【完結】蒼い星へ還る日まで〜少女六人、終末世界で自由気ままなスローライフはじめました〜   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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月での日常

「ゼクト・オメガ各機、月面試験場に展開完了。これより起動及び稼働試験を開始します」

 

 場所は月面の試験場。光里たちは宇宙服を着てゼクト・オメガに乗り込み、オペレーターの人の指示に従ってこれから起動試験に臨むところです。

 

「これ、大丈夫なの……?」

「安心して。機体とあなたたちの状態はこちらで常に監視しているし、万が一があればすぐにナノマシンが麻酔をかけて生命維持をしてくれるわ」

 

 月面とはいえ初めて空気のない宇宙に出たことで不安になってしまった月美に、指令室から沙織さんが大丈夫だと言ってくれました。

 

「みんな、気楽に楽しんでいこうっ」

「光里の言うとおりだ。まさか巨大ロボに乗れるなんてな」

「わくわくしますね」

 

 巨大ロボットに乗るのはみんなこれが初めて。もちろん不安もありますが、わくわくも止まりません。

 

 そしてついにみんなは起動スイッチを入れ、ゼクト・オメガを起動させました。

 

「機体及び操縦者のナノマシン同調開始。補助脳を構築し、ニューロンサーキットに接続します」

「ニューロンサーキット正常に稼働。各機、操縦者の生体信号を受信しています」

「縮退炉、安定状態を維持」

「操縦者のバイタルに異常ありません。呼吸、脈拍ともに正常値です」

「ここまでは順調ね」

 

 色々な機能が問題なく動き、光里たちの状態もばっちり。まだ動かしてはいませんが、ここまでの試験は順調です。

 

「みんな、機体を動かしてみてくれるかしら」

「動かすって、どうやって?」

 

 無事に起動できたので、次は動作のテストです。けれどみんな、こんなロボットを動かしたことなんて一度もありません。動かすと言われても、どうすれば動くかさえわからないのです。

 

 そんなみんなに、沙織さんは動かし方を教えてくれました。

 

「こう動きたいというのをイメージしながら操縦桿を握って、思うように動かしてみて」

「できた!」

「マジでこんな簡単なん?」

 

 ただ動きをイメージして、操縦桿を倒すだけ。それだけでまるで自分の身体のように自由に動かせたのです。

 

「ゼクト・オメガ内部のナノマシンとあなたたちの体内のナノマシンが交信することで、あなたたちがこう動きたいというのを読み取って機体が動いてくれるの。ちなみにあなたたちの下着にはそれを補助するチップが入っているわ」

「でも、それならこの操縦桿には何の意味が……」

「考えるだけで動いてしまったら誤動作が起きてしまうから、操縦桿で何らかの操作をすることを機体動作のスイッチにしているのよ」

「つまりどう動きたいかをイメージしながら適当にレバガチャすれば思い通りに動いてくれるってことだね〜」

「流石ね、智実ちゃん。でも必要なら操縦桿に操作を移して細かい動きもできるから、そこは上手く使い分けをしてね」

 

 操縦桿はあくまでスイッチで、基本は頭で考えたとおりに動く。そう理解してコツさえ掴んでしまえば簡単です。

 

 試験が終わる頃には、みんなもう自由自在にロボットを動かせるようになっていました。

 

 

 

 

 

 ゼクト・オメガの起動試験の後。みんなは月面基地に用意された更衣室で宇宙服を脱ぎ、シャワーを浴びて汗を流しています。

 

「まさかあんなに簡単に動かせるなんて思わなかったなぁ」

「これなら、私でも……」

 

 ロボットを操縦する。そう聞くと難しそうに感じましたが、動かしてみればなんてことはありませんでした。これなら天使とも戦えるかもしれない。そんな自信もつくくらいには。

 

「私が組み立てたんですよ。操縦システムのプログラム」

「マジ?」

「天才じゃったか〜」

「流石だな」

 

 なんとあの簡単な操作は、フランが作ったそうです。やっぱりフランは天才なんだなぁと、みんなは改めて思いました。

 

 そしてみんながシャワーを浴び終わった頃、更衣室に沙織さんがやってきます。

 

「みんな、気分が悪くなったりはしてないかしら」

「大丈夫だよあやちゃん先生〜」

「なんともありません」

「初めてのナノマシンを使った操縦で悪影響がないか心配だったけど、みんな大丈夫そうね」

 

 どうやらロボットの起動でナノマシンを使って、体調を壊していないかのチェックに来たみたい。誰も特に具合が悪くなったりもせず、こうして起動試験は無事に終わりました。

 

 

 

 

 

 

 起動試験から少し経った頃。いよいよみんなの、地球行きに向けた訓練が本格的に始まりました。

 

「持久走とかマジ無理ぃっ!」

「引きこもりの私は、ここまでだ……」

「持久走って誰得なんだろうね〜」

 

 この日の訓練は持久走。ランニングマシーンで限界までひたすら走り続けますが悠樹と小夜子、智実は先にリタイアです。

 

「意外とつくみん走れるんだ」

「まあ、なんとか……」

 

 意外なのは、大人しい印象の月美が意外と続いていること。しかもまだ少し余裕がありそうです。

 

「無理はしないでくださいね、光里さん」

「はぁ、はぁ……私、もうだめ……」

「いや充分じゃん。すごいって」

「疲れてるだろうけど水分を摂るのは忘れないでね」

 

 四番目に足を止めたのは光里でした。けれど動けるようになったばかりでここまで体力が続いたのは充分凄いことでしょう。

 

 リタイアした四人は沙織さんに言われたとおりに麦茶を飲んで、残った二人を見守ります。

 

「最後はフランと月美の一騎討ちか」

「意外な組み合わせだね〜」

 

 その二人とは、フランと月美。どちらも大人しそうな印象なのでみんな意外に思っていました。

 

「もう、だめ……」

「最後に残ったのはフランか」

 

 先にリタイアしたのは月美。そしてしばらくしてフランも足を止めました。

 

「小さい頃から色々な習い事をしていたので。バレエもしたことありますし、少年スポーツチームにいたこともあるので体力もそれなりです」

「流石お嬢様」

 

 ロボットの操縦システムの発明などインテリの印象が強いフランですが、学問の道に進む前はやりたい事を探す為に色々な習い事をしていました。なので意外にも体力には自信があるみたい。

 

 こうしてみんなランニングマシーンでの持久走を終えましたが、光里には気になることがありました。

 

「でもどうして急に持久走なの?」

 

 地球行きは近づいていますが、どうしてこのタイミングで急に持久走なのかなと。体力を鍛えるなら、したいしたくないはさておいて最初の頃からしておいてもよかった筈です。

 

 その答えを、沙織さんは用意していました。

 

「あなたたちの身体はまだナノマシンが体内にある状態での運動に慣れていないから、慣れさせる為にできるだけ身体を動かし続ける必要があるの。今回の結果は純粋な体力差に加えてナノマシンの適性差もあるから、あまり気にしなくていいわよ」

「なるほど。光里が結構走れたのも適性というわけか」

「言われてみればうちもいつもより体力もったかも」

 

 走っている途中は夢中で気付きませんでしたが、みんな確かに言われみるとこれまでよりも体力が長く続いていました。これもナノマシンの力なんだと、みんなその凄さに感心です。

 

 

 

 

 

 また別のある日は射撃場にやってきて、みんなでライフル銃を持って射撃訓練です。

 

「焦らなくていいから、ゆっくり狙ってね」

 

 深呼吸して、息を止めて。気持ちを落ち着けて、視線の先にある的の頭を慎重に狙います。

 

 静寂の中、小夜子が引き金を引きバンッと銃声が響きました。

 

「ちっ、急所は外したか」

「でもさやちん上手いじゃん。うちなんて全然当たんないし」

 

 当たったのは的の肩のあたり。狙っていた頭は外してしまいましたが、見事当てることができました。一方悠樹はなかなか上手くいかないみたい。

 

「凄いのは、光里……」

 

 けれど一番凄いのは光里でした。

 

「よしっ!」

「さっきから全弾急所に当てていますね……」

「これは上手いってレベルじゃないよね〜」

 

 もう何発も撃っていますが光里が撃った弾は全部頭の上半分、脳味噌あたりの真ん中に命中して、しかもその穴は全部繋がってひとつの穴になっていました。ほとんどずれることもなく、全部が狙ったところに当たっている証拠です。

 

「ターゲット、動かしてみるわね。弾は的の数だけ用意するから、できるだけ当ててみて」

「はいっ」

 

 止まった的では練習にならないと思った沙織さんは、的をロボットやドローンで動かします。

 

 ですがそんな動く的さえも、光里は急所を正確に狙い撃ってしまいました。何の苦もなく、むしろどこか楽しそうにしながら。

 

「なんというか……想像以上です」

「月のシモ・ヘイヘを名乗ってもいいと思うぞ。これは」

「シモ・ヘイヘわかる〜」

「いや誰それ」

 

 その圧倒的な程の腕前に、みんなもびっくり。

 

 ちなみに小夜子と智実が言っているシモ・ヘイヘというのは400年ほど前の戦争で活躍した、鉄砲の腕前で500人以上をやっつけたという伝説の狙撃手です。

 

「これも、ナノマシンの適性……?」

「流石にそんな機能はないわね。ひとえにあの子の才能よ」

 

 これもナノマシンの力なのかと月美は思いましたが、どうやら違うよう。以前小夜子が言っていたゲームの腕前もですが、光里は戦いに関わることへの天才とも言える才能を持っていたのです。

 

「でも何で鉄砲の練習なんかすんの? 天使にこんなん効かないっしょ」

「これは戦う為じゃなくて、野生動物を撃つ練習よ。地球でお肉を食べられるかは、鉄砲の腕前次第ね」

「ガチサバイバルだな」

「でも光里さんがいれば、きっとお肉には困らないですね」

 

 この訓練は戦う為ではなくあくまで食べるお肉を手に入れる為だと言いますが、それなら光里がいればきっとお肉を食べられないということはないですね。

 

 そうして話しているうちに、ふと光里の方を見ると……。

 

「やったぁ、全部当たった!」

「えっ、動いてるやつに全部当てたん!?」

「光里さんって、実は物凄い人なのでは……?」

 

 的の数しか用意されていない弾を使い切って、光里は鉄砲の弾を全ての動く的の真ん中に正確に当てていたのです。

 

 

 

 

 

「つかれたぁー!」

「いよいよ地球行きが近付いてきたって感じだな」

「筋肉痛ならないのが不思議なんですけどぉ」

「きっと、ナノマシンのおかげ……」

 

 地球に行く日が近付いて、この頃は毎日が濃密でとっても大変。みんな汗だくで部屋に戻ってくる日々が続いています。

 

「みんなでこの後、温泉行ってみよう!」

「お、温泉いいね〜」

「ここ、行ってみたかったんだ」

「温泉宿は研究の遠征などで泊まったことはありますが、友達とは初めてなので楽しみです」

 

 そこで今日はみんなでアララトに降りて、温泉に行って汗を洗い流すことにしました。みんなでお風呂は初めてではありませんが、温泉は初めてでみんなわくわくです。

 

 けれどこんな楽しい毎日も、長くは続きません。

 

 地球に行く日には楽しい今日の記憶も、楽しかった毎日の思い出も、全てが消えてしまうのです。

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