カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第九節. 宿帳ですよぉ~っ-2

 冬木、地下鉄の駅の一室。

 簡易的なカーテンが取り付けられたガラスの自動ドアを手動でコロコロと開き、マシュたちは中に入った。

 無事、秘密基地に帰還だ。

 英雄の影――アサシンのシャドウサーヴァントを退けてからは、地下道を通ったおかげで他に戦闘もなく帰ってくることができた。

 

「もうクタクタです〜」

 アリサは部屋に入るや否や、自分のスペースである緑色のソファにべったりダイブする。

「よく休んで下さい。魔力は種火で回復していると思いますが、身体のダメージは休まないと完全には治癒しません」

 

 言いつつ、マシュ自身も木の椅子にゆったり座って一息ついた。ティーダはというと、ドア付近に突っ立ったままだ。

 

「マシュ、アリサ。

その、改めて……ありがとな。助けてくれて。

ホントもうダメかと思った」

 

 ティーダは二人に向かってペコリと頭を下げた。

 

「いえ、生きて帰れば結果オーライ。むしろお手柄です」

 マシュの返答に、ティーダは頭にクエスチョンマークがつく。

「聞かせて下さい。

承太郎さんと離れてから、一体何があったのですか?」

「ああ、なるほど。

ごめん、その前にジョータローは無事かな?

何かさ、ほら、オレを助けに来てくれてたらしいけど……」

「ええ。彼は今、別件で動いています」

「分かった。じゃあ、話すよ」

 

 ティーダは自身の身に起こったことを掻い摘んで説明した。

 落ちていた種火を拾おうとすると突然ワープしたこと。

 恐ろしげなビルを歩いたこと。

 そしてそこにバーサーカー……人の形をした悪魔に襲われたこと。

 情けないながら、全く歯が立たなかったこと。

 

 目が覚めるとテルミの尋問、拷問。

 

 マシュは真剣な表情で頷きながら聞いていた。アリサもだらしなく寝転がりながらではあるが耳を傾けているようだ。

 

「あ、因みに拷問されたって言っても秘密基地の場所とかは言ってないから。

と言うか……聞かれなかった」

「では、何を聞かれたのですか?」

 

 隠れ家など簡単に場所を移せるとテルミも考えているだろうから、それをアテにしないも納得できる。マシュやアリサの能力や弱点を聞くことはあり得ただろうが、これはそもそも本当に知らない可能性が高い。

 マシュは、テルミがわざわざ逃げられるという危険を冒してまでティーダを生捕りしたことが不思議でならなかった。

 

「それが……オレの故郷のこととか、過去に聖杯戦争をしたことがあるのかとか……そんなのばっか。

自己紹介でもしてる気分だった」

「ふむ」

 マシュは眉をひそめた。

「キャスター・テルミは、聖杯戦争に関する記憶を失っているような素振りはありましたか?」

「たぶんなかったと思う」

「どうにも危険なニオイがしますね……テルミが何のつもりなのか全く理解できません。

本来は私たち全員ですぐにテルミに当たるべきなのでしょう。

しかし、英雄の影のこともあります」

 ティーダはそれを聞いて、地下道で聞いたことを思い出した。より強い英雄の現界のことだ。

「それだったら心当たりがあるよ。たぶん、オレが闘った英雄! 闘ったっていうか、一方的に殴られてただけだけど……」

「バーサーカー・マルコのことですか?

タイミングを考えると恐らく違うかと思いますが」

 マシュと出会った日に聞いていたテルミやマルコの情報を思い出しながら、ティーダは腕を組んで「ううん」と唸る。

「そのマルコってヤツとちょっと違う気がするんだよな。実はバーサーカーが二人いるってことはない?」

「ほぼないはずです」

 マシュがあり得ないと言い切らなかったのはキャスターによる新たな英雄の召喚を考慮してのことだった。

「いかにキャスターと言えど、ティーダさんを圧倒するレベルの英雄をそう簡単に召喚できるとは思えません」

「それは……オレがそんなに強くないだけじゃん……

全然戦えてないし」

 ソファで抱き枕に身を絡ませていたアリサが寝返りうって口を挟む。

「そんなことないですよ~。私を助けてくれたじゃないですか」

「まぁ、こっちは二回も助けられてるし……

というかさ、もうちょっと、ほら、何というか」

 アリサの短いスカートからチラチラ覗く白い脚にドギマギしながら言葉を濁すティーダに構わず、マシュは話を続けた。

「これは断言できます。ティーダさんはかなり優秀な戦士です」

 ティーダは眉のシワを寄せて目を細め、マシュを見る。

「そんなフォロー要らないって」

「本当です。

聖杯戦争においてセイバーというクラスは、戦略的な器用さと不得手の少なさから最優とも言われます」

「最優……」

「はい。汎用的に使える時間魔術にバランスの取れた能力値。ティーダさんは最優と言われる所以を体現したセイバーだと思います」

「でも……バーサーカーに手も足も出なかった」

「それなんですよね。ティーダさんが全く敵わなかったというのは(いささ)か不自然です」

 マシュは目を伏せて考える素振りを見せる。

「何かカラクリがあるはずです。

もう一度、詳しくバーサーカーとの戦闘について聞かせて下さい」

 ティーダも腕を組んで、足で床をパタパタ叩きながら記憶を探る。

「すげー力で……すげー速くて……ううん。

白い仮面を被ってた……」

「ふむふむ」

 一聞無価値に思えるようなティーダの情報にもマシュは真剣な表情で聞く。

「ええと、あとは。

声がデカかった! 建物の中でさ、下の階から叫び声が聞こえてきたんだけどそれがうるさいの何の」

「声ですか。意味のある会話はできましたか?」

「いや、全然。叫び声と『コロス』しか聞いてない」

「まさにバーサーカーといった感じですね。

他には変わったところはありませんでしたか?

どんな些細(ささい)なことでも構いません」

 ティーダは困ったという風に頭を掻いた。

「どうなのかな。よく分からなかったんだけどさ、気になったことがあって。

ずっと隠れたり静かに歩いてたりしたんだけど、どうもオレの位置がバレてるような感じがしたんだよな。でも、ちゃんと隠れれた時もあったりして……」

 要領を得ない情報を漏らした自覚があるらしく、ティーダは「ごめん、やっぱ今のナシ!」と付け加えた。

「いいえ、それです」

「へっ?」

 マシュは答えを得たりとばかりに強く頷いた。

 

「何となく分かってきました。

ティーダさん、今すぐ二人で――

バーサーカーを討ち取りに行きましょう」

 


 

 と、その流れでマシュと拠点を飛び出したティーダであったが、血色はよくない様子。

 

 冬木西側の狩場、以前ティーダと承太郎が共闘して種火を集めた場所であり、ティーダを見失った場所でもある。二人はその近辺まで来ていた。

 なお、アリサはお留守番。

 自分も行くと言い張ってはいたが、足手まといになるからとマシュに強く押され、拠点で休んでいる。アリサが回復するまで待つ方針もあったが、一刻も早く攻め入らなければワープポータルの位置を変えられて余計に厄介になるとの判断だ。

 

 運悪く既にエネミーが湧いていたため、二人は物陰に隠れてゾンビの集団をやり過ごそうとしていた。

 

「ホントにアイツとやる気かよ~。マジでめちゃくちゃ強いんだからな?」

 ティーダが静かに、けれど強く声を出す。

「怖いですか?」

「うっ。ま、まあそりゃあ」

 英雄とはいえ女性にそれを訊かれると答えづらいティーダであったが、前回の惨敗からして強がることもできず渋々肯定した。

「正直、二人掛かりでも勝てると思えないんだよな」

「……困りましたね。私としても、ティーダさんの戦闘能力はすごく頼りにしているのですが」

 と、残念そうな表情でティーダを見やる。

「またそうやっておだてようとして」

 ティーダのジト目に、マシュは今度は笑顔で返した。

「ぃよっ! 最優のセイバー!」

「仕方ないなーほんともう今回だけだからな。

……ってなんねーよ!」

「あら、ダメでしたか」

 マシュは悪戯っぽくクスクス笑い「アリサさんに言ってもらうべきでした」と付け加える。

「い、いや、そそそんなんじゃねーから!」

 焦って声が大きくなったティーダに、マシュは口に人差し指を立てて静かにと諭す。辺りのゾンビは少なくなっていた。

「そろそろ進みましょう」

 

 ティーダは以前に承太郎とここへ来たルートを思い出しながら歩いた。

「この辺なんだけど……」

「もしかして、これですかね?」

 凹んだ一般乗用車の下を屈んで覗き込みながらマシュが指差す。目を凝らせば違和感に気づける、蜃気楼のように揺らめく空間。それに微妙な魔力の変容を感じて手を引っ込めた。ティーダはそれを見て「あっ」と声を上げた。

「これだ!

どう? まだ転移できそう?」

「ええ。魔力にほんの少しの乱れがあります。

しかし、これ程の隠蔽能力があるとは。

ティーダさんから情報を貰っていなければ私も罠に掛かっていたでしょう。キャスターの結界魔術にはほとほと驚かされます」

 マシュはやや頬を膨らませながらも評した。

「バーサーカーにしてもそのキャスターにしても、強すぎだよな」

「はい。なので、私たちは連携して各個撃破に当たりましょう」

「うん……」

 ティーダの頼りなさげな返答のあと、マシュは「それでは」と結界に手を伸ばす。が、ティーダが慌ててそれを制した。

「聞き忘れてたんだけどさ、バーサーカーの弱点とか分かったんだよな?

今のうちに教えて欲しいんだけど」

「ああ、そうでしたね」

「うんうん」

「分かりません」

「うんう……ん!?」

 ティーダの余りの動揺ぶりにマシュは誤魔化し笑いに目を背け「今は……まだ……」と付け加えた。

「どうやって戦うのさ!? まともに戦える相手じゃないんだって!」

「弱点が必ずある、というところまでは分かっています」

「……どういうこと?」

「バーサーカーが異様に強かったのは、物語による加護を受けていたからと予想できます。

英雄はいずれも、後世に残るような活躍をした人です。その活躍の再現である場合、通常からは考えられない力を発揮することがあります。これが加護です」

「ううん、つまり、ええと?」

「簡単にいうと条件付きの強者ということです」

「……なるほど。

でも、だからといって弱点があるかは分からないような……」

「今回に限っては必ずあるはずです。物語は、攻略されなければ紡がれないからです」

 ティーダはそれを聞いて、少し理解した気になって、完全に理解することは諦めた。

 

 ティーダは後になってから、これの真意を理解することになるのだが。

 

「分かった。信じるよ」

 ティーダは罠の結界に手を伸ばした。マシュはティーダの急な行動に少し驚いたようだが、彼の小さな意地っ張り……つまりは女性を先に戦場へやるのを避けたのだと分かり、微笑んで見送った。

 




タイトルはエンヤ婆です。(Q太郎)

次回更新は6/12(月)の朝7:00です。
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