑をジャケットの胸ポケットに仕舞った。

 

 

 

 

 

 オダマキ博士研究所を後にした俺達はコトキタウンまで続く道101番道路を眺めていた。

 見渡す限りの草原が一帯に広がり俺の足元から抉ったように一本の道が延びていた。

 この風景を眺めてると長く過ごしたミシロを発つのだという実感が湧いてきた。

 

 区切りだし何か話すか。

 こういう事はちゃんとしないと。

 独白を頭に浮かべ自分で自分に言い訳してる状況に気恥ずかしく感じながらも口を開く。

 

「ウインディ。俺達は今から旅に出る。これからは誰の助けもないだろう。でもお前はいつも俺の傍にいる。俺もいつもお前の傍にいる。だから一緒にホウエンチャンピオンの座に駆け上がろう」

 

 なにをいまさら当然だろと示すようにウインディは俺を置いて先に行ってしまった。

 せっかく人が照れくさいの我慢して語ったのにこれだよ。

 いつもと変わらぬウインディに思わず苦笑してしまう。

 

 バックパックを背負い直し気を引き締める。

 そして俺は頼もしい彼の背を追いかけた。

 俺達が歩む道は地平線まで真っ直ぐに続き太陽が中天で爛々と輝いている。

 

 

 

 

 

 朝の日差しを感じて俺は寝袋から這い出た。

 重い瞼をこすりながらテントの中から顔を出し暫く空を眺めたあとテントから出て伸びをし体を解す。

 予想通り地面の上は固く寝袋に包まっても寝心地が悪かった。

 うらめしく思いテントの中の寝袋を見やり隣に寝てたはずのウインディがいないことに気づいた。

 ……朝の散歩に出掛けたのかな。

 

 俺が朝食を用意してると計ったようにウインディが林の奥から出てきた。

 匂いに釣られてきたなとウインディにジト目を送る。

 朝食のメニューは俺に缶詰パンをウインディには肉中心のポケモンフード。

 自分で準備したとはいえ何とも味気ない。

 因みにウインディの食べ物だけは家にいた時と変わらない。

 

 俺がもそもそと味気ない朝食を片付け隣のウインディはガツガツとうまそうに食べる。

 食事の格差を感じてたら黄色い影が警戒しながらこちらに近寄って来た。

 ピカチュウ? めずらしいな……

 

 この世界のポケモンの分布ではホウエンにだけ生息してるポケモンはいない。

 元来ホウエン地方に分布してるポケモンの生息数が圧倒的に多いのだが他の地方に生息してるポケモンは数こそ少ないもののホウエン地方にも分布してるのだ。

 

 そういえばあの原点にして頂点なレッドさんがピカチュウを所持してる。

 そのレッドさんはというとチャンピオンの座を自ら返上して引退したあとシロガネ山に篭ってしまった。

 なぜカントーチャンピオンの座を返上して山に篭ったのか。

 それはレッドさん本人のメディアへの露出が少ないことが災いして終ぞわからなかった。

 噂ではリーグ上位者がわざわざ出向いてレッドさんに挑戦してるらしい。

 レッドさんは地方間のリーグでも二連覇だったし腕に覚えがあるなら自ら足を運んででも手合わせしたいだろうな。

 

 警戒しながら鼻を動かしこちらにじりじりと近づくピカチュウ。

 でも生憎モンスターボールの持ち合わせがない。

 ミシロでは販売してる施設がなかったから仕様がない。

 

 俺は手に持ってるパンを少しだけ千切り目の前へ投げてやった。

 ピカチュウは俺達を視界に収めたままパンに近づき匂いを嗅ぐ。

 用心深い。

 野生だから当然か。

 安全を確認したのかピカチュウはパンを咥えて走り去ってしまった。

 ウインディはピカチュウの一連の行動を見てたが気にしたそぶりもなく我関せずに自分の食事を続けていた。

 我がポケモンながら図太いことで。

 

 

 

 

 

 背の高い草をそよそよと撫でる風。

 ミシロを発った時と同じく辺りには草原地帯が広がっていた。

 俺とウインディは101番道路をコトキタウン目指し歩んでいる。

 

 俺が平穏な道をのんきに堪能してると不意にウインディが立ち止まった。

 怪訝に思いウインディを仰ぐ。

 するとウインディは道の脇の草叢を睨みつけうなり始めた。

 様子を見る限りどうやら何かがこちらに向かってるらしい。

 

 何が来るのか今か今かと待ち構えてると漸くウインディの警戒の元が姿を現した。

 

 ――ジグザグマ

 

 焦げ茶色と象牙色その2色で段を作ったギザギザな毛並み。

 顔にはアイマスクを思わせる特徴的な黒い模様。

 そこに配置されたこちらを見る目は何故か好奇心があふれキラキラ輝いている。

 朝に見たピカチュウとのあんまりな違いに確認のため胸ポケットのポケモン図鑑を取り出した。

 図鑑の説明文に好奇心旺盛とちゃんと注釈が入っている。

 どうやらそういうポケモンらしい。

 俺は図鑑を仕舞って分類まめだぬきな野生のポケモンに戦いを挑んだ。

 

 ウインディは威嚇をしてたのに今は落ち着いてる。

 俺に野生のポケモンが近づいてることを知らせるために威嚇してたのかな。

 腹を撫でウインディに指示をだした。

 

「ウインディ。にどげり」

 

 ウインディが駆けジグザグマの傍まで近づくと真上に飛び上がった。

 ジグザグマはウインディを見失ったのかキョロキョロと見回す。

 戦闘態勢に入ってないところへウインディが真上から2度踏みつけ距離を開けた。

 ジグザグマは倒れて起きる様子がない。

 

 え……終わり?

 信じられなくて俺はジグザグマを思わず2度見してしまった。

 やっぱり動かないよな……

 ジグザグマは目を回し戦闘不能に陥っていた。

 

 なんか無抵抗なジグザグマを急襲した格好になり心が痛い。

 俺はウインディとの間に流れる気まずさを取り成すため「先を急ごう」と促した。

 

 

 

 

 

 2日掛けてようやく目的地であるコトキタウンに着いた。

 均されてはいるが舗装されてない道。

 慣れ親しんだミシロタウンと同様長閑な家並み。

 現在は日が暮れかけ部屋の中からは家に帰る人がちらほらと見えた。

 

 俺はコトキに着くとまずは道中野生のポケモンとの戦闘をいくつかこなしたウインディをポケモンセンターに預けた。

 次にフレンドリィショップでモンスターボールと薬を必要分買い込み宿を取った。

 用事が全て施設内で済んだことに便利だなと関心したがミシロにも早くこんな施設ができればと嘆いた。

 そういえば母さんがこういう複合施設をミシロに建てる計画を耳に挟んだと最近話してた気がする。

 

 そんなことを思い出してるとポケモントレーナーの登録をしてないことに気づいた。

 俺は慌てて部屋から飛び出し1階にあるポケモンセンターへ向かった。

 

 ポケモンセンター受付へと辿り着いた俺はジョーイさんを探す。

 さして時間は掛からず看護服が視界に入った。

 ジョーイさんは奥で飲み物を手に座っていた。

 見た感じ休憩中みたいなので遠慮なく声を掛ける。

 

「すみません。ポケモントレーナーの登録がしたいのですが今からできますか?」

 

 呼び掛けるとジョーイさんは慌てて奥から顔を出した。

 

「え、あ、はい。大丈夫ですよ。手続き致しましょうか?」

「お願いします」

「確認ですがポケモン図鑑はお持ちになってますか?」

「はい」

 

 そう答えたら彼女は「少々お待ちください」と断り奥に引っ込んだ。

 

 仕事の合間の小休憩中だったろうに嫌な顔せずにこやかに対応してくれた。

 天使だな。

 

 そんな下らない事を考えてると準備が出来たのか「こちらへどうぞ」と呼び声がしたのでその声に応じて奥に向かった。

 

 奥の部屋で顔写真を撮った後ジョーイさんが書類とペンを手に持ち受付カウンターにやってきた。

 

「こちらの書類に記入したら声をお掛け下さい」

 

 ジョーイさんはニコリと笑み再び奥に戻っていった。

 

 俺は渡された書類の空白欄に名前、性別、生年月日、住所等を埋める。

 日が暮れた施設内では俺がペンを走らせる音と施設内の設備動作音が響くのみ。

 

 書類の空白欄が少なかったので早々に書き終わりジョーイさんを呼ぼうと顔を上げる。

 するとずっと待ってたのだろうかジョーイさんが既に目の前にいて少し吃驚してしまった。

 

「終わりました。これで良いですか?」

「問題ありません。ではポケモン図鑑を」

 

 ジョーイさんは俺から受け取ったポケモン図鑑を端末装置の上に乗せると受付カウンター上のパソコンを操作した。

 

「ミキ君はホウエンリーグ出場希望ですか」

「はい」

 

 答えに応じてジョーイさんのキーボード上の手が滑らかに動く。

 手は直ぐに止まりポケモン図鑑を端末装置の上から取ってすぐに返してきた。

 

「このポケモン図鑑はミキ君の身分証明になります。それとあちらの入り口近くに置かれてるパソコンに図鑑を翳して頂ければポケモン転送サービスを受けることができます。もし図鑑を紛失してしまったらポケモンセンターにご連絡ください。その場合はミキ君の手元に戻るまで利用停止処置を施します。大まかな説明は以上になります。ご質問はありますか?」

「いえ。大丈夫です。ありがとうございました」

 

 ポケモン図鑑を仕舞いトレーナー登録手続きが終わった俺にジョーイさんが待ってましたと脇に控えてたラッキーを促した。

 看護服を着たラッキーがモンスターボールを乗せたトレーを差し出してくる。

 

「お待ちどおさま。お預かりしたポケモンは元気になりました。またいつでもご利用くださいませ」

 

 ジョーイさんの決まり文句に意表をつかれた俺はどうにか「ありがとうございます」と言葉を絞り出した。

 それから震えた腕でウインディの入ったモンスターボールを掴む。

 ……ジョーイさん仕事速すぎやしませんかね。

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