【完結】蒼い星へ還る日まで〜少女六人、終末世界で自由気ままなスローライフはじめました〜   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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ヒトの未来、私の未来

「私の力……ですか?」

 

 力を貸して欲しい。そう言われても自分に何ができるのか。夜空の向こうに地球があることも、ここが月だということもまだ遠い世界のお話に思えているのに、そんなことはとても考えつきません。

 

「まずは君の病気について話そう」

 

 そんな光里に、所長は語り始めます。彼女がその身に抱える病気のことを。

 

「先天性汎体機能不全症候群。別名、【ラビットシンドローム】。それが我々の研究所が、君の病気につけた名前だ」

「ラビットシンドローム……ウサギさん?」

「そう、そのラビットだ」

 

 先天性……というのはよくわかりませんが、ウサギというのはちょっと可愛い名前だと光里は思いました。ですがその名前とは裏腹に、このラビットシンドロームはとても恐ろしい病気なのです。

 

「人類が地球を捨てて、月に移住したのは君にその目で見てもらった通りだ。それからなんとか住みやすいように環境を整えて、今や人類はアララトを地球と思い込んで定住するまでに至った。だが、人類は元々地球の生き物だ。月のジオフロントという環境には、遺伝子が適応できなかったんだ。それが君だよ、光里ちゃん」

 

 所長のお話は少し難しいですが、これは光里自身の病気のこと。光里は今まで以上に真剣に耳を傾けます。

 

「月のジオフロントという不自然な環境で世代を重ねた結果、遺伝子が歪な変異を起こして呼吸器、消化器、筋力に免疫、視覚、聴覚、嗅覚。ありとあらゆる身体機能が大きく低下してしまった。君の病気は、人類が月に移住して世代を重ねた末に起きたもの。それ故に月のウサギになぞらえて、ラビットシンドロームというわけだ」

 

 ラビットシンドロームとは、地球では決して発症しない月特有の病気。そしてほぼ全ての身体の機能が、生活に大きな支障が出るほどに弱ってしまう恐ろしい病気でもあるのです。

 

「私……この先どうなるんですか」

 

 光里が気になるのは自分のこれからでした。

 

 この病気はこれから治っていくのか。それともこれからも病気が進行して自分はどんどん弱っていくことになるのか。先行きの見えないこれからの人生が、光里はとても不安なのです。

 

 そしてその答えを、所長は知っていました。光里が考えてもいなかった、あまりにも残酷な答えを。

 

「もって三年。このままで君が生きられる、残りの時間だ」

「そんな……」

 

 余命三年。それが所長が告げた、光里のこれから。

 

 大人になることさえできないまま、あと三年で死んでしまう。その恐怖に震える手を、フランは何も言わずにぎゅっと握ってくれました。かける言葉は見つからないけれど、せめて少しでも気持ちを落ち着かせてあげようと。

 

「この病気は、人が月で暮らしている限り新たに生まれる子供には何度でも起こり得るものだ。NOAHはこのラビットシンドロームを、人類にとっての脅威と判断した。だからこの人類の敵、ラビットシンドロームに打ち勝つ為に現状唯一の患者である君にも研究に協力して欲しいんだ。頼めるかな」

 

 力を貸して欲しいというのは、このことでした。月で世代を重ねる事でこの病気が発症してしまうのなら、これから子供や孫、ひ孫と命を繋いでゆく毎にラビットシンドロームはよりたくさんの人々へと牙を剥く。それがノアの出した予測なのです。

 

 そしていつか人類全てがラビットシンドロームを発症してしまえば、人類は滅んでしまいます。それを防ぐ為に、言ってしまえば患者の研究サンプルになって欲しいというのが所長のお願いでした。

 

「私に、できることなら……」

「ありがとう」

「あと三年……頑張ります」

 

 覚悟も、決心もつきました。光里は決めたのです。あと三年で死んでしまうのなら、せめてこの命を未来に生まれてくる子供たちの為に使おうと。

 

 その為なら実験動物だって構わない。例え解剖されてしまったっていい。それだけの覚悟を決めたつもりでしたが、話はここで終わりではありません。

 

「さっきはそう言ったが、君にはもっと長く生きて欲しいと思っている」

「え……?」

 

 もっと長く生きる。そんなことが本当にできるのでしょうか。そう考える光里に、所長は言います。

 

「こちらの方が本命だが、もう一つ君に頼みがあるんだ。フランちゃんに来てもらったのも君の介助もあるが、彼女がいた方がわかりやすいと考えたからだ」

 

 ラビットシンドロームのこととは別の、もう一つの所長からのお願い。それには何やらフランも関係しているみたい。本命だというそのお願いとは一体なんなのでしょうか。

 

「よろしくお願いしますね、光里さん」

「うんっ」

 

 けれどフランがついていてくれるなら大丈夫。そう信じて、光里は所長の言葉に耳を傾けようとしますが……。

 

「場所を変えよう」

 

 またもや場所移動。話を聞く前に車に戻ることになりました。

 

 

 

 

 

 移動中の車の中にて。

 

「光里ちゃん、君は人類がどうして地球を逃れたか、わかるかな」 

 

 人気のない無機質な建物が並ぶ道を運転しながら、所長は光里に問います。

 

「環境……とか?」

「いい答えだ。だがそうじゃあないんだ」

 

 光里は何か環境問題なのかなと思いましたが、どうやら違うみたい。そして所長から明かされたその理由は、あまりにも衝撃的なものでした。

 

「地球は、宇宙から現れた侵略者に奪われたのさ。当時の世界に生きてきた九割以上の人口を殺され、命からがら月に逃げ延びてきた人類の生き残り。それが我々だ」

「そんなことが、ありえるんですか」

「ありえない。ありえないが、起きてしまったんだ」

 

 なんと、地球が宇宙人に侵略されて人類は月まで逃げ延びてきたのだというのです。ここが月だということまではなんとか受け入れた光里も、流石にそこまでは信じられませんでしたが、所長は本当なのだと念を押します。

 

「それで、私は何をすれば……」

 

 ただそれが仮に本当だとして、できることはあるのでしょうか。どうして所長はそれを教えたのか、光里にはわかりません。

 

 そうして話しているうちに車は目的地の、工場のような建物の前に到着しました。

 

「それを今から見てもらう。さあ、降りようか」

「ここは……」

「見たらびっくりしますよ、光里さん」

「フランちゃんは知ってるんだ」

「まあ……はい」

 

 この扉の向こうに、答えがある。フランはその答えを知っているみたいです。

 

 所長が電子ロックにパスワードを入れると、見上げるほどに大きな扉がゆっくりと開き始めます。その向こうに待っていたのは、これからの光里の人生を大きく変える出会いでした。

 

「これは……巨大ロボット?」

 

 そこにあったのは、20メートルほどもある巨大な一つ目のロボット。驚きを隠せない光里に、所長はこれのことを説明してくれます。

 

「超汎用人型戦略機動兵器ゼクト・オメガ。来たる【ヨナ計画】の為に、我々NOAHが今の人類の持てるあらゆる学問や技術、地球時代の遺産までも全て結集し、採算度外視で作り上げた究極兵器だ」

 

 究極兵器ゼクト・オメガ。どうやらここにはそれが六機用意されているようです。ゼクト・オメガとは、ヨナ計画とは、一体何なのでしょうか。

 

「これの開発に私も関わったんですよ。ほんの少しだけですが」

「フランちゃん、すごい……」

 

 このロボットを作るのに少し関わったというフランは、なんだか得意げ。光里も、こんなものを作るのに関われるというのは素直にすごいと思いました。

 

 けれどどうして、所長は光里にこれを見せたのでしょうか。フランがすごいのだと教えたかったのかな。

 

 しかしすぐに所長の口から告げられたその答えは、驚くべきものでした。

 

「君たちに頼む。この機体に乗って、地球に行って欲しい。そして願わくば、侵略者の手から地球を取り戻して欲しいと思う」

「戦う……私が……?」

 

 このロボットに乗って戦う。それが所長の、もう一つのお願いだというのです。

 

「君の身体には、近いうちにこの機体を動かす為のナノマシンが投与される。それが定着すれば君は……」

 

 所長はまだ何か言っていますが、段々と視界が霞んで声が聞こえなくなってきました。なんだか胸が苦しくなって、息ができなくなって……。

 

「か……ひゅ……」 

「フランちゃん、酸素を!」

「はいっ!」

 

 精神的なショックからでしょうか。呼吸困難を起こした光里の顔に、フランは慌ててバッグから取り出した酸素マスクを当てました。

 

「大丈夫です光里さん、落ち着いて!」

 

 目が虚ろになっていく光里に、フランは酸素を吸わせてあげながら必死に呼びかけます。すると落ち着いてきたのか、けいれんも収まって少しずつ呼吸も安定してきました。

 

「はぁ、はぁ……」

「しばらくこのままにしますね」

「ありが、と……」

 

 今にも泣き出しそうになりながら、フランはぐったりとした光里の身体をぎゅっと抱きしめます。

 

 先に知識ではわかっていても、実際に病気に苦しむ姿に直面すると心配で不安で仕方なかったのです。光里が死んでしまうかもしれない。そう思うと胸が苦しくて仕方なくて。絶対に放してたまるもんかと、フランは光里を強く抱き続けました。

 

「所長、今日のところはもう寝かせてあげましょう」

「本当にすまなかった、光里ちゃん。今日はもう帰ろう」

 

 もうこれ以上は、お話するどころじゃなくなってしまいました。それよりすぐにでも光里をベッドでゆっくり休ませてあげないと。

 

 光里をひとまず車のシートに寝かせて、少しでも早く研究所に戻って光里を眠らせてあげる為にと、所長は車を走らせました。

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