「ビンゴ♪」
承太郎の予想―“異世界は存在しない”――その答えに、テルミは得意げに頷いた。
「サーヴァントの召喚システム……こいつは世界が持つ情報に従って肉体や精神、特性を構築する仕組みだ。勿論実在する方がより強固な設定を持ったサーヴァントを作れるだろうが、原理上はその必要はない。
つまりオレ様らは、ゲーム、漫画、映画……それらのフィクションから作り出された架空の登場人物。この世界の誰にも実在を信じて貰えなかったサーヴァントてわけだ」
異世界の面々にとっては、まさか己の存在が偽物……否、己の信じていた世界そのものが偽物だったなどと簡単に受け入れられるものではない。
「ふっざけんなよ! どーゆーことだよ! オレたちは聖杯戦争とか訳わかんねーものに呼ばれて異世界から連れて来られたんだろ!? そう言う話だったじゃん! 異世界が存在するとかしないとか、そんなの聞いてねーよ!」
ティーダは慟哭した。
「親父だっているんだぞ! 子供の頃の記憶だってちゃんとある! みんなと一緒にブリッツボール頑張って……シンに襲われてから……ユウナたちと旅して……それが嘘なんて絶対あり得ねーだろ!」
「だーかーらー。そういう設定っつってるだろ、さっきから」
「……っ!
そんなの信じられるかよ!」
ティーダは床を殴りつけた。その言葉とは裏腹に、彼の魂は真実を認め始めていた。サーヴァントとして召喚された朧げな記憶が彼の霊基に刻まれているからだ。頭を抱え、呻いたが、真実の声は脳内に響いていた。
俯き、床に視線を落とすだけだった承太郎がゆっくりと顔を上げた。
「……じゃあ、聖杯戦争ってのは一体何だったんだ? おれたちは何のために喚ばれ……いや、作られ、何のために戦っていたんだ?」
「そりゃごもっともな質問だが、詳しいことは分からねー。ただ、聖杯には破滅の意志が込められている。破壊的な願いだけを受け付ける、異常なシステムが、な。このことから推測するに、何らかの兵器製造の目的か、或いは宗教的な儀式だった可能性が高い」
テルミは呆れるように笑い、さらに続ける。
「いや、案外ただの娯楽ってこともあるかもな。だとしたら趣味のいいモン作りやがったぜ。まぁ、どのみち大した意味なんてねーだろうよ」
汚染された聖杯に願望器としての機能はないに等しい。本来の聖杯戦争が執り行われていたのは昔の話だ。テルミの予想はピタリと当たったわけではないが、少なくともサーヴァントにとっては意味がなかったという点は遠くないとも言える。
「マルコは……聖杯戦争に勝って……獏兄ちゃんのところに戻らないといけないよ……
マルコの世界がないなら、どうやって帰るか!?」
「聖杯戦争? 終わりだよンなもの。だがよォ、サーヴァント六基の魂を捧げれば……実はその願いは叶うぜ」
願い、とは、言わずもがな“元の世界に戻ること”だ。
「まさか……マルコの異世界だけ、実は存在するってこと!?」
「ねーよ。聖杯は望めばその願いを受け入れてくれる……ただそれだけだ」
「……!」
「おっ。ジョータローちゃん、何か気付いたかよ?」
「おれたちの世界がないなら、“元の世界に戻る”という願いは……どう解釈される?」
ティーダとマルコは承太郎の問いを聞き、ハッと顔を上げ、承太郎とテルミを交互に見やる。相変わらずの笑みを見せるテルミに、彼らは何となくその答えを理解してしまった。
それでも……ティーダは聞かずにはいられなかった。
「どう、なるんだよ」
「さぁな。そこんとこ調べがついてねーんだよなァ。テメーらはどうなると思う?」
テルミのわざとらしい質問に答える者はいなかった。しかしその答えは明白だ。
無という世界に還る。
即ち、消滅するということだ。
「テメーら雑魚どももこのオレ様すらも、サーヴァントは皆、それを目指して戦っていた訳だ。笑える話だぜ」
「……嘘だろ……」
ティーダが思わず呟いた。それは、ただ死ぬために命をかけて戦っていたという最悪の矛盾に対してではない。
「おっと、皆というわけでもないか。
居るはずだよなァ。他のサーヴァント全員に自殺の方法を吹き込んだ悍ましいヤローがよォ。
聖杯戦争なんて言っておきながら、そいつは高みの見物決め込んでオレ様らが勝手に消えるのを待ってたわけだ。
そいつは……いや、そいつだけは。元々この世界の英雄のはず。
誰だァ、一体。 何方か心当たりありますかねェ〜?」
「……」
「……」
「…………」
三人はただ絶句していた。
マルコが、ティーダを横目にチラリと視線を送る。承太郎とティーダは思わず互いに目を合わせた。
突然、教室の天井が激しい音を立てて崩壊した。
「やあぁッ!」
同時に聞こえる、まだ幼さの残すも凛々しい少女の声。土煙に身を隠して躍り出たその影は、そのままの勢いでテルミに突撃する。
しかし、直後に聞こえてきたのは耳を劈く金属音。
マシュ・キリエライトのテルミへの奇襲は、承太郎とティーダが防御したのだ。
テルミには擦り傷一つない。
「……!」
「オラァッ!」
承太郎のスタープラチナの掌底がマシュを後方へ大きく弾き飛ばす。マシュは金属の靴底で教室の床を削りながらも衝撃を受け流した。
「承太郎さん! ティーダさん!
テルミの話は……嘘です!」
承太郎は真剣で鬼気迫る表情のマシュと、余裕に片笑むテルミを少し見比べ、ため息を吐いた。
「なら、マシュ。答えてくれ。お前は以前おれに、元の世界に戻るとき、元いた時間に戻れると言ったな」
「……はい。確かに言いました」
その言葉で承太郎は聖杯戦争を急くことなく受け入れることができた。そうでなければ、チームを組んだり種火を集めたりと悠長なことはしていられなかっただろう。それはきっと他の英雄もそうだ。
「敢えて言わなかったが、ディオというサーヴァント……ヤツはおれと同じ世界から来た」
ディオについては名前しか知らなかったマシュも驚いた。
「しかしディオのヤローはおれのことを(正確にはスタープラチナの能力を)知らなかった」
「それは、あなたと別の時間から喚ばれたのでしょう」
「そうだろうな。だが、そうなると元の世界で矛盾が起こる。元の世界のディオも初対面でおれのことを知らなかったんだからな」
「……!」
マシュは息を詰まらせた。
マシュの言動に嘘がないなら、この世界のディオか、もしくは元の世界のディオのうち、少なくとも片方は承太郎の能力について知っているはずなのだから。
「元の世界に帰るときに記憶を失うのです! この世界にきた時と同じように……!」
「おれとディオは同じ世界から来たんだ。元の世界に関する記憶が欠けるのは理屈に合わん。それに……」
「つーか別にオレ様ら記憶喪失じゃねーんだけど。記憶が移植されなかっただけで」
承太郎の反論にテルミがそう付け加えた。苦しい表情のマシュに追い討ちするように、ティーダがさらに付け加える。
「そのディオって奴はオレとマルコでたおした。だから、そもそもそいつが元の世界に帰ったとかあり得ねーじゃん」
決定的だった。
思えば、ディオにとってはもっと分かりやすかったであろう。彼の視点では、彼は“元の世界に戻るつもりはない”と明言しているにも関わらず、聖杯戦争の勝者であることが確定してしまっていたのだから。
マシュは押し黙った。ギリリと奥歯を噛み、目をキツく縛って顔を伏せる。
「どういうこと!? マシュお姉ちゃんが……ワルモノ!? マルコたちを騙していたの!?」
承太郎も、ティーダも、マルコでさえも、マシュに疑惑の目を向けていた。否、それは最早確信に近いそれであった。
命を預けあった仲間たちから、マシュは独り刺すような視線を受け……口を開いた。
「あと……一歩でした……」
マシュは両の手で顔を覆い、崩れるようにその場に座り込んだ。
彼女や承太郎たちを幾度と護ってきた大盾がガシャンと力なく倒れた。
「あと、一歩だけ……私が、足を踏み出していれば……」
次回更新は明日13時予定です。
やっと全部書けました。ぎりぎり間に合った…