カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第十三節.今にも落ちてきそう(物理)な月の下で-4

「ティーダ! いっかい落ち着くよ!」

 

 マルコが叫ぶも、ティーダは聞く耳持たずディオに向かって走る。

 が、虚を突いた一撃目とは違い、傍から見て無策な特攻であった。

 

「フン。まるで猛り狂った牛だな」

 

 ティーダは眼前のディオしか目に入らない。その足をディオのザ・ワールドがローキックで軽く捌いた。バランスを崩したティーダは出端を挫かれ、攻撃は不発に終わった……かと思いきや、逆に思い切り倒れ込みながら剣を振るう。

 

「うらあっ!」

「……!」

 

 その執念に少し驚きつつも、ディオはその斬撃を平手でいなした。同時に横目でマルコの様子を確認したが、マルコに動きはない。ディオは彼に、接近を我慢しているという印象を受けた。

 

「まさか……」

 

 ディオは敢えてティーダへの反撃チャンスを放棄し、大きく距離を取った。すると、今度はマルコが示し合わせたように追って来る。つまり彼らは(少なくともマルコは)二人同時にザ・ワールドの射程に捕らえられないようにしているのだ。

 

「なるほど。だが、涙ぐましい努力よ」

 

 この動きはザ・ワールドの時間停止の対策であろうとディオは踏んだ。

 事実、彼らはディオの情報を承太郎から得ていた。そこには承太郎の幾つかの予想も含まれている。ディオとて連続して時を止められない、そして恐らく不調から長い時間停止はそう乱発できないということ。

 そしてその予想は大方的中していた。

 

「蹴る!」

「無駄ァ!」

 

 マルコの膝とザ・ワールドの拳がかち合う。技の動作が大ぶりなマルコに比べ、ザ・ワールドは軽めのストレート・パンチだ。ディオはすぐに第二撃を放つ。が、マルコは体を捻ってそれを回避。同時に、腰のバネで再び回し蹴りを繰り出す。

 

「ぬうッ!?」

 

 ディオは本体で蹴りを防御しつつ、跳躍してマルコの射程から脱する。

 

「着弾予測……いや、攻撃を誘導したか。このディオの攻撃を……」

 

 攻撃ターンが巡り、体勢を立て直したティーダがすぐさまディオに突っ込む。これもまた芸のない突貫であった。ザ・ワールドの素早いジャブが後の先を取り、ティーダの腹を抉る。ティーダは何とか倒れずに持ち堪え、反撃に打って出ようとするが、ディオの連撃がその速度を上回る。ザ・ワールドの横蹴りが見事にヒットし、ティーダはきりもみして吹き飛んだ。

 

「……!」

 

 またしても……ティーダは一矢報いていた。蹴りを放ったディオの脚からだらりと血が伝う。尤も、ディオにとってはダメージには入らない。これでは肉を切らせて皮を断つ。圧倒的に不利なダメージ交換だ。

 立ち替わり、マルコが攻める。

 背後からの攻撃に対し、さしものディオも防御の姿勢だ。対するマルコの中段蹴りはヒットの直前に軌道を変え、ディオの頭部を打つ。ハンマーでフルスイングをぶち当てられたような衝撃に、ディオはぐらりと横に揺れた。

 しかしマルコのフェイントは蹴りの威力を大きく減衰する。耐久力のあるディオを斃すに至らなかった。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

 切り返すディオの突きの連打。マルコは器用に避ける、受け流す、ブロックと使い分けて凌ぐ。さらに前に出るディオから、マルコは逃げて間を隔てた。

 ザ・ワールドの射程から大きく離れたマルコを、ディオが睥睨し嗤う。

 

「どうやらこのディオの能力について少しは理解しているようだが、何の対策にもなっていないな」

「……」

 

 確かに、マルコは時間停止の対策を理解していなかった。連続して時を止められない、その事実が活きるのは“二度目の時間停止を許さぬ攻め”だ。マルコはただ単に“二人同時に射程内に捕らえられない”という戦略を実行しているだけに過ぎないのだ。

 

「マルコは……敵の言うこと聞かない。お前、きっとマルコを騙そうとしているよ」

 

 マルコが頬に流れる血を拭う間に、ディオの頭部へのダメージは治癒していた。

 

「人間とは憐れなものだな。

そもそも時を止めるまでもないが……貴様らの戦略がどれだけ無駄なものか教えてやろう」

「!」

 

 ディオはせせら笑い、スタンドを顕現させた。心なしか、最初に見た時よりも色濃く力強く見える。いや、気のせいではない。ディオは確かに本来の力を取り戻しつつあった。

 そしてディオが地を蹴って向かった先はティーダ。漸く瓦礫を押し除けて立ちあがろうとするセイバーの方へだ。

 

「あっ! ティーダ、逃げてっ!」

「……!」

 

 包囲網は片割れを失うと機能しない。より弱い方を叩けば簡単に瓦解してしまうのだ。今ティーダがディオの猛攻を受ければひとたまりもないであろう。

 マルコはディオを止めようと走った。

 

「実に簡単だったぞッ! 貴様ら二人を同時に始末するのはなッ!

ザ・ワールドッ! 時よ止まれィ!」

 

 ザ・ワールドがその能力を解き放つと、二人――否、この宇宙の全てが静止した。

 ティーダへと疾駆していたディオは、反転してマルコへと接近する。

 

「まずは貴様からだッ!」

 

 ディオの攻撃を予感していたのか、マルコは身を固める姿勢だったが関係ない。ザ・ワールドのハイ・キックがマルコを薙ぎ払う。時が動き始めるまではダメージすらも認識できないが、ザ・ワールドのスタンドパワーであればクリーンヒットは一撃で充分だ。ディオは再びティーダへと向き直った。その距離はスタンドの射程外だ。

 

「やはり取るに足らぬ人間どもの浅知恵など無駄だったぞッ!」

 

 ティーダの視界の外から、ディオは懐から取り出したナイフを投げる。それはティーダの首筋数センチのところでピタリと静止した。

 時が再始動すれば、ナイフがティーダの頸動脈を深く抉る。攻撃を認識すら出来ないティーダには、これを避ける術はない。

 

「フフ。終わったな」

 

 ディオは勝利を確信し――少なくとも彼の中では――死の運命が定まったティーダから目を離そうとした。しかしその時、止まった時の中を何かが動くのを見た。

 

「――!?」

 

 芋虫の歩行より鈍く動いたのは、ティーダの瞳。姿勢は微動だにせず青い瞳だけが滑り、ディオを見据えた……ように見えた。が、ディオがティーダをしかと確認したとき、既にティーダの視線は元の位置に戻っていた。

 

「こいつ……動いたのかッ!? 止まった時の中をッ!」

 

 狐にでも化かされたか、しかしそれを思考する暇もなく、時が動き始めた。ディオの時間停止能力の時間切れだ。

 

「うおおおっ!」

 

 ティーダは、決して認識出来ないはずのナイフ攻撃を避けた。それはティーダの首を掠めて皮膚を裂いたものの、文字通り、首の皮一枚繋がっている。

 

「このディオの攻撃を躱しただと……だがどうやって……ハッ!」

「遅えっ!」

 

 ティーダの急接近からの袈裟斬り。思いも寄らぬ誤算にディオが不覚を取ったのも事実だが、ティーダの攻撃もまた慮外の速度であった。

 

「がはッ」

 

 ディオの半身が綺麗に分断される。滑り落ちる上半身を抱くように支えながら、ディオは理解した。

 映画を早送りしたように、一挙手一投足が単純に速いティーダは、つまり、

 

「時が……加速しているだとッ!? バカな、まさか……!」

 

 ティーダの第二撃、水平に振り抜いた剣がディオをさらに断ち切る。ディオの両腕がボトリと地に落ちた。二度にわたり致死の攻撃を受けたディオは反撃すら出来ず、ゆっくりと顔を上げただけだ。

 が――

 

「!?」

 

 嗤っている。

 まるで、全てが上手くいった、計画通りだと言わんばかりに、不敵に。

 

 突如、ティーダは息もできぬ苦しみに襲われ、呻いた。

 

「あぐっ!? ぁう……」

 

 何者かに首根っこを掴まれている。気道を握り潰さんばかりの、途轍もない力で。

 見るに、その腕はディオの……いや、切断された筈の腕だけが、ティーダの喉を捕まえていた。

 

「フフフ。そうだ、それでいい。

貴様ら英雄は……このディオに利用されるために、この世界に喚ばれたのだからなッ!

フフフ、フハハハハハハハッ!」

 

 直後、教会の屋根が崩れ落ち、燃え盛る木材石材がディオの頭上に降り注いだ。如何に不死身の肉体といえど耐えられない重量。

 肉が潰れ骨がひしゃげる音の後、彼方此方の床が抜けて教会全体が崩れていく。いつの間にか、ティーダを首を握っていた腕も剥がれていた。

 

 ディオの最期のセリフが何を意味するのかはティーダには分からなかった。

 それに、今は考える時間もなさそうだ。

 

 縦に横にと揺れる床に足をもつれさせながらも、マルコの姿を探す。燃える家具の残骸の中にマルコを見つけたティーダは急いで駆け寄った。

 

「戦いは終わった。早くここからでないと」

 

 ディオの一撃を受けて瀕死の重傷となったマルコを肩に抱え、教会を出る。するとすぐに、まるで彼らの勝利を祝うかのように盛大に炎が猛り、教会は音を立てて崩壊した。

 

「ティーダ……マルコは、ちょっと心配してたけど、よく頑張ったよ」

「はは。どうしても、負けたくなかったから」

「……」

「囮みたいにしちゃって、ゴメン」

「フフ。謝る必要はないよ。マルコの……計画通りよ。全て」

 

 二人は、同時に空を見上げた。

 

「ティーダ、あれは……」

「うん。きっと誰かがアルターエゴを倒したんだ。オレたちも、基地に帰ろう」

 

 天を覆っていた月が少しずつ風化し、消滅していく。その様を見ながら、二人は燃える教会を後にした。

 

 

 




ヨハンナをマアンナと間違えたり、テルミをハザマと間違えたり。
次回更新は本日の17:00です。
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