カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第十三節.今にも落ちてきそう(物理)な月の下で-2

 月。

 

 焼かれた大地を青白い光で照らす月。

 

 炎煙立ち昇り、塵埃舞う冬木の夜空にとっぷり浮かぶ月。

 

 月と云えば……

 

 美しい。

 神々しい白と闇夜のコントラスト。なるほど、美しい。

 

 まんまるい。

 欠けたることもなし。もちろん、世界一まあるいさ。

 

 神秘的。

 古人曰く、月は人の心を惑わす力があるそうな。試してみる?

 

 大きな、とても大きな月。

 ……大きい?

 

 ……いやあ、それは違う。

 月は月だ。

 大きな月もなければ、小さな月もない。

 

 それでも、やはり大きく見えるって?

 それはそうだ。

 

 その、つまりは……ちょっとだけ近いのさ。

 

 地球に。

 

 

 


 

 

 

 

 オ オデは… 食う…

 ぜ ぜんぶ… 食う…

 

 

 

 


 

 

 人面が彫られた薄気味悪い月が現れたのは二日前。ちょうど、杏子とアリサがドラゴンを討伐した後だった。

 

 冬木上空に突如現れた月はその姿もさることながら、喋り始めるものだから、一行の仰天ぶりたるや。

 

 しかし初見よりも驚愕したのがその次の日。この冬木に居るサーヴァントたちはそれが何の為にあるのか否が応でも分かった。

 

 この地に迫っている。昨日よりも少し。一時間前よりほんの少し。しかし確実に。

 

 

「……もってあと一日といったところです。

あと一日で、月が冬木に衝突します」

 

 秘密基地に戻ったマシュたちは暗澹たる面持ちで現状を確認した。謎の人面月はサーヴァントによる魔術であり、何者かが他サーヴァントを一掃せんと放った切り札だ。

 その対抗策は本体を斃すことのみ。そうすれば月の魔術は消滅するはずだ。

 

 しかしながら、その“何者か”が「私の仕業です」と姿を現すはずもなく、この広い冬木でたった一基のサーヴァントを見つけ出すのはつまるところ……不可能なのだ。

 

「こんなの、ズルすぎじゃん……」

 

 ティーダがぼやいた。この二日間、敵の捜索は露ほどの成果も得られなかったわけだから、愚痴るのも無理はない。

 

「外ではエネミーたちの動きも活発になっています。恐らく、敵術者の能力です」

「でも、こーしちゃいられねーよ! 何でもいいから何とかしないと!」

「マルコも走り回って怪しいやつ見つけるよ! お月様は怖いけど……」

「しかし敵の姿も知らんとなるとな」

 

 承太郎の言葉を最後に、四人とも沈黙して視線を落とす。エネミーたちが氾濫する今、動くぶん危険が増すだけだ。

 それに承太郎には考えがあった。

 というのは……

 

「……邪魔するぜぇー」

 

 と、一言のあと無遠慮に引き戸がバシンと音を立てて開かれる。会う回数は少なくても印象深い、不遜で傲慢な声色。

 

「……!」

 

 突然の訪問者にティーダとマルコは戦闘態勢をとり、マシュは大盾を顕現させる。承太郎だけが警戒を解いていた。

 

「テルミ……来たか」

「やっほージョータローちゃん。元気してた?」

 

 敵地のど真ん中だというのに、テルミは臆面もなくズカズカと部屋内に入ってくる。そんなテルミを、マルコとティーダは今にも襲い掛かりそうな形相でテルミを睨んだ。承太郎から予め話を聞いていなければすぐにでも攻撃していただろう。

 

「無駄話している暇はありません。早速本題に入ってください」

 

 マシュがそう急かすのは、もちろん例の月の対応についてだ。

 

 秘密基地の場所がテルミ側に露見していたにも関わらず移住しなかったのは、テルミからコンタクトがあるかもしれないと思ってのことだったのだ。

 

「承知の上だと思うが、俺たちには何の策もないぜ」

 

 承太郎の報告を聞くと、テルミは益々嬉しそうに口端を歪める。

 

「オーケー、オーケー。ま、ホントは俺様独りでヨユーでどうにでもできるんだが。雑魚だからってサボるのは不平等だと思って仕事持ってきてやったってワケよ」

 

 テルミの見下した言い分にティーダは眉間にシワを寄せる。

 

「実はアンタがあの月を出したんじゃねーの?」

「ティーダさん、それはありません。魔力の質が違いすぎます。それに……」

「オレがやったんならワザワザここには来ねえだろボケ」

 

 マシュの解説にテルミが付け加える。怒りに任せて噛み付いただけのティーダはすごすごと引き下がった。

 

「それで、キャスター・テルミ。あなたの考えを聞きたいです。分かっていると思いますが、月はただの質量の塊で、アレを操る本体は別に存在します。攻略の糸口はそこにあるかと」

 

 しかし、本体と月の魔力的な繋がりは既になく、これを辿って本体を探すのは如何にキャスターであろうとも無理……というのがマシュの見解だ。

 

「ああ、そうだな。だからヤツには、自分から出てきてもらう」

「……! で、でもマルコたちは……犯人の好きなオヤツも知らない状況なのよ……!」

 

 と、マルコは悔しそうに机を叩く。

 

「うっせぇ! 誰が食いモンで釣るっつったよ!」

「……で、どうするつもりだ?」

 

 承太郎に促され、テルミは気を取り直してフードの頭巾を外した。

 

「まずは、この俺様が」

 

 テルミがゆらりと右手を持ち上げる。黒緑のオーラが対流し、空間を喰らっているように光を捻じ曲げながらテルミの掌に集まった。テルミがそれを握り潰すと、闇の光が爆ぜて辺りが一段暗くなる。

 

「あの月をぶっ壊す」

「……!?」

「はぁっ!?」

「何だと」

 

 驚く承太郎たちを見て、テルミは満足げに笑う。

 

「本当にそんなことが可能なのですか……?」

 

 マシュが懐疑的な態度なのもそのはず。それほどの魔力を行使できるようなら、月が落ちるその前にテルミが冬木を、そして他のサーヴァントたち全員を滅ぼすこともできるはずなのだ。

 

「できるぜ。だが、実際には月は壊れねー。アレが奴の最後の手段だからだ」

「……! なるほど!」

 

 テルミの逆説的な説明にマシュは合点がいったようで、感嘆に声のトーンが高まる。

 続いて承太郎も納得した様子だ。

 

「何となく分かったぜ。月が壊れそうになると……実際に壊せなかったとしてもだ。奴は動かざるを得ないってことだな」

「はい。月を壊せなくても、ハッタリだけで効果はあります」

「……壊せるっつてんだろオイ」

 

 テルミの小さな反論を無視してティーダが手を挙げる。

 

「よくわかんねーけど……オレたちは何すればいいのさ」

「お前らは……」

 

 笑顔で指示を話そうとするテルミに、被せ気味にマシュが答える。

 

「霊脈で待ちます。敵は攻撃された月を修復しようと魔力を求めるはずです」

「確か、寺、森の教会、郊外の城だったな」

「……」

 

 承太郎とマシュに勝手に進められたことが気に入らないのか、テルミは白けた表情でフードをもそもそと被り直す。

 

「んじゃ、場所の担当決めてさっさと行って来な」

「でも、犯人の見分けはつくか?」

 

 と、マルコが慌てて質問する。

 

「霊脈から魔力を吸い上げるのは大仕事ですから……」

 

 それらしい挙動の見分けはつくはず。マシュの答えはそんなところだったが、今度はテルミがそれを遮って答えた。

 

「おかっぱ頭のライダースーツ。仮面を被った女だ」

「……!」

 

 マシュやティーダは短く頷いただけだったが、その容姿に覚えがある承太郎は驚いてテルミの方を向いた。

 

「……確か新島……だったかな。敵はアルターエゴだと思っていたが」

「いんや、そーじゃなくてねェ。ありていに言うと、マコっちゃんは意識を乗っ取られたって感じだ」

 

 それを聞いたマシュたちも瞠目する。

 

「サーヴァントを乗っ取るなんて……」

「マジでズルし過ぎだろ……」

「犯人は……妖怪……妖怪のしわざ……」

 

 承太郎は以前テルミが予想していたことを思い出していた。アルターエゴは心を操る術を使う、と。

 

「厄介そうだな。俺たちも二の舞にならんよう気をつけたいところだ。何か対策はないのか?」

 

 テルミが肩をすくめて見せると、マシュが一歩前に出る。

 

「皆さんに対魔力の防護結界を張っておきます。それなりの効果は望めるはずです」

 

 テルミは結界を付与するマシュをぼーっと見ていたが、それに見飽きたか、背を向けて、思い出したように喋った。

 

「あ~、そうそう。言い忘れてたけど、マコっちゃんが着けてる仮面……それが本体サーヴァントだ」

「仮面がサーヴァントなのか」

 

 テルミは振り返りもせず去り際に、捨て台詞のように吐いて言った。

 

「ま、こーなっちゃしゃーねぇな。マコっちゃんごと殺ってくれや」

 

 

 




次回更新は6/29(木)の13時予定です。
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