日本人らしいその名を聞いて、承太郎は比較的自分と近い異世界から来たのかも知れないと思いかけた。彼女の服装を見て考えを改めたが。
お前の日本荒廃しすぎだろ、と。
「……名乗りなさい」
呆気に取られていた承太郎に痺れを切らしたマコトが鋭い口調で催促する。
「……空条承太郎」
聞くと、マコトは確認するようにポツリと承太郎の名を呟く。彼女も承太郎と同じく、日本風の名前に思うところがあったのかも知れない。
「クラスは?」
承太郎は溜息をついた。
彼は未だに自身のクラスを知らなかった。相手が名乗る以上は礼儀を返したいのは山々なのだが。仕方なく適当にライダーとでも名乗って誤魔化そうにも、目の前の相手が見るからにライダーである。一度の聖杯戦争につきクラスは被らないそうだから誤魔化しが利かない。
「さぁな」
「答えなさい!」
承太郎は片眉を吊り上げた。
クラスは確かに戦略のタイプを決める重要な要素ではある。が、彼女は自らライダーを名乗ったわけで、また戦闘場面をも先んじて披露しておいてその情報を重視するのはやや矛盾している。
何か他に意味があるのだろうか。
しかしいずれにせよ、承太郎が出せる答えは決まっている。
「凄まれても知らんものは知らんぜ」
承太郎の発言を戯言と断じたか、マコトは忌々しげに歯を覗かせる。
「じゃあ……敵ね」
「!」
直後、三発の発砲。それが戦闘開始の合図となった。速射……というほど速くはないが、狙いはいい。幅広い胴体に44マグナム弾が飛来する。熊などの猛獣をも狩れるパワーを持つ弾だ。
「スタープラチナ!」
承太郎の呼び掛けに出現したスタンド、スタープラチナが弾丸を右手の指のみで器用に摘み止める。
その所業を見たマコトが驚愕する。が、戦意は全く失われていないようで、鋭い眼差しを寄越したあと、バイクを走らせて承太郎を中心に円を描く。その軌跡にパラパラ落ちるのは薬莢。マグナム弾のリロードだ。
スレンダーな女性がまるで玩具の銃のように拳銃を扱う様を見て、承太郎はライダーの特色を思い出していた。豪快でパワー重視が多く不器用な面もあるが、大局観に優れる戦略家でもあるという。
マコトの戦略は事実として弱点を突いていた。承太郎は接近戦においてパワーもスピードも強力無比であるが、遠距離からの攻撃に対して反撃する手段は少ない。投石程度が関の山だ。故にこうして射程外をキープされるのは実に難儀なことなのだ。
マコトはバイクを疾走らせながら、またもリボルバーガンの引き金を引く。承太郎は余裕の表情でそれをスタープラチナの拳で打ち弾いた。
余裕ーーそれはマコトも先程のやりとりから承知の上であった。放たれた弾丸を指で摘むほどの敵に同じ攻撃を繰り返し試しているのは、能力の持続性。基本的に高い出力を維持するには相応のエネルギーが必要となる。
それだけの力をいつまで発揮していられる?
マコトの二つ目の問いも見事、スタープラチナの死角。承太郎の弱点はピシャリ正解、射程と持続力だ。この異世界に来てからはより持続力に衰勢を感じていた。スタンドを常に現出させているだけでも体力の消費を感じるほどだ。先ほど止まった時間の中を動いたのも中々に響いている。
しかしながら承太郎は、マコトの銃撃をいなし続ける。
なぜなら射程と違い、持続力は勝負が決まって初めて分かることだからだ。今、承太郎が苦しい戦いを強いられているという事実はマコトには確認しようがないのだ。
だから承太郎は焦って攻めることもせず冷静にアピールする。
その攻撃は通じないぜ、と。
度々の攻撃にも策を弄する様子を見せない承太郎に業を煮やしたか、マコトは垂直にターンして承太郎に突進する。先ほどディオをふっ飛ばした体当たりだ。今度は承太郎のパワーを探ってやろうという肚なのだろう。
承太郎は目眩しの射撃を払い、マコトを迎え撃つ姿勢だ。
マコトは仮面の下で顔をしかめた。正面から猛スピードで迫る大型バイクに物怖じすることなく立ち向かうというのだから訝るのも無理はない。
「力比べにも自信がありそうね」
マコトの小声はバイクのエンジン音に混じり承太郎には聞こえない。
承太郎はマコトが射程内に入るのを静かに待つ。あの速度ならコンマ三秒もかかるまい。スタープラチナの拳が届く範囲に入れば勝負は一瞬だ。既に承太郎の脳内にはスクラップになったバイクのイメージだけがあった。
「おおおッ!」
承太郎が渾身の拳を放とうとしたその瞬間――マコトはバイクを蹴って跳躍した。
「!?」
承太郎の頭上を通り越して背後に立ったマコトは、そのまま地を蹴り、承太郎に突進する。
「はああッ!」
大きく右腕を振りかぶり、メリケンサックを嵌めたグローブで殴りかかる。バイク程でないにせよ威力はありそうだ。
前方には未だバイクが承太郎に向かって直進しているーー所謂、挟み撃ちというやつである。
とことん此方の嫌な戦略を取ってくる奴だ、と承太郎は感心した。正面と背後を同時に護るのが難しいのは、スタンドと本体が切り離れている故にそれを看破されやすいとは言え。
承太郎の判断は当然、横に退避。マコトはともかく乗り手を失ったバイクは直進しかできない。避けたバイクがマコトに衝突し同士討ちを狙えるかも知れない、というのは出来過ぎにしても。
承太郎は大きく右に避けてから……気が付いた。彼女、マコトは承太郎のスタンドに対して嫌に理解が早かった。ともすれば二人のサーヴァントが並んでいる風にも見えなくはないスタープラチナを、承太郎の能力だと即座に把握し、その制限や弱点を探りに来た。それはまさか、彼女も同じような能力を持っているからではないか。ならば、今まさに承太郎を轢き殺さんと迫るバイクこそ……
「ヨハンナッ!」
マコトが叫ぶと、バイクはカクンと鋭く方向を変える。勿論、承太郎の方へだ。
「ちッ……!」
やはり、搭乗していなくても操作できるのか。承太郎がそう思い至った時、状況は更に悪化していた。急いで身をかわしたせいで体勢は崩れ、そこに大型バイクとマコトが前後から追撃に迫る。
避けられない。
マコトは勝利を確信した。先程の動きから、承太郎の機動力は生身の人間とそう大差ないことは明白。であれば、よほど物理法則に反した動きをしない限りは回避不可能のはず。
尤も、彼は万物を支配する物理法則を操る能力を持つ。
「スタープラチナ・ザ・ワールド! 時は止まる……!」
「……えっ!?」
マコトが握り固めた拳を振るう直前、目の前に承太郎は居なくなっていた。瞬きすらしていない。物理的な限界速度を超えて、今し方倒れかけていた男が掻き消えたのだ。
承太郎の切り札、時間停止だ。
「こっちだぜ」
「はっ……!」
突如背後から聞こえる声に振り返ると、バシンと平手打ちが顔面に一発。
「あうっ」
マコトはよろめいて三歩後退りする。そのあと、突進をスカしたバイクがぐるりと大回りしてマコトの後ろについた。
「……」
「……はあ」
マコトは所在なさげに承太郎を上目で見る。
「私の負けみたいね」
マコトが仮面を外すと、それはホラーチックな青色の炎となって宙に溶ける。続いてバイクも燃えるように無くなった。
仮面を取ったマコトは髪型こそマシュに少し似ているものの、目端がやや吊り上がっていて意志の強そうな印象を受ける。マシュ、アリサに続きかなり整った顔立ちに見えるのだが、異世界から連れてこられる選考基準に容姿も含まれているのだろうか、と承太郎は思った。
「レディの顔をぶつなんて、貴方の世界にマナーはないのね」
「平手打ちだろ。許せ」
「ふふっ。そうね。でもどうして本気で攻撃しなかったの?」
「なに、あんたのさっきの発言が気になってな。
英ゆ……サーヴァントのクラスと敵味方に関係があるのか?」
「……なるほど。それは……」
マコトは開きかけた口をまた閉じ、ううん、と唸りながら視線を泳がせる。
「あなたのクラスを聞かないと答えられないわ」
「ったく。こっちは殺されかけたってのに手加減してやったんだぜ?」
「私は頼んでないし? それとこれとは話が別」
「……やれやれだぜ」
承太郎は一言二言で彼女の性格が何となく分かった気がした。
「秘密にしてる訳じゃない。俺自身もクラスが分からないんだ」
マコトは「ううん」と下顎に手をやり考える素振りを見せた後、
「エキストラクラスってわけね。なら仕方ないわ。質問を変えてあげるわ。
あなたのその能力は、ペルソナなの?」
きっと彼女がもつ能力、バイクのスタンドのようなものの総称を彼女の世界ではペルソナというのだろう。
「いいや。これはスタンドと呼ばれている。恐らくあんたの世界にある能力とは別物だろうぜ」
「……まあ、そうよね。似ているところもあるけど、あなたには仮面がないもの」
承太郎は、仮面を剥がすとヨハンナ――彼女がそう呼ぶペルソナというものーーが消えたことを思い出していた。
「異世界って言っても色々あるのね。あなたの世界と私の世界もかなり似ていそうだし」
「……そうなのか……」
承太郎はもう一度マコトの世紀末感溢れる服装を見て、心の中でそっと否定しておいた。
「それで、だ」
「ええ、分かってるわ。あなたの知りたがってることを教えてあげる。
と、言うより……ぜひ聞いて欲しいわ」
諸々と情報交換の体裁で聞いておいて、今更むしろ聞いて欲しいなどとは中々に食わせ者だ、と承太郎は思った。
「私は……いえ、私たちはとあるサーヴァントを追ってるの。
サーヴァント……アルターエゴを」
次回更新は本日の17時です。
~以降ステマ~
新島真(マコト)はJRPGの代表格「ペルソナ」シリーズのナンバリング5作目「ペルソナ5」のヒロインの一人です。
ペルソナ5は主人公が高校生というのもあり、ヤングアダルト向けという面もあると思いますが、実はオッサンこそ一番楽しめるんじゃないかと思っています。
「みんなは知らない、日常に潜む不思議」といった、ある種の年齢制限がかかった体験を提供してくれるのです。大人になると信じれなくなるロマンを思い出させてくれるのです。
もちろん、女の子がかわいいのもイイところですけどね!
神曲の宝庫ぺルソナの中で一番好きなBGMは……迷うけど「カネシロパレス(前半)」のBGMです! 全人類に聞いてほしい神曲。