背の低い建物が並べられた土地。
地を照らすぽかぽかとした朝の陽射しを浴びて行き交う人とポケモン。
そんな長閑なコトキタウンのオープンテラスの一角。
現在俺はカフェで朝食に勤しんでいた。
濃厚でさっぱりとした相反する甘さが同居した蜂蜜。
それをたっぷりと塗った丸い生地。
ナイフとフォークを使って切り分けてた最後のひとかけらを頬張った。
爽やかな甘さと食べ物の温かさが口いっぱいに広がる。
コトキに来るまで缶詰ばっかりだったから生き返るようだ。
食べ終わり紅茶を口に含み一息つく。
そして食休みのついでにミシロからコトキまでの道のりをふりかえった。
道すがら野生のポケモンとのバトルが何度かあったのだが全く歯ごたえがなかった。
これでは自分のポケモントレーナーとしての実力がどの位置にあるのかいまいちわからない。
そもそもミシロタウンを発つまでポケモンバトルを実際にやったことがなかった。
それというのも近所にトレーナーが居なかったからトレーナー同士のバトルができなかった。
それならとミシロから出ようとしたら母さんに危ないと注意されウインディと一緒に野生のポケモンと戦うことも叶わなかった。
それでも一人と一匹でどうにか工夫してトレーニングはしてきた。
だからこそ自分の実力を知るためにトレーナーを探してたんだけど……道中とんと見当たらなかった。
ミシロは何もない田舎だから誰も来ようと思わないのかな。
でもコトキタウンからトウカシティに行く途中にはトレーナーがいる……はず。
だってトウカにはジムがあるし近くにトレーナーがいないとおかしい。
……いるよね?
コトキタウンを周遊した俺はコトキの北にある103番道路でウインディと一緒に日向ぼっこをしていた。
今の時期ならありがたいホウエン地方特有の陽射しに草原をサラサラとゆらす風。
それと風にそよぐ林から流れる耳に心地よい音色。
気持ち良い……
旅を始めたばかりとはいえ今までの疲れが癒されるようだ。
しばらく過ごしてると不意にウインディが喉を鳴らし始めた。
警戒してるのだ。
ウインディにしてはめずらしいと内心首をかしげるもだんだん覚めてきた頭が妙だと訴え始める。
思えば今いる場所は103番道路だし野生のポケモンが出てもなんらおかしくない。
答えにたどりついた俺は慌てて跳ね起きた。
そこにはシャワーズがいた。
最初は誰かの手持ちかと思ったがそんな様子は見られない。
なんというか野生のポケモン特有な行動……つまり威嚇をしてるのだ。
念のためポケモン図鑑を出して確認すると名前の横に誰かが所有してるポケモンであることを示すマークがない。
人のポケモンではないようだ。
イーブイ種はなかなかお目にかかれないんだけどな。
そう思って俺は捕獲にかかった。
ウインディは炎タイプで目の前のシャワーズは水タイプ。
最悪なタイプ相性だ。
一撃で戦闘不能に追い込み手早く捕獲しよう。
そう思ってウインディへ指示をだす。
「ウインディ。かみなりのキバ」
ウインディがシャワーズへ狙いを定め駆ける。
口の端から覗くキバが電気を帯びてバチバチと漏れて線を引く。
ウインディは反撃を許さぬ速度で近づくと今だ威嚇してた標的の首へその容赦のないキバを突き立てた。
口に咥えられたシャワーズは初めこそ藻掻いてたが次第に動かなくなっていった。
それを確認したウインディは頭を振って口から放り出す。
堪らずシャワーズはもんどり打って倒れた。
一瞬シャワーズが過剰攻撃で死んだのかと思って立ち尽くした。
――早く捕獲しないと
我にかえり腰のベルトから速やかにモンスターボールを取り出してシャワーズへ投擲する。
狙い違わず目標に当たったモンスターボールが真っ二つに開きシャワーズを赤い光に変換し姿までもを崩して吸い込んだ。
地面の上に落ちたボールがゆれる。
1秒が3秒にも思える時間のあとポンという電子音と共にモンスターボールは動かなくなった。
俺は野生のポケモンを初めて捕まえた。
シャワーズが入ったモンスターボールを回収してると背後から拍手の音が聞こえふりむく。
「すごいね君のウインディ」
意外な人物を認めた俺は驚愕で頭が真っ白になってしまった。
前世では見たことのない紫苑色の髪に瞳。
それが映える中性的な外見。
ふりむいた俺の目に映ったのは現バトルタワー主でありホウエン準チャンピオンでもあるリラだった。
忙しいであろう人物がどうしてここにいるのか俺の頭の中はその考えでいっぱいになる。
「どうかしたの?」
「いえ。こんな場所でリラさんに会うとは思ってもみなかったので」
驚愕から立ち直りなんとか返した。
「ボクのことはリラで構わないよ。それに敬語もいらない。歳近いでしょ? そんなことより君の名前は何て言うのかな?」
「俺はミキって言います。ミシロタウン出身です」
リラは「へぇ~」と呟きまた俺とウインディを見る。
外見以上を推し量られてるみたいで居心地が悪い。
「このウインディはミキのポケモンだよね。えっと……ミキはポケモントレーナー?」
「そうです」
「トレーナーならミキはホウエンリーグを目指してるの?」
「次のリーグを目指してます」
「それは楽しみ。ねぇ。ミキのウインディちょっと触ってもいい?」
「別にいいですけど」
どうして? 最後は心の中で独白になった。
その後はリラがウインディを撫でたり顔を埋めたりしてる状況をただ眺めるだけになった。
親しくない相手に触られるのが嫌なウインディにしてはめずらしくそんなに嫌がってないようだ。
何故リラはウインディを触りたがったのだろう。
……獣毛が好きなのかな?
ウインディを愛でている? リラを見つめてると今の状況が好機だと気づいた。
リラとポケモンバトルできたら勝敗に関わらず良い経験になるんじゃ。
それにリーグ経験者とバトルができる機会なんて滅多にないのでは。
そう思ったら自然と言葉が口から漏れていた。
「あのさリラ。俺とバトルしてくれないか」
「ミキとボクが?」
ふりかえったリラは人差し指を自分に向けて吃驚した様子。
「そんなに時間は取らせない。1対1でバトルしよう」
リラは俺の申し出を聞いて黙考したあと「いいよ。やろう」そう快く了承してくれたのだった。
俺とリラは対峙していた。
下には風に揺れる草の絨毯が見上げると日が沈み始めた赤焼けの空。
そんななかでリラがモンスターボールを投げる。
「Go! Myフレンド!」
出てきたのはコジョンド。
オコジョな風貌のポケモン。
「エーフィで戦わないんですか?」
「うん。エーフィはちょっと消耗してるから」
残念。
昨年のホウエンリーグでリラの主軸ポケモンだったエーフィとやってみたかった。
「ではこちらからいきます。ウインディ。こうそくいどうからおにび」
ウインディはコジョンドを中心に弧を描き背後をとると口から球状の炎を吐き出した。
「ふふっ気が早いね。コジョンド。おにびを見切ってストーンエッジ」
リラの指示を受けたコジョンドは迫る炎をギリギリまで引き付けてから躱しその一連の動作の中で自身の拳を地面に振り下ろした。
すると岩の針が地面から無数に突き出しウインディを――襲うことはできなかった。
ウインディは攻撃が来ることを見越してその場から飛び退っていた。
コジョンドのストーンエッジ。
今のはまるで岩の剣山だ。
技のタイプ相性とコジョンドの攻撃種族値を鑑みればウインディに一撃でも当たれば致命的。
バトル序盤にこうそくいどうで素早さを上げてたのが幸いした。
「ミキのウインディやっぱり凄いね。久しぶりに楽しくなってきた」
頬を緩めてウインディを賞賛するリラ。
何かに飢えてたのだろうか俺にはわからない。
それよりこの状況を打開しなければ。
「しんそくからのおにびだ」
ウインディが目にも留まらぬ速さでコジョンドに迫り勢いに乗った前足を鋭く振るい振るった。
ひらりひらりと踊るようにかわすコジョンド。
でも次第にかわすのが厳しくなり腕で防がざるえなくなった。
――防いだ
そこに狙い澄ました追撃が入る。
逃れることのできないゼロ距離でウインディは口から炎を吐きだし浴びせた。
コジョンドはどうにか離脱して体制を整える。
しかし火傷を負ったのか動きに精彩が見られない。
これでコジョンドの物理攻撃力が下がりウインディに対しメインの攻撃技になるだろうストーンエッジととびひざげりの威力を削いだ。
最初にいかくも与えてるからいかくで1段階おにびで2段階と合計3段階下げている。
状況はこちらが優勢……かな。
じれたのか睨み合いからコジョンドが口火を切った。
ウインディに無数の星を放ち牽制それから自身は目を閉じ静止する。
めいそうか?
やばい。
止めなければ。
「ウインディ。かえんほうしゃのあとつばめがえし」
ウインディは炎を吹きそれと平行して地を這うように相手に接近した。
ウインディが無数の星を薙ぎ払いコジョンドの懐へ飛び込み交錯。
前足で切り裂く。
ウインディの攻撃は直撃した。
だが攻撃が直撃したそれはコジョンドではなかった。
気づいた時には後の祭り。
敵を打ち損じたウインディの側面から巨大な玉が襲いさけられず派手にぶっ飛んだ。
ウインディは空中で強引に体制を立て直し足から着地する。
ダメージは見受けられない。
コジョンドのみがわり。
いつ成り代わったのか全くわからなかった。
それに戦闘で初めてウインディが攻撃を受けた。
リラは強い。
今まで戦った野生のポケモンと比べるのがおこがましくなるほど。
この対戦を台無しにして仕舞わないように確りと応じる。
あちらが搦め手ならこちらもそれに対抗しよう。
目には目を歯には歯をだ。
「ウインディ。かえんほうしゃのあとつばめがえし」
前と同じ指示。
それでも長年一緒にいるウインディなら俺の意図を察してくれるはず。
ウインディの行動は前と変わらず同じ映像を繰り返す様で炎を吹き自らの姿を遮りコジョンドの懐に飛び込んだ。
その間コジョンドが黙ってる訳がなく。
接近のタイミングを計ってたように目を開き両手の平に圧縮した球体で炎を吹き飛ばしそのままウインディの体に捻じ込んだ。
互いの攻撃は至近距離で行われた。
故に両者さけること叶わず直撃する。
各々ポケモンの攻撃は凄まじくそれぞれ地面を転がった。
攻撃の余波で煙が立ち込める。
ここから視認できるのは3つの影のみで俺とリラはその場を無言で見つめた。
どうやらウインディのみがわりは上手くいったようだ。
それでもコジョンドの攻撃は本物のウインディごと巻き込んだようだけど……
2人が見つめる先でみがわりである1つの影が消えた。
ようやく煙が晴れ全てが見通せるようになると状況がわかった。
バトルフィールドとなった草原中央は球状に抉れその穴の傍にはウインディが立っている。
そう立っていた。
リラのコジョンドはいつまで待っても起き上がってこなかった。
バトルに負けたとは思えない晴れやかな表情で握手を求めるリラ。
俺は差し出されたその手を握り返した。
「まさか負けるとは思わなかった。ミキありがとう。久しぶりに楽しかった」
俺も勝てるとは思わなかった。
途中からはリラがホウエンリーグ準チャンピオンだとかそんなことはどうでもよくなり勝利するために動いていた。
「俺も楽しかったよ。それに今後に活かせるバトルだった。それとトレーナー戦は初めてだったんだリラが相手でとても……なんだろ? ……うれしかった? ……いや違うな……運が良かった?」
「……はじめて……初めて? 今のバトルが? 本当に??」
リラは驚愕の表情を浮かべ俺とウインディを見る。
ウインディがその問いに答えるように澄まし顔だ。
「本当、なんだね」
俺が答える前に勝手に納得されてしまった。
今のリラの様子だとまるでウインディの言葉が心がわかるようではないか。
考え込んでると目の前のリラがクスクスと笑いだした。
「面白いよミキ。ボク、トレーナー戦が初めての人に負けるなんて思わなかった。やっぱりミキに話し掛けて正解だった」
「ど、どうも」
「次のホウエンリーグの楽しみが1つ増えたかな」
リラが楽しそうに呟く。
そこまで評価してくれるのは嬉しい。
でもいまだジム戦すらしてないんだよな……
「まだリーグに参加できるかわからないよ」
俺は苦笑して返したがリラの真剣な眼差しに射竦められ二の句を告げなくなってしまった。
「来るよ。ミキは来る。絶対だ。ボクにはわかる。ミキ、ホウエンリーグで君を待っている」
最後のセリフを残してリラは去っていった。
リラは本気ではなかったかもしれない。
彼女は切り札の1体であるエーフィでバトルをしなかった。
なにより最後に浴びた彼女の眼差しが対戦中のものとかけ離れていた。
そういえばリラにポケモンの言葉がわかるのか訊きそびれてしまった。
彼女はバトルの途中からコジョンドへ全く指示を飛ばさなかった。
さらに言えばあの時ウインディがリラに返答してたよな。
そう思って隣のウインディを見た。
多少ダメージはあるようだがそこにはいつも通りの気取ったウインディがいた。
今回はここまで更新。
次回の投稿は未定。
いつになるかはわかりません……