【完結】蒼い星へ還る日まで〜少女六人、終末世界で自由気ままなスローライフはじめました〜   作:スグリ@あれこれ書いたりする人

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完結編
遥か遠い月より


「よっしゃ、コンテナハウス移動終わり!」

「皆さん、お疲れ様です」

「やっぱロボあると楽だよね〜」

「これで、雨が降っても大丈夫……」

 

 日が沈む頃。ロボット、ゼクト・オメガを操縦して、みんなの家のコンテナハウスを基地のすぐ近くまで移動させ終わった光里たち。普段ならこの後夕飯の準備というところですが、今日はみんなそれどころではありません。

 

「だが喜んでいる場合でもない。そうだろう、光里」

「うん。しよう、緊急作戦会議」

 

 機体のコクピットに組み込まれた記憶復元プログラムを使ったことで、みんな失っていた記憶を取り戻しました。それについての話し合いを、光里たちはこれから始めます。

 

 

 

 

 

「話をまとめるとあたしたちは本来月の住人で、300年前に世界を滅ぼした天使をやっつけて人類を地球に戻す為に送り込まれた戦闘部隊ってことだね〜」

 

 取り戻した記憶は大まかに言えば、智実の言った通り。元々みんなが暮らしていた場所は月の地下に作られた偽物の世界で、今いる滅亡した世界こそが本物の地球だったのです。

 

 そしてここにいる六人は、世界を滅ぼした天使と戦い世界を救う為に地球にやってきたのでした。

 

「予測される作戦期間は生活環境の構築、維持も含めると500年以上。その為に私たちはナノマシンで老化を停止させられて一種の不死性を獲得しています」

「子供のまま歳を取らない。さながらネバーランドか」

「六人だけのネバーランド、なかなかロマンチックじゃん」

 

 しかもなんとびっくり。身体の中に埋め込まれたとてもとても小さな機械、ナノマシンの力で、みんなは歳を取ることがないということもわかりました。

 

 まだそこまでは実感はありませんが、今後百年、二百年経ってもみんなは今の可愛らしい姿のまま生き続けてゆくことになるでしょう。

 

「でも、これからどうすれば……」

「そう、それを考えないといけないと思うの。これから私たちはここで生きていくのか、それとも天使と戦いに行くのかを」

 

 全てを思い出したことで、光里の言うように考えなければならなくなりました。これからみんなで、どんな風にして生きていくのかを。

 

「そんなん天使をぶっ飛ばしに行けばいいじゃん。その為に来たんだし、月の人らも待ってんでしょ?」

「いえ……そんな簡単な話ではありません」

「どういうこと……?」

 

 だったら天使をやっつけに行けばいい。悠樹はそう言いますが、どうやら何か問題があるみたいです。

 

「記憶復元プログラムを起動した後、ゼクト・オメガのデータの中に新たなテキストファイルがひとつ増えていたんです。その内容は、綾峰先生からの手紙でした」

「あやちゃん先生の!?」

「何が書いてあったの?」

「写し取ってきたので、読んでみてください」

 

 フランが見せたのは、鉛筆で文字が書かれた一枚の紙。記憶復元プログラムを使った後、ゼクト・オメガの中に新しく保存されていたテキストデータをフランが書き写したものです。

 

 その手紙を、みんなは真剣な目で読み始めました。

 

 

 

 

 

 地球へ旅立った少女たちへ。

 

 これを読んでいるということはあなたたちは天使を一体倒し、失った記憶を取り戻していることでしょう。

 

 まずはじめに、みんなに謝らなければならないことがあります。

 

 記憶復元プログラムがゼクト・オメガに組み込まれたのは、私の我儘のようなものです。もしこれがあなたたちを苦しめてしまうようなことがあれば、戦いに駆り立てるようなことがあれば、全ては私に責任があります。本当にごめんなさい。

 

 あなたたちの記憶が凍結されたのは、あなたたちに天使との戦争を強いてしまわない為の処置でした。天使と戦うことに義務感、責任感を抱かなくてもいいように、NOAHはあなたたちの月に関する記憶を忘れさせることにしたのです。

 

 ラビットシンドロームに関しては光里ちゃんのお陰で研究が大きく進み、改良型のナノマシンによる対症療法が間もなく治療法として確立するそうです。なので月の人類にも充分な猶予はできました。

 

 私からのお願いはひとつ。どうか、私たちの為に戦わないでください。戦うのか、戦わないのか。あなたたちがどのような道を選んだとしても、それがあなたたち自身の幸福の為であることを私たちは切に願います。

 

 あなたたちの行く道に、祝福がありますように。

 

 

 

 

「月の人類のことは考えずに、私たちの為に私たちで選べということか」

「なかなかの難題じゃんね。うちら自身の為にって言われるとどうすればいいかわかんないし」

「私も、考えられない……」

 

 確かに、フランの言うように簡単なお話ではありませんでした。月の人たちの為に戦いに行く。それでは駄目なのだと、自分たちの為にどうするか決めないといけないというのです。

 

 そう言われると、どうすればいいのかはとても難しい問題です。

 

「保留、でどうかな」

 

 そこで光里が考えた答えは、保留でした。

 

「というと〜?」

「今すぐ決めちゃう必要はないかなぁって私は思うの。わからないってことは、私たちの答えは見つかってないってことだから。それに基地を探してみたら、記憶を取り戻した今の私たちだからわかることもあるかもしれないよ」

「確かに、予備知識のあるなしでは見え方もきっと変わってきますね。もう一度基地を隅々まで探索してみてもいいかもしれません」

 

 自分たちの答えを今ここで決めてしまうほど、光里たち六人はこの世界を知っているわけでもなければ暮らし始めてからの日もまだまだ浅く。

 

 答えがわからないのなら、見つけてから決めればいい。それまでは基地を探索したりしながら、これまで通りに生活していくというのが光里の考えです。

 

「いいね、気楽だし」

「戦いに行くとしたら、答えが出てから……」

「いつまでに決めないとダメ、なんてことはないもんね〜」

 

 ひとまず今後の行く先は、みんなの賛成もあり光里の言う通り保留という形で落ち着きました。

 

 そうして話しているうちに、空もだいぶ暗くなってきたみたい。ということは、そろそろお夕飯の時間です。

 

「今日みんな食べたいものは……? お肉は解凍してあるけど……」

「はい、チンジャオロース食べたいっ! ピーマンたっぷりで!」

「なら、味付けは魚醤を使えば……」

 

 何を食べたいか月美が尋ねたところ、真っ先に手を上げたのは光里でした。チンジャオロースは、お肉やピーマンを細切りにして炒めた料理。アララトのレストランで初めて食べた時から、光里はやっぱりピーマンが大好きです。

 

「米なしでか」

 

 けれど小夜子は、チンジャオロースならほかほかのご飯が欲しいみたい。でもお米は残念ながら、ここにはありません。

 

「そこはマッシュポテトで代用するしかないですね」

「言われたらもう米食いたいんですけど!」

 

 みんなの今の主食はじゃがいもやとうもろこし。それらで代用することもできますが、やっぱりお米の魅力には勝てません。

 

「チネる〜?」

「チネるって何」

「小麦粉の生地の塊……はここにはないからいももちの生地をひと粒ひと粒米のサイズに千切って丸めてだな」

「何それやりたくないんですけど」

「折角だから油へポーンもしよ〜!」

「嫌な予感がする響き!」

「これ以上は悠樹がツッコミで疲れちゃうよ!」

 

 そしてまた智実と小夜子の二人が何やらおかしなことを言っては悠樹がツッコミに疲れてしまうことに。それはさておいて、フランがあることを思いついたみたい。

 

「お米なら、300年経っていますし野生化した田んぼの稲を集めればいいのでは?」

「それだよフランちゃん!!」

「天才か」

 

 お米を作るのは田んぼも作らないといけないのでとても大変ですが、幸い天使をやっつけて光る人がいなくなった上に、みんなには長い距離を移動できるゼクト・オメガという心強い味方もあります。

 

 本当に世界が滅んでから300年経っているのなら、きっと長い間放置されて野生になったお米もあるはず。それを食べるぶんだけもらっていけばいいというのがフランの考えでした。

 

「もうこの辺りには光る人もいないはずだし、ロボでちょっと遠くまで探しに行こう!」

「やりたいことに追加だね〜」

 

 こうして記憶を取り戻してから初のやりたいことリスト追加は、お米集めに決まりました。

 

「チンジャオロースは、お米が手に入ってからでいい……?」

「うん、お米と一緒がいい!」

 

 同時にチンジャオロースはまた後ほどということに。お米が食べられるようになるまでは一旦お預けになりました。

 

「今日は……鶏油あったよね。衣は無理だけど揚げ焼きで素揚げのコロッケとかできるんじゃね?」

「それなら、できる。ピーマンに詰めたら光里も喜ぶし……」

「私それ大好き!」

「うちサラダとドレッシング用意するから、つくみんはメインよろしくね」

 

 今日のお夕飯は、前にも作ったピーマンの挽肉入りポテト詰め。そしてもうすっかり料理に慣れた悠樹の手作りドレッシングのサラダも用意することになりました。

 

 こうして記憶を取り戻しても、みんなの日常はひとまず大きく変わることはなくこれまで通りに戻っていきました。

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