承太郎とマシュの二人が大敵であるムジュラの仮面を葬り去った直後、マシュとテルミの予想通り人面月は消滅した。これにて冬木の平和は守られたわけであるが……聖杯戦争は終結していない。
戦いはまだ続く。
差し当たり、マシュ陣営が打倒を狙うは六英雄と称されし大魔導士テルミ。ムジュラの仮面と同等以上の脅威だ。しかし、ムジュラの仮面の魔術を封じるために多大な魔力を消費しているテルミの戦力は半減しているはず。
マシュたちにとって千載一遇のチャンス。
逆に、唯一の同盟であったマコトを失ったテルミにとっては大ピンチだ。
しかし、身を隠しているであろうとの予想に反して。
テルミは寛いでいた。
承太郎が見たのは、どこから持ってきたのか、幅広のベッドを無造作に置き、その上で横になっているテルミの姿。テルミは大きく一発あくびをしたのち、ゆっくりと身を起こした。
「遅えんだよ。ゾンビの餌になっちまったかと思っちまったじゃん?」
次いで、マシュたちのすぐ後に、ティーダとマルコもやって来た。四人のサーヴァントに囲まれたテルミは、それでも余裕そうな、はたまた邪悪な笑みを絶やさない。
承太郎はそんなテルミにきっぱり言い放つ。
「停戦の話は、確かアルターエゴをたおすまでだったな」
それを聞いたテルミは一層皮肉めいた笑みを作る。
「合ってるぜぇ。で?」
「……アルターエゴはおれたちが始末した。つまり、今よりおれたちの停戦はなくなった。てことでいいな?」
テルミは堪えきれないという風に笑い出した。
「揃いも揃って、脳みそに蛆虫でも湧いたか? あ、もしかしてそれ飼ってるとか? ヒャハハハハッ!」
テルミもいつも通りだもので、承太郎もまたいつも通り冷静に返した。
「今回のアルターエゴの件は、言いたくねーがてめーのお陰だ。だから、今は見逃せというならおれは戦闘に参加しない」
マシュはぎくりとして承太郎を少し横目に見るが、承太郎はテルミから目を離さない。それは挑発的な視線だった。
「どうなんだ? テルミ」
「ボケてんじゃねーよボケ。停戦なんざ最初から何の意味もねーんだよ」
「それを聞いて安心したぜ」
承太郎がスタンドを顕現させると、ティーダも剣を抜き払い、マルコも戦闘態勢をとる。
「卑怯なんて言わねぇよな! お前だってオレたちを利用したんだからなっ!」
「テルミ、オマエはもはや胃袋のネズミも同然!
マルコは……騙された恨みを晴らすよ!」
続き、マシュも大盾を構えた。
「多勢に無勢ですが、手加減しません」
「多勢、ねぇ……」
テルミは蔑むような目で自身を囲む四人を見渡す。ティーダとマルコはダメージが残っているし、マシュも無傷ではない。多勢というには些か不足を感じるところだ。
尤も、テルミの消耗具合は彼らの比ではないのだが。
「まっ、俺様がヤるまでもねーなあ。おーい出てこーい」
テルミがそう言うと、ベッドの下から何者かがカサカサと虫のように這い出て来る。
「……!」
この場にいた誰も、全く気配を感じることができなかった。承太郎たちは驚いていたが、マシュの驚愕は一際大きい。
「新手のアサシン!? いえ、これは“何処にでもいる”という概念……まさか、本当にサーヴァントの召喚を……」
マシュはテルミを凝視した。正確には、彼の手を。しかしすぐに無駄だと分かったか、新手に目を向ける。
異様なサーヴァントだった。一見して素っ裸にも思えるが、黒光りする体表は甲殻に覆われている。両目は寄り過ぎていて、鼻下は不気味に長い。何とも言い難い貌のバランスだ。そして目を引くのは触角、尾葉……まるで、例のアレの擬人化のようだ。
そう、言うも躊躇われる程には毛嫌いされる、アレ。マシュと承太郎はそれを知り、少しばかり顔を曇らせる。
そいつは、何の構えもなく、戦略も、技も、前触れもなく……突如として新幹線の如きスピードでマシュに突撃する。
瞬きの間に最高速度に達するその加速力には驚くが、マシュは重い盾を地面に突き立てて攻撃を弾いた。承太郎が割り込み、そいつの脳天を拳で砕いた。ジャブとは言え、大型口径の銃弾を軽々と叩き落とすスピードと威力だ。
が、そいつは頭をかち割られつつも承太郎に向かって蹴りを放つ。が、承太郎もそろそろ不死身モンスターには慣れっこだ。
「オラァ!」
承太郎の叩き下ろしがサーヴァントの脚を打った。
「なるほど。結構硬いらしいな。もっとも……おれもぶっ壊すのは得意だぜ」
「じょうッ!」
奇声を上げながら、そいつは承太郎に掴みかかって来るが、もちろん接近戦最強のスタンドには通用しない。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
黒光りするサーヴァントは、濁った体液を四散させながら砕け飛んだ。承太郎はスケルトンやゾンビを思い出し、こいつも復活するのかもと勘繰ったが、びくんびくんと全身を痙攣させる様子からはとても復活しそうに見えない。
「あーらら、流石ジョータローちゃん。よーくそんな汚ぇモンに触れるよなぁ、感心するぜぇ」
「三秒でぶっ殺されるようなザコ連れて来てんじゃねーぜ。お得意の手品はネタ切れか?」
「キヒヒッ、三秒か。そんじゃーよぉー……三万秒戦ってどーぞォ!」
テルミがパチンと指を鳴らす。すると、先程のと全く同じ見た目のサーヴァント?が、物陰から、瓦礫の下から、地面の中から、雲の間から、ゾロゾロと染み出すように現れる。
四人は言葉を失った。
多い。多い。あまりにも多すぎる。
地面を黒く塗りつぶしたようにも錯覚する密度で、見渡す限り同じような顔が並ぶ。彼らは口々に謎の言語を発する。
「じょうじ。じょうじょう。じじょう」
「じょうじじょうじ。じょう」
会話をしているようにも思えたが、どういう内容なのか全く分からないし、彼らの正体を知る者なら理解したくもないだろう。彼の正体、それは――
「多勢に無勢だがよ、手加減なしでヤッちまいな。サーヴァント・フォーリナー……テラフォーマー!」
次回更新は本日17時です。