ある日のトレーニング中、軽く走っていた私、サイレンススズカは脚に違和感を覚えた。
なんだろう?とは思ったが特に痛いわけでもない。ちょっと引っかかるようなイメージだった。そして全力を出そうと加速して、私は転倒した。それはもう派手に転がってしまった。
「スズカ!大丈夫か!?動くなよ!」
トレーナーさんが駆け寄ってくる。頭は打っていない。脚が…痛い…
「トレーナーさん…脚が…痛いです…左脚…」
「左だな?まず頭は打ってないな?大丈夫そうだ…仰向けにするぞ。左足首か?」
「そうです…痛い…」
ちょっと泣きそうになってしまう。走れなくなったらどうしよう…トレーナーさんに捨てられてしまうかもしれない…それだけはヤダ…
「とにかく冷やそう。それからこれは…病院だな…よし急ごう!」
そう言うとトレーナーさんは私を担いで…いわゆるお姫様抱っこだけど…今は素直に喜べない…もしもう走れなくなったら…トレーナーさんは私を捨てて別の娘を担当するだろう…そう考えるとそれだけで寒気が…少し震えているのがわかる。そして左足首の痛みが怖くて私はトレーナーさんにしっかりとしがみついた…
「足首の骨折です。幸い骨にズレはないので軽症と言えるでしょう。ギプスで固定して1ヶ月様子を見ましょう。」
そう診断されギプスを巻かれる。軽症と言われたがしばらく走れないのはやはり辛い。でもこれならトレーナーさんに捨てられる心配は無さそう…そう思ってたのに…
ケガをして3日くらいした後、トレーナー室に向かう。緊急の用事があるわけではないけどトレーナーさんに会えるから。今日はトレーナーさんと何を話そうかしら?そう考えながら松葉杖をついて歩く。やっぱり不便ね。早く治らないかな…
トレーナー室に着くとトレーナーさんが頭を抱えていた。その手には一枚の紙。
「トレーナーさん?どうかしましたか?」
「ああスズカ。無理してこっちに来ることはないんだぞ?また転んだりしたら大変だ」
「すみません。でもリハビリみたいなものですし、身体がなまっちゃいますから。それよりその紙、どうかしたんですか?」
「これか?実は他の子の面倒を見てくれと言われてな…」
ガタン!
松葉杖を片方倒してしまう。それくらいショックだった。そんな…とうとう終わってしまった…
慌ててトレーナーさんが駆け寄って支えてくれる。でも今の私はそれを喜ぶことさえできない。
「トレーナーさん…そんな…嘘ですよね?私まだ走れます…ケガが治ったら…いえ、トレーナーさんのためなら今すぐでも走ります!だから捨てないでください!お願いしますお願いします!!」
「スズカ!落ち着いて!大丈夫だからまず座ろう?ね?」
そう言ってトレーナーさんは私をソファに座らせて自分も隣に座る。両肩に手を添えたままトレーナーさんは続ける。
「スズカ、聞いてくれ。君の担当をやめるというわけではないんだ。わかるね?」
「本当ですか?まだ私のトレーナーさんでいてくれるんですか?」
私は震えながら尋ねる。
「ああもちろんだよ。君の担当をやめるなんて君が走りたくないと思うことくらいあり得ないことだ。だから安心してくれ。」
「は…はい…で…でもさっきのは?他の子の面倒を見るって…?」
当然の疑問をぶつける。トレーナーさんはさほど慌てた様子もなく答えてくれる。
「さっきのは言い方が悪かった。実は君が走れない間だけ、未デビューの子達を少し指導して欲しいと言われたんだ。」
そう言ってトレーナーさんは説明を続ける。要するにまだトレーナーがついてない子たちのモチベーションを維持するため軽くアドバイザーをして欲しいということだ。
「そういうことだから君の担当をやめるわけではないから安心してくれ。」
「そうなんですね…わかりました…」
少し妬いてしまうがこれも仕方がないこと、トレーナーさんがまだ担当でいてくれることに安心した。
ーーーーーーーーーー
「スズカ!!やめろ!走るな止まれ!!スズカ!!」
遥か後ろからトレーナーさんの声が聞こえる。普段と違って乱暴な言い方だ。それでも私は駆け続ける。まだ本調子ではないがかなりの速度を出している。先程”まだ”と言ったがギプスを外してすぐのことだ。医者からは一週間は走らないで様子を見るようにと言われている。それでも私が走った理由は…嫉妬だ。
ーーーーーーーーーー
トレーナーさんのアドバイザーとしての仕事が始まって数日後。私は様子を見に行ってみた。
トレーナーさんは十数人の子を相手に走り方や基本的な作戦を教えていた。私の走り方とは全然違うものでもすんなり教えられるのはさすがトレーナーさんだわ…と見ていると実際に走るみたい。走った後は姿勢をトレーナーさんに指摘されて…その時に体を触る事もある。もちろんトレーナーさんに変な感情があるはずもないし指導の一環だと分かっているけど…今まで独占していたトレーナーさんの教えを他の子にも取られているみたいで…あまりいい気分ではなかった…それから一週間くらいは練習を見にいかなかった…自分が走れない間にトレーナーさんをあの子達に取られてしまいそうなのが怖かったのか、嫉妬で何をするか分からなかったからかは…よく分からない…そんなある日
「私の話が聞きたい…ですか?」
「そうなんだ。スズカの走りに対する思いとかレースの雰囲気だとか色々聞きたいことがあるみたいなんだ。先輩として話してあげてくれないかな?」
「そうですね…話すのはあまり得意ではありませんけど…トレーナーさんのために頑張りますね。」
トレーナーさんに必要とされてると思うと嬉しくなる。私はまだトレーナーさんの担当なんだ…
次の日早速話をすることになりそして当日。私はトレーナーさんの教え子たちの前にいた。トレーナーさんが言っていたように私が何を考えて走っているかとかレースの話とかそこそこ盛り上がっていたと思う。そして、
「トレーナーさんをどう思っているか…ですか」
これは困った。以前この話を同期としていたらなぜかドン引きされてあまり外に、特にファンには絶対言わないようにって言われているのよね…なんでかしら?ただトレーナーさんへの感謝と、あ…愛情…?いやおこがましいかしらでも…
「あの~大丈夫ですか?」
いけない。ちょっとトリップしてたわ。さてなんて言おうかしら…
「え…ええ大丈夫」
とは言ったものの。とりあえず出会いの話は皆良い話って言ってくれたからそこだけにしとこうかしら。
「そうね…トレーナーさんには…感謝してるわ…私に合った走り方をさせてくれるし…ええと…」
どこまでなら変じゃないかしら?本当はもっともっと話したいけどあまり時間をとってもよくないから…
「そう!トレーナー選びは大事ということね!私も最初は走り方に合ってない人に就いてしまったの。だけど今のトレーナーさんが私の走りたいように走らせてほしいってお願いしてくれて…それから今のトレーナーさんに師事してるということがあったから皆もトレーナー選びは慎重にしたほうがいいわ。」
このくらいなら無難でしょう…みんな納得してくれてるみたいだし。この日はこうして過ぎていった。
怪我をしてから約一ヶ月とうとうギプスが外れる日がきた。と言ってもまだしばらくは走ったりせずゆっくり慣らす必要があるとのことで少しがっかりしながら病院から戻ってきた。確かにまだ足首が硬い感じがするから今走ると危ないわね…走れるようになるのは次の診察で許可が出てからということになっている。早く走りたいなあ…
次の日心に余裕が出てきた私はトレーナーさんが教えに行っているところを見に行った。もうすぐこの指導も終わり。またトレーナーさんを独占できる…ああトレーナーさんとの蜜月の日々が戻ってくるのね…なんて思っていると私に気づいていないのかトレーナーさんと教え子達の会話が聞こえてきた。
「サイレンススズカさん、ギプスが外れたんですよね?よかったですね~」
「でもそうしたらトレーナーさんの指導も終わりなんですよね?寂しいなあ。」
「トレーナーさんはチームを持たないんですか?このまま教えてもらいたいです!」
「まだチームは持てないんだよ。すまないね。でも君たちならすぐにスカウトされるよ。」
「そういえば気になってたんですけどトレーナーさんはスズカ先輩のことどう思ってらっしゃるんですか?一教え子としてじゃなくて」
そんな爆弾発言が聞こえてきて私はピタリと歩みを止めた。トレーナーさんが私をどう思っているか…気になる…私は隠れながら聞き耳を立ててトレーナーさんの言葉を聞き逃さないようにした。
「スズカは…大事な教え子だよ。スズカには自由に走っていて欲しい。そう思ってる。」
トレーナーさん…まだアピールが足りないのかしら…あんなに良くしてくれるのに女としては見てくれていないのかな…少し寂しく思っていると
「ふ~ん、トレーナーさんはスズカ先輩とは特に何もないんですね~良かった!それじゃあ…私と付き合ってください!」
は!?今何と言ったの!?
「スズカ先輩もトレーナーさんには感謝はしてるみたいですね。だけど恋愛はそこまでって感じですよね?トレーナーさんも教え子で止まってるんですよね?じゃあフリーじゃないですか。それに私も走れますよ?」
これには唖然としてしまった。
「おいおい…大人をからかうんじゃない。確かにスズカと付き合ってるとかそう言う関係ではないけどな。そもそもどうして俺なんかを口説こうとするんだ?」
「だってトレーナーさん優しいですしいい人だってすぐわかりますよ。それに結構イケメンですし。でも一番は…彼女になったら担当してもらえるんじゃないかなって。」
そんな…そんなこと…トレーナーさんは私だけのトレーナーさんなのに…私を理解してくれて全て委ねてもいいと思える尊いトレーナーさん…彼は渡さない!
私は彼らの前に出る。おそらく出走前の顔をしてるのではないだろうか?ともかく…
「トレーナーさん…」
「スズカ?どうしたんだそんな顔して?」
さすがトレーナーさんすぐにただ事じゃないと分かってくれた…そうじゃなくて…
「トレーナーさんは誰の…いえ誰だけの担当ですか?」
「それはもちろんスズカに決まってるじゃないか。どうしたんだ?」
「だったらどうしてその子の誘いをすぐに断らないんですかッ!?」
「なんだ聞いていたのか。いや別にOKはしてないぞ」
「明確にノーとも言ってないじゃないですか!それに…私の方が速いです。」
私はコースの方を向く。そしてスタートの構えをとる。
「スズカッ!待て!やめるんだ!まだ治りきってないんだぞ!」
彼の焦った声が聞こえる。それを合図に私は走ってしまった。
そして半周ほど走って気付いた。何をしているのだろうと。そして足の痛みに。私は減速して止まる。トレーナーさんが必死に追いかけてくる。
「スズカッ!止まれ!そのまま動くなよ!いや座って待て!」
私は素直に従う。先ほどまでの嫉妬と怒りはどこにやら。今は後悔ばかりだ。トレーナーさんを裏切ってしまったようで…涙が出る…
「スズカ!大丈夫か?痛むのか?さあ靴を脱いで診せてくれ」
トレーナーさんはいつでも私のことを考えてくれているのに…つまらない嫉妬でまた足を痛めてしまった…
「ごめんなさい…トレーナーさん…ごめんなさい…」
「痛むのか?…分かった…すぐ病院に行こう…ほら捕まって…」
そうして私の足には再びギプスが巻かれてしまった。幸いそこまで酷いことにはなっていなかったが癖になるといけないということで念のためのギプスだ。治療が終わって待合室で私は謝る。
「ごめんなさいトレーナーさん…トレーナーさんはいつでも私のことを観てくれているのに…知っていたはずなのに…嫉妬してしまって…バカなことをしました…ごめんなさい…」
「スズカ…」
トレーナーさんは少し考えたあと言った。
「スズカ、俺は君のトレーナーだ。だからこそ今回のことについて言わないといけない。落ち着いて聞いてくれるか?」
私は頷く。何を言われるのか分からないがよくないことだろう。
「君は今回俺が走るなと言ったのに走って再び怪我をした…問題になるのは怪我をしたことではなく指示を守らなかったことだ。トレーナーの指示を守れないのは安全上看過できない。わかってるはずだ。」
その通りだ。最高70キロ近くで走るのだから危険に決まってる。競技や安全に関してはトレーナーの言うことを守るというのは基本中の基本。これは絶対だ…
「それを守れなかったんだ。場合によっては…管理しきれないということで契約解除もあり得る話だ」
契約解除…嘘でしょ…そんな…
私は真っ青な顔でトレーナーさんの方を向く。トレーナーさんは真剣な顔で続ける。
「だから君にはこれから一つ指示を出す。これを守れなかったら…俺は君の担当をやめる。」
「ギプスをつけている間、それから外してから医師の許可が出て俺がいいと言うまで、絶対に走らないこと。何があってもだ。守れるか?」
「は…はい…守ります…絶対守ります…お願いします、捨てないで…捨てないでください…」
「それはスズカ、君次第だ。君が選ぶんだ。俺とこれからも一緒にいたければ…今の指示を守るんだ。いいね?」
「はい…守ります…」
こうして私とトレーナーさんは約束をしたのだった。
それからの私はとにかく足を大事にした。今までだってないがしろにしてたわけではないけれどそれ以上にだ。そして一周間後ギプスは外れた。今度は念のため二週間は様子をみること。走れるかはその後診断するということになった。今度は走らない…絶対に走れない走ってはいけない…周りを見ると練習に向かう子やレースの話が聞こえてくる…平常心を保たないと…トレーナーさんを裏切るわけにはいかないから…トレーナーさんがいなくなったら私はもう終わり…離れるなんて絶対嫌…それだけはなんとしても阻止しないとそうだいざとなったら二人で死…
「あ、スズカ先輩。ギプスが外れたんですね。よかったですね。」
ふと声をかけられる。振り返るとトレーナーさんが教えている子たちの中の一人。あのときトレーナーさんを”口説いていた”子がそこにいた。人の良さそうな笑顔ではあるがなんだろう。違和感があるような…
「あなたは…ええ、そうなの。ありがとう。」
「本当によかったですね。そうだ!今から練習なんですけどまたスズカ先輩が走ってるところ見せてもらえませんか?やっぱり本物は迫力が違うなあと思ったんですよ。」
「えっと…ごめんなさい、まだしばらくは走れないの…トレーナーさんに止められてて…」
「あ、そうなんですね。やっぱりこの前走ったのが影響して…もしかして走ったら契約解除とか言われたんですか?」
「え…なんでそれを…?」
「いえ別にトレーナーさんが話していたとかそういうわけじゃありませんよ。ただなんとなくそう思っただけです。でも、当たりみたいですね。」
どういうこと?この子なんのつもりで…?
「あんないいトレーナーさんを困らせたらダメですよ…でもスズカ先輩なら他の人でも大丈夫じゃないですか?もうスズカ先輩を逃げ以外で走らせよう、なんて人はいないでしょうし。」
「えっと…」
「スズカ先輩…すぐ走りたいんじゃないですか…?先輩は走るのがすごく好きでいつも楽しそうに走ってるってトレーナーさんがよく話してましたよ?」
「それは…そうだけど…」
「ねえ…先輩…これから行きませんか…?」
嫌な予感しかしない…でも聞いてしまった…
「どこ…に…?」
「もちろんランニングですよ…?この時期は山の方とか景色がいいですよね!川沿いでもいいですよね!流れる川と一緒に走るのはとても気持ちいいですものね」
「!!」
「どうですか?軽くリハビリ程度に走るくらいならトレーナーさんも大目に見てくれますよ。それどころか気づきもしませんって。今日も私達のグループのトレーニングを見てくれてますから。走れますよね?」
「だ…ダメ!ダメよ!」
なんてことを言うのだろうこの子は…でもすごく魅力的な提案…
「そうですか…残念だなぁ…もっと先輩と色々お話したいんですよ?ランニングしながら…二人きりで…じっくりとね…」
違和感の正体に気づいた。ずっと笑顔だけど目が笑ってない…それどころか…怒ってるの…?
「あなた…なんのつもりなの…?本当はなにがしたいの…?」
「やだなあ…先輩とお話したいだけですよ?あの有名なサイレンススズカさんと話せるなんてそうそうないですからね。」
すごくいい笑顔で応える…でも雰囲気は全くの反対…これはなんだろう…?憎悪…?
「違うわ…それだけじゃないでしょ…話すだけならこれまでも機会はあったじゃない…どういうつもり?」
「ん~…やっぱりダメですか…簡単に乗ってくれたらよかったのになあ…」
「どういうこと…?」
「じゃあこういうのはどうですか?トレーナーさんに私を推薦してもらえないでしょうか?それでチームを組みましょうよ。あなたが言えばトレーナーさんもNOとは言いにくいでしょうし…その後はどうとでもね…」
わからない…この子なにが言いたいの?一つわかるのは私に良い感情は持ってないこと…
「よくわからないけど…トレーナーさんはチームを持つ気は無いし私もお断りするわ…それじゃあ…」
振り向いてその場を離れようとする。これ以上彼女に付き合うのは…嫌な予感がしたから…
絶対逃さない…
背中からそんな声が聞こえた気がした…私は怖くなって早足でその場を去った…
次の日の夜、皆が練習を終わりにするような時間に私はトレーナーさんに呼び出された。なんだろう?普段はこんな時間に呼んだりしないのに?緊急の用事かしら?と考えながらトレーナー室に向かう。
「トレーナーさん?どうしたんですかこんな時間に?」
「スズカ…まずは座ってくれ…」
到着するとすぐにソファに座るように言われた。ずいぶん重い空気ね…ほんとに何かしら?
トレーナーさんは対面に座ると切り出した。
「率直に聞こう。スズカ、昨日走ったのか?」
「え?」
トレーナーさんは何を言ってるのだろう…?
「君が昨日学園の外に走りにいってるのを見たという子がいる。信じたくないが本当か?」
「ま…待ってください!私走ってません!トレーナーさんと約束したから…しばらく走らないって」
「じゃあどうしてその子はそんな話をしてきたんだ?」
「え…わ…わかりません…そもそも誰から聞いたんですか?」
「それは言えない。しかし心当たりがあるんじゃないか?ずいぶん詳細に話していたぞ。あそこの景色は綺麗とかこのルートがオススメだとか。君に教えてもらった。ちょうど昨日走ってきたと。」
あの子だ…昨日のあの子が何か吹き込んだんだ…
「何か心当たりがあるみたいだな?」
「あの子が何か言ったんですね…?トレーナーさんが練習を見てる…この前トレーナーさんに声をかけていた…」
「どうしてその子が出てきたんだ?そういう話をしたのか?」
「確かに昨日話はしました。でも仰るような走りに行った話じゃなくて…逆に私が誘われたんです。ランニングに行きませんか?って。もちろん断りました。そうしたらその子…」
「スズカ、分かった」
トレーナーさんは私の話を遮る。なにがなんだかさっぱりわからない…あの子なにがしたくて…まさか!
「スズカ、俺は君に言ったよな?指示するまで走るのは禁止だと。破ったら契約解除すると」
「トレーナーさん待ってください!あの子が何を言ったかは分かりませんが私は…」
「スズカ!」
思わず身をすくませる。トレーナーさんがこんなに怒るのを見たことがない。どうして…?どうして聞いてくれないの…?
「君が走るのが好きでそれを守りたいと思ってここまでやってきたが君が約束を守れないなら」
待って…言わないで…
「ここまでだ。契約解除するしかない。」
嘘…嘘でしょ…なんで…どうして信じてくれないの?
「なあ、本当のことを言ってくれ。そうすればこのまま君の担当でいられる。本当はどうなんだい?」
一転いつもの優しい様子で尋ねてくるトレーナーさん…これって”自白しろ”って意味よね…
「私は…」
頭が混乱している…どう言えば分かってもらえるんだろう…
「私は…」
”本当のことを言ってくれ”
今トレーナーさんはそう言った…
だから私が言うべきなのは…
「私は…走っていません…昨日あの子からランニングに誘われました。それとあの子がチームに入れるようにトレーナーさんに口添えしてほしいと…どちらも断って寮に戻りました。それが昨日あったことです。」
トレーナーさんは黙って聞いている。そして…
「わかった。それが本当のことなんだな。」
「はい…そうです…」
「そうか…よく正直に話してくれた。そして走るのを我慢したな」
トレーナーさんはいつもの笑顔でそう言った。
「トレーナーさん…」
「正直半信半疑だったんだ。その子がスズカが走ってたって言ってきたんだ。スズカは走るのが好きだからもしかしてって思ってな…もし走ってまた足を痛めていても今度は隠すかもしれないと思ったから。だから脅かすようなことを言ってでも本当のことを言ってほしくてな。疑ったりして悪かった。」
そう言ってトレーナーさんは頭を下げる。
「そ、そんな!やめてください。でも、私…私本当に怖かったんです…トレーナーさんに呆れられてそれだけじゃなくて愛想も尽かされて捨てられたらどうしようって思ったら怖くて怖くて…」
「本当にすまない。スズカを信じてあげられなくて…でもスズカが一番大事なのはいつも変わらないから…それは本当だ。」
「トレーナーさん…」
トレーナーさんはいつか言ってくれたように私を励ましてくれる。私が一番大事…嬉しい…
「しかし例のあの子…よくやるよ全く。スズカの話を聞いて納得した。そういうことか…」
「あ!そうです!あの子トレーナーさんを狙って!」
「そうだろうね。たまにいるんだ。トレーナーになってほしいとかチームに入れて欲しいっていう子は。ただ今回みたいにスズカを追い出して後釜に入ろうというのは初めてだな。気をつけないといけないなあ」
多分それだけじゃないと思うけど…これは言わなくてもいいかな。トレーナーさんに意識してもらいたいのは私だけにしておきたいし…
「そうなんですね…トレーナーさんもしかして結構他の子からトレーナーになって欲しいとか言われてるんですか?」
「それはまあ…どのトレーナーも多かれ少なかれあるよ。」
むう…私もトレーナーさんに変な虫がつかないように気をつけないと…トレーナーさんは私だけのトレーナーさんなんだから…
その後の診察で足は完治。再び走れるようになった。例のあの子は姿を見ていない。どこに行ったのだろう?
その後トレーナーさんはまた私の専属として私だけを見てくれる様になった。そんなある日
「トレーナーさん?また頭を抱えてどうしたんですか?」
「ああ…この前のグループの面倒を見た件がどうも好評だったみたいでな。それはいいんだけどまた別のグループを見てほしいと言われてしまってな…」
「ダメです!トレーナーさんにまた良くない感情を持つ子がでるかもしれません!トレーナーさんは誰の担当ですか?そうです私サイレンススズカの担当ですね?だから他の子なんて見なくていいんですそうですずっと二人きりでいられればそれでいいんですうふふ…やだそんなことになったらどうしましょう嬉しいうふふ……」
「あースズカさん?断ろうと思ってるんだけど聞こえてないな…」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
まさかスズカ以外からあそこまで口説かれるとは思わなかったな。聞いてる限りだと完全に惚れられてたようだ…普通に指導してただけなんだけどなぁ…でも残念ながら俺はスズカ一筋なんだ。
チームの話はのらりくらり誤魔化してる。スズカ以外は見たくないのが本音だけどなかなかそうもいかないからなあ。やむを得ず手伝ったがこうなるとは。
今回はスズカのためとはいえ酷いことを言ってしまった。スズカを信じてるけどもし、もしも走ってたら…それを隠されて取り返しがつかないことになるよりは仕方がない。でも走っていたら…その時は監視ということでずっと閉じ込めて独占しておけたのに…いやスズカのためだからな?とにかくスズカを手放すなんて絶対にあり得ない…
不安そうに震えてるスズカもカワイイのは間違いない。実は怯えてるスズカを見てあまりにもカワイイからゾクゾクしていたのは内緒だ。でもやはり笑っていてほしいからなあ…
まあとにかくスズカの足が治ってよかった。
実はスズカさんは崇拝型ヤンデレがすごくすごい似合うしカワイイと思うんですよね。これはまだ秘密事項なのでバレてないと思いますけど。
崇拝型スズカさんもとうとうシリーズ化ですね。する必要あるかなあと思いつつおやつシリーズとは違うスズカさん達なので一応分けときますね。
と言いつつ今回はあんまり病んでないですね。普通の嫉妬しやすい乙女になってしまいました。ほんとはもうちょい発狂シーン入れる作戦だったんですけどなんか流れで冷静に解決しちゃいましたねドウシテコウナッタ… まあこれはこれでありだなあとは思いますスズカサンカワイイヤッター
どっちかというと例の子とトレーナーさんの方が病んでる感じが出てしまいましたね悪い癖です。例の子ももうちょい悪い子にしたかったなあとか思うんですけど難しいですね。次回登場するかは未定なので不明です。タブンデナイモンニ