カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第十一節.この物語はフィクションであり、実在の団体や人物とは…

 バーサーカーとの戦闘のあと、マシュたちは偶然にも基地に帰る承太郎と合流できた。辺りにエネミーの姿はない。

 

「それで、また同盟が増えたと」

 承太郎はティーダを肩で抱えているマルコを見て言った。

「ええ……はい。戦力的には申し分ないですよね?」

 そう答えるマシュも傷だらけで、ティーダに至ってはまるでボロ雑巾だ。ほぼ無傷でピンピンしてるマルコをもう一度見る。

「やれやれだぜ」

 

 物語の加護に関するマシュとティーダの予想は的中だった。が、廃ビルを脱出してもバーサーカーがいきなり消滅することもなく、ただ狂化状態を解除されただけだった。既に満身創痍だった彼女らは戦闘を続行するのは難しく……そういう意味ではマルコを仲間に引き込むのは致し方ないことだった。

 

「彼はテルミから狂化の呪いを受けて廃ビルに閉じ込められていたそうです」

「そうよ、オバケ使いのお兄さん。聞いてよ。

マルコは……テルミに騙されていたのよ。

これからはマルコはテルミをやっつけるために戦うよ!」

「……ああ」

 

 いずれは敵になることを思うとチームが大きくなりすぎるのも手放しに歓迎できるわけではない。テルミ陣営の戦力を削げるのはありがたいが、すぐにテルミを獲りに行くのも憚られた。アルターエゴの件である。

 

「して、承太郎さん。そちらはどうでしたか?」

 

 マシュは基地への道を歩きつつ承太郎に問う。承太郎はどこまで話したものかと少し悩んだ。

 

「英雄に会った。アサシン、ライダー……そしてクラス不明の一人」

「……! 三人も……

よくぞご無事で……!」

「誰も始末してはいないがな」

「ふむ。しかし、三人となると……」

マシュはパタパタ指を折りながらカウントを始める。

「分かっているだけでも九人、ですね」

「因みに英雄の人数が増えた場合、聖杯戦争のルールはどうなる?

六人斃せば聖杯を使えるのか、あるいは他の全員を斃す必要があるのか」

「うぅん、どうなるのでしょうね。魔力量の話だと六人を斃せば、という方が説得力ありそうですが」

「そうか……」

 

 承太郎はディオの話の真偽を聞ければと思ったが、マシュも所詮は必要な記憶のみを埋め込まれた立場であり、聖杯戦争の仕組みの詳細までは知らないらしい。

 

「ただ、少なくとも今のところ聖杯戦争の力を使って元の世界に戻れるのは一人だけという点に変わりはありません」

 マシュがそれを補足したのは、あくまで他の英雄に対する警戒を怠るなと伝えたかったからだ。承太郎はそれも含めて頷いて返事した。

 

「それと、もう一つ。

キャスターの野郎と少しだけ話をした」

 

 マシュは目を見開いて驚いた。

 

「テルミと……」

「ああ。

どうも、奴ですら手古摺る相手がいるらしい。

アルターエゴの英雄、とか言ってやがったかな」

「……!

アルターエゴ……! まさか……」

「アルターエゴってのはそんなに危険な奴なのか?」

「いいえ。本来、クラス自体に強弱はありません。

承太郎さん、私の方からも報告があります」

 

 マシュは英雄の影の出現とその意味について承太郎に話した。つまり、強大な英雄が召喚された可能性についてだ。

 

「キャスター・テルミの言質が信用できるとも思いませんが、そのアルターエゴが新たに召喚された英雄だとしたら筋は通りますね」

「……そうだな」

 

 そのテルミ曰く、マシュがアルターエゴらしいが。尤も、マシュの立場からするとシールダーを騙る意味は全くないはずだからして、承太郎からするとテルミの見当違いとしか思えなかったが。

 

「テルミの野郎はアルターエゴを真っ先に殺るつもりらしいぜ。停戦協定も持ちかけられた」

「なんと。彼が」

「ああ。一応、受け入れておいた」

「分かりました。では、私たちとしては当面様子を見る方針ですね」

「リーダーを差し置いて勝手に決めてすまんな」

「いえ。寧ろ事がうまく運びそうです。

まあ、私はリーダーではありませんが……」

「それから、一つ簡単な協力を頼まれてな。これは、マルコとティーダも聞いてくれ」

「……?」

 

 後方を歩いていた二人を待ち、承太郎は帽子をクンと上げた。

 

「アルターエゴらしき英雄がいたら、こう伝えて欲しい。

“お前の歪んだ欲望を頂戴する”と」

「それは……?」

「アルターエゴの正体を探るのに必要らしい」

 

 このセンテンス自体に魔術的な意味がある。膨大な情報の海に石を投げ込み反響の探るソナーような役目なのだろう。それはマシュもすぐに分かったが、それでも大きな瞳をぱちくりさせて承太郎を見た。

 

「正体……」

 

 承太郎はマシュがそうポツリと呟くのを見て、マシュにとってはアルターエゴが存在を隠していることなど知る由もない、という事実を思い出した。そもそもそれ自体テルミの予想でしかない。

 

「いや、正体じゃあなく弱点……だったかな」

 

 承太郎は慌てて言い直したが、マシュは素直に頷き、他の二人もそれぞれの返事をした。

 

「了解です。それらしい英雄がいたら言ってみます」

「分かった」

「マルコも、ほぼ……九厘くらいは理解したよ」

「九割理解したみたいに言うな」

 

 とりあえずマコトに依頼されていた任務はこれで終わりのはずだ。もしもテルミの予想通りマシュがアルターエゴだったならすでに伝わったことになるからだ。

 

「歩きがてら、聞きたいことがある。

 サーヴァント……てのを知ってるか?」

 

 サーヴァント。その名は最初にディオから聞き、その後テルミやマコトの口からも出てきた単語だ。前後の文脈から言って十中八九“英雄”のことなのだろう。

 

「えっ。はい。サーヴァントは英雄の別名です」

「……なるほど」

「他には“天秤の護り手”などとも呼ばれることがあるそうですよ」

 

 承太郎は聖杯戦争に関する記憶を一切有していなかった。そこでホイホイ新しい単語を出されても混乱するだけだろうし、呼び名など大して重要ではない。

 しかし、承太郎はテルミに諭されたことを思い出していた。名前には意味があるということを。

 

「天秤とは?」

「えっと……すみません。そこまでは……」

 

 これ以上問い詰めるのも野暮ったいと感じつつも、承太郎は気になって仕方がなかった。彼は一度心に引っかかりを覚えると悶々として夜も眠れないタチであった。

 

 なので、これが最後と思いながらも質問を続けた。

 

「サーヴァントというのは、確か“使い魔”って意味だったな。対になるヤツはいるのか? 例えば、そうだな……“主人(マスター)”とかな」

「……」

「……?」

 

 マシュは沈黙したままニ、三歩だけ歩き、やがて……ゆっくりと足を止めた。

 

「……ん?

 どうした?」

 

 承太郎も釣られて立ち止まる。後方の二人もだ。表情を長い前髪に隠すマシュは、僅かに肩を震わせている。

 

「せ……」

 

 喉の奥から絞り出したような、消え入りそうな声を発したかと思うと、マシュはそのあとの言葉を続けることなく、崩れ落ちるように膝を地に突いた。

 

「どうしたのさ?」

 

 ティーダが心配そうに尋ねるが、マシュは一言も発することなく蹲っている。先の闘いの傷が痛み出したのかとも思ったが、どうも様子がおかしい。

 

「大丈夫か?」

「マシュ姉ちゃん、具合悪いか?」

 

 承太郎の声にも反応しない。

 マルコの声にもだ。

 マシュは途切れ途切れの不規則な吐息を漏らす。両腕で自らの肩を抱きながら震えて。必死に恐怖に耐える子供のように、或いは凍えているようにも見える。

 

「……! まさか……」

 

 ただごとではないと感じた承太郎が次に思ったのは、これは何者かによる呪術か何かの遠隔攻撃では、という疑念だった。実際のところマシュの魔術耐性は承太郎が思うよりずっと高かったが、とにかくこうも弱られると案ずるも仕方ないことであった。

 

「おいッ! マシュ!」

 

 呼びかけ、承太郎が駆け寄る。そして、彼の手がマシュの肩に触れようとした瞬間ーー

 

「触らないでッ!!」

「ーーッ!」

 

 喉を枯らしたマシュの叫び。悲鳴のように音が割れたその声が意味の通る言語として聞こえたかは分からないが、承太郎は手を引っ込めた。

 

「すまん。無事ならいいんだが」

 

 マシュは「はっ」と我に返ったように顔を上げる。

 

「い、いえ……こちらこそ……すみ、ま…せん…急に……」

 

 肩で息をしながら「大丈夫です」と途切れ途切れに宣うマシュだが、到底“大丈夫”とは思えなかった。額にはじっとり汗が浮かび、目の焦点は定まらず、瞳孔は開き切っている。

 承太郎の世界なら救急車にお世話になるところだ。

 

「本当に何もないのか?」

「……はい……

ただの、立ち眩みです……」

「ここらで休めないかな? オレもちょっと……てゆーかかなり脚痛いんだけどさ」

 

 ティーダが言い訳して休ませようとするが、マシュは首を横に振った。

 

「エネミーが集まってくる可能性があります。ゆっくりでも歩き続けましょう」

「……うん」

 

 マシュは胸を片手で押さえながら歩き始めて、それから一つ深呼吸。首だけで承太郎に向いた。

 

「先ほどの問いですが……」

 

 承太郎はそう言われて思い出した。マシュのあまりの病的な発作を目の当たりにしたせいで頭から抜けていた、“サーヴァント”という名称についての質問だ。

 

「その才能がある者は、英雄……サーヴァントを召喚することも可能だそうです」

 

 つまりは、サーヴァントには出現方法が二通りある。

 一つは何者かが召喚する場合。

 もう一つは、恐らく自分達のように、聖杯戦争の駒としてランダムに喚ばれる場合。

 

 承太郎は次なる疑問が生じたが、口をつぐんで頷いた。

 

「どうでもいいことに付き合わせて悪いな。だが感謝してるぜ」

 

 いつもは説明の長いマシュだが、さすがに今回ばかりは補足もないようだ。視線を承太郎から外し、上の空で歩き続ける。

 

「ところで……あのアーチャーはどうした? 確か、アリサとかいったかな」

 

 反応が鈍いマシュの代わりに、後ろからティーダが答える。

 

「アリサは基地で待ってる。怪我もしてたからさ、休んでもらってたんだ」

「……」

 

 テルミとマコトの会話を聞くに、マシュたちの隠れ家の場所はすでに割れている。テルミとは停戦状態ではあるものの、テルミが情報を流したというランサーとやらはどの陣営にも属していない口ぶりだったから、停戦の話も当然ない。

 

「さて、どうなるかな……」

 

 運が悪ければアリサはランサーとばったり会うこともあろう。尤も、ランサーの狙いもアルターエゴであるはずだから、戦闘は起こらないと承太郎は予想していたが。

 

「焦らずに聞いてくれ」

 

 承太郎はそう前置きして歩く三人を引き止めた。

 

「実はーー」

 

 ティーダに発信機のようなものが付けられていること。それによって隠れ家の場所をテルミ側に知られたこと。その事実を伝えようとした瞬間。

 

「グオオオオオオオオオォォッ!」

 

 大地を揺るがす極大の咆哮。そして雪崩のような鈍い轟音。音源との距離は遠いが、それでも大気が震えるのがはっきり感じられるほどの音量だ。

 

「……!」

「なっ、何なんだよ急にっ!」

「高出力の魔力反応……! 神獣クラスのエネミーの顕現です!」

 

 このテの咆哮がトラウマになったか、マシュとティーダは一層のこと慌てふためいた。

 

「あっ!? み、みんな! アレを見て!」

 

 マルコが遠くを指差し叫んだ。

 暗い霧に覆われた山の麓。そこに揺らめく、途方もなく巨大なシルエット。ひと凪ぎで嵐が起こりそうな広い翼、威容な四肢、獣のような貌、立ち並ぶ牙。赤く輝く蛇の瞳孔は濃い霧の中でも圧倒的なオーラを放っている。

 

「あれは……ドラゴンです」

 

 ドラゴンが顕現したのは、此処からは遠い。しかし、マシュたちの拠点の方角だ。

 

 

 




次回更新は6/19(月)13:00です。
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