ホウエンにてチャンピオンを目指す   作:轍_

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 ハルカ視点


第3話 切っ掛け

 晴れた昼なか。

 燦々とかがやく太陽に自然の息吹あふれる草原。

 それと体を過ぎるさわやかな風。

 私は自転車を走らせていた。

 

 そろそろ旅立つ私にパパがポケモンを渡した。

 その初めてのポケモンと親睦を深めるためホウエンの雄大な自然の中に出て来ていた。

 

 この辺りでいいかな。

 私は視界が開け周りの景色を一望できる広場になっている場所を選びペダルを漕ぐ足を止め自転車を邪魔にならないよう道の脇に停めた。

 

 広場の周りを窺う。

 ちょこちょこと立つ木々にスバメの群れが止まり羽を休めていた。

 視線を下に向ければジグザグマやニドランもいる。

 ニドランは縄張り意識が強かった気がする。

 私はニドランを刺激しないようにそろりそろりと歩いた。

 切り株の傍に着くとその上に持参した弁当を広げてからやわらかい草の上に座りおちつく。

 

 準備が終わった私はモンスターボールを腰のポーチからひっぱりだし先日パパからもらったポケモンをよびだす。

 ボールから出たアチャモはキョロキョロと周りを見渡した。

 首の動きに合わせて頭のトサカがゆれている。

 

「アチャモ。いい天気でしょう。今から一緒にご飯食べよ」

「チャモ!」

 

 アチャモが喜んで私の誘いを受けてくれた。

 遠出したのは正解だったかも!

 

 嬉しそうに小さな翼をはためかせるアチャモを眺めながら私は幼いころの記憶を思い出していた。

 

 幼い私は海水浴場で浮き輪と共にゆられ楽しく泳いでいた。

 そこへメノクラゲの群れがこちらに漂ってくるのに気づく。

 幼い私がメノクラゲの危険性などわかる訳がない。

 メノクラゲの群れと合流した私は一緒に泳ぐのがおもしろくてはしゃいでいた。

 そこまでは何も問題なかった。

 

 ――ママのミツコが現れるまでは

 

 私がメノクラゲと同じ色の水着を着てたことがわるかったのか。

 ママは幼い私をメノクラゲと間違え捕まえようと……もう……思い出したくない……。

 他の人が聞いたら笑い転げてしまうだろうけど当時の私は本当に怖かったのだ。

 ママがメノクラゲと間違え私を捕まえようとしたのは。

 

 その体験から幼い私はポケモンに近づくと何か怖いことが起こるのかもしれない。

 そんな思いに駆られいつしかポケモンに対して苦手意識を抱くようになってしまった。

 

 そんな私に転機が訪れた。

 パパが私にアチャモを渡したのだ。

 私が旅をしたいとパパに告げてから数日後のことだった。

 パパは知り合いのオダマキ博士から受け取ったと言っていた。

 けど私はそんなことより手渡されたモンスターボールを不安にゆれる心で見つめていたのを覚えている。

 その不安はアチャモとふれあう事ですぐ杞憂に終わったけど。

 

 そのアチャモはというとなにを慌てているのかポケモンフードを急いで貪っていた。

 アチャモは皿の中を何度か啄ばみ顔を上げて嚥下する。

 それから首を左右に振り見回す。

 

 ――ご飯を奪われると思って警戒してるのかな?

 

 そして思いだしたように隣の水をつっつく。

 

 ――そんな急いで食べなくても……

 

 アチャモの様子を見ていたら私の口から自然と笑みが零れた。

 

 

 

 

 

 アチャモと自然の中で交流作戦が上手くいった私は鼻歌交じりで家路についていた。

 

 トウカシティに着きそろそろ自宅の屋根が見える頃。

 最近は日常になったトウカジムを多くの人が出入りする光景が目に入った。

 この時期はホウエンポケモン協会が今年のホウエンリーグ出場登録を受付始める。

 だからなのかリーグ参加を狙う人達がジムバッジを求め各地のジムへ押し寄せてくる。

 

 今日はどんな子が来てるのか気になった私。

 様子を見るため自宅に自転車を置いてから裏手にあるトウカジムへ周りジムの受付を窺った。

 

 見えたのは1人の女性と3人の男の子。

 女性の方はトウカのジムトレーナーサオリさん。

 男の子3人はトウカジムへの挑戦者だろう。

 それぞれが予約受付端末にポケモン図鑑を翳してジムへの挑戦手続きをしていた。

 

 トウカジムに挑戦する際の予約手続き内容は

 いつ戦うのか?

 ジム戦で使うポケモンは?

 この2つが問われる。

 

 ジム戦を希望する人はまず予約受付端末を操作して空いている時間を探す。

 その中から自分の希望時間を選択して予約を入れる。

 それからジムで戦う2体のポケモンを選出。

 そのポケモンのジム戦で用いる技を最高4つまで選び登録。

 トウカジムへの予約はそんな流れになっている。

 

 どうしてそんな手続きを踏むのか。

 パパから聞いた限りでは主に理由が2つあるらしく。

 1つはジムリーダーのポケモンが連戦に耐えられないこと。

 もう1つは挑戦者のポケモンを予め知ることでジムリーダーが挑戦者の力に合った戦いをするためだって。

 

 パパ曰くジムはポケモンリーグへの登竜門でありただの通過点でもある。

 ジムリーダーが挑戦者の実力をはかるのは当然でそれも踏まえてポケモンとトレーナーの絆や挑戦者の人柄などいろいろな要素を見極めてジムバッジを渡すに相応しいか判断しているらしい。

 だからジムリーダーのお眼鏡にかなわなければ実力行使で……なんてこともあるみたい。

 ただし挑戦者に負けてしまえば規則としてジムバッジを渡さなければいけないんだけどね。

 

 ジム出入り口の自動扉が開き1人の男の子が出てきた。

 その子はそのまま帰らずにジム受付の方をそわそわと落ち着きなく窺っている。

 予約している男の子を待っているようだった。

 知り合いなのかな? 会話してる様子は見受けられなかったんだけど……。

 

 しかし男の子か女の子かわかりにくい子。

 中肉中背の中性的な容姿に烏羽色な短髪。

 髪を短くカットしてるから男の子だと辛うじて見分けることができた。

 たぶん私と同い年だよね。

 

 その彼が出てきた男の子に声を掛けた。

 

「えっと……俺の名前はミキ。突然だけど俺とポケモンバトルしてくれないか」

「いいだろう」

 

 ――そんな会話から始まったバトル――

 

 それはトウカジム入り口前に設けられた草のバトルフィールドで行われた。

 草のフィールドはポケモンリーグでもよく使われる障害物のない平面なフィールド。

 

 私は観客よろしくと対戦フィールドの傍に設置されているベンチに腰をおろした。

 

 ミキと名乗っていた彼からはシャワーズが対戦相手の男の子からはドクロッグが投げたモンスターボールから飛び出てきた。

 

 少しのあいだ睨み合う2匹のポケモン。

 バトルはドクロックが動くことで始まった。

 

「ドクロッグ。クロスチョップ」

「シャワーズ。オーロラビームからとける」

 

 ドクロッグがシャワーズへ接近する。

 その進行方向にシャワーズが冷気の線を穿つ。

 ドクロッグの足元がゆっくりと凍っていった。

 それを見とめたドクロッグは何度も方向転換を繰り返し接近を試みるもそこへ悉く降ってくる冷気の線。

 シャワーズへ至る道が幾度も潰された。

 

 シャワーズが近寄るドクロックを妨害している。

 こんなシャワーズ初めて見たかも。

 

 ドクロッグが攻めあぐね主人の指示を待っている。

 その隙にシャワーズは体表を水で覆っていく。

 

「ドクロッグ。ヘドロばくだん」

 

 彼は近づけないと悟ったのか行動を切り替えてきた。

 ドクロッグの周囲に黒い球体がいくつも現れそれをシャワーズに打ち出してきた。

 

「シャワーズ。スピードスター」

 

 シャワーズは星を操ってドロドロな玉にいくつもいくつもぶつける。

 でも打ち落とす度に視界を覆う煙がどんどん厚くなっていった。

 その煙を隠れ蓑にドクロッグがシャワーズに突っ込んでいく。

 

「どくづき」

 

 勢いを乗せた左拳がシャワーズを突く。

 

「まもる」

 

 慌ててシャワーズは寸でのところで防御膜をはる。

 

「クロスチョップ」

「でんこうせっかで離脱」

 

 しかし流れるような連撃がシャワーズを捉えた。

 シャワーズは吹き飛ばされ芝の上を転がった。

 

 すごい威力。

 シャワーズがとけるで体表をぬめらせ力を受け流してダメージを抑えていなかったら致命的だったかもしれない。

 

 それでもシャワーズのダメージは小さくないらしく足をふんばりどうにか立ち上がった。

 

「シャワーズ。こごえるかぜ」

「避けてもう一度クロスチョップ」

 

 シャワーズの口から冷気を纏った風が流れる。

 ドクロックは目を細め顔の前で腕を交差し踏みとどまり耐えた。

 

 ――バトルは終わりへと突き進む

 

「今だ! ドクロッグ!」

 

 ドクロッグがジグザグにステップを踏みシャワーズの頭上へ躍り出る。

 

「かわらわり」

「オーロラビーム」

 

 シャワーズの攻撃が今まさに技を繰り出そうとしているドクロッグのふりかぶる腕に直撃して凍らせていく。

 しかしドクロッグはなんのこれしきとばかりに凍りつく腕をそのまま振り下ろした。

 凍った腕がシャワーズの脳天を捉える。

 地面に叩きつけられたシャワーズはピクりとも動かなくなった。

 

「もどれシャワーズ。ありがとう参考になった。……そういえば君の名前は?」

 

 負けたミキが握手を求め彼の前に手を差し出す。

 彼は握手に応じず。

 

「シンジだ」

 

 そう名乗ってから勝利した彼、シンジは軽い足どりで去っていく。

 ミキが慌てて「シンジ! 今度リベンジさせてくれよ!!」と声を掛けると手を挙げ応えていた。

 

 バトルのあと握手に応じなかったし目つき怖いしシンジって男の子なんか感じ悪いかも。

 

 シンジを見送り草のフィールドに目を戻す。

 負けたミキは俯き立ち尽くしシャワーズを戻したモンスターボールを握り締めていた。

 

 私はモンスターボールを持つその腕が震えているのに気づく。

 バトル直後は悔しそうな素振りさえ見せなかったのに……人前だから何でもない風を装っていたのかな?

 でもここに私がいるんだけど……。

 

 ――まさか私がここにいるの彼は気づいてない?

 

 ま、まさかね……そんなことあるはずない。

 もしそうだとしたら断りもなく勝手にバトルを観戦していた私が悪いのだろうけど。

 

 そのことはとりあえず脇に置き私は不躾ながらミキをぼんやりと眺めた。

 今のバトルは駆け出しトレーナの域を超えていたのではないか。

 少なくとも私にはこんなバトルできそうにない。

 2人共ポケモントレーナーを始めたばっかりの新前じゃないよね。

 そうだよね? そうじゃないと私の何かが折れそう。

 

 私はミキに近づいていく。

 ミキにバトルを申し込んだら受けてくれるだろうか。

 正直に言うとバトルを見ている最中うずうずして堪らなかった。

 同じ年頃の子が一緒にバトルしているのを見て感化されたのかもしれない。

 たまに覘いたパパのジム戦ではこんな気持ちにならなかったのに……。

 

 ポケモンバトルは初めてだけどパパのバトルを時々観戦していたから多分大丈夫……たぶん。

 私は意を決して芝の上に佇む彼に声を掛けた。

 

「あの。すみません。私とポケモンバトルしてくれませんか」

 

 近寄るこちらに気づき視線を投げかけるミキは落ち込んだ様子を微塵にも感じさせなかった。

 そして私が声を掛けた途端に彼は力の籠った視線をぶつけてきた。

 

「いいよ」

 

 彼、ミキがモンスターボールから出したのはリオル。

 何が珍しいのか頭を忙しなく動かし周囲を見渡している。

 小さくてかわいい。

 

 ミキに倣い私もバトルフィールドの端に寄ってモンスターボールを投げる。

 ボールから出たアチャモは力強い鳴き声を発した。

 やる気満々だ。

 私の初めてのポケモンでミキに挑む。

 

 私とミキは草のバトルフィールドでポケモンを挟み向きあう。

 ふと息苦しさを感じた。

 バトルを外から見ていたのと違うこの対峙してわかる体の重さは私の緊張から? それとも……。

 目の前には先ほどまで沈んでいた彼とは別の真剣な眼差しのミキがいる。

 この感覚はミキから??

 私は鳥肌が立つのを自覚した。

 なんだろうゾクゾクする。

 

 ミキはリオルを呼び出したあと突っ立ってこちらを見てるだけ。

 どうやら待ちの姿勢みたい。

 それなら私から仕掛ける。

 私は重苦しさを感じながらもアチャモに指示をだした。

 

「アチャモ。ひのこ」

「リオル。しんくうは」

 

 アチャモが嘴を開き火の玉を数発吐き出す。

 それを受けて正面のリオルがこちらに向けてパンチやキックを振るった。

 ……何をしているのだろう?

 

 私の疑問は答えとなって即返された。

 リオルに向かっていた火の玉が掻き消されたのだ。

 それも的確に自分に当たるだろう火の玉だけを選択して消してきた。

 

 リオルは拳や足で目に見えない衝撃波を生みだし火の玉に当て吹き飛ばしたのかな。

 私は動揺を考えることで抑えた。

 でも今はバトル中でミキが私の立ち直りを待ってくれるはずもなく私のとったその行動は致命的な悪手になってしまった。

 

 リオルがアチャモの火の玉を消すことによって築いた道を使い真っ直ぐこちらに迫ってくる。

 

「スカイアッパー」

「アチャモかわして!!」

 

 私は必死でアチャモに声を張り上げる。

 それを嘲笑うかのようにリオルの勢いを乗せた拳が天高く掲げられた。

 リオルの拳はアチャモの顎を精確に打ち抜いていた。

 踏んばりきれずアチャモは空中で一回転して仰向けに倒れる。

 アチャモは立ち上がらない起き上がれない。

 

 そんな、嘘、負けたの? そうだとしたら、なんて呆気ない。

 

 私は呆然としてやがて膝から崩れ落ちた。

 勝敗なんて気にせず挑んだ。

 だけど、だけども、この言い表すことのできない感情はなんだろう。

 

 いつの間にかミキは去っていた。

 私に一言もなく。

 その気づかいが今はありがたい。

 

 私は芝の上で仰向けに寝転がった。

 

 ――悔しい――

 

 眦から零れた涙。

 それが顔に筋を作ってくけど構わず空を眺める。

 小さな厚い雲の塊が1つ2つと太陽を過ぎっていった。

 私の心と違って雲はあるが良い空模様。

 

 不意にふわりとした感触を顔に感じて目を移す。

 アチャモだ。

 私の顔に描かれた涙の筋を拭ってたどたどしくも慰めてくれてるみたい。

 

「ありがと……アチャモ」

 

 笑い掛け頭を撫でる。

 アチャモはバトルのダメージが残っているだろう。

 私と同じで悔しいだろう。

 それなのに力強く鳴いて応えた。

 

 私はアチャモを正視できずにまた空の移ろう様を眺めた。

 アチャモの持ち主としてこんな情けない顔は見せられない。

 私は胸に残るこの悔しさが過ぎるのを待った。

 

 暫し時がたち、心に残った、灯った感情。

 それはミキへの対抗心だった。

 アナタに追いついてやる! 見ときなさいミキ!!

 

「アチャモ! 一緒に強くなってミキを驚かそう!!」

 

 私の鼻息荒く吐いた言葉にアチャモはまたも力強く鳴き応えてくれた。

 なんのことはない。

 アチャモは私なんかよりずっと強いみたい。

 私はそれに見合うトレーナーにならなければいけない。

 決意を胸に見上げた先は雲1つない晴天に変わっていた。




 主人公がシンジやハルカに反応が薄いのは、年月が経ち記憶がぼんやりしてるからです。

 結構詰め込んでしまい、読者を置き去りにしてないか心配。
 テンポ悪くないですか? 大丈夫かな。
 こんな感じで1話完結っぽくしてこうと思ってます。

 1人で書いてると、おかしな点になかなか気づかないので、指摘してくださるとありがたいです。

 主人公よりハルカの方が何故か筆が進むという……

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