カルデアM.U.G.E.N.の座   作:シン・いしい

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第十三節.今にも落ちてきそう(物理)な月の下で-5

 ティーダたちとディオとの戦闘よりもさらに時を遡る。

 

 目的地の寺へと既に到着していた承太郎は、堂に潜んで警戒を続けていた。境内は変わり映えせず、暇を持て余した承太郎は一息ついた。

 

 今頃、アルターエゴとの戦闘が何処かで繰り広げられているのだろうか。ふいと遠くに耳を傾けてみるが、爆発音や地鳴りが日常茶飯事である冬木では、どこぞの戦闘など察知しようもない。

 

 汗ばむ顔にパタパタと手で風を送りながらもう一度外を眺める。やはり何も起こらないし、誰もいない。

 

 承太郎は眉間を指で強く押さえた。

 徒労感と多少の眠気に眠気に目を瞑る。すると、涼しい風が顔を撫でるのに気が付いた。異世界にも同じ物理現象があるなら、どこか地下から流れて来たものだろうと思った。

 マシュの説明によると、霊脈のエネルギーは地下を流れるらしい。承太郎は「まさか」と立ち上がった。

 

 承太郎は寺の中を探索し始めた。流れ込む風と勘を頼りに歩いているつもりの彼は、実のところ霊脈のエネルギーに導かれていた。

 

「こんなモノを見過ごしてたなんてな」

 

 瓦礫の山に隠れていた大穴。それを見つけると同時に、マシュに付与されていた精神防護の魔術が反応している。それは認識阻害の結界であったことは彼には分からなかったが、ともあれ、この先に少なくとも何かがあることは確信した。

 

 


 

 

 息を殺して、地下の大空洞を降っていく。

 寺の境内よりもさらに広く、天井も高い。外の光は殆ど届かないが、崖下を流れる謎の液体が紫色の光を放っているせいで視界は思ったほど悪くはない。靄が光を乱反射して蠢く様が何とも不気味な雰囲気だが、少しだけ肌寒いのは却って心地よかった。

 冷えた岩肌に触れると、この空洞はかなり前から存在したものだと分かる。歴史浅からぬものであれ、恐らく霊脈と関わりがあるのだろう。そう、今のように。

 大地が脈打つような錯覚、脳の奥で木霊するノイズ。進むにつれその感覚は大きくなる。

 そして、散見される小さめの足跡。

 アタリだ。ここにアルターエゴが居る。承太郎はそう確信した。

 

「……」

 

 承太郎は洞窟の奥にマコト……“敵”の姿を見つけた。おかっぱ頭にライダースーツの華奢な女性。以前と違うのは、妖異な仮面を装着していること。彼女のペルソナとは似つかぬ代物だ。

 

「あれが、アルターエゴ本体ってやつか」

 

 承太郎は付近の岩陰に半身を隠して彼女を覗き見た。まだ此方には気付いていないようだ。

 腰を折って地面に手を擦り付ける様子は、恐らく霊脈からエネルギーを吸い上げようとしているのかもしれない。何にせよ、承太郎には敵に近づく必要があった。可能であれば気付かれず、背後に。

 

 五メートル。その距離まで近づくことができれば、時を止め、マコトの顔にくっついている薄気味悪い仮面を引っぺがせる。承太郎は経験から、それでマコトに掛かった精神操作の呪いが解ける可能性はあると推察した。

 

 そういった邪念を、承太郎は首を振って否定した。

 ここに来て甘い考えは通用しないと思った方がいい。マコトの脳天ごと仮面を叩き割る。承太郎はそう覚悟し、もう一度マコトの装備を確認した。

 

 腰のホルスターにマグナム、両手にはナックルダスター。承太郎はマコトとの戦闘を思い出す。近接戦闘は勿論のこと、遠距離戦も苦にせず、さらに持久力も高い。オマケに謎のバイクのおかげで機動力も高いという隙のないサーヴァントだ。

 それに比べて承太郎は接近戦特化。不幸なことに、ここからマコトの位置までの視界は抜けていて、大回りしなければ忍び寄るのは難しそうだ。

 ならば走り込んでスター・プラチナで時を止め、一気に決着を付ける。そう意気込み、前傾姿勢で脚に力を入れた時、ほんの二、三メートル前方の空間がぐにゃりと歪むのが見えた。

 

「……!」

 

 承太郎は踏み留まり、周囲を見回す。彼を中心に現れた幾つもの歪んだ空間――それらは“狩場”でエネミーが出現する様子に似ていた。果たしてその歪みからは次々と骸骨剣士(スケルトン)が現れ、一様に承太郎に剣を向ける。

 

「なるほど。不意を打たれたのはこっちの方ってとこか」

 

 いつの間にかマコトが承太郎を見据えていた。無表情で精気の宿らぬ瞳は、テルミの情報通り、彼女が操られているという事実を物語っている。承太郎はそんなマコトを睨み返した。

 

「テメーもそっちの世界では英雄なんだろ? 乗っ取られちまうなんて、随分と情けねえ話だぜ」

「……」

 

 マコトの返事はない。承太郎はそれでも続けた。

 

「最初見た時から意志の強そうな女だと思っていたが、間違いだったかな。その気味ワリー仮面にいいように利用されちまっていいのか?」

 

 承太郎は当然ながら魔術に明るくない訳だが、精神魔術が説得でどうにかなるものではないことくらいは解っていた。

 承太郎もマコトも精神の力が形となった能力を持つ故、共通点を持つマコトの心が操られていることに思うところがあったのだろうか。

 

「まあいいだろう、相手してやるぜ。だがテメーからかかってきな。一応、テメーとはアルターエゴを斃すまでは停戦のはずなんでな」

「……アルター……エゴ……」

「……?」

 

 皮肉めいた挑発に反応したのが意外だったか、承太郎は怪訝な表情だ。が、マコトに動揺が見えたのは一瞬。すぐにホルスターからマグナムを抜き、銃口を承太郎の額に向ける。

 

「ア……あッ!」

 

 糸を繋がれた操り人形のような病的な動きでマグナムの引き金を引く。と同時に、承太郎を包囲していたスケルトンたちが一斉に剣を振りかぶって斬りかかる。

 襲い来る敵の数は十を超える。そしてその合間を縫って飛来する弾丸。さしもの承太郎も捌き切れないか――否、如何程の速さであれ、彼を凌ぐことはない。

 

「オラァッ!」

 

 承太郎は彼のスタンド、スタープラチナでマグナムの弾丸を弾き返した。それも人差し指のみで、だ。それは寸分の狂いなく真っ直ぐ正面から、マコトの額にヒットした。

 

「グッ……!」

 

 マコトはその衝撃で仰反るが、仮面でガードされていたからか、大きなダメージは無さそうだ。尤も、今や本体は仮面の方であり、それには小さなヒビが入ったようだが……

 続いてスケルトンたちの攻撃。軍団の突撃は統率されており、全方位から同時になだれ込むように承太郎を攻める。

 

「オラオラオラオラオラオラ!」

 

 承太郎もまた全方位ほぼ同時の拳打で迎撃する。硬化したスケルトンの骨を砕く剛力のパンチを、毎秒百発以上もの豪速で打ち出すド迫力に、マコトは一歩後ろに退がる。

 

 しかし、砕けたはずのスケルトンの骨がカタカタとひとりでに動き出したかと思うと、それはパズルの欠片のようにぴったり合わさり……やがて元のスケルトンの形に戻って立ち上がった。

 

「……!

やれやれ、異世界の敵ってのはこうも打撃に強いのか。厄介な話だぜ」

 

 

 

 




もう少しで完結です。
次回更新は7/3(月)の13時予定です。
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