カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第二節. ジョジョの奇妙な聖杯戦争-2

 承太郎は片手に持っていたリュックサックをテーブルの上に置いた。中には金銀に光る宝石が溢れんばかりに詰められている。英雄にとっては食事であり水分補給であり、力の源でもある最重要リソース。種火だ。

「今日はこんなところだ」

「これは……凄いですね。こんなに沢山の種火をどこで?」

「ゾンビどもを狩っていたら竜みてーな奴が来てな。そいつをブッ叩くと多めに落としやがった」

「竜というと、きっとワイバーンですね。

何となく分かっていましたが、承太郎さんの戦闘能力は驚異的です」

「どうも。で、そっちはどうだ?」

「はい、こちらも完了です。これで、他の英雄たちに私たちの位置を魔力探知できないはずです」

「そうか」

 

 承太郎は新しく持ってきたベージュのソファーに寝転びつつ、魔力の源である種火を一つ取り出して砕いた。

 

 承太郎とマシュがチームを組んだあの日から一週間もの時間が経過していた。

 

 まずマシュが提案したのは身を隠す結界を張ること。サーヴァント(英雄)や種火が一か所に多く存在すると魔力空間に歪みが生じ、他の英雄に潜伏場所を察知されやすくなるのだとか。

 そこでマシュは数段階に分けて結界を張り、歪みを消すことに専念していた。その間、承太郎は結界に必要な種火を集めていたというわけだ。

 

「種火収集、お疲れさまです。ゆっくり休んでください」

「そうさせてもらうぜ」

 ランプの光を嫌って、承太郎が帽子で目隠しすると、マシュがそれを見て「ふふ」と微笑む。承太郎が不思議そうに帽子をずらしてマシュを見る。

「あっ。お邪魔しました」

「……」

「いえ、その、案外信頼されてるんだなあと思いまして」

 如何に同盟相手とはいえ未来のライバルの目の前で無防備に眠ろうとしているこの状況のことを言っているのだろう。

「騙し討ちしてくるような奴の方がよっぽど楽だぜ。後腐れなくブッ叩けるしな」

 マシュは少し沈黙して考えた。

「もともと遠慮ご無用ですが」

 承太郎はそれを言うやつだから余計に面倒なのだと口にはしなかった。

「あんたの方は警戒しているようだがな」

「え、そうですか?」

「ああ。おれはあんたが寝てるところを見たことねーんでな」

 承太郎が抜け目なく観察していたことに対して、マシュは感心半分照れ半分の表情で「ははあ」と声を漏らした。

「それは、その……一応、殿方の隣でスヤスヤというのもどうかと思いまして」

「なんだそんなことか。心配するな」

「それはそれでショックです」

 承太郎つい口元を歪めて笑うと、マシュもそれにつられて頬を緩める。

「それでは、今日は私も休みます。灯りを落としますね」

 

 拠点の整備は完了した。

 明日は聖杯の魔力反応があったらしい冬木の学校へ調査に行く予定だ。聖杯は時が来なければその力を発揮しないゆえに、手に入れれば聖杯戦争が終わるわけではないが、それでも位置を把握する意味は大きい。

 

 なればこそ、他の英雄と出会うこともある。

 異世界の英雄とはいかなるものか。承太郎は思い巡らせながら眠りについた。

 


 

 承太郎とマシュは冬木の地上を移動していた。周囲に気を配りつつ、遮蔽物に身を隠しながら素早く。

 

 承太郎は瓦礫の上からひょっこり顔をだし、左右に視線を流した。

「……妙だな」

「ええ。この近辺は以前、亡者の大群がたむろしていました。

そのせいで、一旦聖杯は諦めていたのですが」

 ゾンビどもはひと所にとどまる性質があるわけではないが、大挙して移動することもないはず。なのにたった一週間程度でもぬけの殻。

「他の英雄の誰かを追って行った可能性もあるが」

「ここら一帯のエネミーが全てそうしたとは考えにくいかと。特に亡者は探知能力は高くないエネミーですので」

「では、英雄に始末された?」

「……そうかもしれません。しかし……」

 マシュは辺りの地を見回した。

 特に戦闘があった形跡はない。ゾンビやワイバーンは斃されればエネルギーが結晶化して種火となるが、体を構成する血や肉は当然実体であり、死んでも骸の一部は残る。しかし死骸はおろか血の跡すら見つからないのだ。

「だとしたら、かなり手強そうですね」

 承太郎はもう一度周囲を見渡し、静かに頷いた。

 

「ところで、聖杯ってのがあった学校ってのはあれか?」

「はい。高校校舎の中に」

 承太郎はくだんの高校を眺めた。至って普通の学校に見える。

「……」

 いや、何かが違う。

 形容し難い悪寒が背筋を這う。生来刻み込まれた本能が拒否しているような感覚。ネズミは蛇の匂いだけで逃げ出すというが、承太郎はそれを思い出していた。胸を強く圧迫されるかのような息苦しさを覚えて目を背ける。

「確かに何かはありそうだ」

「行ってみましょう」

 あわよくば聖杯を取得し隠すという計画だが、聖杯にどの程度魔力が溜まっているか確認するだけでも成果はある。聖杯の魔力蓄積は英雄の脱落を意味するから、だそうだ。

 

 マシュと承太郎は相変わらず、いや更に警戒を強めて学校に向かう。校門には割れてしまって文字の読み取れない表札がかけられている。学校も例に漏れず廃墟同然の崩壊具合だ。承太郎とマシュは校門から十数メートルのところで一旦立ち止まった。

 

「結構広いな。どの辺にあるか分かるか?」

「校舎の中の可能性が高いと思いますが……」

「おれが校舎の左半分を探してみるぜ」

「了解です。では私は右を。

突入します。準備はいいですか?」

「いつでも」

 マシュは頷き、カウントの合図を送る。そして二人は同時に学校グラウンドに走り込んだ。

 

 聖杯が持つ瘴気は校舎に近づくにつれ一層強くなる。

 承太郎は僅かばかり吐き気を覚えた。そして聖杯ってやつは想像よりずっとロクでもないものなのだろうと感じていた。斯様に邪気を撒き散らすこれは聖遺物どころか悪魔のアナフェマ、破滅を予言する黙示録の書と言われた方がしっくりくる。

 こんなものが元の世界に戻る鍵だというのか。

 承太郎は当てられた瘴気に一瞬立ちくらんだ。近づくのも躊躇われる圧倒感。まるで空間そのものが承太郎を拒んでいるような……否、これはーー

「結界です!」

 マシュの叫びにハッと我に返った。そしてそこで大地が微かに揺れていることに気がつく。その揺れは一秒ごとに震度を増し、ついにはグラウンドを真っ二つに割ってクレバスを作った。

「……新手の英雄かッ!」

「来ます! 構えて!」

 マシュの声が火蓋を切る様に、クレバスから無数の黒緑の大蛇が噴水のごとく湧き出てくる。大きさもまばらだが、クレバスに隠れる部分を除いても優に十メートルはあるバケモノどもだ。その全てが承太郎やマシュを双眸に捉えている。

 大蛇。一言で表すとそれが適切であろうが、それはゾンビやワイバーンとは異質の存在であることもひと目でわかる。体全体に霞を纏っており、よく見ると背景が透けて見える。輪郭もはっきりせず、僅かに光を放っている。

 きっとこれは何者かの、魔力というやつで作られた存在なのだろうと承太郎は予想した。承太郎にとってはむしろワイバーンなんかよりずっと馴染みがあるとも言える。

 

「シャァアアアァッ!」

 多勢の魔力の大蛇がマシュ、承太郎に向かって乱雑に猛進してくる。

「シールド展開! 承太郎さん、私の後に……」

 承太郎は避難を勧告するマシュを横目に、フンと鼻で息を吐いた。

「おおおおッ!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 牙を剥き襲いかかる多くの大蛇を、スタープラチナが全て叩き落とす。一見荒々しく大雑把にも見えるが、精密的確に頭部を捉えている。自動照準のついたマシンガンのようなラッシュだ。頭を砕かれた大蛇どもはガラスが割れる音を響かせながら粉微塵になっていく。

「さすがです」

 唖然と怒涛の猛攻を見ていたマシュは承太郎を讃えるが、

「しかし……」

 鋭い目つきで周囲を見回す。蛇どもは全て破壊したにも関わらず結界は依然効果を弱めていないどころか、結界に篭る魔力は増大しているようにすら感じた。

「ああ。どうやら終わってはいないようだぜ」

 突如、ごおっと突風が巻き起こりグラウンドの砂を舞い上げる。あまりの強風に承太郎は腕で顔を覆い、マシュは盾に身を隠す。

「……!」

 承太郎は先ほど粉砕した蛇が塵となり、竜巻の中心に収束していくのを見た。そして次の一瞬で風がぱったりと止む。

「承太郎さん、大丈夫ですか!?」

 砂煙に視界を塞がれ、状況を把握できないでいるマシュが声を張る。

「問題ないぜ。今のところは、な。

どうやら真打ち登場のようだ」

 砂煙が落ち着くと、そこに居たのは斃した大蛇どもを束ねたような大きさの巨蛇と、その頭の上で胡座かく若い男。

 男はこれまた蛇をイメージさせるような細長い体躯をしていた。フードの付いた長い黄色のコートをはおり、黒のスーツをラフに着ている。ちらりと覗かせる瞳が妖しく黄金に光る。

 承太郎たちを見ると、男は邪悪な笑みを作る。

「てめぇらよォ。よく見るとゾンビじゃねぇなァ」

「よく見なくてもゾンビではありません。シールダーの英雄、マシュ・キリエライトです」

「……ふーん。英雄、ね。英雄……あ〜」

 男はとぐろを巻く蛇の上に座ったままマシュを見下ろす。

「でもお前雌じゃん。ヒャッハハハハッ!」

「……」

「……」

 承太郎とマシュは瞬き一度分、互いに顔を見合わせた。英雄同士は遭遇すると闘わなくてはいけないというルールはない。例えばちょうど承太郎とマシュのように手を組むということもできる。

 が、目の前の男はとてもじゃないが話が通じるとは思えなかった。有無を言わせないオーラがあった。

「あんま意味ねぇだろうけど、折角だから俺様も名乗っておくぜぇ。

キャスター、ユウキ=テルミだ」

 キャスター。承太郎はマシュの解説を思い出していた。しもべの召喚、結界の作成など高い魔力を使ったトリッキーな戦術を得意とするクラスらしい。とするとなるほど彼の宣言に偽りは無さそうだ。

「で、そっちのライダーは……」

「……空条……」

「あっ。やっぱいいや。すぐ忘れそうだしィ!」

「……」

「アヒャヒャヒャッ! 怒った? 悪ィ悪ィ、そうカッカすんなよ。

まぁ、えーと、そっちの……マッシュルームライトさん? の方は……三分だけ覚えといてやるよ。

だからよォ」

 テルミがすらりと立ち上がる。そして右手を天に掲げると、彼の周囲の空間に黒と緑の複雑な紋様が浮かび上がる。高密度の魔力の集積ーーその魔術がいかに凶暴なものかは、魔術に疎い承太郎でも直感的に分かった。

「三分以内に死ねオラァ!」

 魔法陣から再び無数の大蛇が召喚され、承太郎たちに襲いかかる。しかし先ほどと比べると圧倒的に速い。

「気を付けてください! 噛まれたら魔力を吸われます!」

「チッ……!」

 承太郎はスタープラチナで蛇の頭を叩き潰す。速度は増してもスタープラチナに対応できないほどではない。一方マシュはガードしつつも大盾で蛇の胴体を叩き斬る。が、切断された蛇の頭部のみが滑らかに動き、鎌首もたげてマシュに噛み付いた。

「なっ……!?」

 承太郎がすぐにフォローし、それの頭を殴り払う。続く蛇どもをマシュが結界を張って防御した。

「大丈夫か!?」

「ええ……私はこのテの魔術に一定の耐性がありますが……」

 頭部を的確に叩かないと攻撃は止まらない。このスピードで彼方此方縦横無尽に動き回るポイントを捉えるのは並大抵では無理だ。

「おいおい、こんなので参っちゃうの?

も〜ちょっと本気出したいんだけど、ダ〜メですかァ?」

 マシュが張った結界に蛇が噛みつくと、結界がいとも簡単に綻び、溶かされていく。魔力を吸収しているのだ。

「いくらキャスターとはいえ、こんな簡単に私の防御結界を…!

……っ! 突破されます!」

 結界が破られ、再び魔力の蛇が向かってくる。

「後ろを守っててくれ」

「はい!」

 承太郎とマシュは二人背中を合わせて防御態勢をとる。承太郎は前面の蛇の頭を正確に射抜き、マシュは防御に徹して背後を固めた。マシュはこと護りに関しては一級のスキルを持っているし、承太郎のスタープラチナは精密な攻撃を最も得意としている。攻防が息の合ったコンビネーションにより、数多の魔力蛇ですら攻めあぐねている。

「おい、雑魚どもばかりで飽きたぜ。そろそろそのデカいのを使ったらどうだ?」

 承太郎はテルミが乗っている巨大蛇を指差して挑発すると、テルミは愉快そうにくつくつ笑うだけで姿勢すら変えはしない。

「ったく、調子くれちゃって。まぁでもお客様にヒマさせるのも何だし? 少しだけサービスしてやる……よッ!」

 テルミが再び蛇を突撃させる。見た目は先ほどと何も変わらない。

「全部叩き落としてやるぜ」

「……承太郎さん、危ないッ!」

 蛇の頭を攻撃しようとする承太郎に、マシュが突如割り込んできてガードする。その瞬間ーー蛇の頭部が激しく光り、榴弾のように爆発を引き起こして二人を大きく後方に吹っ飛ばす。

 防御していなければ致命傷になり得た威力だ。

「どーよ! 痛い? ねぇ痛い?」

 すぐさま立ち上がる二人を大量の蛇どもが取り囲む。

「チッ、器用な野郎だ。

マシュ、さっきの爆発する蛇は見分けがつくのか?」

「ええ、何とか。よく見れば、ですが……」

「……なるほど。状況はだいぶ悪そうだ」

 承太郎はその洞察力で、マシュは魔力の流れを見て気付いていた。先ほどから術を放つテルミの魔力リソースはほぼ減っていないということに。

「ウロボロス……無限の循環ですね」

「何?」

「彼の足元の巨大な蛇、あれが壊れた魔力リソースを回収しているのです」

 承太郎が破壊した蛇がチリとなり、それを巨大蛇が吸う。こうしてリサイクルを繰り返している限り攻撃は止むことはない、ということ。

 承太郎もマシュも戦慄していた。目の前の男は魔術において威力と器用さを持ち合わせ、一見浅慮で軽薄に思えるが恐ろしいまでに戦略的だ。

「ケッ……何が三分で死ね、だ」

 リソースと精神の削り合いに持ち込まれているとするとテルミの狙いは長期戦ということになる。承太郎もマシュも、とにかく攻めなければ活路は開けないという点において同意見だった。

「あれが魔力回収の役割だとしたら、彼はあそこから動けないという可能性があります」

「期待できるのか?」

「半分程度かと」

「上等な方だぜ」

「私の障壁でも、少しの間だけなら承太郎さんへの攻撃を防ぐことができます」

「……! いいだろう」

 二人は同時にテルミに向かって走り出した。承太郎の背にマシュがピッタリ張り付き左右背後を護り、前方の蛇は承太郎が払う。

「そんなのが届くかよォ!」

 テルミが手をかざすと、一段と多くの魔力蛇が出現する。今までよりも、多く、速く、早く。

 しかし内心、承太郎はマシュの予想が当たっていると確信した。彼は攻めに滅法弱いタチだからこそ魔力リソースを防御用に取っておいたのだ。

「承太郎さんっ! 今です!」

 マシュが承太郎の背すぐ後に盾を掲げる。承太郎はそれに足を掛けた。

「やあぁっ!」

 マシュが勢いよく承太郎を弾き飛ばし、同時に承太郎もマシュの盾を蹴って高く跳んだ。目標はテルミの待つ巨大蛇の頭部。高さにして約十メートル。速度はテルミが操る蛇に劣るものの、蛇は一瞬だけマシュの防護結界に絡めとられ、承太郎への攻撃は届かなかった。

「へぇ〜っ」

 テルミは承太郎のスタンド、スタープラチナの射程に入って初めてその傑出した能力に気がついた。機械の如く精密で弾丸よりも速い攻撃。さらにそのパワーはブルドーザーを彷彿とさせる重量と威圧を持っている。

 そしてテルミは考えた。

ーー単純な戦闘能力だけじゃねぇ。まだ切り札を隠し持ってるな?

ーーなぜ今それを使わない?

ーー使用回数の制限? 魔力不足? それとも単にタイムラグ?

 テルミは尚も余裕の表情を崩さない。

「オラァ!」

 生身でもらえば五体バラバラになるほどの威力。承太郎が文字通り必殺の叩き下ろしを放つ。が、その拳がテルミに届く前に、眼前の巨大蛇の頭部が膨らみ、弾けた。

 威力はない。

 一瞬の目眩しか? このまま拳を振り抜けば当たりそうだ。その考えが頭をよぎるも、承太郎は言い得ぬ戦慄を感じて咄嗟に、あるいは本能的にスタープラチナで本体をガードした。その刹那、ハンマーで殴られたかのような大きな衝撃が横っ腹を貫いた。

「ッ……ぐっ!」

 口元から血を流しながら、承太郎は人影が自身の眼前に躍り出るのを見た。テルミの魔力による攻撃ではないーーこれは新手の英雄ーー!

「蹴る!」

 という声の直後、その男は怯む承太郎に追撃、宣言通りの蹴りを放つ。承太郎は辛くも防御したが、テルミへの攻撃は完全に防がれたうえに距離も大きく離れしまった。スタープラチナの射程外だ。

 承太郎が空中で身を翻して着地する、それを見計らったように新手の英雄も着地点に突進して来た。

「スタープラチナッ!」

 迎撃のストレート。しかしその英雄は上体逸らし、スウェーでそれをかわした。

「!」

 まさか自慢のスピードがかくも鮮やかにいなされるとは、と承太郎は一呼吸分驚いた。

 続いて、英雄はそのままの勢いで体を捻って回し蹴り。承太郎はそれをスタープラチナの両腕でブロックするが、衝撃を殺しきれず後方へ後退る。

 マシュがすぐさま承太郎を助けに向かおうとすると、蛇の大群がそれを阻んだ。

「行かせるかよ。てめぇの相手は俺様だろ?」

「キャスター・テルミ……!」

 マシュとテルミの相性は良くない。承太郎と謎の英雄の方は、インファイトなら承太郎に分がありそうだが、突進力は負けている。勝負は大きくテルミ側に傾いていると言えよう。それはマシュも承太郎も重々承知であった。

「つーかよ、出てくんの遅くない? マルコちゃん」

 マルコ、というのが英雄の名であろう。マシュは横目にマルコを見た。

 直ぐに目に入るのはその隆々とした筋骨。白いシャツがパンパンに張るほど筋肉が盛り上がっており、いかにも肉体派と言った雰囲気だ。それも実戦で磨き上げられた肉体のようで、バランスがよく無駄がない。

 服装はスリーブがないベスト、ジーンズ、革靴のシンプルで現代的なもの。異世界の英雄と言ってもテルミのそれとは随分違う。

「……バーサーカー、ですか」

「ご名答! まっ俺様も良く知らねーんだけど」

 マシュの推理にテルミはパチパチと手を叩く。

 バーサーカーは単純な戦闘能力に最も優れるクラスで、己の肉体を武器として戦うものも多いという。意思疎通が難しいこともあるらしいが、彼はそうでもないようだ。

「何故最初から二人で戦わなかったのですか?

そうすればあなたたちは簡単に勝てたはずです」

「はァ? 俺様独りじゃ簡単に勝てないみたいな言い方やめてもらえますかァ?」

「……」

 マシュたちの実力を測っていたのか、それとも単に侮っていたのか。あるいは……

「あなたの蛇の魔術……無差別範囲攻撃ですね?」

 戦闘が始まる前からずっと不気味な笑みを作っていたテルミの表情が少し歪む。

 テルミの魔術は実に多芸だった。破壊されたリソースの回収と修復、結界の解析と溶解、爆破。キャスターと言えど全てを同時に簡単に扱い切れはしないだろう。であれば、幾つかの戦術を自動で実行する魔術という推測は立つ。

 さらに、今になって仲間が出てきたのも、巻き添えを喰らわぬためだと考えれば矛盾しない。

「それがどうしたよ?

どのみちてめーじゃ何もできやしねぇよ!」

 テルミの蛇が再びマシュを襲う。マシュは結界や盾を用いて耐えるが、防戦一方だ。しかしながらテルミの攻撃が敵味方無差別なら、バーサーカー・マルコの近くに行けば同士討ちを恐れてテルミが攻撃を躊躇うかも知れない。マシュは蛇の攻撃の雨の中、必死に機会を窺った。

 

 一方で承太郎と相対するマルコもまた一筋縄でいく相手ではなさそうだった。

「ヤ○ザのオジサンとオバケの人、聖杯をマルコに渡して! そうすれば見逃してあげるよ!」

「おれはヤ○ザでもオジサンでもじゃあねえ。空条承太郎だ」

 ちなみに幽霊ではなくスタンドだ、というのは喉の奥に引っ込めた。

「何でもいいから早く聖杯を渡して! マルコは獏兄ちゃんのところに帰らないと行けないのよ!」

 見た目の年齢やガタイに似合わぬ物言いに、承太郎はまるで小学生とでも話している気分になっていた。マルコーー彼は人体実験により卓越した戦闘能力を得た代わりに脳に損傷を負った英雄なのだ。

「残念ながら持ってないぜ。おれたちもそれをとりに来たんでな」

「渡さないなら……蹴る!」

「……!」

 スタープラチナのガードの上からでも骨を軋ませる蹴撃。本体に食らえば一発でアウトだ。

「オラァッ!」

 承太郎の右フックをするりと際どくかわし、またもカウンターのハイキックが飛んでくる。承太郎もそれをまたガードした。次いでスタープラチナが放つ拳にマルコが肘を合わせ、その衝撃力で互いに弾かれて距離が開く。

「オジサ……お兄さん強いね」

「てめーもな」

 

 戦闘のセンスでは圧倒的に負けていると、承太郎は素直にそう考えていた。スピードもパワーも負けていない。それでもなお接近戦に押し負けているのは……勘だ。

 次に相手のとる行動は?自分にできることは?その瞬間的判断で組み立てる戦術には美しさすら感じる。細かな仕草で攻撃を誘導し、敵の行動範囲を狭める。死角に潜り込むように攻撃をかわし、それを追う相手に新たな死角を作る。

 一体どれほどの人間と戦ってきたら……いや、殺してきたらこのように戦闘に特化できるのか。

 

「……だが、戦略の方はイマイチのようだな」

 迫るマルコの攻撃をガードする直前、承太郎は軽くジャンプして体を浮かせる。地面の抵抗力をなくすためだ。

「あ゛っ!?」

 マルコが気付いた時には既に遅し、トラックに撥ねられたかのような強打の蹴りを受けた承太郎は葉っぱが舞うかの如く吹っ飛び……やすやすとクレバスを越えて、テルミの頭上まで到達した。

「なッ! クソがッ!」

 驚くテルミの脳天目掛けてスタープラチナが拳を放つ。寸でのところで魔力の蛇が割り込んできて爆発し奇襲は失敗に終わったが、テルミも爆発に巻き込まれて巨大蛇の上から転げ落ちる。

「承太郎さん! ナイスです!」

「ああ。今のうちに」

「はい!」

 特に示し合わせた訳でもなかったが、二人は同時に同方向に走り出した。校門へ、だ。つまりは、

「逃すかァッ! ノロマどもがァアッ!」

 逃走を阻止しにテルミの蛇が一直線に二人に向かう。

「種火を撒いて下さいっ!」

「!?」

 承太郎はマシュの指示通り、魔力補給用に持ってきた種火をばら撒き捨てる。すると、蛇どもはその種火に吸い込まれるように喰らいついた。

 自動追従する蛇、これは魔力を追っているのなら種火と英雄の区別をつけられていない。マシュの勘は見事に的中していた。

「くっ! 逃げるなんて卑怯よ!」

 マルコが追おうとすると、テルミはそれを制止した。テルミは離れていく二人を見ながら溜息をつく。

「……もう追う必要ねーよ。結界の外だし」

「いいのか? テルミの弱点知られたよ」

「あ〜? 自動追従は元々ゾンビ狩りに組んだ結界使い回してただけなんだよ。そんな欠陥この俺様にある訳ねーだろ、アホ」

「なっ! マ、マルコはアホじゃない! アタマ良くないだけ!」

「はいはい。ちょっと黙ってね」

 テルミは腕を組みつつ、目を瞑る。

「……? テルミ、考えごとか?」

「ん〜。ああ。英雄って言葉が気になってな。何か違和感がある」

「英雄の雄は"オス"という意味。なるほど……マルコも気付いていた。実はあの姉さんは男……」

「いやちげーから」

「え!」

「何かよく分かんねーけど、間違ってる気がすんだよなァ。俺様は元々英雄だけどな。まっ、お前に言ってもしゃーないわな」

「……ところでテルミ、本当にあの人たちは聖杯を独り占めする悪い奴らか? マルコにはそうは思えない。聖杯も持ってないっていってたよ」

「チッ。面倒なこと考えてんじゃねーよ。それより、さっきの話の続きだ。その、トキってやつのこと教えろよ。死にかけてたところを助けられたんだろ?」

「……!

トキは世紀末覇者ラオウの実弟!

無敵の暗殺拳、北斗神拳の伝承者の第一候補でありながら弟を守るためにシェルターのバ……」

「あ〜。とりあえず会った場所だけ教えて?」

「……」

 

 

 




~以降ステマ~

テルミは業界老舗のアークシステムワークスが開発した格闘ゲーム「BlazBlue(ブレイブルー)」シリーズに登場する敵キャラクターの一人です。
六英雄とも呼ばれ、かつて黒き獣と呼ばれる災厄モンスターとも戦いました。

BBはビジュアルノベル的な部分も強く推しており、フルボイスでギャグシナリオもあるというシナリオの豪華さも人気を博した理由の一つ。

格闘ゲーム部分では「ドライブ能力」という特殊能力設定がキャラクターの個性を強く尖らせており、キャラクターによって全く別のプレイ感を味わえるところが素敵なところです。

テルミは相手のいわゆる必殺技ゲージを吸収するドライブ能力「フォースイーター」を使って戦うキャラクターです。



ちなみに、GGSTではカイを使っています。対よろ。
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