カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

22 / 42
第十二節.僕と契約してサーヴァントになってよ!

 時は遡り、マシュたちとバーサーカー・マルコの戦闘の開幕前。

 

 マシュたちの拠点。

 地下鉄施設の部屋を改装して仕立てた隠れ家で。

 

 ティーダたちに置いて行かれてぐっすりフテ寝していたアリサは、不意にぱちりと目を開けた。

 

「……」

 

 そのままスッと上体を起こし、真剣な眼差しで部屋の角を見つめる。

 

 誰かが近づいて来る。

 

 最短ルートでこの隠れ家の方へ、迷うことなく、一定のリズムで。

 

 人数は?

 一人。

 

 男?女?

 恐らく女。

 

 身体的な特徴は?

 低身長で体重は軽い。

 

 他に情報は?

 時折足音に混じっている硬い音は、床を金属で叩く音――長い得物を持っている。

 そして、彼女との距離はおよそ百五十メートル。

 

 マシュでも承太郎でもティーダでもない。新たな英雄だ。

 

 アリサはソファの横に置いていた弓を手に取り、ゆっくりと隠れ家を出た。

 

 地下は天井の亀裂や穴から地上の光が入っているくらいで、常人なら目を凝らしても歩けないほど暗い。夜目の利くアリサは、静かに素早く跳躍して柱の陰に身を隠した。

 

 件の英雄は足音を殺して近づいてくるが、時折得物で床を引き摺り音を立てているため、位置まで丸わかりだ。それどころか何かを食べながら歩いているようで、咀嚼する音まで聞こえてくる始末。隠密のつもりなのかそうではないのか、どっちつかずだ。

 尤も、アリサでなければそう察知されるものでもないが。

 

 どこか真剣さや集中力を欠く様子に、アリサはきっと彼女は子供なのだ、と思った。

 

 

「止まって下さい!」

 

 英雄との距離十数メートル、柱の陰越しにアリサが叫ぶと、その英雄は足を止める。

 

「お。マジで居やがった。意外」

 

 声を発した英雄は、やはりアリサが予想した通りの子供だ。トーンは低めで言葉遣いも荒いが、声質は幼い。アリサはさりげなく柱から少しだけ顔を出して英雄の姿を確認する。

 深く沈んだルビーの瞳、同色のポニーテール。全体的に真紅の色合いで纏まったドレスで小さな身体を包む。そして肩に掛ける刃の大きな槍。

 まだ十代前半かといったところだが、その立ち振る舞いは自信に溢れている。命を狩ることにも、命を狙われることにも慣れている――そんな佇まいだ。

 

「偶然通り掛かっただけなら……迂回して下さい!

ここは私たちの場所です!」

 

 少女の通った道筋から考えると間違いなくこの隠れ家を目指していたのだろうが、アリサはそれでも警告した。

 少女はというと、敵に出会ったというのに食事をやめず、なんと鯛焼きを頬張りながら話す。

 

「マシュってヤツに用事があんだけど、アンタ?」

 

「違います。けど、マシュさんに何の用ですかっ?」

「さぁ……多分殺すかな」

「っ……

どうしてマシュさんを狙うんですか」

 

 英雄同士は争う運命にあるというのは分かっていたが、名指しでとなると当然の疑問だ。

 

「教えてやってもいいんだが、先にこっちの質問に答えてもらうぜ?」

 

 アリサは押し黙ったが、その英雄は勝手に口上を続ける。

 

「そのマシュっての、どこにいるんだ?」

「絶対言いません」

「悪いようにはしないって。ソイツ殺したら、代わりにアタシが仲間になってやるよ。どう転んでもアンタに損はないだろ?」

「平気で人を殺すなんて言う人はお断りです!

それに……マシュさんは友達なんです!」

 

 相対する少女は、一呼吸分フリーズしたと思うと、

 

「はぁあ……?」

 

 溜息が混じった声で聞き返す。

 

「さてはアンタだな?

人をイラつかせる術を使うアーチャーってのは」

「えぇ~。ち、違います」

「アーチャーじゃないのか?」

「いえ……アーチャーですけど……」

「やっぱりそーじゃん。アタシはランサー、佐倉杏子」

「……アリサです」

 

 自己紹介を終えると、杏子は少女ならざる凶悪な笑みを口元に浮かべる。

 

「……で?」

「……?」

「マシュってやつが何処に隠れてるのか。

言うか、それとも、言わされるか。選んでいいぜ」

「……!」

 

 鋭い殺気に、アリサは思わず柱の陰に引っ込んだ。目の前の相手は“まだ子供の英雄”ではない。子供にも関わらず英雄に選ばれたほどの傑物なのだ。

 

「脅されても、言う気はありません。

マシュさんを傷つけるつもりなら……私が相手になります!」

「……ふーん」

 

 杏子は鯛焼きの尻尾の一欠片をヒョイと口の中に放り込むと、硬いものでも噛みちぎるようにミシッと音を立てて咀嚼した。

 

「だったら早く撃ってこいよ、アーチャー」

 

 肩に掛けていた槍を片手で器用に回しながら言う。アリサは、杏子の怒りを含む声色を訝しんだ。それが挑発ではないと分かったからだ。

 

「来ないなら……こっちから行くぜっ!」

 

 ランサー、杏子の突進。飛び道具を持つ相手に一直線に向かってくるだけあって、かなりの速度と加速力だ。アリサが矢をつがえるよりも早く、十数メートルの距離から肉薄する。

 アリサは柱を盾に攻撃をやり過ごそうとするが、

 

「――!」

 

 その柱は杏子の大槍によって貫き砕かれる。ただの一撃……踏み込みからの突きだけで、地下鉄を支える屋台骨である頑丈で太い柱が破片を撒き散らしながら崩壊したのだ。

 あと数センチ横にズレていたらアリサの身体も五体繋がっていなかっただろう。

 その鋭く重い攻撃に戦慄しながらも、アリサは飛び退きつつ一矢放つ。しかしそれはいとも簡単に槍の柄に弾かれた。

 

「あぁ? 何だこのみっともない攻撃は?」

 

 威力もスピードも比べものにならない。杏子の嘲弄も当然である。

 アリサはさらに奥へと入り込み、灯りの為に置いていたランプを撃ち抜いた。辺りはさらに濃い暗黒に包まれる。

 

「……あっ、そーいう系か。実はアンタ、アサシンだな?」

「違いますっ!」

「そこかっ!」

 

 杏子の次なる攻撃もまた空を切った。それも際どいところでアリサの美顔を貫きかけたのだが、杏子も暗闇を警戒していたようで踏み込みが一歩だけ足りなかった。

 

「ふっ!」

 

 闇のヴェールに身を隠し接敵するアリサは、下斜めから蹴りの攻撃。杏子は膝でそれをブロックするも後方に弾き飛ばされた。この接近戦でもお互いにダメージはなさそうだ。

 

 次いで放たれていたアリサの矢も、やはり杏子は難なく槍柄で弾き返した。蹴りとほぼ同時に暗闇の中から射撃されたにも関わらず、危なげなく防いだのだ。

 

 アリサは思った。

 賽の出目が悪ければ既に二度死んでいる。戦闘能力には大きな差があり、それは暗闇程度のアドバンテージで覆るものではない、と。

 有効打に繋げる為には相手に大きな隙が要る。それを暗闇とアリサの体術で作るのは無理だ。

 

 格上相手に活路を見出すなら、勝負の場を荒らす必要がある。手成りに進めはしない。

 だがどうやって?

 

 アリサの思考がまとまる前に杏子も次の攻撃に出る。十メートル近くの距離から槍を振りかぶる杏子を見てアリサは身構えた。突進の加速力は先程見せてもらった。だから、軌道を見切りやすい刺突ならカウンターに打って出ることもできるかも。

 

「そらよっ!」

 

 しかし、飛んできたのは槍のみ。

 投擲?

 否。分解された幾つもの柄とその内部に仕込まれた鎖を見た時アリサは理解した。杏子の武器は正確には槍ではない。多節棍のギミックを搭載した変則武器なのだ。しかも魔術により物質補強された鎖は伸縮自在。ランサーとは思えぬ射程を持つ。

 

 飛来する刃に、アリサは柱を蹴って右に逃れる。突進よりも技の動作が大ぶりなのが幸いし、辛うじてヒットならず。しかし杏子が鞭のように武器を振るうと、槍頭がアリサを追尾するように曲がる。アリサは杏子の手捌きの精妙さに舌を巻いたが、それをスライディングで躱した。槍は、地面を穿っただけだ。

 

 アリサの回避はいつもギリギリだが、杏子の遠隔攻撃は接近戦と比べて見切りやすい。杏子の手元と攻撃タイミングのラグが大きいからだ。尤も、生き物のように動き回る槍頭を読むのは至難のわざ。当たれば即死の威力を持つランサーの攻撃であれば尚更だ。

 

「……チッ!」

 

 杏子は舌を鳴らした。

 接近できれば勝負を簡単に決められるだろうが、その隙がない。アリサは闇から影へ、影から闇へと常に移動している。視界に捉えることすら難しいのだ。

 

「しゃーねえ。あんまり、派手にかますつもりはなかったんが」

 

 杏子がパン!と手を軽く合わせると、そこら中に薄い紅色の光が立ち昇る。

 

「わっ……綺麗……」

「言ってる場合じゃないぜっ」

 

 そして光から突如現れた魔法の槍が、四方八方からアリサに襲い掛かる。

 

「ひえぇっ!?」

 

 頓狂な声を上げるアリサだが、光に宿る魔力から攻撃魔法であることを読んでいた。これも、曲芸ばりの体のしなりでやり過ごす。

 

「実はあなた、キャスターですね!?」

「そーそー。魔法少女」

 

 杏子は歴としたランサーだが、魔法使いを自称するだけの威力はある。コンクリートの壁や天井を軽々貫通する光の槍もまた当たれば必殺級だ。

 ただ、術を行使するのにそれなりの集中力を要するらしく、テルミのように魔法と本体で同時攻撃……とまでは出来ないようだ。

 

 であれば、魔法の狙いは光源効果でも槍の連続攻撃でもない。

 

「まさか……」

 

 アリサを狙った数々の槍はその一つもヒットしなかったが、しかしその場に留まり続けている。拒馬のバリケードのように、あるいは、無数の棘で侵入者を阻む荊のように。

 

 嫌でも理解した。杏子はアリサの逃げ場を奪う算段なのだ。

 

 ならば、とアリサが取った行動は。

 

「……!

そっちに逃げるのは最後だと思ったんだけどな」

 

 アリサが向かったのは、地上への登り階段。自ら暗闇の優位を捨てる決断だ。

 

 

 




次回更新は6/20(火)の13時予定です。
22日はFF16の発売日、21日はFGO更新(勝手な予想)なので

~以降ステマ~
佐倉杏子は可愛い系鬱アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」に登場するキャラクター、4人の魔法少女の一人です。

通称「まどマギ」と呼ばれる本作は、ゆる可愛いキャラデザにダークな脚本で当時の話題をかっさらった覇権アニメ。後半は容赦なく心を折りに来る展開の連続なので、覚悟されたし。

ちなみに、まどマギは劇場版もかなり評価が高いです。少し雰囲気が違いますが、戦闘シーンがすごくかっこよく、サウンドも最高でした!
あれはあれで完結していると思っていましたが、10周年記念で劇場版が新たに制作されるみたいですよ!最近音沙汰ないけど…

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。