カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第九節. 宿帳ですよぉ~っ

 マコトが教会付近に到着した時、その静けさに「まさか」と思った。テルミの魔術も耳にうるさい類だし、敵キャスターも爆発の魔法を使っていた。それら戦闘音が聞こえてこないということは。

 

「テルミ!」

 

 教会のドアを蹴って入る。テルミは……背を向けて部屋の中央に座り込んでいた。その付近にシャドウサーヴァントたちが()しているのも見える。光に包まれ風化していく様は、先ほどマコトがアーチャーを下したときと同じだ。

 一方、テルミの方は傷一つない。多少服が汚れている程度のものだ。

 

 マコトは溜息を吐いた。

「アルターエゴより先にアンタを(たお)しておいた方がいいんじゃないかと思えてきたわ」

「……」

 マコトの冗談にテルミは応えない。

「……?」

 テルミは屈んで何かを凝視しているようだった。テルミが珍しく神妙な表情をしているもので、マコトも気になったらしい。そっと視線の先を覗き見る。

「……本?」

「ん? あぁ。キャスターだ」

「え」

 マコトはもう一度それに視線を流す。確かに他のシャドウサーヴァントと同じく、黒い靄、消滅の前兆の淡い光も見える。しかし馬鹿にデカいことを除き、どこをどう見ようがその形は本であった。

「キャスターの装備とかではなく?」

「そーそー。これがキャスター本体だ」

 テルミはその本、キャスターのシャドウサーヴァントに手を伸ばした。すると、空間に黒く光る文字が現れては消えていく。

 これまでしてきたように敵の性質や素性を調査しているのだろうとマコトは思い、しばらく腕を組んで待つ。が、テルミの魔術的侵入に耐えられずキャスターの体の崩壊は進み、タバコの灰のようにボロボロと落ちていく。

「チッ。これ以上は無理だ。下らねーカスめ」

 テルミがボヤいたとき、どこからか声が聞こえてくる。女性の、透き通った声。

「……アナタの、夢を……聞かせて?」

 テルミはちらりとマコトを振り向いて見た。

「私じゃないわよ。こんな綺麗な声してないもの」

「それな」

「殴るわよ」

 ここにはテルミとマコト以外には、既に体躯の八割がた塵と化した二刀流の男、長刀のサムライ、そして……本だけだ。

「でも、アナタの物語は、小さな……子には早い……かも…」

 密閉空間に響かせるような耳に残る声は、キャスターであるその本が崩れるにつれ小さく、歪んで聞こえる。

「喋るなんて、なかなか個性的な本ね。内容はよく分からないけれど」

「こいつらの作りからすると喋れるだけでも不思議なモンだぜ」

「……シャドウサーヴァントって言ってたわね。何処かに"本体"みたいなものがいるってことなの?」

「ああ、アタリだ。ただ既にくたばってる雑魚だろーけどな」

「幽霊ってこと?」

 テルミは何か答えようと口を開いたようだが、言の葉を紡ぐことなく息を吐く。テルミが答えたのは、一拍の思考時間を挟んだのちだった。

「少し違う……たぶん。

こいつらは半自動的に目的を遂行する機械。

喋ることはできても会話はできねー……はず」

 もし彼らシャドウサーヴァントが本体、つまりは元となったサーヴァントの無念を晴らす怨霊のようなものならば、きっとその目的というのは他のサーヴァントを斃すことなのだろう。少なくともマコトはそう考えた。

「……」

 彼らに降り掛かった不幸は他人事ではない。マコトはしばし押し黙った。彼らは一体どのようなサーヴァントだったのか、どのような思いで死んでいったのか。

 マコトは自身が戦ったアーチャーのことをしんみり思い()せていた。

「あ、そういえば。

外で闘ったアーチャーも何か言ってたわ。

まぁ、大した意味なんてないと思うけど」

 テルミは興味深そうな表情で立ち上がる。

「へえ、そいつもか。

自動的に動くからこそ余計な機能は付いていない。

つまり少なくともこいつらにとっては意味があるはず。

で、何て言ってたんだ?」

「ううん、確か『俺は伝説じゃない』とかだったかしら。

戦闘中で余裕なかったから、あまり覚えてないわ」

「ふむ……」

 テルミは目を細め、睨むようにキャスターを見る。そこには既にキャスターの姿はない。完全に消滅したのだから。それでも、テルミは虚空に視線を留め続けた。

 何か、大切なことを思い出そうとしているかのよう。

「あと『俺は代替だが、お前は代替ですらない』ってことも言ってたかしら。

ねえ、やっぱり意味なんてーー」

 マコトは、いつの間にかテルミが本のキャスターから視線を外し、彼女を凝視していることに気が付いた。

 

 そして思わず、後ろを振り返りかけた。

 

 それほどまでにテルミがマコトに向けた視線は異様だった。一体何を見たら斯様に驚愕の表情を作れるのか。寝耳に氷柱をねじ込まれてもここまで驚いてみせれまい。

 

 それが不遜で不敵なテルミであれば尚更。

 

 否。確かに焦点はマコトに合っていたが、それでも何か別のモノを見ているような気さえしたのだ。

 

「まさか……」

 

 テルミはそのあと僅かに呟いたが、それは掠れ声でマコトには聞こえなかった。

 

「何なの?

何か分かったの?」

 

 テルミはマコトの質問には答えず、ゆっくりと自分の掌を見つめ始めた。

 やがて、フードを深く被り直し、表情を隠して、

 

「くふっ……」

 

 笑い出した。

 

「キヒッ……

ヒャハハッ!

ハハハハハハハハッ!」

「ちょっとテルミ! 一体さっきから……」

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! ギャハッ! キヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 

 マコトはゴクリと固唾を飲んだ。テルミは笑いと嗤いの区別が付きにくい男だが、これはハッキリと分かる。

 嘲るような、嗤いだ。

 一体何に対して?

 マコトには想像も付かなかった。だが、彼の目に映っているのはマコトでも他の敵対サーヴァントでもない、もっと巨大で途方もない何かーー決して抗えない運命や摂理を捉えているように思えた。

 

 突然、テレビのスイッチを切ったようにピタリとテルミの不快な高笑いが止まるもので、マコトは心臓がギュッと縮まるのを感じて半歩後退る。

 

「マコっちゃんよぉ」

「う、うん……」

「ちっとやり合わなきゃいけねえヤツがいる。お留守番しときな」

「えっ……」

 

 戦うなら私も居た方がいいのでは?

 やり合なきゃいけない相手って誰?

 そもそも、何か新しい情報が分かったの?

 

 と、諸々の質問が思い浮かんだが、マコトは直感的に理解した。今は少なくとも関わるべきではないと。

 

 マコトはコクコクと首を縦に二度振った。

 

「それと、これからは絶対に聖杯に近づくなよ。フリじゃねぇぜ?」

「……聖杯に? どうして?」

「念には念を、てな。即死トラップでも仕掛けておくつもりだ」

「えぇ……怖っ……」

「んじゃ、いっちょ殺ってくるわ」

 

 マコトの横を通り過ぎ教会の外へ向かう。そのドアを跨いだところで、テルミは足を止めた。

 

「そうそう。一つ忠告しておいてやるよ。

聖杯戦争もそろそろ本番だ。

こっから先はよ……

油断してっとマジで死ぬぜ?」

 




次回更新は本日の17時予定です。
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